FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 5月3日放送分
『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』短評のDJ'sカット版です。
あの『ハリー・ポッター』シリーズの前日譚の既に3作目となります。魔法動物学者のニュート・スキャマンダーが主人公なんですが、今回は黒い魔法使いのグリンデルバルドが世界を支配しようと着々と動く中、それをなんとか阻止しようと、魔法学校時代の恩師ダンブルドアや魔法使いの仲間たち、そしてあの世界ではマグルと呼ばれる人間との寄せ集めデコボコ・チームを結成します。その中で、ダンブルドアとそのファミリーに隠された秘密が明らかになってもいきます。
全5部作とされるこの前日譚シリーズの脚本は、原作者J・K・ローリング自らが書いています。監督は、ハリー・ポッター4作目の「不死鳥の騎士団」以来、ずっとこの魔法の世界を映像化し続けているデヴィッド・イェーツ。キャストは、ニュート役のエディ・レッドメイン、ダンブルドアをジュード・ロウが演じる他、基本的にはおなじみのキャストが揃っているんですが、大きな変更点として、黒い魔法使いグリンデルバルドがジョニー・デップからマッツ・ミケルセンへとバトンパスされました。
僕は先週木曜日に、TOHOシネマズ二条のIMAXで鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。
これまでの作品を復習すると言ったって、ファンタスティック・ビーストで2作あるし、今回は特にファンにとって嬉しい展開となるホグワーツ魔法学校のことやダンブルドアのことを知ろうとハリー・ポッターから見直すとなると8作あるわけです。しかも、どれも長い。大変です。それを5本目からずっと撮って映画人生を魔法ワールドに捧げているデヴィッド・イェーツにそんなこと言ったら、「クルーシオ!」とか言って魔法をかけられそうですが、この魔法世界の映画化も20年以上経っているので、ファン層の世代交代、ご新規さんの獲得も考えなきゃいけないし、熱心なファンへのサービスも入れていかないといけないという、それこそ魔法みたいな離れ業が、原作者にして脚本も手掛けるJ・K・ローリングには求められていて、僕はある程度それに成功していると思います。そこはさすがです。さらに、イェーツ監督の演出も手慣れたものという感じで、ファンタビの魅力になっている要素はきっちり押さえています。
1920年代のニューヨーク、ロンドン、パリ、オーストリアを舞台にしてきましたが、今回はそこにドイツやブータンまで加え、いよいよ007よろしく観光映画の歴史版といった様相を呈してきました。人間世界と魔法世界の行ったり来たりのややこしい部分には、人間代表、パン屋のジェイコブさんがいることで、いちいち今回も魔法に驚くリアクションを見せてくれるから、僕ら観客も「魔法を当たり前に思わずに楽しめる」んです。壁を通り抜けるような時にも、ジェイコブが「いや、これ、わかってんにゃけど、なんべんやっても慣れへんわあ」みたいな表情を見せるのが良いんです。コミカルでもあるし。さらには、魔法動物たちですね。正直、今回は影が薄めではあるものの、モグラやカモノハシみたいなニフラーとか、小枝のボウトラックルの見せ場も出てきますよ。途中、仲間を救出するとあるシーンでは、インディー・ジョーンズばりの冒険があって、そうだそうだ、ニュート・スキャマンダーは学者だったんだというリマインドも入れてありました。さらに、新キャラのキリン、鹿みたいなキリンが出てきて、物語の行方を左右します。どれもかわいいし、面白いし、魔法はもう既視感がムンムンだけれど、CGがますますレベルアップしているのでまだまだ飽きません。加えて、今回はダンブルドア先生と、その家族にまつわる謎も明らかになるってんですよ。なに、この要素の多さ…
もう満腹でしょう? 僕もホームページやら何やらで予習復習を軽くしましたけど、固有名詞の多さに大混乱。観に行くまでは、こりゃ置いてけぼりを食らって下手すりゃ寝るなと思ったものの、スルスル頭に入ってくるのに感心しました。それぐらい、よくできていると思います。謎もですね、ひとつやふたつではなく、3つ4つ、でかいのがあって、それをバランス良く物語の中に配置することで、だれないように展開するのはうまいです。それなりの眠気を引きずって劇場へ向かった僕ですが、冒頭のダンブルドアとグリンデルバルド、つまりは、ジュード・ロウとマッツ・ミケルセンが喫茶店で向き合っていきなりあっさり明かされる謎には驚いてばっちり目を覚まされてしまいました。これ、ふたりにとっては驚きもなにもないからあっさりなんだけど、そのあっさり具合が逆に見事な演出になっていました。
ただですね、ここからは僕がぶつくさ言うところです。だいたいがお家騒動だよなっていうこと。さっき褒めたのと裏返しにはなりますが、話を整理することに腐心した結果、全体として落ち着いたトーンになっていて、今回は「ノープランこそがプランなんだ」とか言うわりには、段取り良くトントン拍子に物事が進んでいくのだなと思ってしまうこと。魔法世界の総選挙みたいなのがあって、ポリティカリー・コレクトを踏まえ、アジア系、ラテン系、男女と候補者のキャスティングまでしっかり考慮しているのに、肝心の選抜方法が、キリンってなんなん? ほな、演説意味ないよ、とか。そもそも魔法はCGでなんでもできちゃえるようになっていて、強くなればなるほど、本人たちの肉体的な動きが鈍くなって、役者たちは落ち着いた感じに見えるという問題点が浮き彫りになったようにも思います。ローリングさんには、言葉も魔法も場面転換もいいけれど、動きで見せる展開を次作以降は強化してほしいもんです。
などなど、ぶつくさはまだまだ言えるんですが、ジョニー・デップに代わる大役を見事やってのけたのは、マッツ・ミケルセンでした。奇抜な出で立ちと狂気じみたふるまいのデップではなく、見た目はほとんどそのままで、冷静と情熱のあいだを妖艶さが服を着て歩くようなグリンデルバルドに持っていけたのは、ミケルセンの魅力の賜物です。すばらしい! ということで、なんだかんだ言って、結局は次も観に行くことになると思います〜
今回は家族・一族の秘密、そこでないがしろになってしまったことや感情ってのがいくつか出てきましたが、同時に、前作からの流れを踏まえて、マグル、人間と魔法使いの恋の行方、新しい家族の形も模索されていて、そこで鍵となっていたこの甘いラブソングをオンエアしました。