京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『トップガン マーヴェリック』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 6月7日放送分
『トップガン マーヴェリック』短評のDJ'sカット版です。

アメリカ海軍のエリート・パイロットチーム「トップガン」。そんなベスト・オブ・ザ・ベストのエース・パイロットたちをもってしても厳しい任務に、彼らは直面していました。それは、とある「ならず者国家」が複雑な地形の山岳地帯に建設している、核兵器開発プラントの破壊です。このミッションを可能にする男として白羽の矢が立ったのは、伝説のパイロットであるマーヴェリック。彼はトップガンに何を求め、求められるのか…。

トップガン (字幕版)

86年の前作から36年。製作が遅れ、公開もコロナ禍で遅れ、ついに先月27日封切られた続編です。前作の監督トニー・スコットは2012年に亡くなっていて、今作はSF大作『オブリビオン』でもトム・クルーズとタッグを組んでいたジョセフ・コシンスキーがメガホンを取りました。脚本は、『トランスフォーマー』シリーズのアーレン・クルーガーや、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』などのクリストファー・マッカリーが務めました。主演は、もちろんトム・クルーズ。共同製作にも名前を連ねています。他に、前作でマーヴェリックのライバルだったヴァル・キルマーも出演している他、かつての恋人ペニーの役でジェニファー・コネリー、そして新生トップガンのメンバーとして、マイルズ・テラーも参加しています。
 
僕は、先週金曜日の朝、TOHOシネマズ二条のIMAXで字幕版を鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

マッハで結論を出すと、今のところ、今年ベストです。少なくとも、最大公約数の満足を引き出すことを要請されているこうした娯楽映画の中で、しかも続編という難しさもある中で、申し分ないどころか、これ以上ない傑作と言い切っていいんじゃないでしょうか。それぐらい興奮しています。これ、前作の大ファンとして言うなら、「そうなんだ、へぇ、好きだもんねぇ」って思われるかもしれないですけど、僕は実はファンでもなんでもありません。
 
トップガン』の80年代のあの感じっていうのは、90年代、バブルが弾けて中学高校と過ごしていくことになる僕としては、MTVっぽいトニー・スコットのキメキメな画面構成も、やたらと繰り返される音楽も、どでかい日本のバイクも、あのマッチョだらけの半裸の男たちも、そして軍隊のあのノリも、すべては過去の遺物と感じていたんです。あれはないだろうと。90年には湾岸戦争も勃発して、いよいよないわと。もちろん、大人になって、その尖った感じは僕も薄れまして、当時共有されたかっこよさってのは、だんだんとわかるようになっていきました。それでも、トップガンくらいのヒット作、ブームを巻き起こしたものとなると、あの全体的に歌舞いたテイストは、半笑いで見てしまうところがあるんです。そんな僕がですよ。どんなもんかと観に行ってみたら、最初から最後まで、「完璧やん」なんてマスクの中でぶつぶつ呟くほどの盛り上がり。

(C)2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
トム・クルーズは、前作では20代前半。映画業界での地位も名声も成層圏レベルにまで高まって、彼は今やプロデューサーとしても業界を盛り上げる存在ですね。って、そういう人は他にもたくさんいますが、彼がすごいのは、このCG全盛時代にあって、サイレント映画時代からの基本である役者のアクションそのものの面白さかっこよさを今も追求しているところです。彼はもはや、バスター・キートンハロルド・ロイドジャン・ポール・ベルモンドジャッキー・チェンといった映画人の後継者として、グリーンバックを使わずになんでもかんでもやってみせる。続編までにここまで時間のかかった要因のひとつは、IMAXのカメラを戦闘機に複数持ち込んで、実際に飛ばして撮影する技術の開発もあったわけです。トム・クルーズのそうしたこだわりをスタッフも共有しているわけで、撮影時50代後半にして、ますますかっこいいトム・クルーズのアクション、バイクの操縦、笑顔、肉体美、全部盛りなのは、そりゃアガります。あの頃と変わらぬ、いや、それ以上のトム・クルーズではあるものの、時代は変わって戦闘機も大幅に進化。ドローンもあるし、凄腕パイロットのトップガンはチームそのものの存続が危ぶまれています。時代は変わりつつある。そこに、かつてのレジェンドであるハグレモノのマーヴェリックが教官として戻ってくることが、トム・クルーズのキャリア、そして映画というメディアのありようとダブって見えるんです。俺はまだ現役であり、飛行機乗りはまだ必要。

(C)2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
実際に、人間が操縦しないと達成できないミッションがあり、マーヴェリックが彼らを指導する。トムが若手俳優を導く。そのプロセスの中で、オールドファンへの懐かしのサービスも入れつつ、それを単なる過去の焼き直しにとどまらせることはなく、すべてツイストを入れてきます。過去の仲間との和解。はぐれものだった彼が若い後輩たちと信頼関係を構築するための手段。上司に自分の主張を通すためにあえてとる無茶な行動。そして、サントラではなく、ピアノで生演奏されるあの曲。どれもが、前作の踏襲でありながら、どれもが前作に変化が加えられ、それが奏功しています。そうそう、恋心も忘れちゃいません。今回トップガンの面々が挑むあのミッションと同じく、脚本もギリギリの飛行ですよ。ファンからの重圧=Gに耐えながら、終わってみればこれしかないというルートを辿りました。そこには過不足がないんです。ムダも物足りなさもないシャープな2時間強。

(C)2021 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.
と、ここまで褒めておいて、それでも僕は見ながら懸念が残っていました。それは、戦闘機のパイロットの物語である以上、避けては通れないクライマックスの構築です。どうしたってドンパチがある。そこでの盛り上げるポイントを誤れば、僕は脱落するだろうし、自らパラシュートを出すかも知れない。ウクライナ侵攻が起きている今、いくらエンタメとはいえ、うかつな描写があっては台無しになりかねない。そこも、クリアしてきました。自己犠牲や殉職が美談になりがちなこの手のジャンルにあって、今作が掲げるのはとにかく生きることです。生きて帰り、誰かと友情や愛情を育むこと。あきらめないこと。最後まで読めない展開と、最後に曲がかかり、前作の様式にかなったクレジットの見せ方があって、トニー・スコット監督への献辞が出るまで、とにかく密度の濃い、映画という娯楽の魅力を詰め込んだ見事な続編にして、これ単体でも十分楽しめる作品でした。トム・クルーズ他、スタッフ・キャストに最敬礼!
エンディングでばっちり流れるLady Gagaのこの主題歌は、これまたタイミングも笑っちゃうくらい完璧でほれぼれしました。

さ〜て、次回、2022年6月14日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『犬王』となりました。主演がアヴちゃん×森山未來。 監督は湯浅政明で、キャラクター原案は松本大洋、そして脚本は野木亜紀子。さらに音楽は大友良英というドリームチームが贈る劇場アニメーションですよ。湯浅政明と言えば、『夜は短し歩けよ乙女』の舞台が京都でしたが、今回もそうですね。南北朝室町時代に実在した能楽師「犬王」を描いた古川日出男の小説が、どう「ミュージカル」アニメになるのか。しかと見届けようぞ! あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!