京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『インクレディブル・ファミリー』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年8月2日放送分
映画『インクレディブル・ファミリー』短評のDJ's カット版です。

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アカデミー長編アニメ映画賞を獲得した『Mr.インクレディブル』のなんと14年ぶりの続編にして、ピクサー20本目という節目の作品です。キャッチコピーが端的でいいですね。家事、育児、世界の危機!
 
前作から14年も経ってるんで、ある程度独立した話かなと思いきや、前作の3ヶ月後を描いた地続きな続編です。単体としても楽しめますが、前作を復習しておくと、より入りやすいかな。

Mr.インクレディブル (字幕版)

スーパーヒーローたちの実力行使を伴う活動は危険すぎるとして法律で禁じられる中、スーパーパワーを持つボブたち「インクレディブル・ファミリー」は、一般人に紛れて日常生活を送っていました。そこへ、ヒーロー復活を願う巨大通信企業の経営者が登場。今一度、様々なメディアを駆使してヒーロー本来の意義を世間にアピールし、法律改正を目指そうじゃないかとボブたちを説得。ただ、ボブは力が大きすぎるということで、アピールのために白羽の矢が立ったのは、妻のヘレン、イラスティガール。ボブはといえば主夫として家事と育児を担当。わんぱく盛りの息子ダッシュ、思春期で難しい年頃のヴァイオレット、そして底知れない能力を秘める赤ん坊ジャック・ジャックの世話に悪戦苦闘します。
 
監督・脚本は前作に引き続き、ブラッド・バード。音楽も続投で、オスカー受賞映画音楽家マイケル・ジアッチーノが担当。僕は吹き替えで観ましたが、Mr. インクレディブルを三浦友和、イラスティガールを黒木瞳、娘のヴァイオレットを綾瀬はるかが演じています。
 
アメリカではオープニングの興行収入が、アニメ映画では歴代トップの約200億を記録するというロケットスタートとなったうえ、公開から約1ヶ月で、は5億4千万ドルなんで、約550億。5億ドルを越えたアニメは史上初です。日本では昨日公開になったばかりですが、どうなんでしょうかね。僕が観た回はかなり入ってる印象でしたよ。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

前作が、ヒーローものというジャンル自体の風刺をメインにした尖った展開で、「大人も」っていうより「大人こそ」楽しめるアニメとして高く評価されていたのに比べ、今作は特にディズニーの最近のメインテーマである女性の社会進出を前面に押し出して家庭内の描写も増やし、より広い層が楽しめる物語へと射程を広げてあります。
 
ヒーローとして全編に渡って悪と戦うのは、イラスティガール。これまでは主婦として控えめに生きていたヘレンが、よしここは私がヒロインとして出て行ったほうが、長い目で見れば社会と家族のためになるはずだと意を決してひとり出陣するところの強さにはグッと来ました。あのガジェット満載のバイクを乗りこなす様子は血湧き肉躍りました。セクシーで、知的で分別があって、いいぞイラスティガール!

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一方、「能ある鷹は爪を隠す」ってことが大事だと頭では分かりつつ、自己顕示欲と現実の狭間で悶々としているのがMr.インクレディブルです。ていうか、ボブです。彼が今回は家庭内でヒーローになろうとするんだけど、これがまあ大変。先週扱った『未来のミライ』でもこうした描写があったわけですが、腕白、思春期、乳幼児というバリエーションもあって、なおかつ妻への嫉妬も膨らんで、ボブがマジでやつれるんですよね。そこがいい。しかも、イラスティガールの活躍とカットバックで同時進行に見せるのが新鮮。ボブの人間としての成長と、それを見て悟った子どもたちが手に手を取る様子は、素直に家族って良いなと感じさせる効果を生んでいました。
 
一方、途中から能力者たちがわんさか出てきて、マーヴェルみたいになってくるのは楽しいっちゃ楽しいんだけど、正直なところ、もうこういう特殊能力は出尽くした感はありますよね。ただ、それは当然監督も織り込み済みで、サブキャラだってのもあるけど、彼らのかっこよくなさと未熟さを強調することで、これまたヒーロー風刺にしているのは良かったです。

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インクレディブル一家のスーツをデザインしている、あのちっこいエドナ。字幕版では監督自身が声をアテてることからもわかるように、デザインはこの映画の肝になっていて、60年代のスパイものを思わせるキャラクターと全体の画面作りは、今回も絶好調。キッチュとカッコ良さをすっきりした線で絶妙に同居させています。
 
実に良くできた本作ですが、脚本にはっきりとした弱点もあるので、最後に指摘しておきます。全体を覆う、ヒーローは社会に必要か不要かという議論があるんだけど、その結論が玉虫色なんですよ。今回の悪役となるスクリーンスレイバーは、テレビやらパソコンやら、僕らの身の回りのスクリーンをジャックして人々をマインドコントロールするんですが、その主張にはそれなりの妥当性があるんです。なるほど、一般人は自分で考えることをやめて、すべてを人任せ、ヒーロー任せにしてはいないか。それに対しての反論がはっきりとはないんですよ。ヒーローはこれを見ればわかるように特別な訓練を受けているわけでもないし、資格があるわけでもない。精神的にも未熟なところがある。しかも、力をコントロールしきれずに下手すりゃ被害が拡大することもある。やっぱりヒーローなんて要らないよとも思えるでしょ。敵の主張にロジカルに反論できていないから、最後まで見ても、ヒーローの行動がどうも行き当たりばったりな印象になっちゃう。次作があるなら、そのあたりはきっちりしてほしいところです。
 
ただ、やはりディズニー・ピクサーはさすがです。途中ダレたりせずに、一気に見させる群を抜いたクオリティーなのは間違いなし。この夏、幅広い観客を巻き込む大本命の堂々たる登場です。

ちょうど生放送を控えて短評を準備していたその時に、東京医科大学の入試で、女子受験生の点数を一律で減点していたという、開いた口が塞がらない報道に接しました。ディズニーは女性の社会進出を繰り返しテーマにしてるけど、やっぱりまだまだこういう作品は必要だわ! 残念ながら、そう思っちゃったしだいです。

 

で、イラスティガールの活躍を見ていると浮かんできたフレーズを歌うアリアナ・グランデ『God is a woman』をお送りしました。

さ〜て、次回、8月9日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』です。来たよ来たよ〜。我らがトムが帰ってきたよ〜! 今回のイーサン・ハントは落ちて落ちて落ちまくるそうな。4DXも楽しそう。て、考えたらインクレディブルのブラッド・バード監督は「ゴースト・プロトコル」の監督でしたね。いい繋がり。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!