京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 5月24日放送分

稀代の才能の持ち主である魔術師として地球を守ってきたドクター・ストレンジは、このところ、悪夢に悩まされていました。それは、ひとりの少女と得体の知れない敵から逃げる内容です。ある日、突如として街に出現した謎の怪物を仲間のウォンと一緒に倒したところ、その怪物が狙っていたのは、自分の夢に出てきた少女だったとわかります。どうやら、この宇宙以外にも別の宇宙が存在しているようで、彼女が持つそのマルチバースを行き来できる能力をほしがる連中に追われている模様。ドクター・ストレンジは、アベンジャーズのメンバーであるワンダ・マキシモフのもとへ向かうのですが…

死霊のはらわた

劇場公開作だけでなく、ディズニー+での配信ドラマシリーズも合わせて、実際にとんでもない作品宇宙を作り上げているマーベルですが、今回監督を務めたのは、『死霊のはらわた』シリーズ、『シンプル・プラン』そしてなんといっても『スパイダーマン』シリーズでおなじみのサム・ライミドクター・ストレンジを演じるベネディクト・カンバーバッチの他に、ワンダ・マキシモフのエリザベス・オルセン、ウォンのベネディクト・ウォン、そしてストレンジの元恋人クリスティーンのレイチェル・マクアダムスが引き続き出演する他、謎の少女アメリカ・チャベスというキャラクターを、17歳のソーチー・ゴメスが演じています。
 
僕は、先週金曜日の朝、TOHOシネマズ梅田のドルビーアトモスで鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

マーベルファン、そしてアメコミ原作もののファンたちから熱狂的な期待をもって迎えられた本作。予告編が発表されたところから、話題には事欠かなかったわけですが、概ね好評という受け止めなんだろうと思います。語りだしたらいくらでもいけるというくらいに要素がとてつもなく多く詰め込まれているので、切り口はいくらでもあるわけですが、リスナーから届いた感想も見るにつけ、サム・ライミすげえとか、やってくれたと、監督を称賛する声が多いのはひとつ特徴としてあると思います。ヒーロっていうことなら、スパイダーマン3本がありましたから、まず今回の抜擢そのものがマルチバース化しているっていうのが面白いし、彼が1981年公開のデビュー作である『死霊のはらわた』以来得意としているホラー描写、しかも、いい意味でB級感のある味わいがどう反映されるのか否かに注目が集まったわけですが、今作では特に後半なんてもう、サム・ライミ節オンパレードだったもんだから、みんなアガりにアガっている状態です。なおかつ、サム・ライミの演出だからこそ成し得る、なおかつ笑えちゃう仕掛けというのがありまして、今作でも冒頭で注意喚起されているように、付属するエンド・クレジットが終わってからのおまけ映像にいたるまで、ファンサービスが抜かりないし、隙がないのは、嬉しいところですよね。

(c) Marvel Studios 2022
でも、一番の功績は、こんなややこしすぎる設定のマーベル・シネマティック・ユニバース28作目を、僕みたいなマーベル弱者にもある程度ついていけるレベルで、お話としても映像としても構成したということじゃないでしょうか。平行世界・宇宙を描くマルチバースは、単純にキャラクターがそれぞれの物語世界を越えて共有していくってことだけではなくて、ディズニープラス配信のアニメ『ホワット・イフ…?』が設定としてわかりやすいと思いますが、「実際には起こらなかった<もしも>の物語」というのも、平行宇宙の話として盛り込んでしまうということなんで、マルチ・バース・オブ・マッドネスという名前の通り、もはやなんでもありなんです。もはや劇場公開された長編映画のみならず、ディズニープラスで配信されているドラマシリーズ、たとえば『ワンダヴィジョン』なんかはもろに関係してくるわけですから、とんでもない情報量なんですけど、一応僕みたいなのもついていける親切設計にしてありながら、関連作を網羅しているというMCU猛者をもワクワクドキドキ大満足させてしまえるというのは、離れ業としか言いようがないです。もちろん、それはマーベルという、現状世界のトップに君臨するスタジオだからこそますます集まってくる才能あるスタッフたちの力によるものなんですが、そんな土俵で自分の色をこんなにはっきり出せるサム・ライミたるやという驚きを禁じえません。だって、後半なんてあんなに凄惨なことになるし、下手にシリアスに描きすぎたらヘビー過ぎてしんどいだろうっていう血なまぐさい話を、むしろアガるムードに仕立てるなんて、普通はできません。これまでいろんな側面に振り切ってみせたマーベルが、ついにホラー映画にまでその領域を広げて、鑑賞後に後味はなぜかスカッと爽やかですらあるんですもの。ゾンビなあいつには、みんな笑っちゃうでしょうよ。そこには、サム・ライミの各ユニバースにおける、色彩やCGの調整が細かく細かくあるからこそなわけで、それを操ったサム・ライミこそ、ドクター・ストレンジばりの映像魔法使いです。

(c) Marvel Studios 2022
ただ、お決まりの苦言を呈することが許されるなら、今回久しぶりにマーベルを扱いまして、正直なところ、疎外感を禁じえなかったです。ドルビーアトモスで追加料金を払ってまで観ているんだけれど、マーベルが観客に要求するのはもはやお金だけではなくて、時間もだなって実感しました。だって、膨大な量、もはやマーベル以外のコンテンツにも目を配るとするなら到底追いかけるのは不可能というレベルで供給され続ける作品群を鑑賞する時間を確保するって、それはもうマーベル帝国のような状況でしょう。気がついたら、僕は別の宇宙を生きているような感覚になりました。悔しいかな、面白いんだけどね。ということで、そもそもヒーローものにそこまで熱くなれない僕としては、今後もそこそこ観て、そこそこ楽しむというスタンスのユニバースで生きていこうということです。
 
予告などでも使われて、内容と相まって印象に残る名曲です。もう聴くだけで悪夢を見そうになるという弊害が生まれてますけどね(笑)

さ〜て、次回、2022年5月31日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『死刑にいたる病』となりました。白石和彌監督の作品は、何年もずっと監督へインタビューする機会に恵まれていたものの、ここ数作はそれも叶わず、寂しい想いをしていたところ、結局、映画神社経由で白石さんに捕まりました(笑) フィルムで撮影しているという噂も耳にしているので、画面のルックも楽しみです。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!