京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『アングリー・バード』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年10月7日放送分
『アングリー・バード』短評のDJ's カット版です。

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外敵もおらず、飛べない鳥たちが平和に暮らすバードアイランド。怒りん坊のレッドは鳥だけど一匹狼。ある日、表向きは友好的な豚のピッグ軍団がやって来て、まんまと島から鳥たちの宝物である卵を奪い去ってしまう。ピッグ軍団の悪巧みに腹を立てたレッドは、せっかちなチャックやびっくりすると爆発するボムら出来そこないたちと共に、ピッグ軍団から卵を取り返そうと奮闘する。

怪盗グルーの月泥棒 [DVD] ミニオンズ [DVD]

怪盗グルーやミニオンなどを手がけるジョン・コーエンが製作。僕も観た吹替版では、坂上忍がレッドの声を担当している。
 
この番組の映画短評でゲーム原作ものを扱うのは初めてじゃないでしょうか。ディズニーでもピクサーでもなく、ジブリ配給でもなく、アメコミでもない。怪盗グルーやミニオンズの流れとはいえ、「こいつらは何なんだ」と思った人もいるでしょう。日本での観客動員は初週10位というのも仕方のない、伏兵感が否めないですよね。ただ、2009年にフィンランドで開発された、このiPhone向けゲームアプリは、全世界で30億ダウンロードを記録という大ヒット。ポケモンGOでも、まだ10億届かないんじゃなかったっけ。それを考えれば、映画化しない手はないというのもうなずけるところ。プロデューサーのコーエンは、鳥なのに飛べないこと、それぞれにある個性的な能力、敵との戦いにパチンコを使うこと。この3点以外、特に制約がないから、自由に製作することができたと語っています。
 
以上の前提を理解いただいたところで、3分間の怒りの短評、行ってみよう(いや、怒ってねーし!)
 
☆☆☆
 
僕の評価を先に言いましょう。メッセージも真っ当だし、「怪盗グルー」譲りで大人向けのギャグも冴えてるし、物語のテンポも悪くない。でも、淡白、でした。
 
メッセージは、こういうことです。社会的に欠点とされていることも、その人の長所となる可能性がある。怒りっぽいレッドも、そのフラストレーションを勇気に変えてコントロールすれば、みんなのヒーローになれると。怒りっぽいだけでなくて理屈っぽくもあって、頭の回転が速いので、豚と戦う際、それまで個人的な憂さ晴らしでしかなかった怒りと悪知恵を、共同体としてのリベンジに活かし、『アルマゲドン』的な自己犠牲に転化することができたわけです。他のキャラも同様でした。ただ、あのボムは一体何なの? 怒り爆発を文字通り体現してるんだろうけど、クライマックスあたりで、「自分で自分を爆発させることができるかどうか」って、それはコントロールしてることになるのか、納得しづらいものがありました。ともかく、メッセージは一応いい。
 
物語のテンポも良かったですね。バードアイランドを、鳥瞰、つまり鳥視点で見せるファーストカットなんていいですよ。飛べない鳥たちの島を鳥瞰する。そこから、レッドたちがどんな暮らしをしているのか、どんな多様な鳥たちがどのように暮らしているのか。セリフに頼りすぎず、映像と行動でちゃっちゃか見せられていました。要するに『ズートピア』的なことですよ。

ズートピア (吹替版) シャイニング (字幕版)

そこに「怪盗グルー」っぽい、毒のきいた笑いがまぶされてる。フリーハグをからかってみたり、伝説のヒーロー「マイティー・イーグル」のおじさん化とダメさ加減をおちょくったり、子どもに分かるわけがないキューブリックのホラーの名作『シャイニング』ネタを入れたり。
 
あと、音楽ネタも豊富。豚達の中にダフト・パンクが混じってました。マイティー・イーグルの部屋にはイーグルスの『ホテル・カリフォルニア』が飾ってあったり。サントラも、ブラック・サバススコーピオンズ、リンプ・ビズキットといったロックから、チャーリーXCX、スティーヴ・アオキ、イマジン・ドラゴンズといった、ナウヒットまで。そして、リック・アストリー、デミ・ロヴァートといったディスコ・ミュージックですね。ディスコは、古臭いものとして笑いの対象になってましたけど、“I Will Survive”の使い方は笑えるだけでなく、何かハッピーでしたね。

こんな感じで、一事が万事、小さな笑いをきっちり積み上げていて、メッセージもちゃんとしてるんですが、全体として、やっぱり淡白な印象なんです。傑作『ズートピア』と比較するのは酷だけれど、キャラクターの多様性と擬人化、社会の縮図としてのコミュニティ構築がどれも及第点止まりだし、物語の展開も、特にクライマックスがいかにもゲームっぽくて、こちらが操作してるなら生まれるだろうカタルシスも、なんかあれよあれよという間にクリアできちゃったって感じで、今ひとつなうえに、植民地支配を彷彿とさせる豚たちが単なる悪者になってしまってることで、深み・奥行きも足りないんです。
 
テンポと笑い、キャラ造形を優先させるあまり、ストーリーそのものを練りきれていない印象です。とはいえ、何度も言ってるように、クオリティが低いわけではなく、大人も子どもも楽しめて、教育的にも悪くないので、家族で観るのにオススメです。僕は『ミニオンズ』よりよっぽど好きでした。
 
☆☆☆
 
Home Sweet HomeがHome “Tweet” Homeと文字ってあるダジャレは、鳥だけにツイート(さえずり)ってこともあって、笑いました。

さ〜て、次回、10月14日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka 「映画の女神ミホさんから授かったお告げ」は、『ジェイソン・ボーン』です。ボーンシリーズがボーンして、早くも14年。これで5作目。シリーズの振り返りもするべきか、いや、ボーン並みに「覚えてない」としてあっさり流すべきか、いずれにしても手強いぜ。鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!