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京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『サバイバルファミリー』短評

ラジオ 映画 野村雅夫(ポンデ雅夫)
FM802 Ciao! MUSICA 2017年2月17日放送分
『サバイバルファミリー』短評のDJ's カット版です。

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矢口史靖監督最新作。現在49歳。8mmフィルムで映画を撮り始めた、ほとんど最後の世代じゃないでしょうか。代表作は『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』『ハッピーフライト』、そして近年の傑作『WOOD JOB! 〜神去なあなあ日常〜』。少なくとも長編映画ではすべて自分で脚本も手がける、作家性の強い監督と言えます。
 
今回は映画のコピーがしっかりテーマを言い当てているので引用すると、「すべてがOFFになると人間がONになる」。大まかには、そんな話です。原因不明の大停電に見舞われた世界。乾電池まで含め、とにかくすべての電化製品が使えない。東京に暮らすごくごく普通の4人家族鈴木家も、見る間に暮らしに支障をきたしてしまい、妻の実家である鹿児島を目指して自転車での移動を開始。東京を脱出したものの、果たして4人はサバイブできるのか。
 
お父さんを小日向文世、お母さんを深津絵里が演じる他、時任三郎柄本明大地康雄など、個性派の俳優たちがいい味を要所で出しています。
 
それでは、ラジオ業界をなんとかサバイブしてもうすぐ9年の野村雅夫が、今週も3分間で短評です。レッツゴー。

矢口史靖監督のヒット作は、いずれも特殊だったり専門的だったりして、僕らの身近にはありながらも詳しくはわからない世界を覗かせてくれます。独自のセンスで映画ならではの笑いどころを用意しながら、時に情熱的に時にクールに、その特殊かつ専門的な世界が愛おしくなるように展開させる。そんな距離は近いのに心理的には遠かった未知の世界を通して、観客たちの日常や常識を風刺したり批評したりもしてきました。だのに、辛気臭くも説教臭くもなくて、れっきとしたエンターテインメントになってる。結果として、伊丹十三的とも言える独自の作家性を持つ現代日本映画界最重要監督のひとりだと言って差し支えないと僕は思います。

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そんな監督が選んだモチーフ、今回は電気。どうしたって2011年東日本大震災を思い起こしてしまう設定ですが、実は構想し始めたのは2002年で、その翌年に起きた北アメリカ大停電に直接的なヒントを得つつ、脚本を練り上げていったようです。電気が使えなくなる理由がわからないのが僕はいいなと思っているんですが、できあがった映画は、ディザスタームービーの要素を含んだSFコメディーといったテイストになりました。矢口監督作には欠かせない、平凡の象徴としての鈴木さんたちが特殊な状況下に置かれるという意味では、やっぱり矢口史靖っぽいんだけど、なにしろ大規模な災害が題材なので、考慮に入れないといけない範囲がムチャムチャ広いというのはこれまでにない特徴かもしれません。そのあたりが、この作品のウィークポイントになってしまってもいます。
 
具体的に触れていきましょう。まず鈴木家の中です。4人のキャラクター描写が、まあお上手なこと。大黒柱を気取ってるけど、その実たいして何もできない父親。一応の家庭の切り盛りはできるものの、ヘラヘラふわふわ右往左往している母親。デジタルオタクでミニマリスト、ヘッドホンで自分の殻に閉じこもっている大学生の兄。スマホとつけまつげ命で狭い人間関係の中を何とか渡り歩いている女子高校生の妹。ちょっとキャラを際立たせ過ぎかなと思わないでもないけれど、後々のそれぞれと関係性の変化が見どころになることを考えると、これぐらいはやっておかないといけないという判断でしょう。冒頭の食事のシーンが素晴らしい。全員が食卓につくことなんて絶対になくて、みんなバラバラ。仲が悪いとか険悪なムードが立ち込めてるわけじゃないんだけど、それだけに余計にたちが悪い家族間のぎこちないコミュニケーションっていうかな。ぼんやりした絶望のようなものをよく捉えていると思います。演技面の演出での過剰さとか、いかにも過ぎるセリフのやり取りが鼻につくところもなくはないけど、矢口監督は現実そのままよりも、イメージをそのまま見せてリアリティを感じさせる人だと思うので、そこは僕はむしろ容認するというか面白がるタイプの観客です。
 
ともかく、鈴木家それぞれの性格と関係が停電によってどう変化するかってことなんですけど、日々のルーティンの中で摩耗していた家族の絆が回復してより強固なものになるという王道の展開は、まあ、そりゃあるとして、そのひとつひとつのプロセス、一癖も二癖もある人々との交錯が面白い。
 
さらには、その水飲めるんだ。そっちは飲めないんだ。そこは通れなくなるんだ。意外な施設に人が集まるんだ。などなど、矢口印の徹底リサーチに基づいた小ネタの数々が奮ってます。最初こそね、僕もちょいバカにして笑ってたフシがあるんですよ。たとえば、電車も止まってるっていうのに、鹿児島へ飛行機で行くなんていう父親の計画に家族の誰も反対しないところなんて、「この状況で空港が使えるわけないだろ」って上からツッコんでしまう。ところがですよ、だんだん、だんだん、この状況なら僕はどうする私はどうすると想像するにつけ、答えがそう簡単には思い浮かばなくて、鈴木家のことを笑ってばかりはいられなくなってくる。その意味で災害シミュレーションとしてもよくできてる。
 
映像面では、こんな設定なのにCGは全然使わずにロケで押し切ってるところは評価できますよ。実際に高速道路であんな大規模な撮影ができたのも、絵としての説得力を持たせた大きな要因になっています。そもそも、脚本の展開がしっかり練られているので、余計な回想も必要ないし、ましてやおせっかいな説明ゼリフもほぼない。サントラに頼った演出もまるでない。さすがのクオリティです。
 
がしかし、弱点も指摘しておきます。大災害が起きても、あくまで鈴木家にフォーカスをするのは、予算的にも、そして監督の作家性の面でもわかるんだけど、災害のスケール感が伝わったかというと、それは希薄なんです。もっと凄惨でもっと過酷なことになってるはずなのに、なんかのほほんとしてる部分が前に出ちゃうから、いくらメイクで体を張ってキツい状態を演技されても、どこか余計な滑稽さが出ちゃうのは少し残念でした。あくまで鈴木家を通してでいいから、日本社会のそれこそ弱点をもっと痛烈に浮き彫りにする局面がほしかったかな。
 
とはいえ、僕らがどれほど電気に依存しているのか。自分で生きるというより、文明の利器に生かされているのか、そのありがたみと表裏一体の怖さはしっかり描けていたので、観る僕らはのほほんとしてていいから、『サバイバルファミリー』はとにかく観てほしい。強くオススメします。


番組ではもちろんフルでかけたこの主題歌”Hard Times Come Again No More”。僕の好きな歌い手であるShantiの歌声が沁みるんだこれが。

 

さ〜て、次回、2月24日(金)109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様から授かったお告げ」は、『ナイスガイズ!』です。ゴズリング祭り! あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!