京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『カムバック・トゥ・ハリウッド』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 6月22日放送分
『カムバック・トゥ・ハリウッド』短評のDJ'sカット版です。

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70年代のハリウッド。映画プロデューサーのマックスは、新作がコケてしまい、資金を出していたギャングのレジーに金を払えず、窮地に陥っています。一発逆転を狙う彼は、往年のスター俳優デューク・モンタナを起用して、今度こそヒット作を作ろうというのではなく、実はデュークを撮影中の事故に見せかけて殺してしまい、その保険金で一儲けしようという魂胆ですが、果たして…。
 
監督と脚本のジョージ・ギャロは、デ・ニーロが主演した88年の『ミッドナイト・ラン』で脚本を担当して映画業界で名を挙げた人ですね。今回、忘れられていた70年代の作品『The Comeback Trail』をリメイクしました。集まったキャストがすごい。プロデューサーのマックスに、ロバート・デ・ニーロ。ギャングのレジーモーガン・フリーマン。デューク・モンタナにトミー・リー・ジョーンズ。どえらいことです。
 
僕は今回は諸事情ありまして、マスコミ試写で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

もうね、このアカデミー俳優の大ベテラン3人が、キャッキャウフフで絡みながら、多彩な顔と動きを見せてくれるだけで、それを100分ほど観られるだけで、僕はもう十分に満足なんです。デ・ニーロの困り顔、味をしめた顔、怒り散らかした顔、どれも最高です。地団駄を踏んだり、小走りしたり。そして、あの男の口車は、天下一品、口車の高級車、ロールス・ロイスですよ。もう、いちいち、ゲラゲラ笑えるんだもの。

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©2020 The Comeback Trail, LLC All rights Reserved
モーガン・フリーマンは一番の高齢80代で、動きは控えめではあるものの、そこは腰ぎんちゃくの若い衆2人とのいいチーム感を出していて、ドスの利いた声でマックスの家に立てこもったり、ボクシングのリングサイドにいたり、しっかり着飾ってレッドカーペットに現れたりと、おいしいところはしっかり持っていっています。
 
そして、最年少、といっても、現在75歳のトミー・リー・ジョーンズは、体を張っていますよ。なにしろ、デ・ニーロとモーガン・フリーマンのパイセン2人が殺してやろうと狙っているわけですから、演技にもますます身が入ったかどうかは知りませんが、デューク・モンタナは、もう、飛んだり跳ねたり、さぁ、大変。そして、彼が頑張れば頑張るほど、かっこよく映れば映るほど、物語的には笑えてくるという設定ですから、そこにコメディーとしての妙味があります。今度こそ、これは死んじゃうんじゃないか… そんなことはなかった! むしろ、かっこいい! ただし、マックスはひとり地団駄を踏んでいる!

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©2020 The Comeback Trail, LLC All rights Reserved
映画作りとは集団作業なわけですが、スタッフみんなで完成という同じゴールに向かっているはずなのに、ひとりまったく逆を見ていて、なおかつそれが責任者であるはずのプロデューサーだっていう、映画の中の映画、つまり映画内幕ものコメディーとして間違いなく面白い設定を用意してあるので、あとは多少詰めが甘かろうが、先の展開が読めてしまおうが、少々ご都合主義的だろうが、とにかく3人がいい顔してるんだから、四の五の言うのは野暮だと僕は捉えています。
 
映画業界もかつてはかなりインチキで、胡散臭くて、無茶苦茶なことをする人がいましたよねっていう、70年代のハリウッドを寓話的に振り返る映画ですから、そこへ実際に70年から活躍してきた3人がキャスティングできた時点で、もう8割がたOKですよ。そこで予算の多くを使っちゃってても、それでいいんです。なんなら、全体として、B級感が漂っているのも、僕には愛おしいくらい。
 
プロデューサーのマックスと、ギャングのレジーの会話を中心に、あちこちに張り巡らされた映画史的な小ネタもいい感じです。『サンセット大通り』『サイコ』『黒い罠』『明日に向かって撃て!』といった傑作の引用をしつつ、彼らがあれだけ常軌を逸していても、とにかく映画が好きなんだというのがわかる構成なんですね。それも愛おしい。

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©2020 The Comeback Trail, LLC All rights Reserved
実はこの企画、監督が少年だった70年代にひょんなことからラフカットのフィルムを目にしたことから始まっているんだそうです。つまり、当時一度撮影された物語なんだが、出来栄えはいまいちで結局お蔵入りしていて、その物語の骨格は面白いからと、いつか監督がやりたいと胸に秘めていたところ、物語の権利者と巡り合って実現したんです。まさに、死にかけた映画が、数十年の時を経て、当時以上の輝きとバカさ加減で甦った不死身のカムバック!  いつもはコーナーのシメに使うこの言葉を、もう言ってしまいます。映画って、本当にいいもんですね。
イーグルスのセカンド・アルバム『ならず者』は73年に発表されました。西部開拓時代をテーマにしたコンセプト・アルバムで、ジャケットには、西部劇のセットでメンバーが架空の映画の登場人物に扮しています。70年代のハリウッドを舞台に、公開されるはずのない映画を撮影する、ならず者プロデューサーの話には、ここからオンエアするのがいいかなと思いまして、アルバムを締めくくるDoolin-Dalton / Desperado (Reprise)をお送りしました。

 

さ〜て、次回、2021年6月29日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『いのちの停車場』となりました。いかにも感動巨編というコピーライトで攻めてこられても、僕はそうやすやすと涙など流しませんよ。でも、吉永小百合南野陽子広瀬すずが束になって出てきたら… どうなることやら! あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!