京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『シン・仮面ライダー』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 4月11日放送分
映画『シン・仮面ライダー』短評のDJ'sカット版です。

仮面ライダー誕生50周年を記念に製作されたオリジナル作品です。人類を幸福に導くと謳う組織SHOCKERによってバッタオーグに改造された本郷猛。緑川弘博士、その娘ルリ子とともに組織を裏切り、逃亡を図ります。追手をプラーナによって得た力で殺してしまったことで苦悩する本郷でしたが、博士が殺され、ルリ子を託されたことで仮面ライダーと名乗り、SHOCKERとの戦いを決意します。
 
シン・シリーズですから、庵野秀明さんが監督と脚本を手掛けています。仮面ライダー本郷猛を池松壮亮仮面ライダー第2号一文字隼人を柄本佑、そしてルリ子を浜辺美波が演じた他、塚本晋也松尾スズキなどなど、ここではあえて名前を挙げませんが、びっくりするような豪華キャストが多数出演しています。
 
僕は先週木曜日の午後にTジョイ梅田のドルビー・シアターで鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

庵野秀明が手がけるシン・シリーズの4作目となりますね。ゴジラエヴァウルトラマン、そして仮面ライダー。マーヴェルのようなそれぞれのつながりやキャラの行き来はありませんが、シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバースと銘打たれています。中でも、仮面ライダーにはまたひときわ思い入れがあったということで、脚本は4本すべて庵野秀明の単独クレジットですが、今回は初めて単独で監督も手掛けていることからも、その情熱が伝わります。

(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
僕は今回東映系列のTジョイ梅田のドルビー・シアターで観たわけですが、まず特に初代仮面ライダー特有のダークな雰囲気、71年から73年の若者たちのモヤモヤした葛藤が大いに反映されただろう、文字通りダークな画面を観るには、黒が本当に漆黒というレベルで味わえるドルビー・シアターは、僕は劇場の選択としても良かったと思います。あのクライマックス近くのトンネルの所とか、闇の中に増殖したキャラクターが浮かび上がって、まぁ不気味でした。このシリーズ、ユニバースは、ご存知の通り、「シン」がカタカナで表記されていて、そこには「新しい」とか「真」とか、いろいろ意味が重ねてあるわけですが、今回のアプローチは真の仮面ライダーを、芯を食った映像で見せるんだという気概みたいなものが感じられます。僕は決して詳しくありませんが、コマ割りまで参照して、それを映画のカット割りに持ち込んだという石ノ森章太郎の原作、というか、当時メディアミックスで出た漫画と、もちろん、藤岡弘が主役を張った初代の映像のテイストを50年経った今、スクリーンに反映させるんだということです。池松壮亮のキャスティングも良かったと思うんです。悩める若者の雰囲気が出るし、髪型や線の細い感じも、70年代風のファッションに合いますから。これは浜辺美波もしかり。特報を映画館で観た時なんて、70年代好きの僕としてはすごくワクワクしました。あの、複雑に入り組んだ電車のレールの上でふたりが相対する絵だけで、こりゃ期待が持てる。東宝円谷プロの特撮とは違う、あの頃の東映のザラッとしていて猥雑で暴力的で人間的な映像のテイストを今に蘇らせるんだという、それこそ芯を食った仮面ライダーにしたいのだという意欲が、僕は空回りしているところが多いように今作は思いました。

(C)石森プロ・東映/2023「シン・仮面ライダー」製作委員会
先日、製作の裏側を追いかけるドキュメンタリーがNHKで放送されて、そこでもわかるように、庵野さんはまずアクションにこだわったんですが、試行錯誤と自問自答を重ねた結果、わりと直球でCGを多用しているうえ、その狙ってそうしているんだろうチープさが、結局実写とチグハグな印象を与えていて、たとえばコウモリオーグ、怪人のところなんて、笑わせようとしているのかなっていう感じになっていましたよね。それから、役者ががんばって体張って現場で動いたアクションも、お得意の細かいカット割りの編集で細切れにしているせいで、重みが効果音頼みになっていました。編集し過ぎで何が起きているのかよくわからないし、話もどんどん詰め込んでいっているので、びっくりするような省略を多用した結果、場面転換が紙芝居ばりに飛ぶんですよね。怪人たちがなぜ怪人になってしまっているのかという心理的な袋小路、闇の部分もほとんど示されないので、なんだか怪人を倒していくのが段取りめいて映ってしまうという問題も生じていました。部分部分で見れば、今思い返しても好きなところはそりゃありますが、これをもって、少なくとも僕みたいな仮面ライダーに対して特に思い入れのないような観客が好きになるかと言えば、まずその可能性には乏しいと言わざるを得ないです。続編の構想もあるようで、作られるなら観たいですが、この路線だとちと厳しいかなと感じてしまいました。
この曲を劇場の大音量で聴くと、そりゃ気分が高揚しますね。あと、リスナーからの感想では、浜辺美波がすばらしいという、こちらも高揚しっぱなしという声が多数寄せられました。異存なし!

さ〜て、次回2023年4月18日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『パリ・タクシー』です。この番組では、以前ぴあの華崎さんが『ドライビング・MISS・デイジー』と比較しながら紹介をしてくれた作品です。タクシーを舞台装置として活用する映画は、面白いものが多いような気がするんですが、果たしてこちらはどうでしょう。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!