京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『search/#サーチ2』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 4月25日放送分
映画『search/#サーチ2』短評のDJ'sカット版です。

ロサンゼルスで母子家庭の一人娘として暮らす高校生のジューン。新しい彼氏とコロンビアへ旅行に行った母親を空港に迎えに行ったのですが、ふたりは飛行機に乗っていませんでした。ジューンは検索サイト、家事代行サービス、SNSなどなど、ネットを駆使して母親の捜索を開始。消息を絶ってしまった母親は見つかるのか。事件はなぜ起こったのか…

search/サーチ

ほぼすべてのシーンがパソコンの画面上で展開するという斬新な語り口でヒットした「search サーチ」シリーズの2作目となります。前作の監督と脚本を手がけたアニーシュ・チャガンティが今回は原案と製作を務め、前作で編集を担当したウィル・メリックとニック・ジョンソンが監督・脚本の役目を受け継いだ形です。ジューンを演じたのは、『透明人間』や『ザースーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』のストーム・リード。他にもポルトガル出身のヨアキム・デ・アルメイダや『オールド』に出ていたアジア系ケン・レオンなど、多彩な人種・キャリアの俳優たちが出演しています。
 
僕は先週木曜日の午後にTOHOシネマズ梅田で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

前作も僕はラジオで短評していました。現代に飛び交う膨大なデータログ、つまりデジタルな記録・履歴とリアルタイムの交信だけで映画を成立させようという実験的な野心作であり、スクリーンの中にマルチ画面で出てくるすべての文字情報と画像が、実はかなり高度にデザイン化されていて、退屈とは程遠いどころか、驚くことにそのバランスが美しくもある。なおかつ、この手のものは技術が日進月歩で進んでいくので、同時代にリアルタイムで観るべきでもあると語っていました。あれから5年弱。スタッフも前作で手応えを得た人たちが関わっているということで、画面の構成については基本的には踏襲していますが、それだけにこの間に技術が増えている、進化している、スピードアップしていることを実感しますし、前回はお父さんが娘の行方を追うという物語だったのに対し、今回はばりばりのデジタルネイティブ世代である女子高生が母親の行方を捜すということで、ちょっとおじさんついていけないぜってくらいに速い速い。話の流れについていけないということではなくて、僕なら無理だ、救出できそうにないってことです。主人公ジューンのめげなさ、思い立ってからの行動の速さが尋常ではないんです。

(C)2023 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.
とりわけ、国をまたいでの動きが面白かったですね。インターネットにはもはや国境も言語も障壁ではないと思えるような展開が用意されています。2点、例を挙げましょう。ひとつは、観光地によく置いてあるライブカメラSing Like Talking佐藤竹善さんがあれを世界各地眺めるのが好きっておっしゃっていたことがあるんですが、その意味では竹善さんなら、この事件も解決できるかもしれないっていう冗談はさておき、コロンビアの辺鄙な村で起きているような警察沙汰までリアルタイムで観ることができてしまった場面には素直にびっくりです。僕の友人の女性テレビディレクターも実はそういう仕事をしていたんですが、デジタルハンターという言葉がありまして、ウェブで普通に公開されている映像やSNSの情報を徹底的に解析することで真相に迫るというジャーナリズムが実際に近年注目を集めている、その手法がこうしたサスペンス・スリラーに活用された格好で、しかも、それをしているのが普通の女子高生であることに驚くわけです。

(C)2023 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.
国をまたいでの動きで今作がもうひとつ面白かったこと。それは、買い物とか配達とか、ちょっとした家事代行とか、雑用をお任せできるサービスが世界各国にあって、ジューンがネット決済でそういう人をコロンビアで即座に雇って、通話アプリで実際に喋りながら動いてもらうという流れ。探偵を現地で雇うってのをリアルタイムでやっているようなもんですが、ジューンにお金があまりないもんだから、ちょっとトロいところあるけどがんばるぜっていう、時給安めのおじさん、ハビエルを雇うんですね。それまで存在すら知らなかった外国の英語もたどたどしいハビエルなんだけど、彼がなかなか情に厚い人で、親身になってくれるんですよ。ジューンは話が進んでいくにつれて、身の回りの誰も信じられない状態に陥るんですが、このハビエルとはある種の疑似親子関係というと大げさかもしれないけれど、確かに温もりのある人間関係を構築してしまうのが面白いところです。

(C)2023 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.
MACにアプリをどんどん立ち上げて同時に動かしながら、パスワードもいろいろかいくぐり、ジューンは安楽椅子探偵のごとく、そのほとんどのシーンで自宅にいます。それでも退屈しないのは、例によって巧みな画面のマルチな情報の配置と、前作以上のスピード感がある故でしょう。こんなの、それこそそのうち配信されてからのんびりパソコンの画面で見ればいいやっていう作品では決してありません。情報量が多いので、大きなスクリーンの方が良いし、映画館の暗闇に日常から切り離されて身を浸し、集中しておかないとついていけなくなります。脚本の構成がとても上手なので、ジェットコースターでありながら誰でも展開はわかるし、同時に先はまるで読めません。いろんな登場人物の思惑が交錯している上に、作り手のミスリードもバッチリハマってまんまと騙されます。綿密な脚本が書ける人をチームに入れないと作れない映画ですが、とても現代的なフォーマットの2作目も大成功ですから、少なくとももう何本か観てみたいなと思っていたら、そんな構想もあるようなので、気長に3を待ちたくなる、優れたサスペンス・スリラーでした。
 
主人公ジューンが、親の旅行中にはじけたパーティーを友達と家でやっちゃう。そこで印象的にかかるのがこの曲。これがかかっている時はハメを外して楽しそうで、まさにAlright, OKな状態だったわけですが…

さ〜て、次回2023年4月25日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『仕掛人・藤枝梅安2』。前作でこのバディに魅了された僕です。2に向けて江戸から西へと旅に出たふたりが、どんな騒動に巻き込まれるのか。楽しみ、楽しみ。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!