京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

スターチャンネルで配信中!『愛と殺意』作品解説

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僕・野村雅夫が選ぶ、イタリア映画の巨匠たちによる、知られざる名作シリーズ。

『愛と殺意』『狂った夜』『三人の兄弟』『ゴールデン・ハンター』『醜い奴、汚い奴、悪い奴』の5作品から、今回ご紹介するのはこちら。

愛と殺意

『愛と殺意』(原題:Cronaca di un amore)

 

僕も大好きな名匠アントニオーニ監督は、基本的には中流階級以上の男女のすれ違いを描くことが多い作家です。本作はそんなアントニオーニの長編デビュー作です。表面上はサスペンスの枠組みを借りながら、後に彼を世界に知らしめることになる「愛の不毛」というテーマと、幸せとはなんだろうかという普遍的な問いを盛り込んだ意欲的な1本だと思いますね。原題はCRONACA DI UN AMORE=「ある愛の記録」。ヴィスコンティパゾリーニベルトルッチの代表作に出演した俳優マッシモ・ジロッティが好演する、日本では劇場未公開作です。

時は1950年。ミラノの裕福な実業家が、若い妻パオラの結婚前の行動を疑い、私立探偵に過去の素行調査を依頼するところから話は始まります。

パオラを演じるのはルチア・ボゼー

美しいパオラは地元で大いにモテていたようですが、特にグイードという青年と関係が深かった様子。ふたりは、もうひとりの女とどうやら三角関係になっていたんですが、その女がエレベーターから転落死するんです。事故か自殺か、はたまた他殺か。曖昧な形で死んだのがきっかけで、パオラとグイードはそれっきり別れてしまいました。ところが、皮肉にも探偵が嗅ぎまわったことがきっかけとなって、ふたりは再び会うようになるんですね。

マッシモ・ジロッティ演じるグイード

戦後、日本よりも高度経済成長が早かったイタリアでは、当時、格差が広がっていました。玉の輿に乗ったパオラの家には、庶民は当時手の出なかった自家用車が3台もあって、オートクチュールの服に身を包み、高いお酒や外国産のタバコを吸うという、贅の極みをつくしていました。

ひとつ象徴的なシーンがあります。ある女性キャラクターが、キスチョコを食べて、中に入っていた愛の言葉、名言を、かたわらのビジネスマンに伝えて、これは誰の言葉かと聞くんです。男の答えは「金を持ってない奴さ」と答えます。これ、つまり、信じられるのは金だけだという価値観が広がっていたことを示唆しているんですね。

タバコをくゆらすパオラ

そんな拝金主義が広がる社会の変化についていけなかった人々もいます。パオラの元恋人グイードがまさにそうで、彼はもう少しうまくやれていれば成功できたのでしょうが、商売の才能には今ひとつ恵まれなかったかもしれない。少なくとも、悪知恵が働くタイプではないんですね。しかし、この映画では、上流階級を羨ましい感じにはまったく描かない。それこそ、アントニオーニ的テーマでしょうね。

再会したパオラとグイードは、情熱的に愛し合いたいと願う一方で、パオラはこんなことも口にします。でも、「今さら国産のタバコを吸うような貧乏に戻るのはまっぴら」。グイードが、彼女との間に隔たりを覚える瞬間です。

アントニオーニのうまさは景色の描写にあります。大事なことほど彼はセリフに落とし込むより景色の描写で見せようとする。本作で非常に印象的に使われているのがエレベーターという小道具です。過去、痛ましい事件があったエレベーターを、直接関係のない場面で、何度か登場させます。そのワンショットにパオラとグイードの心象風景を込めるんですね。また、上下する乗り物エレベーターですから、そこには経済成長の波に乗れる者と滑り落ちる者というメタファーも感じるわけですよ。

エレベーターが心象を示唆する

サスペンスの体裁をとりつつ、今の僕たちにも響く愛の記録になっています。幸せって、なんなんですかね。

この作品、そしてそのほかの僕が選んだイタリア映画も、ぜひスターチャンネルでお楽しみください!

 

【視聴方法】
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■作品情報
愛と殺意
CRONACA DI UN AMORE
1950年/イタリア/105分
監督/ミケランジェロ・アントニオーニ

 

■キャスト
パオラ:ルチア・ボゼー(『ラスト・ハーレム』)
イードマッシモ・ジロッティ(『郵便配達は二度ベルを鳴らす』『夏の嵐』)
カルローニ(探偵):ジーノ・ロッシ
エンリコ・フォンターナ(パオラの夫):フェルディナンド・サルミ