京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『デッドプール2』短評

 FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年6月7日放送分
 デッドプール2』短評のDJ's カット版です。

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マーベル・コミックスの異端児にして、エログロ上等R指定の無責任男、異色のヒーローが帰ってきました。前作でハッピーエンドを迎えたデッドプールは、世界のあちこちで悪い奴らを叩きのめしながらも、わりとのんきに過ごしていました。そろそろ彼女のヴァネッサと子どもを作って家族になりたい。そんな彼の前に現れたのは、拳で炎を操る太っちょミュータント少年ラッセルと、そのラッセルを殺害すべく未来からやって来たロボットアーム付き機械人間「ケーブル」。恋人から心を入れ替えるよう促されたデッドプールは、ラッセルを守るべくケーブルに立ち向かうのですが、あまりの強さにたじろぎ、特殊能力の持ち主たちを集めた最強鬼ヤバチームXフォースを結成します。

アトミック・ブロンド(字幕版) ジョン・ウィック(字幕版)

2016年に公開された1のティム・ミラーから監督が代わって、今回は『アトミック・ブロンド』のデヴィッド・リーチ、そう『ジョン・ウィック』で犬を殺した監督ことデヴィッド・リーチがメガホンを取りました。デッドプールを演じるライアン・レイノルズは、今回脚本にもクレジットされています。そして、未来の機械人間ケーブルには、『アヴェンジャーズ/インフィニティ・ウォー』で圧倒的なヴィランのサノスを演じていたジョシュ・ブローリンが扮しています。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

R指定のアメコミ映画というと、思い出すのは、ちょうど1年前に僕が短評した『ローガン』です。あのウルヴァリンがマジで老眼でびっくりしたとか、しょうもないことを言っておりましたが、そのウルヴァリンの最期、まさにヒロイックに死を遂げた姿が、今作ではキッチュすぎるフィギュア付きオルゴールとして冒頭に登場するんです。いきなり『ローガン』のネタバレですよ。さらに、デップーはこんな風にボヤくんです。「ローガンがハードルあげやがったからなぁ。俺ちゃんも死にたいなぁ」なんてことを、ドラム缶の上で寝っ転がりながら。で、なぜそんな発言をするのか、そっから4ヶ月前に遡るという構成を取るんですけど、オープニングクレジットでの007パロディー、そして「監督:ジョン・ウィックの犬を殺した男」みたいな小ネタが炸裂したうえ、いきなり本人誘導での回想ですからね。1に引き続き、いわゆるメタ的な構造を踏襲してきています。
 
無責任、不死身、エログロ、ブラックユーモアなどなど、デップーを特徴づける要素はいくつもありますが、ある種最も過激なのは、このやり過ぎなまでのメタ構造だと僕は思ってます。小説、演劇、映画で言われるメタ・フィクションってなんだと、ごく簡単に説明しましょう。メタというのは、「〜を超える」「〜より高い次元の」という意味。僕らは誰だってフィクションが作り物だと頭ではわかってるんですけど、作品に触れている間はそれを忘れますよね。それは、作品の世界に入り込んでいるからです。ところが、メタ・フィクションは「はい、これは作り物ですよ」と僕らにわざわざ知らせてくる。つまり、作品がそのフィクションの世界を越えて、現実に侵食してきたりする。その代表例が、デップー本人も何度も口にする「第4の壁」ってやつです。

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演劇で考えるとわかりやすい。舞台は、背景と上下、3つの壁があるけれど、観客席側の第4の壁は、無色透明な存在しないものとされている。役者も観客もそういうルールを共有していて、役者は当たり前だけど、観客には観られていないものとして演技をする。これが映画だと、第四の壁は、カメラです。突然役者がカメラ目線でこちらを見つめたり、ましてや話しかけると、びっくりしますね。だって、作品の中と現実がその瞬間にクロスしちゃうわけなんで、ルールが崩壊するわけですよ。メタ・フィクションにはたくさんの方法論があるんですけど、デップーではまず第四の壁です。
 
1では、第四の壁を破ってカメラ目線で回想シーンへ移行した後、その回想シーンの中でもまた第四の壁を破ってカメラに話しかける場面があって、そこではデップーがこう言います。「おいおい、第四の壁の中で第四の壁を破ってるから… これは第16の壁かな」なんて高度すぎるジョークを飛ばしていました。こういうアカデミックな笑いと、下品としかいいようのない笑いを、とにかく多い口数で釣瓶撃ちしてくるのが、大きな魅力なんですね。今回も、このメタ構造を使ってすごいことをやってます。a-haの『Take On Me』がかかるところ。歌詞が物語にリンクするのはもはや当たり前で、同じくメタ構造を利用した傑作MVを強く観客に意識させるという芸当をやってのける。これでよく映画が崩壊しないなと驚きますよ。

そもそもヒーロー映画っていうのは、その設定からして現実離れしているわけで、本来ならメタ構造とは相性が悪いはずなんだけど、これだけアメコミ原作ものが溢れかえるからこそ生まれてきた演出だという側面もあると僕は思っています。前作の予想を超える大ヒットの要因のひとつは、ヒーロー映画に没入できない、クールに眺めちゃう映画ファンをも、文字通り作品世界の中からこっちへ越境して巻き込んだことにあると思います。
 
残り時間で、簡単に前作との違いをまとめます。前作はデッドプール誕生の秘密、言わばキャラ紹介の顔見世興行だったこともあり、仲間はそう多くなく、基本的に独りよがりの自分勝手。それが今回は、キャッチコピーにあるように「もうボッチじゃない」んです。デップーを慕う奴まで出てくる始末だし、まさかのチームを結成するという! 名付けて、X-フォース。X-MENて何だよ、MENって言葉を使うのは差別だっていうくだり、面接シーンと、各メンバーのたどる運命、その壮大な物語的無駄には開いた口が塞がらないほどの呆れ笑いを楽しみました。
 
デヴィッド・リーチを起用したことにより、アクション演出が数段レベルアップしたうえ、これだけふざけてるのに、下手すりゃ重くなりがちなヒーローならではの苦悩にもしっかり言及。そして、デップーの言葉を借りれば、最終的には魅力的な新キャラたちとの関係性を楽しめるファミリー映画に着地させるという、実は意外とヒーロー映画のいいとこどりをした手堅いまとめ方をしてあるんです。
 
いったい何次方程式なんだよっていう、とんでもなく複雑な方程式を見事に解いてみせた結果、ローガンのハードルもきっちり越えてきた『デッドプール2』に、僕は盛大な拍手を送りたいと思います。

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ところで、左端のドミノさんよ特殊能力、幸運(ラッキー)ってなんだよ! 最強じゃないですか。あなたに僕はついていきたい。最高の女性です!

さ〜て、次回、6月14日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『万引き家族』です。狼、兎、犬、ミュータントと来て、お次は万引きです。

 

ちなみに、是枝裕和には僕野村雅夫、インタビューをしてまいりました。その模様は、6月11日(月)のCiao Amici!でオンエアします。こちらもぜひ参考になさってくださいませ。そして、いつものように、あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!