京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 7月18日放送分

アカデミー賞長編アニメーション賞を獲得した2018年のアニメ『スパイダーマン:スパイダーバース』の続きとなる今作。ピーター・パーカーが亡くなり、スパイダーマンを継承した高校生マイルスが主人公ではありますが、共に戦ったグウェンと再会して向かうのは、様々なバースから選びぬかれたスパイダーマンたちが集うマルチバースの中心です。マイルスは、そこで自分の運命を変えようとするのですが、定めを変えてはならないと立ちはだかる無数のスパイダーマンたちと戦うことになってしまいます。

スパイダーマン:スパイダーバース くもりときどきミートボール (吹替版)

脚本と製作は、フィル・ロードクリストファー・ミラーのコンビです。『くもりときどきミートボール』や『レゴ・ムービー』を手がけた彼らは、前作に続き、実質のリーダーとして、企画を動かしながら、そこに3人の腕っこきの監督が集いました。ポルトガルから、ホアキンドス・サントス。『くもりときどきミートボール』にも関わっていたジャスティン・K・トンプソン、『ソウルフル・ワールド』の監督・脚本も担当していたケンプ・パワーズ。前作もそうでしたが、監督が3人も必要なくらい、相当複雑なプロセスを経てできあがっているんでしょうね。
 
僕は先週の金曜日の朝にTOHOシネマズ二条で日本語吹替版を鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

前作は2019年の3月、FM802のCIao Amiciという番組を担当していた頃に短評していまして、その原稿もブログにアップしています。これは三部作の真ん中の作品なんで、基本的なスタイルは前作を踏襲しつつ、と軽くまとめられるだろうなと思って観に行ったら、いやいやいや、余裕で前作を超えるすごい映像を浴びまして、興奮とともに驚きを禁じえませんでした。並行宇宙、マルチバーススパイダーマンという馴染みのヒーローの物語に導入することで、誰でもヒーローになりうるのだということを語ってみせたのが前作でしたが、考えてみると、今年にはマルチバースをこれまた大胆に導入してみせたぶっ飛びの映画『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』、通称「エブエブ」がアカデミー賞作品賞を獲るような時代にまた一歩進んでいるわけです。こちらの続編は、さらにまた何歩か進んだと言いたくなるくらい、スパイダーマンたちと、彼らが生きる世界のアニメ的な描き分けにびっくりしました。

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前作でも、原作のアメコミ、その漫画の絵がそのまま動き出したような感覚に驚いたわけですが、その感じも去年冬には日本の『THE FIRST SLAM DUNK』がやってみせました。それでも、さらに最前線を更新したなと僕が今作で思ったのが、「描き分け」とそれらの「同居」です。

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たとえば、女子高生のグウェンの世界は、ヨーロッパのグラフィック・ノベルのような雰囲気で、パステル調の少し淡い雰囲気。ロックギターを操るホービーのスパイダー・パンクは、その名の通り、70年代から80年代のロンドンと今のニューヨークを混ぜ合わせたようなグラフィティーアートっぽい荒々しくもポップな絵面というように、バースが変わると、スパイダーマンのコミックス、雑誌も画面に登場して、別の漫画に変わったような演出も入ります。しかも、それは絵だけではなくて、セリフの言葉遣いやボキャブラリーにも反映されているという念の入れようです。僕が今回珍しく吹き替えで観たのは、そこを楽しみたかったから。はっきり言って情報量が凄まじく多い作品なんで、画面を見るだけでも追いきれないくらいなのに、セリフを字で追うなんて無理と思って吹き替えをチョイスしたら、僕はしっかりスパイダー・パンクのファンになりました。吹き替えだと字幕よりも言語情報はたくさん盛り込めるし、声優陣も豪華で質が高いので、細かい設定まで堪能できてオススメです。

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物語としては、まだ最後まで行っていませんから、今作のテーマに触れることぐらいしかできませんが、実は意外とシンプルでして、大切な人を救うことと大勢を救うことの天秤に悩むというヒーローものの王道がそこにあります。マイルスは諦めるなんてまっぴらだから、二兎を追いたいし、運命だからというのは事態を放り出す理由にはならなくって、運命は自分でコントロールするのだというスタンスです。そこに、他の無数のスパイダーマンたちが「待った」をかけるということで、マイルスはスパイダーマンたちの異端児になってしまいます。その結論は次作に持ち越しとなるわけですが、マルチバース設定が作品をまたいで他のキャラクターを持ち込むための口実にだけ利用されているようなものも散見される中、このシリーズでは、あくまでもマルチバースそのものが物語を力強く動かす原動力になっていることに好感が持てるうえ、スパイダーマンというキャラクターの可能性をしっかり押し広げながらも、テーマは骨太で現代的という離れ業を今回も見せてくれました。間違いなく、アニメの現状最高峰にして、もはやアートという高みまで上り詰めている今作。話題作も多い中ではあるものの、劇場で鑑賞しておくべき作品だと声を大にしておきます。
 
サントラは、音楽と映像のマッチがスムーズでシブいのから何から選曲も良かったですが、エンドクレジット共に流れるこの曲をオンエアしました。

さ〜て、次回2023年7月25日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『トゥ・クール・トゥ・キル 〜殺せない殺し屋〜』です。三谷幸喜のヒット作『ザ・マジックアワー』が、なんと中国でリメイクされました。オリジナルとどう違うのか。中国ならではのアレンジもあるのか。これは興味がわいてきます。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!