京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

スターチャンネルで配信中!『三人の兄弟』作品解説

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僕・野村雅夫が選ぶ、イタリア映画の巨匠たちによる、知られざる名作シリーズ。

『愛と殺意』『狂った夜』『三人の兄弟』『ゴールデン・ハンター』『醜い奴、汚い奴、悪い奴』の5作品から、今回ご紹介するのはこちら。

三人の兄弟

『三人の兄弟』(原題:Tre fratelli)

主な舞台は、イタリア南部の農村です。裕福な地域ではありません。高齢の母親が亡くなり、葬式のために実家に帰ってきた息子たち三兄弟の二日間を描く、あらすじをいうとただそれだけのストーリー。なんですが、これがなんとも味わい深いんですよ。

長男は50代でローマの裁判官、次男は40代でナポリの児童カウンセラー、三男は30代でトリノの労働者と、世代も違えば職業も今暮らす街も違う三人、久しぶりに言葉を交わすなかで立場や考え方の違いが浮き彫りになってくるんですね。特に長男と三男の意見がぶつかります。

長男(左)と三男(右)

南北の格差や確執を語ったり、「デモからテロに発展することもある」など、政治的な意見を戦わせたりという会話を通して、1981年当時の時代背景や社会のあり方も透けて見えてきます。

基本的に、兄弟たちはそれぞれがそれぞれの悩みを抱えており、言葉を交わしたとしても本質的にその考えが交わることはありません。このあたりはリアルですよ。交流も乏しかった様子というのを絵的にも、あまり同じカットに同時に映さないという見せ方で表現しているんですが、とはいえ、それぞれにもちろん母の死を悲しんではいるわけです。そんな兄弟たちが、ラスト近く、物理的な距離はありながらも、窓越しに揃うショットがラスト近くにあるんですね。3人はバラバラだけどそれぞれに母の死を悼んでいて、棺を運ぶという共同作業の瞬間、その人生が交わる。家族、そして人生を深く描いた名シーンといえます。

監督はフランチェスコ・ロージ。日本では彼の作品はそんなに公開されていないので知名度は低めですが、本国では巨匠であり、『ニュー・シネマ・パラダイス』のジュゼッペ・トルナトーレ監督がこのフランチェスコ・ロージ監督に非常に影響を受けていると公言しているんです。言われてみれば登場人物のフィリップ・ノワレは、『ニュー・シネマ・パラダイス』で日本でも非常に有名な名優。本作では非常に重要な役どころとなる、三兄弟の長男を演じています。

ニュー・シネマ・パラダイス

フランチェスコ・ロージは、元々は『シシリーの黒い霧』『コーザ・ノストラ』など、マフィアと地元の関係を描くドキュメンタリーっぽい手法を好む監督だったんですが、この時期の作品はかなり文学的、ポエティックな映像表現が特徴的になってきていて、冒頭、母親の死の表現(うさぎの表現)や、三兄弟と父親がそれぞれの願望を夢見る表現などが特に印象的です。ロージ監督らしいネオレアリズモ風ドキュメンタリータッチの映像に、不意にポエティックな表現が滑り込んでくる。特に長男がテロに見舞われるシーンなどは、それが夢であるのかどうか、しばらく判然としないくらい、現実と夢の境が非常に曖昧に描写されています。

アカデミー外国語映画賞ノミネート、また、イタリアのアカデミー賞ともいわれるダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞で最優秀監督賞・最優秀脚本賞を受賞した本作。このたび日本初公開です。

この作品、そしてそのほかの僕が選んだイタリア映画も、ぜひスターチャンネルでお楽しみください!


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■作品情報
三人の兄弟
TRE FRATELLI
1981年/イタリア=フランス/115分
監督/フランチェスコ・ロージ

 

■キャスト
ラファエレ(長男):フィリップ・ノワレ
ロッコ(次男):ヴィットリオ・メッツォジョルノ
二コラ(三男):ミケーレ・プラシド
ドナート(父):シャルル・ヴァネル