京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ミッション:インポッシブル/デッド・レコニングPART ONE』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 8月8日放送分

IMFのエージェントであるイーサン・ハントに、またミッションが課せられます。全人類を脅かすような新兵器を、悪の手に渡る前に見つけ出すのがその仕事ですが、イーサンがIMFに所属する前の過去を知る男とその勢力が迫ってきたことで、ミッションはさらに難しさを増し、世界各地で命をかけた攻防が繰り広げられることになります。
 
スパイアクション「ミッション・インポッシブル」シリーズ第7作にして、初の2部作、その前編となります。製作と監督、脚本は、ここ10年強、トム・クルーズと肩を組むように仕事をしてきたクリストファー・マッカリーで、「ローグ・ネイション」以降はずっと手がけています。製作と主演は、もちろんトム・クルーズ。シリーズおなじみのサイモン・ペッグレベッカ・ファーガソンの他、ヘイリー・アトウェル、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフらが新たに参加しました。
 
僕は先週水曜日の午後、MOVIX京都で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

トム・クルーズが自ら製作を務め、自分の考える古き良きアクションドラマを今に蘇らせたいんだと、かつての『スパイ大作戦』シリーズを映画にリメイクしてから、これで7作目。長く続いてきた理由はいろいろと考えられますが、4作目までは監督を毎回変えてきたこと。ブライアン・デ・パルマジョン・ウーJ・J・エイブラムスブラッド・バード。これの何が良かったかと言えば、1作ごとにトム・クルーズも学ぶところが多かったということ。イーサン・ハントとミッション・インポッシブルの枠組みというのはそう簡単に揺るぎませんから、監督ごとに演出がどう違うのか、どんなアイデアを持っているのか、自分がプロデュースをすることで、胸を借りたり肩を組んだりしながら実践できたわけです。そして5作目以降は、「ミッション・インポッシブル」シリーズだけでなく、『アウトロー』に始まる「ジャック・リーチャー」シリーズや『オール・ユー・ニード・イズ・キル』、そして『トップガン マーヴェリック』と、二人三脚と言っていい歩みをともにしてきたクリストファー・マッカリーがずっと監督を務め、4作目までで吸収してきたことをさらに磨いて光らせ、アクションでも到底不可能と思えることに挑戦し、興行的にも批評的にも成功し、その成功のハードルを自分たちでさらに押し上げて、今に至ります。それもこれも、トム・クルーズ自らが製作を務めて愛情込めて映画を作っているからこそできること。何かと前途多難でゆっくり沈みゆく定めとも言われるハリウッドをひとり背負い込むようにしている彼の大きな背中を見るにつけ、感謝と一抹の寂しさがよぎりますが、はっきり言ってそんな余裕は鑑賞後だから言えるわけで、観ている最中はと言えば、もう手に汗握りっぱです。大変です。

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES. ミッションインポッシブル7
このシリーズはアクションの釣瓶打ちで、動きの激しい見せ場がどんどん続くので、ついつい物語を軽んじてしまいがちですが、初めての二部作となったデッド・レコニングは、テーマとしてかなり興味深いところに踏み込んでいるように思います。敵がもはや国家でもテロ組織でもなく、エンティティというAIなんですよね。どうやら過去に因縁があったらしいガブリエルというキャラクターが登場して、一応は観客は彼をヒールと認識しておけば良いのだけれど、実際にはガブリエルだってAIのコマであるらしい。というSF的な領域に踏み込むことで、たとえば、ほとんどあらゆるアングルから監視されている空港での追いつ追われつ、爆発物の処理において、そこにいるはずの人間が見えなくなったりするような視覚的面白さを担保しつつ、敵味方と簡単に白黒付けられない複雑な利害関係が物語をややこしくも豊かにし、全体として人間が作ったAIによって人間が疎外されるような文明批判にもなっているように感じました。

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES. ミッションインポッシブル7
こうしたテーマを設けることで、何よりトム・クルーズのアナログ極まりないアクションの数々が際立つし輝くとも言えます。今回改めて思いましたよ。「ミッション・インポッシブル」のアクションの何が良いって、ただ敵を力で打ち負かすようなものが少なくて、トム・クルーズのひとつひとつ無謀な肉体的挑戦をユニークな絵面で見せることに集中していること。やってることは、走る、とか、跳ぶ、がメインなんです。ただ、それが、よりによってそんなところを、とか、そんなところから、なんですよ。1作目以来となる列車のシーンは、マジで列車を走らせて、映画の誕生以来実験され尽くしてきたモチーフを、さらに更新して見たこともないものに仕立てる凄み。しかも、スパイもののお約束である観光映画的な側面もコロナ禍で大変だったろうにしっかり入れつつ、ローマでのカーチェイスのオチに出てくるようなユーモアもアクションと組み合わせてしまう鮮やかさ。どうやって飛行機乗ったんだろうとか、あの車は結局どうなったんだろうとか、細かいことをぶつくさ言ってはいけません。

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES. ミッションインポッシブル7
さらに僕が面白いなと思ったのは、あれだけハイテク機器が駆使されて、最大の敵がAIだって言うのに、イーサン・ハントのターゲットは、鍵なんですよね、鍵。物理的な鍵。キーがキーって、どれだけ古典的なんですか。しかも、ヒッチコックの作劇で有名なマクガフィン型の物語運びになっていて、要するに、お宝が本当に価値あるものなのかどうかはどうでも良いという、これまたサスペンス・スリラーのクラシックな話法を採用していることにもニヤリです。
 
ただし、PART TWOではさすがに鍵が鍵だとばかりは言っていられず、ついにはエンティティ、つまりそのAIの実在性、存在そのものの謎にイーサンたちが翻弄されていくことになるでしょう。その評価はまだできませんが、現時点で十二分に楽しいんですから、劇場で観ておかない手はありません。

さ〜て、次回2023年8月15日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『658km、陽子の旅』です。熊切和嘉監督と菊地凛子の顔合わせと言えば、『空の穴』を思い浮かべる僕です。あれもすばらしかった。 さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!