FM COCOLO CIAO 765 毎週月曜、11時台半ばのCIAO CINEMA 7月21日放送分
映画『スーパーマン』短評のDJ'sカット版です。
人々を守るヒーロー、青いスーツに赤いマント、クリプトン星からやってきたスーパーマンは、メトロポリスの大手新聞社デイリー・プラネットの新聞記者クラーク・ケントとして働きながら、正体を隠しています。最近、スーパーマンは人々の命を救うことを考えるあまり、合衆国の同盟国が隣国へと軍事侵攻を食い止めるためにその力を使ったことが国際問題に発展してしまいます。そんなスーパーマンを合衆国の脅威とみなす天才科学者にして大富豪のレックス・ルーサーは、政府に食い込みながら自分のビッグ・プロジェクトを進めていきます。
監督・脚本・共同製作と大活躍しているのは、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガン。スーパーマンとクラーク・ケントは、去年のヒット作『ツイスターズ』に出ていて、これが映画初主演のデヴィッド・コレンスウェットが演じ、クラーク・ケントの同僚であり恋人のロイス・レインは、レイチェル・ブロズナハンが担当しています。大富豪のレックス・ルーサーには、ニコラス・ホルトが扮しました。
僕は先週金曜日の午前中、Tジョイ梅田のドルビーシネマで鑑賞してきましたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。
スーパーマンというキャラクターは、ジェリー・シーゲルとジョー・シャスターというふたりが、1938年に生み出しました。以来、漫画、ラジオドラマ、テレビドラマ、アニメ、映画と、あらゆるメディアで展開されてきた、すべてのスーパーヒーローの原点とも言える存在です。映画について言えば、1978年に公開されたリチャード・ドナー監督、クリストファー・リーヴ主演の『スーパーマン』が、名作として今も多くの映画人のリスペクトを集めています。以来、継続的に新作が作られていまして、ブライアン・シンガー監督の『スーパーマン リターンズ』やザック・スナイダー監督の『マン・オブ・スティール』に端を発するヘンリー・カヴィル主演のDCエクステンデッド・ユニバースの流れは記憶に新しいところです。そして、今回、マーベルから移籍をしてDC映画の新しいリーダーになったジェームズ・ガンが、DCコミックスの新しい映像化を担うDCユニバースの1作目として公開したのが今作になります。それ故、1978年以来、サブタイトルなども付かない『スーパーマン』と題されています。
ジェームズ・ガンと言えば、マーベルでの代表作『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のシリーズとDCに移ってからの『ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党、集結』のように、はみ出し者たちをブラック・ユーモアとバイオレンス描写たっぷりに描くイメージがありますが、それと同時に、メッセージは意外とヒューマニズムまっしぐらなところもあったように思います。そんなジェームズ・ガンが、これからはDCのリーダーとして計画されているたくさんの作品のプロデュースをしていく立場になった上で、まずはこれからの指針として監督してみせたのが今作です。僕はこう思っています。スーパーマンとジェームズ・ガンの相性はとても良かったし、今まで色々ドタバタがって必ずしも上手くいっていなかったDCの新しい展開に期待が持てる痛快な作品である。
まず、バランスが良いです。DCユニバース1作目なので、前知識ゼロ、なんなら、ヒーロー映画門外漢という人にも扉を開いている風通しの良さがありながら、オールドファンもしっかり楽しめます。その上で、上映時間は129分と長くない。2013年の『マン・オブ・スティール』が、スーパーマンがデイリー・プラネット社に入るまでの話に143分もかけていたのとは大違いですよ。そして、78年の『スーパーマン』も144分でした。もちろん、シリーズが前提みたいな条件による物語の目盛りの違いがあるとはいえ、はっきり言って、本作は量産されたヒーロー映画に疲れた、うんざりした、もうお腹いっぱいみたいな人にもオススメできる、あくまで単体で予習抜きに映画館へ向かうことのできる作りになっているんですね。ジェームズ・ガンが今回心を砕いてこだわったのは、そんな見やすさがあります。ここは細かく説明しなくても良いだろうという割愛が大胆にして鮮やかなんです。たとえば、スーパーマンがクリプトン星という惑星から赤ん坊の時に小型宇宙船に乗せられてひとり地球へやって来たこと。そのシーンは省略です。冒頭からスーパーマンである上、いきなり彼が瀕死の重傷を負っているところからスタートするんですもの。それから、彼はもういきなりデイリー・プラネットのジャーナリストです。クラーク・ケントとしてどんな記事を書いてきたか、恋人との出会いや関係性はどうか。このあたりも大胆にカット。前提抜きに話を進めながら、前提を観客にじわじわ理解させるのが今作の脚本の技です。一方で、あいつのことはよくわからんが、まぁ良いかと思わせる曖昧さの残し方、語りの濃淡も適切にして的確でした。
そして、本作最大の称賛ポイントは、赤いマントを翻すクラシカルなヒーローと2020年代半ばの時事性をバランス良く組み合わせたことです。ここしばらくは時代遅れに見られたり冷笑されたりするような存在だったスーパーマンを、もう一度格好良く描きながら、同時に僕たちにとって身近かつ憧れの存在にも見せている。これは簡単なことではありません。思い出してみてください。今作のスーパーマンは、具体的かつ小さな顔の見える個人を何度も救っていました。人も動物もエイリアンも同様に救う。それが遠く離れた国の人であっても救う。異星人たるスーパーマンは高らかに宣言します。僕も人間なんだ、と。間違いもするし、不器用なところもある。悩みもする。そして、失敗を悔やんで、そこから学んで次こそ成功すると考えて実行する。それが人間ってものだろう。いろんな出自を持った人間を尊重しながら、誰かを切り捨てたり搾取することのない、より良い社会を作りたいと願う。大国のぞんざいな振る舞いや、大企業が自分たちの利益を最大化するために恥じらいもためらいもなく政治に関わっている今、ヒューマニズムに根ざした正義をてらいなく旗印に掲げるスーパーマンを描いたことに、僕は拍手を贈ります。強いものがさらに強くなろうと周囲を蹴散らし、弱いものがさらに弱いものを叩いている現代に必要なヒーローが帰ってきたことを歓迎しますよ。ジェームズ・ガンとハイタッチしたい気分ですね。
さ〜て、次回、7月28日(月)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『F1®/エフワン』です。F1って、アメリカよりもヨーロッパのイメージで、アメリカでの人気はさほどでもないという印象でしたが、最近はその風向きも変わってきているようで、ハリウッドがそんなモータースポーツをどう描くのか、非常に興味があります。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!