京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『キャメラを止めるな!』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 8月2日放送分
映画『キャメラを止めるな!』短評のDJ'sカット版です。

 カメラを止めるな!

今年のカンヌ国際映画祭で、なんとオープニングを飾ったのが、日本のインディーズ映画で2018年に日本でも大ブームになった『カメラを止めるな!』のフランス版リメイク作品でした。カメ止めを観ていないし、キャメ止めも観ていないという方、リメイクともなると、ネタバレはどうしても少ししてしまいますので、情報ゼロがいいという方は、いったん、Spotifyでこの番組がやっているThrowback Thursday with FM COCOLOを10分ほどお聞きください。よろしいでしょうか。
日本版、フランス版ともに、山奥の廃墟でゾンビ映画を撮影しているクルーの話です。そこへ本物のゾンビが登場してしまってクルーが危機に陥るものの、なんとか撮影を終了。エンドクレジットが流れ終わったところで、この映画が作られた背景が明かされることになります。

アーティスト (字幕版) 

監督・脚本は『アーティスト』でアカデミー賞で作品賞・監督賞・主演男優賞など5部門を獲得したミシェル・アザナヴィシウス。監督のレミーロマン・デュリス、監督の妻役をベレニス・ベジョが演じた他、日本のプロデューサー役として、カメ止めにも出演していた竹原芳子が出演しています。
 
僕は、先週木曜の午後、大阪ステーションシティシネマで鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

「カメ止め」のあの空前のブームはまだまだ記憶に新しいところだし、短評した身としては、壮大な仕掛けが施された作品だったので喋りづらいというか気をつけながら核心をついていかないといけないという意味で、忘れられません。当時のキャッチコピーは「この映画は二度はじまる」というものでしたが、観た人はわかりますね。1/3ほど進んだところで、ガラッと語りの構造が変わるし、それに伴って画面のルック、画調も変化していました。僕は当時、「技術的には三度、四度始まるんだ」と脚本を分析して、なぜみんなあの作品に夢中になるって、それは知恵と工夫で力を合わせて困難を乗り越えていく集団作業の生みの苦しみと喜びがテーマになっているからだと語りました。

(C)2021 – GETAWAY FILMS – LA CLASSE AMERICAINE – SK GLOBAL ENTERTAINMENT – FRANCE 2 CINEMA – GAGA CORPORATION
で、「キャメ止め」はどうなのか。基本的には「カメ止め」の忠実なリメイクなんですが、いくつかユニークなアイデアが新たに盛り込まれていました。まずはリメイクであることをそのまま物語に反映させていることです。つまり、日本でヒットした企画をフランスで再現するという企画の無理難題さがあって、もともと第一幕の内容を大きくカッコに入れるメタ構造とネタバラシの第二幕という面白さがあるという構造そのものをもうひとつ大きなカッコに入れる、入れ子構造のさらなる重層化が図られていて、発想として面白いものがありました。
 
もうひとつは、考えたら原作ではあまり意識されていなかった音楽・音響のスタッフの大変さが描かれていたこと。いろいろと映画評を見ていると、あちこちで「映画にかける情熱に感動」みたいな言葉が踊っているんですが、冷静に言えば、これは映画ではなくって、テレビの生放送なんですよね。映画だったら普通は後で編集をするわけだから、しくじればやり直せば良いんだけど、生放送はそうはいかないわけです。そして大事なことは、生だから音楽もその場で付けていかないといけない。そこに着目したアザナビシウス監督はさすがでした。結果として、「キャメ止め」ではファティという男性スタッフが爆笑を誘っていました。

(C)2021 – GETAWAY FILMS – LA CLASSE AMERICAINE – SK GLOBAL ENTERTAINMENT – FRANCE 2 CINEMA – GAGA CORPORATION
ただ、こうした一定の評価はしつつも、僕は「キャメ止め」にそこまでのめり込めませんでした。もちろん、ストーリーラインを知ってしまっているから、話自体の驚きが減じているのはしょうがないですよね。でも、そこは先に言った2点を始めとして、リメイクならではのプラスアルファがあるので、新鮮に楽しめたはずなんです。では、なぜか。原因は、テーマが深く掘り下げきれていないからです。笑いの要素はプラスしてありました。そして、尺も実はオリジナルよりも20分ほど長くなっているにも関わらず、集団作業によるものづくりの苦労と楽しさという面は、むしろ原作より後退しているんです。たとえば主人公である監督のパートナーの女性も大きな役割を果たしますが、彼女がかつて役者を目指していてどんな特性があったのか、観客にうまく伝わらないままでした。あるいは、子育て中の女優の役者ともうひとりの俳優についても、撮影当日までの流れをさすがにもう少し見せておかないと、飲み込みづらいものがあります。そして、監督と娘の関係、特に娘が小さかった時の写真の扱いも、リメイクでは取ってつけたように見えてしまうなど、僕は笑いに力点を置いた結果失ったものがあるように思えてなりません。
 
とはいえ、フランスでのリメイクだということを前提としたリメイク、あるいは続編としても観られる作品ですので、あなたもご自身の目でジャッジしてみてください。ただ、先に「カメ止め!」を観るのが大前提だとは思います。
キャメ止め!では、エンドロールでこんなノリの良い曲が流れて、物語の余韻に浸ることになるわけですが、クレジットがすべて流れてからのちょっとしたお楽しみも控えていますんで、どうぞ最後までご覧くださいよ。

さ〜て、次回、2022年8月9日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』です。告白します。映画館で予告編を観るたびに、わかっていても新鮮に驚いています。いや、ビビっています。劇場から無事に生還できるかしら。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!