京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『帰ってきた あぶない刑事』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 6月4日放送分
映画『帰ってきた あぶない刑事』短評のDJ'sカット版です。

定年退職して警察組織を離れ、ニュージーランドで探偵業を営んでいたタカとユージ。ふたりが8年ぶりに横浜へ戻ってきます。心機一転して開いた探偵事務所初となる来店者、若き女性彩夏の依頼は、生き別れた母親の夏子を捜してほしいというもの。夏子はかつて横浜のジャズクラブで歌っていたシンガーで、タカもユージも関わりがあったってことは… もしかして、依頼者彩夏どちらかの娘? そんな中、横浜ではカジノ計画絡みと噂される殺人事件が多発。タカ&ユージのバディは、夏子の行方と一連の事件が間接的につながっていると睨むのですが… 
 
ドラマの放映開始から38年。劇場版最新作から8年。日本の警察もの屈指の人気を誇るシリーズが、タイトル通り帰ってきました。監督は、社会派コメディーを得意として「あぶない刑事」シリーズも演出していた原隆仁(はら・たかひと)の息子、原廣利(ひろと)。脚本は、これまたこのシリーズに関わり続けている大川俊道(としみち)と岡芳郎(よしろう)。タカとユージは、もちろん、舘ひろし柴田恭兵浅野温子仲村トオルベンガルといったいつものキャストが揃った他、依頼人の彩夏を土屋太鳳が演じ、岸谷五朗吉瀬美智子早乙女太一が今作での重要な役どころを担います。
 
僕は先週金曜日の昼にTOHOシネマズ二条で鑑賞しました。結構、年齢層高めの客層でしたね。そして、お客さんは平日昼間ってことを考えると、入っているなという印象でした。さすが、公開週いきなりの観客動員数1位って感じですね。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

まず、僕の鑑賞前のスタンスについてお話をしておきますと、あぶない刑事については、1stシリーズはまだ小さかったし、親が見ていなかったのであまり記憶にありません。知ってはいたけれど、ぎりイメージがあるのは88年の第2シリーズ『もっとあぶない刑事』の方ですね。この80年代後半の怒涛のドラマ放送、計1年半と劇場版3本をもって、社会現象といっていいレベルのヒットを飛ばして、後に劇場版やTVスペシャルなどたくさん作られて今回が映画では8本目になるわけですが、あしかけ40年近くにわたって人気をキープし続けているというお化けシリーズなわけですね。

あぶない刑事 またまたあぶない刑事

その特徴としては、タカとユージ、つまりは舘ひろし柴田恭兵の身体をはったアクションやハードボイルドなカッコ良さに加えて、サングラスにスーツという真似したくなる都会的なファッション性、それから90年代半ばにかけて花開くトレンディ・ドラマ的な軽妙な演出なんかが挙げられると思います。直接的にはアメリカの刑事ドラマ『特捜刑事マイアミ・バイス』の影響が強いんだろうと思いますが、それまでの日本の刑事もののヒット作『西部警察』や『太陽にほえろ!』とは違った、スタイリッシュさがあったんですよね。奇しくも、今言った2作、『西部警察』は84年に放送終了、そして『太陽にほえろ!』は1986年11月に終わったそのバトンを受け取るようにして、あぶデカは86年10月に始まりました。だから、70年代からの刑事モノの印象を文字通り刷新してみせたんですよね。圧倒的に暑苦しくないんですよ。迫力はあるのに、なんか後腐れなくて、軽やかで、なんなら爽やかですらある。驚くべきことは、主演のふたりが70代に入った今もって、そんなシリーズの印象に大きな変化がないってことじゃないでしょうか。後腐れがないからか、大いなるマンネリズムでもあるのに、定番とバリエーションをうまく交錯させながら、今作でもしっかり観客を楽しませる娯楽を提供できていることに感動してしまうレベルです。と、ここまでが「あぶデカ」のざっくりまとめですが、タカ&ユージが文字通り、前作で定年を迎えて旅立ったニュージーランドから「帰ってきた」ことで始まる騒動・事件を描いた最新作ということになりますね。

(C)2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会
結論から言えば、あぶデカ最新作としては、かなり満足というのが僕の率直な思いです。ストーリーはね、ちょいちょいキャラクターの動機がわからなくなるところがあります。早乙女太一演じるベンチャー企業の社長海堂が、シリーズによく登場してきた犯罪組織銀星会会長の息子だっていうことなんですけど、父親をタカに狙撃された彼の個人的な怨恨と会社として実業家として企んでいることのビジョンがはっきりしないなとか、過去にも因縁があったとされるフェイロンという人物の考えていることも、彼が手を組んでいるというステラ・リーの思惑も曖昧な部分が残ります。でもねってことなんです。これはもう、ストーリーのすべてがタカ&ユージをかっこよく見せるために奉仕するように組み上げられたものになっていますので、とりあえずふたりが帰ってきたら横浜の埠頭に行くし、ニュージーランドで何があったか知らないが羽振りは良さげであっさり横浜の一等地にシャレた探偵事務所を構えるんです。だって、ふたりが資金繰りにあくせくしているところなんて見たくないですから。スタイリッシュじゃないんだもの。それから、依頼人がはるばる長崎からハーレーにまたがってやって来たのは、それはもうクライマックスのタカがユージの「ショータイムが始まるぜ」という合図の後に乗りこなしてショットガンをぶっ放すシーンが撮りたいからです。そういうものなんです。

(C)2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会
そもそも探偵が銃をぶっ放すってことについても説明というかひねりが必要だし面倒極まりないんですが、それでも脚本チームは何とかするんです。だって、そりゃお約束のシーンが見たいからですよ。考えてみれば、このシリーズって細かいディテールには結構こだわるし、アクションシーンは生身の肉体を使ってのパフォーマンスにこだわるんだけど、全体としてはざっくりしているものでして、そのあたりは今回も健在です。なんて言うと、なんかくさしているように聞こえるかもしれませんが、70代に入ったふたりがそれを今でも続けているだけに、ただのマンネリを完全に越えたありがたみのような領域に到達していて、ずっと追いかけてきたファンではない僕ですら快哉を叫ぶことになります。ベンガル仲村トオルなど、古き良き仲間たちそれぞれに歳を重ねて、タカ&ユージ同様に立場も変わっていて、ふたりも年を取ったことを笑いにつなげるやり取りはあるにはあるんだけど、それもこれも結局はふたりの年相応とは真逆の格好良さに回収されていくのが今作の新たな魅力と言わざるを得ません。画面づくりはスタイリッシュの更新をしているし、土屋太鳳というヒロインが参加することで若い世代からのツッコミが入るのも良いスパイスです。

(C)2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会
ただ、難点というかはっきりと今回まずかったと言うべきは、浅野温子演じる名物キャラ薫の登場シーンです。物語的にも謎を設けてもったいをつけて満を持して登場というくだりだったんですが、薫のこれまた定番となっている大胆な変装や扮装のギャグは正直スベってましたかね。あれは笑えないというか、ルッキズムの価値観はここ10年ぐらいの間に大きく変革しているのに、あそこだけノリが昭和のコントになってしまっているのは、浅野さんのアイデアだったようですが誰かが止めて別の案を提示するとか、せめて扮装していない薫のタカ&ユージばりにイカした場面も加えないと納得がいかないですよ。だって、浅野温子さんは現実にかっこいい年齢の重ね方をされているわけですから。
 
ここだけ釘を差しておきますが、あとはもう、僕は基本的にジャンル映画の人気シリーズとして、しっかり合格点以上を叩き出していると断定します。これだけヒットしていますので、欲を言うなら「またまた帰ってきちゃった あぶない刑事」的な続編に期待しています。あぶデカ、やっぱり良いよ!
あぶデカと言えば、音楽的にはジャズやR&Bもサントラを彩ってきた経緯を踏まえて、今回、その名もあぶデカJAZZと銘打たれたアルバムもリリースされています。その中には、今作の劇中、あのカプリアイランドっていうジャズクラブで伝説のシンガー夏子が歌ったこの曲も入っていますよ。劇伴を手掛け、そのシーンで映り込んでもいる阿部潤、Where Do You Go From Here feat. ロザリーナをオンエアしました。

さ〜て、次回2024年6月11日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『わたくしどもは。』です。新潟の佐渡を舞台に、記憶を失った男女の物語を演じるのは、小松菜奈松田龍平。ふたりとも僕の好きな俳優だけに期待してしまいます。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!