京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『仕掛人・藤枝梅安2』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 5月2日放送分
映画『仕掛人・藤枝梅安2』短評のDJ'sカット版です。

時代小説の大家、池波正太郎、生誕100年の今年、良質な時代劇を攻めの姿勢で作りたいという想いからスタートした、新しい梅安シリーズ、これが2作目です。前作で京都への旅に出た梅安と相棒の彦治郎、ふたりの仕掛人は、道中で彦次郎の妻と子供の仇の姿を見かけます。ところが、その武士は身なりも素行もきちんとしており、梅安は人違いの可能性もあると指摘。そして、京都では、無頼の浪人集団のリーダーの仕掛、暗殺を頼まれるのですが…
 
連作ということで、スタッフ、キャストともに前作と大きく変わりません。監督は河毛俊作。脚本は大森寿美男。梅安を豊川悦司、彦治郎を片岡愛之助が演じる他、菅野美穂小林薫らが続投しつつ、この2作目では、椎名桔平佐藤浩市、一ノ瀬颯(いちのせ・はやて)がゲスト出演しています。
 
僕は先週金曜日の朝にMOVIX京都で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

豊川悦司主演による映画版が作られるにいたった背景とキャスティング、片岡愛之助演じる彦次郎とのバディ感の良さなどは、前作の短評でまとめてありますので、そちらを参照いただければと思いますが、鍼という特殊な武器を駆使するダークヒーローという存在に、高い美意識を伴う画面構成と哀愁のある物語が掛け合わさって、日本独自の見事なエンターテインメントとして世界に打ち出せる大作です。この評価は、2作連続公開ということで、前作の段階ではペンディングにしていましたが、今作を観終えた時点で、もう確信に変わりました。すばらしいです。痛快で、コミカルで、スリリングで暴力的。エロティックで、美しく、切なく、やがて哀しい。
 
今作では、梅安が師匠から鍼医者としての心得と技術を学んだ場所、京都を舞台に加えることで、画面と登場人物のバリエーションに変化を加えました。前作では梅安の生い立ちと家族関係がするりと紐解かれましたが、今作では相棒である彦次郎の過去の因縁と梅安の青年期、つまり鍼医者から仕掛人になる、いや、なってしまったこちらも因縁が明かされ、そこに落とし前をつける展開となっていて、盛り上がりは十二分です。

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
ふたりの因縁にまつわるキャラクターとして、今作では椎名桔平佐藤浩市がキャスティングされていまして、それぞれとの対決にも工夫が凝らされていましたね。これは前作でも言ったことですが、時代劇ですからチャンバラを見せ場にするのがセオリーではあるものの、日本刀を武器としない、なんなら血をほとんど流さないことを良しとする仕掛=暗殺をモットーとする梅安と彦次郎ですから、クライマックスの見せ方には工夫が絶対に必要で、それが上手くいっているからこそ、観客は新鮮にこの映画を楽しめます。今作にはふたつ大きな見せ場がありますが、そのどちらも、刀を振り回す相手に対して、知恵で対抗しているのが面白くて、1つ目はある種あっけないくらいの方法なのが物語を脱臼させるような効果をもたらしていたのに対し、2つ目では忍びの技術も使いながら、主人公のふたりも、僕たち観客も、もはやこれまでかと死を覚悟するほどの張り詰めた空気にしびれる仕上がりです。しかも、後者ではその死の予感がセクシャルな前置きと相まって、文字通り、エロスとタナトス、つまり性と死という人間のひとつの本質に迫っていたとも言えるでしょう。

(C)「仕掛人・藤枝梅安」時代劇パートナーズ42社
最後に、僕が今作で一番楽しんだ場面として、石橋蓮司の出てくる一連の場面を挙げておきます。彼は上方の顔役で、殺しの依頼を仲介する元締め=蔓(つる)でもある男、白子屋菊右衛門というキャラクターを演じているんですが、この元締めがまぁ絶品です。牛耳っているのは道頓堀界隈のようですが、擬音で高橋ひとみ演じる愛人に茶屋を持たせているんです。その茶屋での梅安との密会が最初の登場でして、言ってみれば、時代劇に出てくる「お主もワルよのぉ」でおなじみの越後屋的なわかりやすく表裏のある人物。相手によって下手に出ることもあれば、ドスをきかせることもある。ベタな設定だけあって、下手に演じると、薄っぺらく見えてしまいかねないわけですが、そこは石橋蓮司が見事に厚みを出していました。台詞回しや目の動きもそうですが、口元の作り方ひとつで、僕たちを笑わせたり、ビクリとさせたり、まさに社会の表裏を一体に体現してみせる怪演が最高です。
 
これだけの大作かつ良作でありながら、配給会社の関係で、上映館の場所と回数にムラがあるのが少々もったいないような気がしていますが、エンドクレジットの最後の最後まで見ると、どうやらうまくすれば続きも期待できそうな感じです。劇場での鑑賞をオススメしますよ。ぜひに!
藤枝梅安と言えばな音、これは今回のシリーズのサントラからではなく、かつての代名詞とも言えるメロディーで、あなたを劇場へ誘うべくオンエアしました。

さ〜て、次回2023年5月9日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『不思議の国の数学者』。ざっとプロットを読む限り、結構突飛な設定のようですが、それだけにどうまとめるのか、お手並み拝見とわくわくしています。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!