京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 10月10日放送分
映画『ジョン・ウィック:コンセクエンス』短評のDJ'sカット版です。

キアヌ・リーブス演じる伝説の殺し屋ジョン・ウィックを主人公とした人気シリーズ4作目にして最後の作品。妻を亡くし、引退していたジョンは、自分の愛犬を殺されたことをきっかけにロシアンマフィアを壊滅。かつての因縁から依頼されて向かったローマで強力な殺し屋たちと抗争。そして、裏社会のルールを破ったことで裏社会全体を敵に回してしまい逃亡。これが大雑把にもほどがある3作の流れですが、4本目にして新キャラが続々登場。盲目の武術の達人ケイン。大阪の友人シマヅ。犬を相棒にする賞金稼ぎなど。ニューヨーク、ヨルダン、大阪、ベルリン、パリ。何もかもがスケールアップしたシリーズ完結編です。

ジョン・ウィック(字幕版)

製作総指揮、キアヌ・リーブスデヴィッド・リーチなど。監督は1作目でデビューとなったスタントマン出身のチャド・スタエルスキ。脚本のひとりシェイ・ハッテンは前作「パラベラム」からシリーズに加わり、現在アマゾンプライムビデオで観られる前日譚のシナリオも書いています。キャストには、キアヌ・リーブスの他に、ドニー・イェン、ビル・スカルスガルド、真田広之、リナ・サワヤマなど。
 
僕は先週水曜日の昼下がり、TOHOシネマズ梅田で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

さっき、あらすじのさらにあらいまとめ方でシリーズ3作を説明しましたが、一応、今作では日本独自なのか、本編の前に振り返り映像があるので、サラッと復習できるようになっているので、ご安心ください。といっても、今作から初めてという人は何が何やらかもしれません。そこも、ご安心ください。はっきり言って、世界観を大づかみしておけば、それで事足ります。というのも、これはアクション映画への愛情をぐつぐつ煮詰めることで誰も観たことがない濃厚なアマルガムになったような、アクション超合金映画なんですよ。だから、僕たちが鑑賞するのは、ストーリーでもあるけれど、特にこの最終作では体感としては8割5分ぐらいを占めるアクションシーン、前作から4倍に増えたというアクションシーン、もっと言えば、死のアクロバットなんですね。物語を軽んじているとは言いませんが、アクションを最大限、いや、限界を振り切るレベルで演出するために構築された物語になっているので、多少わからないところがあったとしても、映画に置いてけぼりにされることはないはずです。

[c] 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
考えてみれば、このシリーズ、当初から掟のようなものがあります。登場するのは、ほとんどが裏社会の人間、職業的な殺し屋であること。そして、ネオンを活かした鮮やかな色使いでキャラクターの肉体とその死を「美しく」描いてきたこと。その映画的掟が極北に達するのがこの結末編です。ここには、監督が参照してきた数々のジャンル映画の要素が入っています。ノワールマカロニ・ウェスタン、マフィアもの、スパイもの、日本の時代劇、ヤクザ映画、カンフー映画などなど。具体的な作品で言えば、『アラビアのロレンス』『ウォリアーズ』『座頭市物語』『グランド・マスター』『続夕陽のガンマン』あたりはわかりやすく入っています。アクションの種類も、格闘技、武術、柔道、様々な銃火器、車、バイク、剣、ヌンチャク、鉛筆、そして犬と、バリエーションはてんこ盛りです。さらに、僕たちアジアの観客にとって嬉しいのは、真田広之ドニー・イェンの対決が用意されているところでしょう。しかも、大阪のホテルですよ。もちろん、大阪を筆頭に、ニューヨークにしろ、ベルリンにしろ、パリにしろ、あくまでジョン・ウィック的世界の都市ですから、現実の都市をトレースしたものではないですけどね。加えて、リナ・サワヤマがエンディング曲を提供するのみならず、生身のアクション、それも戦闘シーンでも見事な才能と努力の成果を見せつけているんですから喜びもひとしおでした。

[c] 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
冒頭でダンテの『神曲』地獄篇の有名な一節「ここに入る者は、すべての希望を捨てよ」が引用されるように、これはジョン・ウィックの世界を股にかけた地獄めぐりなんですが、文字通り回転する地獄と化すのが、パリ凱旋門をぐるりと取り囲む環状交差点ラウンド・アバウトにおける、車とカンフーを混ぜ合わせた「カーフー」でしょう。あそこだけで数週間かけているようですよ。あんなのは、マジで初めて見ました。アイデアもすごければ、CGも使うにせよ、どうやって撮影したんだというカットが延々と続きます。しかも、あの一連のパリのシーンは、ジョン・ウィックの懸賞金がどんどん釣り上がる様子を、パリのラジオ、音楽や女性DJとリンクさせていくという、はっきり言って映画史に残る常軌を逸したシーンでした。

[c] 2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.
そりゃもう、人はどんどん死んでいきます。しかも、いっぺんにではなく、殺しの美学にのっとって、ある意味丁寧にその殺しを描くのが100人単位できます。なので、観ていると、だんだん麻痺するんですね。でも、劇場のシートで安穏と観ている僕らを急に現実に引き戻す場面が今回は用意されていまして、そこでは一般人がたくさん登場するんです。エキストラ200人以上が踊っている中で殺しが行われるんですが、堂々と戦っているのに、彼ら一般人は見向きもせずに踊りに陶酔している。あの演出には、シリーズで初めてじゃないかな、現実とフィクションの距離が急に肉薄するようで不気味でした。そして、なんといってもハイライトは222段の階段落ちです。あそこはCGなし! しかも、ただ落ちるだけじゃなくて、その前のフリが効いているので、落ちる時の僕らの「マジかぁ、こらアカン。どうなんねん!」っていう気持ちの方は駆け上がります。とまぁ、すごいシーンの連続ですから、そもそも、殺し屋同士の復讐だ抗争だ誓いだなんて興味がないという方も、これはもう、中国雑技団ならぬ、地獄雑技団のみなさんによる決死のショーなんだと理解した上で見れば、きっと興味深くなるかと思います。
 
ジョン・ウィックのシリーズはこれにて終了ですが、この世界の話は、前日譚が冒頭で言ったようにアマゾンプライムビデオで観られる他、スピンオフの『Ballerina』が来年公開です。アクション超合金の世界を生み出したチャド・スタエルスキ監督、おつかれさまでした。これからも、あなたの作品に期待しています。
 
しかし、Rina Sawayamaには驚きました。大阪の場面で目立つ出方をしていて、今後も役者としての依頼、出てくるんじゃないですかね。

さ〜て、次回2023年10月17日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』です。ケネス・ブラナーが監督と主演を務めるこのシリーズも、もうすっかり定着という感じですね。独自の美学を発揮した画作りや衣裳なんかに感心しつつも、時折、大げさにも感じるところがあって、このシリーズ、僕は作品によりけり、場面によりけりという感じできています。今回は、どんなんかなぁ? さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッター改めXで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!