京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『雑魚どもよ、大志を抱け!』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 4月4日放送分
映画『雑魚どもよ、大志を抱け!』短評のDJ'sカット版です。

1988年の春から夏にかけて、地方の町に暮らす平凡な小学生の瞬は5年生から6年生へ。親友の隆造など、つるんでいた4人組はクラス替えでバラバラになり、成績が奮わない瞬は母親から塾通いを命じられます。そこで映画好きの同級生と仲良くなったり、妙な転校生がやってきたり、たちの悪いいじめを目撃したりするうちに、人間関係に微妙な変化が生じます。すると今度は、母親の体調に大きな変化が… 合わせて7人の男子小学生とその家族など周辺の人間関係を追った青春群像劇です。

弱虫日記 (講談社文庫)

2017年に小説として出版していた『弱虫日記』を、足立紳自ら共同脚本と監督で映画化した本作。主人公瞬を演じたのは、関西ジャニーズJr.の池川侑希弥(いけがわゆきや)。その親友隆造を田代輝(ひかる)、妹のワコを新津ちせなど、ゼロ年代後半生まれの少年少女が活躍しています。大人のキャストとして、瞬の両親を臼田あさ美、浜野謙太、隆造の父を永瀬正敏が演じています。
 
僕は先週水曜日の午後に梅田ブルク7改めTジョイ梅田で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

88年、僕は主人公たちよりも少し下の小学3年生でした。ちょうど僕が近所のスーパーにできたレンタルビデオコーナーで『スタンド・バイ・ミー』を借りて観た頃です。だから、あの空気感はとてもよくわかります。僕の場合は、大津の外れのニュータウンでしたが、彼らはさらに地方のやはりニュータウンの外れって感じでしたね。ど田舎ではないが、小学校を中心としたテリトリーにはたくさんの自然が残っている感じ。似ているからこそ、違いが気になります。どこを切り取っても、どこでロケをしているんだろうと。遠景には、かなり高い山々がそびえていましたね。あれは岐阜県飛騨市だそうです。ロケハンをしたスタッフは、飛騨市を訪問して、「日本のキャッスルロックを見つけた」と喜んだとか。キャッスルロックとは、それこそ『スタンド・バイ・ミー』など、いくつものスティーヴン・キング作品の舞台となったアメリカの典型的な架空の田舎町です。今作では、飛騨市の全面協力があって、見事に昭和最後の日本のひとつの典型的な景観がスクリーンに蘇りました。彼らの行動範囲をまるっと見せてしまうような壮大な長回しを含むタイトルが出るまでの一連の流れがまず素晴らしいです。主人公瞬の家の自宅の窓に小石が当たる。それは相棒である隆造からの誘いの合図。彼は玄関から靴をこっそり持ち出し、自室に戻って、窓から外へ。落ち合ったふたりは、自転車で仲間の家を次々訪問。そして、そのまま学校や駄菓子屋へ。若き足立監督が師事して今作の元になる脚本も見せていた相米慎二監督の代名詞的な長回しを彷彿とさせる手振りに心躍りました。

(C)2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会
4人のキャラクターや背景のバランスがとても良かったです。隆造は前科者のヤクザの息子で、途中から戻ってきますが、家には母親がいなかった。喧嘩は強いが、だからといって学校を仕切るタイプではない。父のようにはなりたくないと思っている。新興宗教にハマったシングルマザーのもとで育ち、登校拒否気味でアトピーも吃音もあるが仲間に助けられている子。勉強はすごくできて最新ゲームにも強いがひ弱でお姉ちゃんはぐれかけていて、やはりシングルマザーのもとで狭い団地に暮らす子。そして、瞬はわりと平凡な家庭の子です。ただ、お母さんの乳がんの問題と、自らの成績不振による塾通いに不満を覚えている。こうした条件のもとで、いじめっ子がいたり、アクの強い教師がいたり、モデルガンマニアの転校生がやってきたり。絵画で言えば点描やモザイク画のように、ひとつひとつの細かいピースがうまくハマって、全体として確かにあの時代あり得ただろう名もなき子たち、雑魚どもの甘酸っぱくほろ苦い少年時代が浮かび上がっているんです。

(C)2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会
でも、それは決してノスタルジーに引っ張られたものではなくて、少年たちが彼らなりに人間関係と向き合いながら、倫理観や広い世界、まだ果てしなく遠くに思える漠然とした将来を見据え始める時期の飛躍的な成長を描くというしっかりしたテーマがあります。あの頃は良かったという感じでは決してない。それが証拠に、原作小説の舞台は現代なんですよね。おそらくは、スマホやなんかを排除したほうが主題をもっと引き出せるという狙いがあったのではないでしょうか。

(C)2022「雑魚どもよ、大志を抱け!」製作委員会
少年たちの演技はすばらしかった。プロダクションノートを読む限り、ワークショップやロケ中の過ごし方など、スタッフの工夫も功を奏したのでしょう。少年たちの変化が作品に刻印されていました。瞬と隆造がふたり向き合って心情を吐露する長いショットは奇跡的だったし、僕はとりわけ映画少年西野くんを演じた、演技ほぼ未経験の岩田奏(かなで)さんを推したいです。そして、5年後、10年後、リアルに成長した彼らを起用しての続編、スピンオフなんかを、僕は期待してしまうくらいに興奮してしまいました。足立監督、ご検討くださいませ。


結構長尺で2時間半ぐらいあるんですが、それでも退屈なんてすることはない流れも良かったし、この曲で余韻に浸れるエンド・クレジットまで目が離せませんでしたよ。

さ〜て、次回2023年4月11日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『シン・仮面ライダー』です。決まった瞬間に50代後半のスタッフが両手を掲げて立ち上がって喜んでおりましたが、仮面ライダーはカバーしている世代が広いし、それぞれのイメージがあるんで、当然賛否両論が出そうではあります。そこを庵野秀明さんがどう切り込むか。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!