アルプスを臨むモミの木の町に、白壁の城がたたずんでいます。そこにはかつて、美食家の一族が暮らしていました…。
フィレンツェでルネサンスが花ひらく14世紀のこと。ボヘミア王が馬を駆って城にむかっているという知らせを受け、城の一室では、王にささげる豪華なお菓子が用意されました。小麦粉にアラブ文化の贈り物の砂糖と塩がひとつまみ、ふわふわに泡立てた卵黄とメレンゲを混ぜ合わせて焼き上げるお菓子。どんな姿かたちをしていたのかはわかりませんが、後に同じような製法でビスケットが作られるようになりました。城に住んでいた一族の名はサヴォイア(Savoia)。サヴォイアのビスケットという意味で、ビスコッティ・サヴォイアルディ(Biscotti Savoiardi)と呼ばれています。
≪貴婦人の指≫サヴォイアルディ シチリアの丸いサヴォイアルディ
サヴォイアルディはサヴォイアの国とともに、アルプスのふもとからサルデーニャ島を通り抜け、果てはシチリア島にまで広がりました。今やイタリア全土でお目にかかれるサヴォイアルディですが、これらの島には[フィンガービスケット》と聞いて想像するような白くて細長いビスケットではなく、黄色っぽいものや、平らで大きいもの(写真右上)の製法も伝わっています。そして、サヴォイアルディの旅は今も続いています。シャルロット(Charlotte)、ズッパ・イングレーゼ(Zuppa inglese)、ティラミス(Tiramisù)、様々に姿形を変えて空腹を抱えた私たちの前に運ばれてくる《貴婦人の指》の誘惑に、ファンタジーはとどまるところを知りません。
シャルロット ズッパ・イングレーゼ ティラミス
(上から順に、シャルロット、ズッパ・イングレーゼ、ティラミス)
サヴォイアの名は、昔々のことばのSAPPUS、「モミの木」からきているそうです。
うだるような暑さの週末、ジェラートに添えてサヴォイアルディで3時を迎えてみてはいかがですか。モミの木の森で雪をかく音が、涼しい風を運んできてくれるかもしれません。ほら、さくっ、さくって…。
(『緑の伯爵』と呼ばれていたアメデオ6世の頃、ビスコッティ・サヴォイアルディが誕生したと言われています)