京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『バッドボーイズ RIDE OR DIE』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 7月2日放送分
映画『バッドボーイズ RIDE OR DIE』短評のDJ'sカット版です。
マイアミ市警の名コンビ「バッドボーイズ」ことマイクとマーカス。ふたりの上司だったハワード警部が生前、麻薬カルテルと深く関わっていたという汚職疑惑が報じられます。元ボスの無実を証明しようと独自に捜査を始めたふたりでしたが、今度は彼らが容疑者として警察と敵組織両方から追われる羽目に。ハワードが生前残した「警察の内部に黒幕がいる」という最後のメッセージを胸に命がけの戦いを繰り広げるマイクとマーカスは、無事に汚名を返上できるのか。副題のRIDE OR DIEっていうのは、一蓮托生みたいな意味みたいですね。

バッドボーイズ フォー・ライフ (字幕版)

公式サイトにも「待ってたぜ!ウィル・スミス」なんて出ていますが、ウィル・スミスが2年前にアカデミー関連行事の出禁をくらってからの本格的なスクリーン復帰作となります。監督はベルギー出身、まだ30代のコンビ、アディル&ビラルが、4年前の前作『バッドボーイズ フォー・ライフ』に続いて務めました。マイクとマーカスはもちろん、ウィル・スミスとマーティン・ローレンスが演じていますよ。
 
僕は先週木曜日の夕方、Tジョイ梅田のドルビーシネマで字幕版を鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

95年にスタートしたこのシリーズ。考えたら、最初はマイケル・ベイのデビュー作だったんですよね。以降12年ほど、『トランスフォーマー』をスピルバーグとのタッグで実現するまでは、プロデューサーのドン・シンプソンとジェリー・ブラッカイマーも含めたトリオで『ザ・ロック』とか『アルマゲドン』を手掛けていった出世作というか、マイケル・ベイからすれば苦労の多かった映画界デビューだったようです。シナリオもプロデューサーにずいぶんダメ出しされたらしいですよ。でも、それが、もう30年近く続いているのはすごいこと。主演のふたりマーティン・ローレンスとウィル・スミスも、この役をきっかけに俳優としての特にクールな側面の打ち出しができるようになった重要な作品です。そして、2もマイケル・ベイが監督して2003年に公開、から、だいぶ期間が空いて、2020年の3作目『バッドボーイズ フォー・ライフ』で、監督が若手のアディル&ビラルのコンビに交代となりました。どうやらウィル・スミスがまたバッド・ボーイズをやりたいんだとマイケル・ベイに話していたことがきっかけらしいですが、監督がなかなか決まらなかったりスケジュールが組めなかったりと、始まった頃に比べて忙しくなっているしシリーズへの期待値も格段に上がっているから難しかったまんま、気づけばウィル・スミスの発言から12年もかかって公開された。そしたら、受けも良かったし、批評家筋の評価も結構高い。じゃあ、今度はそんなに間を開けずにと思ったら、今度はウィル・スミスのあの事件があったことで、またちょっと遅くなったんですが、それでも何とか4作目、無事に公開されて、すごいことに全米オープニングNo.の観客動員となりました。また、若い人が結構観に行っていて、観客の世代交代もうまくいっているようですよ。それというのも、僕は監督コンビが優秀だからだと思います。これがでかい。

FRANK MASI/SONY PICTURES RELEASING/COURTESY EVERETT COLLECTION
このふたりは、当たり前ですが、若いこともあって、感覚がかなりフレッシュなんですよね。それは笑いを映像で補強するところによく現れているなと感じました。キラッキラのジェリービーンズの色彩感覚とか、マーカスが臨死体験で見るビーチの流木に留まるオウムとか、それぞれ振り切っていて楽しいし、スローモーションの入れ方や編集で笑いを増幅させる手法がひとつひとつ的確なので、主演2人の話術に頼るだけに陥っていないどころか、喋りへの掛け算となる映像を用意できています。なおかつ、マークの息子が収監されている刑務所内での喧嘩や軍用ヘリの中での文字通り決死のド派手なアクション。ワニを巡る、きわきわのセリフ込みの一連の展開と、FPSゲーム、つまり1人称視点シューティングゲームさながらの銃撃戦の実験的な見せ方など、シリーズへの新しい要素も持ち込んでいて、笑いもアクションも得意なアディル&ビラルは今後、ますます大化けする可能性のある監督だなと感じています。きわきわのセリフ、ジョークという意味では、今回はウィル・スミスの例のビンタ事件を明らかに彷彿とさせるシーンも用意されていて、それはやっちゃダメだろなんて向きもあるようですが、いやいやいや、「ちょっと待って」と僕は言いたい。これ、バッド・ボーイズだよ。他のシリーズならいざ知らず… バッド・ボーイズなんだから、そんなに品行方正なわけないというか、品行方正じゃ面白くないって話でしょうよ。Tシャツを使った人種差別をめぐるギャグも出てきます。いずれも、クレイジーにしてバッド。なおかつ、品は基本的にありません。RIDE OR DIE。上品 OR 下品となれば、ずっと下品です。なぜって? それはバッド・ボーイズだから。そういうシリーズだからってことですよ。「あぶデカ」と比較されることもあるし、今回は両者が予告でコラボもしていたぐらいですが、要するに「あぶない」し「バッド」なので、真面目なことばかりやってもらっちゃダメなんです。

FRANK MASI/SONY PICTURES RELEASING/COURTESY EVERETT COLLECTION
ただし、その真面目か否か、笑いがありかなしかっていう価値観は時代によって変わるもの。4本目となる今作では、そのあたりをシリーズとして自己批判する、かつての価値を検証するモードになっているのが興味深いです。たとえば、マーティン・ローレンス演じるマーカスはジャンクフードばかり食べていて現在はその食欲を抑えるのに必死であるとか、かつてのマッチョで暴力的なあり方に歯止めをかけようとしている様子がうかがえるんですよね。それが物語展開に大きな影響を与えています。ウィル・スミス演じるマイクの方は、ボケとツッコミで言えばツッコミ側なんですが、彼は彼でなんでもかんでもエイヤッと最後は暴力で解決していた過去を抱え込んでいる節があって、怒りや不満をコントロールする方向へとある程度舵を切っています。そして、極めつけはラストのBBQをめぐる描写。アメリカでバーベキューなんて言ったら、肉を焼くのは男の仕事だという世代のふたり、完全に肉奉行なふたりですが、会話のキャッチボールをするうちに、うまく肉奉行を下りていくのは象徴的でしょう。こんな風に、漫才、アクション、コント、バイオレンスみたいなベーシックなシリーズの流れはそのままに、要所要所で時代に合わせたネジの締め直しや新調が行われているのがヒットの要因でしょう。こりゃ、面白い。たいしてややこしいストーリーでもないし、前作を観ておいた方が良いっちゃ良いですが、ぶっちゃけこれで初めてでもしっかりついていけます。今や珍しくなってきたハリウッドのこうしたシリーズ。僕はあと1本2本観たいですよ。ぜひあなたも劇場で、なんなら特に音の良い環境でご覧ください。
 
余談ですが、DJ Khaledと、マイケル・ベイカメオ出演していますので、探す楽しみもあり。前作でも曲を書いていたBlack Eyed Peasが今回も。El AlfaとのコラボでサントラからTONIGHTをオンエアしました。

さ〜て、次回2024年7月9日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『WALK UP』です。今週はアメリカ、日本、タイ、インド、そして韓国と、バラエティ豊かなラインナップの中から、ホン・サンス監督が当たりました。アパートを舞台にしたモノクロームの映像で紡ぐ芸術家たちの人間模様とありますが、これは期待できそう。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!