京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

iPadとさるぐつわの法律

 iPadが世界9カ国で同時発売され、日本でも長蛇の列ができたそうですが、ここイタリアでもその人気はすごくて、すでに10万台の予約が入っているのだとか。大手新聞社、レプッブリカ紙(la Repubblica)、コッリエーレ・デッラ・セーラ紙(Corriere della Sera)も、国内でのiPad発売に合わせて、電子版の刊行を開始するなど、新しいメディアの時代が到来するのだと感じてしまう今日この頃です。
 情報伝達がより多様化するそんなご時世に、奇しくもイタリアで論争を巻き起こしているのが、ラ・レッジェ・バヴァーリオ(La Legge Bavaglio)です。La Leggeが「法律」で、Bavaglioは「さるぐつわ」という意味。イタリアでは、政界とマフィアの癒着やテロリズムを防止・告発する目的でメディアが電話を盗聴することもよくある。この法案には、そういう盗聴で得られた情報の公表を禁止する内容が盛り込まれており、メディア側は自由な表現がこの法律によって規制されてしまうと反発しています(いくら抑止効果が見込めるとはいえ、盗聴が法律上認めらているというのは、日本では驚きをもって受け入れられるかも…)。
 しかし、実際、メディアの盗聴によって、G8、世界水泳、その他さまざまな公共事業で、民間防衛(Protezione Civile)が大幅な架空請負をしていたという事件が明るみになったわけです。逆にいうと、この大事件のすぐ後に、盗聴を制限する法律を通そうとするあからさまさがベルルスコーニらしい。彼は要するに民主主義国家という枠の中で、いかに独裁体制を敷くかということに腐心しているのだとつくづく思います。
 例えば、民間防衛の最大手、グイード・ベルトラーゾ(Guido Bertolaso)の電話盗聴内容が挿入された『ドラクイラ』(Draquila)なんて過激なドキュメンタリー映画はもう存在しなくなるわけです(この映画について詳しくは、僕の個人ブログ2010年5月17日の記事をお読みください)。

 ちなみに、「表現の自由が許されている国ランキング」では、北朝鮮を末席に、イタリアは40位くらいで、日本は20位くらいでした。「イタリアより日本のほうが自由な表現ができるの?」と軽く驚きましたが、この手のランキングはそんなに信用できるものでもありませんね。ともかく、エスプレッソ誌(L’Espresso)のインタビューで『死都ゴモラ―世界の裏側を支配する暗黒帝国 』(Gomorra、大久保昭男河出書房新社、2008年)の著者ロベルト・サヴィアーノ(Roberto Saviano)も指摘していたとおり、電子メディアが表現規制に対抗する手段となるのでしょう。iPadに始まる新メディア時代が、いい意味でイタリアの表現の自由を守ってくれることを期待したいです。