京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ソー:ラブ&サンダー』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 7月26日放送分
映画『ソー:ラブ&サンダー』短評のDJ'sカット版です。

マーベル・シネマティック・ユニバースで展開されてきた雷神ソーの活躍を描くマイティ・ソーの4作目となります。『アベンジャーズ エンドゲーム』におけるサノスとの激闘の後、ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々と宇宙へ旅立ったソーは、失うことばかりだった過去を振り返り、戦いを避け、いつの間にやら、自分探しの日々を送っていました。ところがそこへ、神々のせん滅を目論むゴアが登場。新たな王となっていたヴァルキリーと一緒にゴアに立ち向かうソーでしたが、苦戦を強いられていたところに、元カノのジェーンがなぜかソーのコスチュームで現れたものだから、ソーは浮足立つし事情はよくわからないわで、さぁ大変です。

ジョジョ・ラビット (字幕版)

共同脚本と監督を務めたのは、前作から続いて、俳優でもあり、コメディー演出が得意なタイカ・ワイティティ。監督作の公開は『ジョジョ・ラビット』以来3年ぶりですね。ソーを演じるのはもちろんクリス・ヘムズワース。ヴァルキリーをテッサ・トンプソン、ゴアをクリスチャン・ベールが演じた他、ジェーン役のナタリー・ポートマンが9年ぶりにMCU作品に復帰しています。さらに、ラッセル・クロウも出演して絶妙な存在感を果たしていますよ。
 
僕は、先週金曜日の朝、Tジョイ京都で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

マーベルの作品をこのコーナーで評したのは、前回が『ドクター・ストレンジマルチバース・オブ・マッドネス』でした。サム・ライミ監督が自分の作家性を結構グイグイ出していました。ホラー表現を、しかもブラック・ジョーク込みで取り込んでいましたよね。そこへいくと、今回のソー4作目はワイティティ監督でしょ? 作家性をグイグイどころか、バリバリ、いや、雷なんでビリビリ出しています。まぁ、「エンド・ゲーム」を経て、壮大な物語が幕を引いた後ですから、徐々にまたそれぞれ物語の照準を合わせていくフェーズに入っているマーベルだし、冒頭でガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの面々との交流シーンがあるように、そもそもが宇宙で大暴れする神であり、力もありすぎるハッスルマッスルゴッドっていう時点でだいぶ異端なんで、これぐらい振り切ってもいいんじゃないかという判断でしょう。あの手この手のギャグ満載。多少滑ろうが何しようが、とにかく突き進むという前のめりかつ数撃ちゃ当たる方式そのものにも笑ってしまうぐらいバカバカしいです。

(c)Marvel Studios 2022
でもね、これがもしワイティティ監督でなかったら、ここまで振り切れてはいないと思うんです。だって、考えてみれば、ストーリーラインは結構シリアスなんですよ。クリスチャン・ベールが演じるヴィランのゴアは、ゴッド・ブッチャーなんて異名を持っていて、宇宙の神々をどんどん殺していこうという野心を持つ男。これは助けを乞うても神に見放されて娘が死んでしまったことに対する復讐に駆られていることが原因でした。そして、ソーの元カノであるジェーンも、実は癌を患っていて死に瀕している。化学療法を続けるのかどうするか、残された限りある人生のこれからを考えるにあたり、過去の行動と選択を振り返っているような状況です。そんなゴアとジェーンの間に、ソーです。でも、そのソーも、冒頭で表明されていた通り、エンド・ゲームの後、引きこもって自分探しという名の元にお菓子食べ過ぎたりお酒飲みすぎたりで一度ブヨブヨになっていたくらいですから、こんな悲しくシリアスなふたりは手に余りますよ。ゴアをやっつけるのも、元カノにやさしく寄り添うのも、心もとない状況です。

(c)Marvel Studios 2022
そこで用意する道具立てが、文字通り道具なんですよね。まずは未練たっぷりのジェーンが、とある事情でソーと同じ力を手に入れて、同じコスチュームになって登場すること自体もぶっ飛んでいるのだが、これもとある事情で彼女が手にしているのが、ソーがかつて愛用していたハンマーなんですよ。言い方を変えれば、元カノが元オノを持っているんです。それに対して、ソーは今回から新しいストームブレイカーっていう武器を手に入れていて、その今オノがちょいちょい元オノに嫉妬するって、なんなのよ? 何を見せられてるのよ、これは。そして、ヴィランのゴアを倒すためには、全能の神であるゼウスのサンダーボルトっていう武器を借りに行くべきだっていうことになるのはいいんだけど、まずこのゼウスがだいぶふざけているし、サンダーボルトの造形がだいぶ子供っぽいしで、もう大変です。

(c)Marvel Studios 2022
なんかこうして喋っていると、大味なんだろうって思われるでしょう。でも、振り返って考えると、よく考えてあるというか、締めるところはちゃんとネジを締めてあるんです。クリス・ヘムズワースを今の地位にお仕上げた単体で4本目となる人気キャラの仕切り直しのストーリーということで、門外漢もなんならこっからでも入っていけるような配慮もありました。劇中劇の要素を取り入れての振り返りや、ジェーンとの馴れ初めと別れまでのダイジェストも、ただの焼き直しじゃなくって、しっかりひねって新旧どちらのファンも喜べるようになっていて、ドクター・ストレンジで僕が感じたようなマーベル弱者の疎外感も排除されていました。ネタもマーベルだけじゃなくてジョーカーっぽいのを入れてみたり、映画史そのものに目配せするようなところもあって、ちゃんとしているんです。その上で、ラブ&サンダーってバカみたいなタイトルが、最後には誰もがちゃんと納得できるような落とし所に持っていくって、これは神業ですよ。しかも、僕は今作に貫かれている、朗らかで、ポジティブで、生きることへの肯定的なメッセージに共鳴しました。ろくでもない辛いこともあるけれど、生きるというのは素敵なことですと。そして、多様な価値観の肯定と共存こそ、風通しの良くてしなやかで強い世界を育む道なんだと、信じられないけど、ハッスルマッスルゴッドに教えてもらえたようで、苦笑いしながら劇場を後にしました。次も行くぜ!
エンド・クレジットで流れるこの曲。Dioって、考えたらイタリア語で神なんですよ。そして、歌詞の内容も含めて、これ、雰囲気で選んだってより、練って練っての選曲なんですよね。


さ〜て、次回、2022年8月2日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『キャメラを止めるな!』です。「カメラ」の時も僕は当時の番組で短評していまして、ネタバレせずにどうやって喋ったらええのんやと頭を抱えたものですが、まさかのまさか、リメイクでまた悩むことになろうとは… あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!