京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『エクストリーム・ジョブ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 5月5日放送分
映画『エクストリーム・ジョブ』短評のDJ'sカット版です。

f:id:djmasao:20200504162320j:plain

日夜身体を張って走り回っているわりには、どうにも成果が出せず、解散の危機に瀕しているのが、コ班長率いる警察の麻薬捜査班。国際犯罪組織による国内麻薬密輸入情報を掴んだ班長は、起死回生だとばかりに、チャン刑事、マ刑事、ヨンホ、ジェフンという個性豊かなメンバー4人と潜伏捜査を開始。24時間の監視徹底をするため、犯罪組織のアジト前にあり、組織の連中もよく注文していたフライドチキン店を買い取った麻薬捜査班だったが、調理にあたったマ刑事の思わぬ腕前で、捜査もままならないほど店が繁盛してしまう。肝心の捜査の行方は? 韓国のアクション・コメディです。

サニー 永遠の仲間たち(字幕版)

日本でリメイクされた『サニー 永遠の仲間たち』の脚色を担当したイ・ビョンホン監督がメガホンを取った今作。キャストには、韓国を代表する俳優たちが揃いました。『7番房の奇跡』など大ヒット作に数々出演してきたリュ・スンリョン、ノーメイクでスクリーンに登場したスターのイ・ハニに加え、犯罪組織のボスを演じたシン・ハギュンなどが拝めます。
 
韓国では2019年1月に公開され、観客動員数はなんと1500万人。興行収入は『アバター』を抜いて歴代1位を記録しました。北米でもヒットしまして、ハリウッド・リメイクも決まる中、日本では今年1月3日に公開されました。
 
まだ公開から間がない中で、現在期間限定先行配信中。各プラットフォームで1200円という均一価格で配信される中、僕は先週土曜日、U-nextで鑑賞いたしました。それでは、今週の映画短評いってみよう!
作品ホームページには、「揚げる大捜査線」なんて、どっかで聞いたパロディーのキャッチコピーが踊っていますが、なんならそのパロディー元の本家以上に血湧き肉躍る、笑いまくりの、観客が「アガる大捜査線」でもあります。潜入捜査もの、そしてスラップスティックなコメディー、両方のジャンルを多少強引にでもオイルポットに放り込み、チキンと、違う、きちんと独自の味付けを施していて、もう唸ってしまいました。
 
監督のイ・ビョンホンはさすがは『サニー』を脚色しただけあって、人数の多いキャラクターの色分けがお上手。麻薬捜査班だけでも5人いて、あのチキン屋の親父、犯罪組織のボス、子分たち、チキン屋の近所のおばさん、さらには班長の家族と、誰一人混同したり忘れられないように気を配って演出してあります。その意味で、今回当たったのが韓国映画で見慣れていないとか、俳優を誰も知らないし、どうかなぁなんて人は、もったいなさすぎます。ポチッとなと再生すれば、もう2時間ノンストップで楽しみ放題なんですから。

f:id:djmasao:20200504162415j:plain

だいたい、本分を忘れて何かに夢中になるって面白いじゃないですか。僕もよくあったなぁ。学生の頃はバイトに精を出しすぎて勉強しなくなったもんだとか、最近多いメッセージだと、自粛生活で自宅を断舎離し始めたのはいいけれど、出てきた漫画を読みふけってしまい、気がついたら始める前より部屋が散らかってるみたいな。この映画の主人公達の場合は、そもそもうだつのあがらないチームなんですよ。手柄が一向にあがらない。そのダメっぷりと、ケセラセラでは済まないレベルのやらかしを、冒頭のつかみでテキパキまとめてられています。その前提があるので、彼らがデカいヤマを当てたいばかりに、ギャングたちのアジト近くのチキン屋を買い取ってしまうというバカげた行動も、何となく飲み込めてしまうんですね。そんでもって、まさかの店の大繁盛っぷりと、捜査の進まなさっぷりがもう逐一面白い。しかも、身分を隠すために家族経営だなんて嘘をついたもんだから、その後に繰り出さざるをえなくなる嘘の上塗りも笑えちゃって、もう観客は忙しいこと。そんなこんなであっという間に一時間。ポイントは、映画自体も、物語を進めるという本分を忘れていること。そこ一致させるんだっていうアイデアがすごい。そして、そっからの後半の巻き返したるや! ほら、気がついたら脇道にそれてしまっていた時って、みんな慌てて取り戻そうとするでしょ? あの感じが後半です。

f:id:djmasao:20200504162538j:plain

(c)2019 CJ ENM CORPORATION, HAEGRIMM PICTURES. CO., Ltd ALL RIGHTS RESERVED

彼らはミッションを達成できるのか。まさかのチキン屋全国拡大に恋の鞘当てにお決まりの港での逃げる逃走、戦う闘争まで盛り込みます。こうした脚本の妙に加え、イ・ビョンホン監督は要所要所でCMっぽいシズル感のあるキメの構図や、インチキ・マカロニ・ウェスタン、あるいはジョン・ウー的なスローを挟むんだけど、すっかり見慣れた麻薬班の面々を改めてクライマックスでひとりひとり紹介する時を思い出していただきたい。最後の最後で明らかになる、彼らのさらなるぶっ飛び能力の数々と、それまでの不甲斐なさがあったから生まれるギャップの笑い。かっこいい絵なのに爆笑してしまう。そして、最後の一騎打ちは、『紅の豚』のラストばりの、情けなさ(笑)

 
こういう話って、普通は職業の矜持を見せつけて、やっぱり彼らはこうでなくっちゃって思わせてまとめるんですけど、この映画のすごいところは、行き詰まったら別の仕事もあるって提示しちゃうところでした。しかも、それを庶民の貴重なタンパク源鶏肉でやってのけるという。そして、余韻はカラッと爽やか。イ・ビョンホン監督、そして演技の超達者な皆さんの仕事こそがエクストリーム・ジョブでした!!!
 
曲は、トーキング・ヘッズのヒット『Psycho Killer』を下敷きにしたパロディーとして、こちらをオンエアしました(笑) パロディーにはパロディー、笑いには笑い、鶏には鶏での対応でございました。それにしても、なんちゅう曲や! となっていただけたとしたら、結構結構、コケコッコー!

さ〜て、次回、2020年5月12日(火)も「お家でCIAO CINEMA」です。スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『シャザム!』でした。また笑える感じになるのかしら。見た目は大人、中身は子どもの異色のヒーローもの。配信で楽しんでみます。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!