FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 11月26日放送分
映画『レッド・ワン』短評のDJ'sカット版です。
世界中の子どもたちにプレゼントを届けるサンタクロースが、なんとクリスマス直前に拉致されてしまいます。サンタの護衛隊長であるカラムは、世界トップレベルの追跡者トラッカー、要するにハッカーとして暮らしているジャックの力を借りて、サンタクロース=レッド・ワンの救出に奔走します。このままでは、クリスマスが中止になってしまう可能性がある。みんなで、SAVE THE Xmas!
監督は『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』のジェイク・カスダンで、脚本は「ワイルド・スピード」シリーズを数多く手がけてきたクリス・モーガンが務めました。サンタの護衛隊長カラムに扮したのは、ジュマンジ続編もワイスピにも出ているドウェイン・ジョンソンで、彼は共同制作にも名を連ねています。そして、凸凹コンビを組むことになるジャックを演じるのは、「キャプテン・アメリカ」シリーズのクリス・エヴァンスです。気になるサンタクロースは、J・K・シモンズが担当していますよ。
僕は先週木曜日の昼、MOVIX京都で鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。
映画館を出てすぐに抱いた感想としては、出来不出来の細かいところよりもまず、なんか懐かしいクリスマス映画を観たなというものです。クリスマス映画って、実際にクリスマスを物語の舞台や背景にしたものも多いんですけど、ラブロマンスやアクションやホラーではなく、クリスマスの意義を再確認するようなファミリー向けの内容であることが大事なジャンルです。欧米では日本と違って誰よりも家族と過ごすことが優先されるのがクリスマスなわけで、そんな時期に家族で映画館へ行くなら、R指定がつくようなものではなく、みんなでにっこり笑顔になったり、あたたかい気持ちになるものが良いということになるわけです。なおかつ、クリスマスは家族で過ごしたり、誰かのために何かをするような行動って大切だよねという価値観や道徳的な教訓が盛り込まれることも多かったというか、理想とされたというか。古くは『クリスマス・キャロル』や、今もアメリカで傑作とされる『素晴らしき哉、人生!』があって、90年代には『ホーム・アローン』や『ジュマンジ』もありました。でも、最近はあまり見かけない感じがしますよね。その要因を今ここで分析する時間はないんですが、ともかく90年代までたくさんあったようなクリスマス映画が帰ってきた印象を受けました。しかも、サンタクロースが主要キャラクターで出てくるなんて、ダイレクトにクリスマスですからね。考えたら、ジェイク・カスダン監督はジュマンジの続編で当てた人なわけで、こういうものを手がけるのは望むところだろうし、ゲラゲラ笑えてホロリと来るような作品として『ホーム・アローン』や『ジュマンジ』みたいなラインを想定していたかもしれません。
前置きが長くなりましたが、今作の物語的面白さを支える発想は、サンタの誘拐というよりも、サンタクロースが世界中の子どもたちに一夜にしてプレゼントを配るのを映像化するとしたら…ってことです。脚本の肉付けのベースというか、核はそこなんです。世界中を回るんだから、サンタは各国の空を自由に飛び回れないといけない。当然、首脳陣とは通じていて協力関係にあるだろう。トナカイは音速レベルで飛ぶんだろうし、プレゼントもラッピングしたり仕分けしたりってことはチームでやらないといけないからサンタを支える組織があるはずだ。サンタは超人的な体力が必要だろうし、そのためにはああ見えてトレーニングは欠かさないだろう。そんなサンタを警護するスタッフもいるに違いない。はい、これらの要素はすべて映画に実際に入っています。J・K・シモンズ演じるサンタは、こうした設定に合わせて、ムキムキボディを披露しています。面白い。その横で、人間とは思えない、まさに超人的なドウェイン・ジョンソンが警護しているのも、絵面として既に面白い。タイトルのレッド・ワンというのは、この映画の中でのサンタの実情を知る国際機関や各国政府要人たちが使うコードネームでして、製作会議でわいわい話して膨らませていく中で出てきたアイデアのひとつっぽくて楽しいあたりです。こうした「もしもサンタが」設定のベースにあるのは、サンタなんているわけないでしょというクールで合理的な物言いなんですね。全部配れるわけないだろっていうツッコミが入るんなら、配っているところをお見せしましょうというような。だったら、そういう登場人物を配置しようと出てきているのが、クリス・エヴァンス演じるジャックですよ。彼は子どもの頃からクリスマスなんて欺瞞的だねという男ですよ。こうして、「サンタ? は? いるわけないっしょ」なジャックと、サンタの警護隊長であるカラムという、まさに凸凹なコンビが誕生するわけです。クリス・エヴァンスは身のこなしもリアクションの取り方も本当に芸達者で、それは冒頭の「ジャックはこんなろくでもない奴です」説明シーンで十二分に味わえます。ジェイク・カスダンのセリフに頼らない流れるようなカメラワークと融合して、お見事と言わざるを得ません。
なんて喋っていると、さぞかし新たなクリスマス映画の傑作したんだろうと思われるかもしれませんが、残念ながらそうではないんですよね。ここまで僕が語った映画の設定に的を絞っていけば良かったと思うんですが、肝心の「もしもサンタが本当に」の部分でCGを使いすぎたり、ギミック要素を入れすぎて活かしきれていなかったり、結局ファンタジックな展開を用意しすぎたせいで、「リアル」に見せる映画全体の焦点がぼやけてしまっているのが実にもったいないです。よく「うちには煙突がないのに、サンタはどうやって入ってくるの?」と子どもに聞かれて困るみたいなエピソードってあるじゃないですか。そういう問いにもこの映画、実際に答えを見せています。実際って言ったって、実際じゃないんだけど、「なるほど、そう来たか」みたいなネタになってるんです。そういう小ネタとかあるあるネタを釣瓶打ちする軽いコメディを狙えば良かったはずなのに、気づけばCG満載のいわゆる大作っぽい画面構成へと軌道が逸れているのが僕は設定を気に入っているだけに忸怩たる思いです。僕がそう思っても仕方ないんですけどね。
もちろん、2大スターの共演で最後まで一応は飽きさせないように作ってはあります。観終わって悪い気分には決してならないでしょう。だって、クリスマス映画だから。でも、こうも思うわけです。かつて量産されたクリスマス映画は、もちろん傑作揃いなんてことはなかったわけだよな、と。なんて厳しめの結論ですが、僕はそれだけ「もっと行けたはずだ」と思っているからでございます。
映画の中ではクリスマス・ソングもいろいろと流れてきますよ。番組では、今年初めてのマライアのこの曲をオンエアしました。