京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『チケット・トゥ・パラダイス』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 11月15日放送分
映画『チケット・トゥ・パラダイス』短評のDJ'sカット版です。

若くして結婚し、若くして離婚した元夫婦、デヴィッドとジョージア。愛娘のリリーは、ロースクールの卒業旅行で友達とバリ島に長期滞在。と思ったら、そこで会った男と電撃結婚するという知らせを受けて、元夫婦のふたりはともにバリへ。そんな結婚は許さん、と、娘を思いとどまらせるべく、ふたりは休戦協定を結んで立ち回るロマンティック・コメディです。

マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー (字幕版) マリーゴールド・ホテルで会いましょう (字幕版)

 元夫婦をジョージ・クルーニージュリア・ロバーツが演じます。『オーシャンズ』シリーズ以来、これで5度目の共演となります。エグゼクティブ・プロデューサーとしてもクレジットにも名前を連ねています。共同脚本と監督は、『マリーゴールド・ホテル』シリーズや『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』のイギリス映画人オル・パーカーです。

 
僕は先週木曜日の夜に、TOHOシネマズ二条で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

一言でまとめると、ちょうどいい映画ってことになるんだと思います。ちょっと時間の空いた午後なんかになんか映画でも観ようかなって調子で街へ繰り出して、ゲラゲラ笑って、少ししんみりもして、小粋な選曲のサントラを口ずさみながら、帰りにパッと目についたバルで一皿のつまみとともにビールを流し込んで、家に帰ってよく眠る。あ〜、いい秋の日だ。って、この感じわかります?  そういう映画です。
 
ジョージ・クルーニージュリア・ロバーツが久々に共演ってことでアガるぜって人は40代以上の方が多いかと思いますが、あのふたりも共にいい具合に歳を重ねてきているんだけど、しっかりスターのオーラはキープしたまんまでスクリーン映えするし、衣装もコロコロ変わって、その度に僕たちのあこがれを更新してくれつつ、それでも年齢相応の「枯れ感」をうまく出して、僕たち観客にも同様にありそうな「やらかし」を見せて笑わせてくれもします。
 
若い時には大恋愛をしたふたりが、それを若気の至りと捉え、もめにもめて別れてしまったけれど、ひとり娘のリリーについては、ともに大好きで、基本は母親のところにいるんだけど、父親も頻繁に会っては目をかけながら、そして両親ともに愛するがゆえに娘に面倒なプレッシャーをかけながら、リリーもそれに応えて、しっかりロースクール卒業というところまでやって来た。やがては弁護士か裁判官かと、順風満帆。父は堅実に出世を重ね、母もアート関係でステキなキャリアを築いてきた。金には困ってない。娘も手を離れたってことで、少しさびしくなるだけ。これからもバリバリ働くかんね! ふたりして空港で娘を見送ったら、See you again! NEVER!!と威勢よく別れたと思ったら、バリの娘から「結婚します」って、それどゆこと?

© 2022 Universal Studios. All Rights Reserved.
観光映画の準備が整って、いざテイクオフと思ったら、今度は飛行機の席がすぐ近く。そして、まさかのパイロットが妻ジュリア・ロバーツの今カレで、飛び立つ前からチュッチュチュッチュと熱々なんです。こりゃ、また波乱含みだと思ったら、しっかり乱気流に巻き込まれたりしてってな感じで、お約束の笑いを約束通りじゃんじゃん盛り込みながらも、話はとんとんテンポ良く進んでいく演出は、さすがは『マンマ・ミーア ヒアウィーゴー』の監督オル・パーカーだよなと感心します。
 
懐かしいテイストというか、ロマンティック・コメディというジャンルの定石を外すことなくアップデートしていく感じもちょうどいいんですよね。この手の映画だと、旅の恥はかき捨てとばかりに、今作だとバリ島にあたるような異文化の土地でのカルチャーギャップにまつわるエトセトラもあるんですが、そのあたりもちゃんとリスペクトをそれなりに込めていて、今のポリコレにかなっていて見やすいです。何より、リリーのバリボーイへの惚れっぷりが気持ちがいいくらいだし、あの青年もとことん良い奴で知的なもんだから、元夫婦ふたりの大人気ない言動の数々に、あちゃ〜と僕らもなっちゃうくらい。みんなで飲みにくりだして、飲み会で酒をじゃんじゃん飲んじゃうビアポンっていうゲームに興じながら、青春時代のダンスナンバーで今どきじゃないステップを踏むところも楽しくてしょうがないです。

© 2022 Universal Studios. All Rights Reserved.
結果として、元夫婦は考えるわけですよね。自分たちの人生はなんだったのかと。自分たちが過ちとしてなかったことにしてきた結婚。でも、その唯一と言っていい結果としての娘は愛してきたし、自分たちのコントロールがきかなくなった娘の愛を見せつけられて、自分たちの想い合っていた頃を思い出す。そこでふたりが別れた本当の理由が明かされるという語りの順序もうまい。とにかく、唸ってしまうショットは特にないのだけれど、笑いもしんみりも考えさせられる程度も、すべてがちょうどいいんです。CIAO 765リスナーにもしっかり寄り添う映画。ジョージ・クルーニーも、ジュリア・ロバーツも、あんたらやっぱりスターだぜ。憧れだぜって思いながら、僕は劇場を後にして木曜日、とりあえずビールを飲みに行きました。
 
サントラから1曲。あ、そうそう、エンドクレジットでのNG集も観てちょうだい。


さ〜て、次回2022年11月22日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『窓辺にて』です。今泉力哉監督が稲垣吾郎を迎えたオリジナルのヒューマンドラマですが、かなり評判いいですね。決して褒められたことをする人ばかりが登場するわけではないけれど、誰をも否定しない視線がいい、なんてことを聞き及んでいますが、細部にまで丁寧な演出を施す今泉監督の最新の仕事をしっかりチェックしてきます。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!