京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『スパゲティコード・ラブ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 12月7放送分
『スパゲティコード・ラブ』短評のDJ'sカット版です。

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それぞれに何かを求めて渋谷で暮らす13人の若者たち。フードデリバリー、シンガーソングライターの卵、気鋭の広告ディレクター、自殺願望を持て余す高校生カップル、定住せずにノマド生活をする人などなど、彼らの感情と行動が複雑に絡み合って交差していくさまを描く青春群像劇です。

監督は、2004年にぴあフィルムフェスティバルで自主映画を入賞させて以来、MVやCM、ドキュメンタリーと幅広く手掛けてきた丸山健志(たけし)。有名なのは、MONDO GROSSOのラビリンス feat. 満島ひかりのMVですね。これが長編デビュー作となります。『ドライブ・マイ・カー』の三浦透子、倉悠貴(ゆうき)、八木莉可子(りかこ)といった若手たち、そしてゆりやんレトリィバァや、満島ひかりも出演しています。
 
僕は先週木曜日の午後に、Tジョイ京都で鑑賞いたしました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

スパゲティコードという耳慣れない言葉がタイトルに入っています。これはどうやら、解読するのは作った本人にしかできないような、複雑に絡み合ったプログラミングコードのこと、らしいですね。なるほど、皿に盛られたスパゲティを一本一本、解きほぐしていくなんて、考えただけでもしんどいですもんね。東京、の中でも、古くから若者文化の中心地、つまりは夢が生まれては消えていく街である渋谷をひとつの皿に見立て、そこでうごめく人たちをスパゲティの1本1本だととらえれば、確かにこれは寄りで見れば複雑な絡まり方をしているし、引きで見れば時代ごとにソースや盛り付け、茹で加減の異なる料理だとたとえられるわけです。
 
評するにあたり、こちらもパスタ料理でたとえるなら、盛り付けセンス抜群だけど、ソースの味つけが薄めで味のまとまりには精彩を欠いたかなと考えています。

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©「スパゲティコード・ラブ」制作委員会
この作品で表現したいことは明確に伝わります。なにがしかの夢や恋愛感情、将来への希望を胸にみんな暮らしているのだけれど、そりゃどうしたってすべて叶うわけではなく、みんな自分のことに必死で、他人とじっくり向き合う機会は少なく、誰かと関わるにしても、どうにも表層的なつながりしか持てずにいる。そんな渋谷に象徴される社会のあり様を活写してみたいということだろうと思います。滑らかでなまめかしくもある映像で、街の灯と心の闇をスクリーンに映したい。その企画のねらいはよくわかるんです。
 
ただ、僕には脚本や演出、特に編集の意図が透けて見えすぎて、映画に入り込めないところがありました。まずもってキャラクター設定がすごくわかりやすいんですね。こういう人いるよねという人たちを13人並べて、次はどういう風にクロスしたら面白いだろうか、意外性があるだろうかと、逆算しているように感じるんです。スパゲティのたとえを蒸し返すなら、13本の麺をまず平行にきれいに並べてから、意図的にパズルのように絡み合わせた感じで、複雑なようでいて、タイトルとは裏腹に、観客にもきれいにほどけてしまう。有機的な絡み方というよりも、絡めることそのものが目的化してしまっていて、絡めることによって生まれる深みにまで到達していないように思えます。

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©「スパゲティコード・ラブ」制作委員会
それが証拠に、何らかの変化を遂げるキャラクターたちの、その変化の理由や、そもそもの葛藤そのものは、正面から見据えていないんです。自転車に乗ってデリバリーをしているあのお兄さんは、なぜ地下アイドルの追っかけをするのか、推しがアイドルをやめたことでその気持ちを吹っ切るために、なぜ配達の件数に固執するのか、よくわからないんですね。この調子で、全体として、観察はしているものの、考察が足りないわけです。
 
キャラクターの多くは、SNSや独り言ではよく喋るのに、対面では寡黙。そうした外面と内面のギャップは、コロナ禍のマスクの時代にあってさらに興味深い現象だけに、登場人物を減らしてでもいいから、もっとその心理に下りてほしかったところです。一方で、これが劇場デビュー作となる丸山監督やフレッシュな俳優たちの顔ぶれには発見があって、そこからの期待の高まりも覚えました。
三浦透子は、劇中ではストリート・ミュージシャンとしてギターを弾いていましたが、もちろん歌も聴くことができます。このところ、彼女は各方面で引っ張りだこ。この歌は、テレビドラマ『うきわ 友達以上、不倫未満』のエンディングテーマでしたが、不思議とテーマには共通するところもあります。

さ〜て、次回、2021年12月14日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ディア・エヴァン・ハンセン』となりました。既にサントラから番組でもいい曲をオンエアしている、ブロードウェイ・ミュージカルを映画化した大作ですね。SNSをモチーフにしていて、テーマとしては今週の『スパゲティコード・ラブ』に通じるところもありそうです。楽しみ。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!