京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『グランツーリスモ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 10月3日放送分
映画『グランツーリスモ』短評のDJ'sカット版です。

日本で生まれ、世界的人気を誇るゲーム「グランツーリスモ」に熱中するイギリスの青年ヤン・マーデンボロー。元サッカー選手の父親にまったく理解されないまま、レース関係の仕事に就きたい、できればレーサーになりたいという夢を抱き続けてきました。ある時、ゲームのトッププレイヤーから本物のプロレーサーを養成するGTアカデミーの存在を知ります。ヤンと、アカデミーを発足したNISSANの社員ダニ―、そして指導を引き受けた元レーサーのジャック。この3人を中心に、前代未聞の夢物語が幕を開けます。

第9地区 (字幕版)

監督は、『第9地区』のニール・ブロムカンプ。脚本には、『ドリームプラン』でアカデミー脚本賞にノミネートされたザック・ベイリンが参加しています。GTアカデミーを設立したダニーをオーランド・ブルーム、元レーサーのジャックをデビッド・ハーバー、そして主人公のヤンを『ミッドサマー』のアーチー・マデクウィが演じています。
 
僕は先週金曜日の夕方、MOVIX京都で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

自分がカーレース好きなんだなってことを思い知らされる作品でした。僕は知れば知るほどハマることが自分で目に見えているので、昔からむしろあまり観ないし、いつかの楽しみにと考えている間に、どんどんカーレースそのものもレースを取り巻く環境も変化してきているわけです。その最たるもののひとつが、今作が物語るGTアカデミーの存在です。劇中でもオマージュが捧げられ、カメオ出演もしている山内一典というゲームクリエイターが綿密にデザインして作り出した「グランツーリスモ」シリーズをプレイするゲーマーを、本物のレーサーに育て上げてしまうというもの。NISSANプレイステーション、そしてゲーム会社ポリフォニー・デジタルによって2008年から20016年まで、実際に開催されていたもので、今作の主人公ヤンは本当にプロレーサーになり、本作でもスタントドライバーとして参加しているし、共同プロデューサーでもあります。ものすごいことを考えますよね。これは映画では描かれないことですが、成果も残してきたアカデミーがなぜ終わってしまったのか。アジア大会でもeスポーツが種目になってきたように、リアルのカーレースとゲームの世界をクロスさせるという意味が、時代によって目まぐるしく変化しているからというのも、その理由のひとつでしょう。

Image : SIE
ともかく、そんな多くの人にとっては知られざるぶっ飛んだ逸話を映画化するにあたり、監督がニール・ブロムカンプなんで、もっと奇策に出るのかと思いきや、その個性は主にメカマニアであるという点に発揮されているばかりで、むしろハリウッドでの仕事ということでスポ根上等、負け犬たちが吠えながら駆け上がる物語として極めて王道の、ものすごく見やすい作りになっていました。僕もなんか自分でびっくりしたんですけど、中盤くらいからずっとウルウルきていて、最終的にははっきり涙を流しているし、ハンドルを握ってもいないくせに手に汗はばっちり握っているという状況。ご存知のように、カーレースというのは、チームスポーツです。レーサーを養成し、マシンを開発し、腕のいい監督と必要とあらば資金を大胆に投入するプロデューサー的な人がいて、メカニックが本番の縁の下の力持ちとして寄ってサポートする。今作では、ともに挫折経験のあるレーサーと元レーサーの監督を軸に、情熱と野心からチームを作った元「自動車ローン未払い取り立て人」であるプロデューサーや、レーサーの父親、ガールフレンド、そしてライバルとなるレーサーなど、うまく的を絞って深めた人物造形と心理描写によって、見応えのあるドラマになっています。もちろん、盛り付けや味付けは実話からしてありますが、その方向性と手法は実に手堅いものがあります。

Image : SIE
たとえば、主人公ヤンの夢を阻む要因というのがあります。それは、まず父親であり、ゲームのことを理解してくれない人々であり、監督であり、ライバルであり、時には運命でもある。そうした要素ごとに、情熱にエンジンがかかり、努力というアクセルを踏み、ゴールを目指すわけです。振り返ると、みんなその連続なんですよ。ヤンだけではなく、監督もプロデューサーも。特に監督は、かつて才能を高く評価されていたのに、物語のスタート時点で、文字通り車の下に潜り込むメカニックになっている。そんなみんなの再起の物語がクライマックスで合流して頂点に達する時、僕の涙腺も限界突破ということなりました。その意味で、スラムダンクとか、なんならトップガンとか、そういうジャンルにも通じると思います。シャンパンをいつ飲むかみたいな前フリも、わかっちゃいたけど、泣けました。

Image : SIE
王道の物語構造なので、映画として特に目新しいことはそんなにないとも言えますが、ゲーム画面をリアルな運転やレースシーンに反映させるような見せ方は面白かったです。一方で、レースはね、ガチャガチャとアングルを変えずにもうちょいじっくり見せてほしいところもありましたが、そうなると、もうブロムカンプ監督の資質とは違うものになるような気がしますけどね。ともかく、「王道の何が悪い!」と考えたい。傑作ではないかもしれないが、実に手堅く、鑑賞に満足のいった作品でした。
音楽的には、元レーサーのジャックがブラック・サバス好きで、現役のヤンがケニーGやエンヤが好きっていうギャップも楽しいところです。再生装置にも物語的な仕掛けがあって、僕はそこでもしっかりグッときてしまいました。

さ〜て、次回2023年10月10日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ジョン・ウィック コンセクエンス』です。シリーズは一通り観てきましたが、これで4本目ですよね。アクション映画のジャンルを更新するようなアイデアが盛り込まれてきた、その集大成となるのか。大阪が舞台ということもあるし、Rina Sawayamaが主題歌のみならず演技もしているとあって、もう既にテンションが上がっています。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッター改めXで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!