京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ロン 僕のポンコツ・ボット』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 11月2放送分
『ロン 僕のポンコツ・ボット』短評のDJ'sカット版です。

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アメリカの典型的な郊外の町で、父親と祖母と3人暮らしの少年バーニー。学校では流行りの話題についていけず、友達もうまく作れず、ウイてるなと自覚している彼。回りのみんなは、Bボットというロボット型デバイスを学校にも連れてきています。Bボットはオンラインに常時接続して、持ち主とぴったりな友達候補を探し出してくれるんですが、バーニーにはそのBボットもありません。ある日、そんなバーニーを見るに見かねた父親がプレゼントしたのは、壊れかけ、ポンコツのBボットだったからさぁ大変。
 
イギリスの鳴り物入りの新しいアニメ制作会社ロックスミスによる初の劇場公開作なんですが、ここのところの映画業界再編の動きに巻き込まれていて、今はディズニーの傘下にある20世紀スタジオが制作・配給をしています。企画から公開まで、かなりややこしいプロセスを辿った作品なんですが、一応はロックスミス社創業者のひとり、イギリスの映画人サラ・スミスが共同脚本と監督でキーパーソンにはなっています。
 
僕は先週木曜日、MOVIX京都で吹替版を鑑賞いたしました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

主人公のバーニーは中学生。年齢ははっきりしませんが、14歳だと仮定すると、2007年生まれです。生まれた頃から、携帯電話ひとり一台は当たり前、ものごころ着いた時にはスマホをみんな持っている、デジタルネイティブ世代です。ところが、小さな頃に母親を亡くし、父親は風変わりなおもちゃ、ガジェットを生み出しては、えらい古いパソコンでネットに接続、世界各地に商品をプレゼンする発明家のような人。同居するおばあちゃんは、これまたなおのことクセがあって、旧ソ連の当時共産圏から移民してきたであろう肝っ玉ばあちゃんです。家にあるのはレトロなガラクタばかりで、ニワトリやヤギがうろつくユニークな家庭でなんだかおもしろそうですが、思春期のバーニーにしてみれば、そりゃクラスで家のことを話すのは恥ずかしいし、自分の趣味も岩石コレクションだし、浮いているのは百も承知。そして、決定的なことに、みんな持ってるBボットを自分だけ持っていない。だからこそ、みんなにバカにされるばかりで、友達はできない。まぁ、こんなもんだろうと、半ば自分でもあきらめている始末です。それでも、誕生日のプレゼントにと、ダメ元でおねだりをし、お父さんが仕方あるまいとばかりに特殊なルートで入手したのが、あの家に似合うっちゃ似合うポンコツ・ボット、ロンだったということ。おおよそ想像はつくと思いますが、テーマは表面的には友情とは何か、です。

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© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
バーニーは「友達なんていないならいないで大いに結構」という、孤高の精神の持ち主でもあったように思いますが、クラスでの爪弾きは辛いものがある。では、クラスメートたちが育んでいるのは、果たして友情と言えるのか、という問題もあります。Bボットは、スマホやスマートウォッチを進化させたようなもので、持ち主の好みや情報をすべて集約してネットに接続し、SNSへ投稿したり、好きなものを教えてくれたり、友達付き合いを勧めたり、なおかつ話し相手にも、移動手段にもなるという、それ自体、友達のような存在というのが肝でして、ユーザーはもっともっと世界とつながれとばかりにけしかけられて、中学生たちもほとんど自覚がないまま人間関係に疲弊し、自己承認欲求を満たすべく奔走させられているように見えるんです。

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このあたり、明らかに、GAFAへの風刺が見て取れます。ユーザーは個人情報をまるまるボットに預けている状態ですから、検索し、買い物し、人とつながり、デジタル機器同士が勝手にネットワークを形成して、すべてビッグデータとして収集されてしまう。開発した企業の思惑はまさにそこにあって、うさんくさいCEOのひとりは、ボットが実は友人を作るものではなく、ビッグデータを集めてビジネスに利用するための手段に過ぎないと考えています。そして、エンジニアからCEOに上り詰めたもうひとりの青年は、面白いことに、Bボットは友達を作るためではなく、Bボットさえいれば友達が要らなくなるものだと考えている。ところが、誤算だったのは、バーニーの相棒となるロンが不良品であること。壊れかけて機能不全に陥っている最大の要因は、ネットに接続できないこと。ただ、示唆的なのは、ネットに接続できないがゆえに、ロンとバーニーが、お仕着せの友情ではなく、自分たちだけの、文字通りかけがえのない友情を育んでいくこと、なんです。

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こうした登場人物たちそれぞれの事情と思惑が絡まったドタバタ人情喜劇的に物語は展開。そのゴチャゴチャした感じと、湿っぽくなりすぎない演出が、僕にはちょうど良く、結論もお行儀よく「友情っていいね」に安易に落とし込まないのが良かったです。もちろん、似たテーマとある程度似たロボットの外見という意味で先行する『ベイマックス』に比べると、とりわけ話運びや設定に詰めの甘さが見られるものの、僕としては、新興の制作会社が劇場版一作目として発表し、当初から狙ったことではないにせよ王者ディズニーから配給することになった中で、かなり検討しているなと、嬉しいサプライズでした。

サントラは、音に頼りすぎず、ここってところでは歌を聞かせて、それがとてもポップで、いいバランスだったと思います。

さ〜て、次回、2021年11月9日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ビルド・ア・ガール』となりました。ぴあの華崎さんがこの前番組で紹介してくれていた作品ですね。90年代前半のUKロックシーンを舞台に、それまでうだつのあがらなかった女の子が、ライターとしてペンを片手に乗り込んでいく青春エンパワーメント・ムービーって、どう考えたって面白そうじゃないですか。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!