京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

スターチャンネルで配信中!『醜い奴、汚い奴、悪い奴』作品解説

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僕・野村雅夫が選ぶ、イタリア映画の巨匠たちによる、知られざる名作シリーズ。

『愛と殺意』『狂った夜』『三人の兄弟』『ゴールデン・ハンター』『醜い奴、汚い奴、悪い奴』の5作品から、今回ご紹介するのはこちら。

醜い奴、汚い奴、悪い奴

『醜い奴、汚い奴、悪い奴』(原題:Brutti, Sporchi e Cattivi)

原題はわりと直訳で、『Brutti, Sporchi e Cattivi』。このタイトルは、明らかにセルジョ・レオーネ監督『続・夕陽のガンマン』(Il buono, il brutto, il cattivo、1966年)を意識したものだと思います。レオーネの方は「いい奴・醜い奴・悪い奴」。それぞれ該当するキャラクター3人が登場するウェスタンなのに対して、本作のタイトルはどれも複数形なんです。つまり、出てくるみんなまとめて醜くて、汚くて、悪い、と。

続・夕陽のガンマン

筆頭がニーノ・マンフレディ演じる大家族の父親です。太った妻と10人の子供たち、さらには義理の息子や娘といった親戚や車椅子のおばあちゃん。総勢20名程度の大所帯が狭くるしい一つバラックに暮らしているのですが、とにかくこの父親が異彩を放っている。仕事で片目を失ったことで得た補償金を隠し持っていて、誰かが自分の金を盗むんじゃないかと疑うあまり、家族だろうと撃ち殺す気満々でいつもライフルを抱いて眠るのです。そして、本能の赴くまま生きる彼が、ある日太っちょ売春婦に惚れ込み、自宅に連れ帰ったことから混乱は加速。大家族はあらぬ方向へ漂流し始めます。

混乱が加速

パゾリーニが同じくローマの下層社会を60年代前半に描いた『アッカトーネ』『マンマ・ローマ』『リコッタ』ってのがありましたが、それから10数年。今度はスコーラ監督が扱ったものです。正直、パゾリーニが描いていた高度成長から取り残された人たちよりも、さらにキツい感じがあります。でも、改めて観ていて、なんだろうこの感じはと思った時に、大胆なたとえをしますが、「もはやプロレタリア文学」と評されるマンガ『じゃりン子チエ』の世界に通じるものもあるかな、なんて。とすると、ニーノ・マンフレディ演じる最悪の父親はテツということになるわけですが、どうでしょうか?

じゃりン子チエ

興味深いのは、舞台設定です。彼らが住むバラックが建つのは、ヴァチカンにほど近い小高い丘。サン・ピエトロ大聖堂のクーポラが遠景に見えて、中景には画一的なマンションとそれが連想させる平均的な人々の平凡な暮らし。そして社会の底辺も底辺な粗野な大家族が暮らすバラックの暮らしが手前にある……。

キリスト教の総本山の見えるすぐそば。聖と俗がこんなにも近いところに混在している状況。警察にも見放され、まさにドブネズミのように扱われている父親、そして大家族の生きる様は、まるで、バンド、ザ・ブルーハーツリンダリンダで歌われるように、ドブネズミみたいに美しくなりたい的な世界観で、ろくでもない中に、生のきらめきが垣間見える瞬間があるんです。彼らは確かに醜く、汚く、悪いけれど、あくまで「粗野なだけ」で、本質的な悪人でもない。ある意味、純粋といえます。労働意欲なんてない反面、変な上昇志向もない。現代人が失ったものを思い出させてくれるというと、大げさでしょうか。本作でスコラはカンヌ国際映画祭監督賞を獲得しました。

この作品、そしてそのほかの僕が選んだイタリア映画も、ぜひスターチャンネルでお楽しみください!


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■作品情報
醜い奴、汚い奴、悪い奴
BRUTTI, SPORCHI E CATTIVI
1976年/イタリア/117分
監督/エットーレ・スコラ

 

■キャスト
ニーノ・マンフレディ