京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『ザ・サークル』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年11月17日放送分
『ザ・サークル』短評のDJ's カット版です。

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利用者30億人という、世界一のシェアを誇る巨大SNS企業サークル。大学を出てからも満足のいく仕事に就けずに地元でくすぶっていたメイは、サークルの幹部として活躍していた大学の同級生から中途採用の面接に誘われ、見事パス。ある事件をきっかけに、社内でカリスマ経営者ベイリーの目に留まった彼女は、サークルの新しいサービス「シー・チェンジ」のモデルケースに抜擢されます。これは、あちこちに仕掛けられた高性能の超小型カメラによって、自分の24時間をネット上に公開するというもの。メイは瞬く間にネットアイドル化し、1000万人以上のフォロワーを獲得するものの、プライバシーをめぐる事件が起こって… という、ネットワーク社会の相互監視をテーマにした作品。
 
メイを演じるのは、実人生においてTwitterのフォロワーが2500万人というエマ・ワトソン。経営者ベイリーには、トム・ハンクスが扮します。監督は、ジェームズ・ポンソルト。僕と同い年の39歳、まだ長編2本目の俊英です。これ、2013年にアメリカで出版された原作がありまして、作者はデイヴ・エガーズ。今回、彼も脚本に参加しています。トム・ハンクスがこのエガーズを高く買っている模様で、エガーズ原作の映画への出演は、『王様のためのホログラム』に続いて2度目ですね。
 
それでは、僕もしっかり劇場で監視してきましたんで、恒例の3分間の映画短評、今週もいってみよう!

なんかアメリカであんまり受けが良くなかったとかいう前情報もあるようですが、そうやってSNSでの評判を映画を観る前からチェックする行為そのものも、観ればためらわれてくるような、とても居心地の悪い作品です。
 
僕は今回の宣伝コピーがなかなかいいなと思ったんですよ。「『いいね!』のために、生きている。」なんて、やだやだ、そんなの。僕なんか死んでも言いたくないけど、楽しかったことを僕らはすぐさまSNSにアップしてますよね。なんなら、流行語大賞にノミネートしている「インスタ映え」なんて、もう「楽しかったこと」ってやつを演出して作ろうっていう現代人の承認欲求をまんま表した言葉なわけです。子どもの頃、誰しもが一度は言っているだろう言葉に「見て見て、こっち見て」ってのがありますが、それをバーチャルに肥大化させたのがSNSの存在意義のひとつなわけで、そりゃ居心地悪いですよ。極端なことを言えば、僕らはいくつになっても「誰かに見てもらいたい」し、キツい言葉を使えば「誰かに監視されたい」と、心のどこかで思っている。ただ、その潜在的な欲望を、徹底した技術力とシステムで、民間企業が実行した場合、そこにあんぐり口を開けるのは、ユートピアではなく、ディストピアかもしれないですよねっていうお話です。僕らはもうSNSを使わないっていう選択肢はないところまで、たった10年弱で来てしまいました。街中いたるところに監視カメラだってあるわけです。だからこそ、気味が悪いし、後味も悪い作品なんですよ。
 
ちなみに小説では映画以上に後味の悪い結末を迎えるようですが、今回のエマ・ワトソントム・ハンクスというキャスティングが僕は見事だったと思います。子役からトップ女優の現在まで、実人生を衆人環視の下で生きてきたエマと、泣く子も黙る名優としてデキた役をよく演じるトム。このふたりが、それぞれにそのイメージとギャップを活かせる役柄になっていたし、ここは作品を評価しない人もうなずけると思いますが、実際にとても好演しています。特に毎週金曜日に行われるサークルの定期プレゼンのシーンが良かった。ストーリーラインを文字でなぞるだけだと、「そんな飛躍ありえるのか!?」っていう展開も、あのうまいプレゼン能力でだまくらかされる感じは、今回の映画化の醍醐味と言えるでしょう。
 
サークルという巨大企業が、気づけば新興宗教のようになっていく、あの取り返しのつかなさ。その流れをポンソルト監督も適切なテンポで映像化していたと思います。惜しむらくは、心の闇をえぐり切れなかったところかな。各キャラクターの心の距離感はそこそこ見えたんですが、その虚無感までは可視化できなかったと言われても仕方がないでしょう。
 
ただ、最後に擁護するなら、あの幕切れは、もっと「ざまあみろ」なカタルシスを多くの観客は求めていたと思うんだけど、あえてそうしなかったこと、つまり、それこそ趣味のカヤックに乗っているメイの危ういバランス感覚が現代人そのものという風刺だと捉えれば、この映画のメッセージそのものという気がするので、僕はむしろ気に入っているところです。
 
観る価値はありますから! 評判なんてどこ吹く風で、SNSを使っている人こそ、観に行って考えてみてください。

リスナーの評を眺めていると、結構割れていまして、テーマはうなずけるんだけど、どうも脚本が詰めきれていないんじゃないかとか、肝心の技術の見せ方がどうなんだってつっこみたくなったという意見が多かったです。

 

確かに、あの小型カメラが出てきた時の、「こんなもんか!」感は否めないですね。でも、僕はその感じも含めて、「あり得そう」と思ってしまった口。脚本も、ところどころ、何かをすっ飛ばしたような一足飛びな展開が残念ではありました。がしかし! それでも僕はメイのストーリーにしっかり寄り添って観てしまいました。途中、サークル社の旗が日の丸に見えた時がまた恐ろしさ倍増でしたよ。

さ〜て、次回、11月24日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』です。気の遠くなりそうなプロセスを経て完成させたんだろうストップモーション、いわゆるコマ撮りのハリウッド・アニメは、まさかの日本が舞台! 字幕で観る? いや、吹き替えか? 迷いつつ、観たら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!  

 

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年11月10日放送分

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アメリカの一見静かな田舎町では、児童失踪事件が頻発していた。ある大雨の日、内気な少年ビルの弟も、近所の路上に大量の血痕を残して姿を消した。何とかできなかったのか。自責の念を感じていたビルの前に「それ」が姿を現し、以来彼は恐怖に取り憑かれてしまう。どうやら「それ」を目撃しているのはビルだけではないらしく、学校で日陰者として生きるいじめられっ子の友人たちも皆、それに遭遇していることが判明。彼らは夏休みを利用して、ビルの弟を捜索しながら、事件の全体像に迫るのだが…

シャイニング (字幕版) スタンド・バイ・ミー  (字幕版)    ショーシャンクの空に(字幕版)

 『シャイニング』『スタンド・バイ・ミー』『ミザリー』『ショーシャンクの空に』など、映画化作品に名作の多い作家スティーブン・キング。90年にアメリカでテレビドラマとして映像化された『IT』が、今回27年ぶり(この数字が物語内容と符合していて不気味!)に劇映画としてリメイクという流れ。

Mama (字幕版) 【Amazon.co.jp限定】シンプル・シモン(ポストカード付) [DVD]

監督はアルゼンチンのアンディ・ムスキエティ。やはりホラー映画の『MAMA』以来、これが2本目の長編作品です。予告でも出まくってるわけなんで言っちゃいますけど、「それ」aka不気味なピエロのペニーワイズを演じているのは、スウェーデンの俳優ビル・スカルスガルド。2010年の『シンプル・シモン』という、僕の好きな映画で主役シモンを演じたのが、主演デビューのはず。まだ公開中の『アトミック・ブロンド』でも、シャーリーズ・セロン演じるスパイの作戦を手引する東側のスパイとして好演していました。結構、イケメンなんですけど、見る影もないくらいにピエロになりきってます。文字通りの怪演!
 
それでは、映画を観終えて手元のスポーツウォッチを確認したら、明らかに心拍数が上がっていたホラーの苦手な男マチャオによる、恒例の3分間の映画短評、今週もいってみよう!
 
チャーリーとチョコレート工場』の原作で知られるロアルド・ダールという作家がいます。高校生の頃に英語の授業で読んでから好きになって、一時期ハマっていたんですが、『あなたに似た人』という短編集に入ってる『お願い』っていう短いお話があるんです。子供の頃に、横断歩道の線なんかを踏んだら、そこには蛇がいて噛まれるとか、逆に線を踏み外したら、深い闇に落っこちるとか、そういう妄想遊びをしたことがある人なら、絶対に面白く読める小説で、僕はこの『イット』を観ていて、途中からその『お願い』を思い出しました。要するに、想像力の問題。
主人公たちはみんないじめられっ子。ビルは吃音の症状があるし、ユダヤ教徒や、支配欲の強い母親のいる男の子、でぶっちょもいる。そして、紅一点のベバリーちゃんは父子家庭で、どうもその父親から性的な虐待を受けているっぽいし、おまけに学校でも町でも尻の軽い女であるかのように噂されてる。誰もが心に傷を負っているがために、自分だけの世界を構築して、そこをシェルターのようにしながら、それぞれに何か怖いものから逃れているわけです。そこへ現れるのが、問題の「それ」なんですね。
 
怖い絵が動き出したり、暗いところであらぬものを目撃したり。「それ」というのは、自分の恐怖が反映されたもの。ベバリーちゃんが最もわかりやすいです。男の気を惹くからと自分で切った髪の毛。そして、初潮を迎える時の血がストレートに反映しますからね。自分の怖いものをこそ、見てしまう。これは多かれ少なかれ、誰でも経験があるはずです。ただ、この話の面白いのは、「それ」の姿がある程度共通してクラウン、ピエロであると。普通なら、それぞれに違うものを見るはずなんだけど、なぜか27年ごとに起こる町の失踪事件のことや、仲間の弟や同級生が姿を消したこともあいまって、言わばコックリさん的に集団催眠のようにして似たような幻影を見るわけです。もちろん、大人には見えない。このあたりから、どれが幻影でどれが現実か、その境が無くなってシームレスになるから、ますます怖くなるわけですね。
 
いきなりビルの弟の腕が噛みちぎられたりして、グロテスクな描写もあるものの、全体としてはそこまで絵的に怖がらせることなく、あくまで心理的に攻めてくる演出で、それが物語のテーマとも合致しているので好感が持てました。すべて合理的に説明のつかないものだから余計に怖いわけで、それがホラー映画というジャンルの良さでもあるわけだろうから。
 
オリジナルのドラマを当時レンタルして観ている人もいるだろうから言っちゃいますが、今回の劇場版はこれ単独では終わりません。だから、あのクラウン、ペニーワイズの正体は明らかにはなりません。続きが再来年公開される模様なんですね。なので、消化不良気味なのは否めないんですが、僕はこれはこれとして楽しく観ました。『スタンド・バイ・ミー』や『グーニーズ』にあるような、はみだしっ子たちの連帯。『IT』という代名詞は、鬼ごっこの鬼を指す言葉でもあるし、性的な隠語という側面もあるわけで、受け皿の広い言葉ですよね。思春期特有の性への興味と恐怖が描かれる、チームでの成長・ジュブナイルものとして、爽やかにすら観られるパートもあって、実は間口の広い映画だとも言えます。彼らがどんな大人になるのか、30年後を舞台とするのだろうチャプター2が今から楽しみです。
 
あのデブッチョくんがヘッドホンで逃げ込んでいたのが、New Kids On The Blockの音楽でしたね。ポスターが出てくるとこの演出には笑いましたよ。

さ〜て、次回、11月17日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ザ・サークル』です。ただでさえ、SNSを意識しすぎているのが現代人なのに、24時間すべてを公開するとか、ほんとダメでしょ。それこそ、『IT』とは別の種類のホラーになるんじゃないの? なんて、あらすじを読みながら思いましたが、どうなんでしょう。あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!  

 

寿命が面白い!ーFM802やわか通信よりー

僕が毎週せっせと書いているFM802 Ciao! MUSICAの番組メールマガジン「やわか通信」で、先週(2017年11月3日)は『寿命図鑑』という書籍を紹介しました。生放送スタートと同時に登録者に無料配信している読み物ですが、この本を手に取ってもらう機会が増えますようにと、今回はこのブログに転載します。
 
ちなみに、やわか通信は各番組で配信されていて、基本的にはその日の番組内容をお知らせするものですが、僕みたいにエッセイ的な読み物をおまけとして付けているDJもいて、なかなか面白いですよ。登録はこちらからどうぞ→RADIPASSをはじめよう!
 
★★★
 
どうも、僕です。寿命が面白い! 野村雅夫です。
 
いきなり何の話だってことですけど、92年に出版されてブームを巻き起こした『ゾウの時間 ネズミの時間』って知ってますか? 簡単に言えば、身体のサイズが違えば、動くスピードも違うし、寿命も違って、果ては時間の流れる速さまで変わってくるんだという、目からウロコな本でした。
ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

 
あれから、24年が経って、昨年、『寿命図鑑』という本が出たんです。版元は、京都のいろは出版。先日、ひょんなことからその出版社の方と知り合ったことをきっかけに手に取ったんですが、これがまぁ面白いんです。
 寿命図鑑 生き物から宇宙まで万物の寿命をあつめた図鑑
図鑑と銘打ってはいますが、どちらかと言えば、科学書というよりは、可愛いイラストに気の利いた短い読み物が散りばめられた絵本です。
 
人間も、たとえば骨や赤血球、脳といったパーツごとに寿命をざっくり割り出しているし、さらには国・地域や時代ごとに分類してもいるので、寿命の捉え方がまるで変わってしまうことうけあい!
 
人も虫も無機物も天体も、いつかは死んでしまう。その「いつか」にフォーカスすることで、僕たち自身の命もそうだし、世の中の見方も変化してしまうかもしれない。
 
パッと数字だけ見て子供と一緒に楽しむこともできるし、キャプションを細かく読むことで大人が深く考える材料にもなる。オールカラーの大型書籍なので3000円ほどしますが、それこそこの本の寿命は長いので、自分や誰かへのプレゼントと考えれば、高くなんかない!
 
先週の放送で少し喋りましたが、今日から関西書店祭が始まります。僕の紹介する文庫2冊とその手書きポップが、関西一円50ほどの書店で展開されるとか。せっかくなので、追加してここでも1冊ご紹介しました。
 
そう言えば、今日続編を短評する映画『ブレードランナー』も寿命が大事なテーマだよなぁ。レプリカントの命は4年と定められていて… いかん、ブレードランナーのことまで書き出したら、いくら時間があっても足りない! 
 
それでは、現在38歳の野村雅夫が関西の三連休を末広がりに演出するCiao! MUSICA。今週もそろそろ始めチャオ!

『ブレードランナー2049』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年11月3日放送分
『ブレードランナー2049』短評のDJ's カット版です。

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1982年に公開され、映画のみならず、音楽、建築、ファッション、そして倫理など哲学的な分野に及ぶまで、多大な影響を与えた、まさにエポックメイキングな作品『ブレードランナー』。2019年のLAを舞台に、現実の社会問題を踏まえたディストピア的世界観(僕は気軽に使う言葉じゃないけど、ここは「世界観」としか言いようがない)を提示してみせたわけです。そこにはレプリカントと呼ばれる人間以上の能力を備えたアンドロイドたちが奴隷として過酷な労働をさせられているんだけれども、レプリカントにも感情が芽生えるようになって、人間様に歯向かう連中が登場した。そこで、ブレードランナーと呼ばれる警察の特殊捜査官が彼らを始末していたわけです。主人公はハリソン・フォード演じるブレードランナーデッカード。彼とレプリカントとの追跡撃を、フィルム・ノワールとして、陰気に、ハードボイルドに、それでもかっこよく描いてみせたわけです。

ディレクターズカット ブレードランナー 最終版(字幕版) メッセージ (字幕版)

監督はリドリー・スコット。『エイリアン:コヴェナント』の時に言いましたけど、79歳のリドリー祭りはもう始まっております。ただ、リドリー・スコット御大はプロジェクトを抱えすぎているので製作総指揮に回り、監督は『メッセージ』の記憶も新しいドゥニ・ヴィルヌーヴ
 
今回の舞台は、タイトル通り、オリジナルの30年後のLA。ブレードランナーのKは、郊外の農場で旧型の生き残りであったレプリカントを解任、要は処刑します。すると、そこにはレプリカントの遺骨が眠っていることがわかり、身元調査をすると、人間とレプリカントの関係を根底から揺さぶるような、ある疑いが浮上。Kの捜査はやがて、レプリカントとしての自分の出自にまで及ぶようになる。
 
Kをライアン・ゴズリングが、そしてハリソン・フォードデッカード役でバッチリ長時間出演しています。
 
と、基本情報だけでも語り始めるとキリがない『ブレードランナー2049』。核心に触れるようなネタバレは避けつつ、そろそろ、3分間の映画短評、今週もいってみよう!

まずもって、どう考えてもハードルが高い続編を、皆の予想を超える出来栄えで作ってしまっています。オリジナルのスピリットをこれほど継承して、なおかつテーマを深めたり、技術的にも前に進めたりしているという点で、完璧な続編と言って差し支えないんじゃないでしょうか。

 

ブレードランナー』が描いていたのは2019年という、言ってみれば再来年の話だったわけです。テクノロジーの飛躍的な進歩がある一方で、エネルギー問題と連動する環境破壊や食糧問題、グローバル化、そしてレプリカントという人間が生み出した新たなる奴隷との相克など、考えたくないけれど、現実の延長線上にありえる近未来をリドリー・スコットは見せつけた。でも、正直なところ、2017年に初めて『ブレードランナー』を観る人は、何度も焼き直された未来像なだけに、もはや新鮮には感じなくなっているわけですよ。

 

そこで、ヴィルヌーヴが取り組まなければならなかったのは、現実の2017年に我々が抱える諸問題を踏まえて、今から30年後にあり得そうな近未来を映像でポンと見せることです。あのLAが今度はこうなっているのかと、僕らに腕組みさせつつ、ワクワクでもゾクゾクでもいいけど、心を動かすこと。それができてるんだなぁ。LAの様子もちょこちょこ変化してはいるんだけど、ここはオリジナルファンへのサービスが多めというか、大胆には変えられない部分ですけど、今回眼を見張るのは、LAの外です。クラクラするほどおびただしく並べられた太陽光パネル。海水レベルが上昇して、LA居住区に流入しないように設けられた巨大な壁。住めなくなった地域に捨てられていく大量のゴミ。砂漠に飲み込まれ、放射能にも汚染されて放棄された娯楽産業都市。こうした悪夢的にシミュレーションされた未来を、バチッと決まった構図で不気味なまでに美しく見せます。さらに、とにかくオリジナルは画面が闇に沈んで暗かったんですけど、今回はその闇と雨にプラスして、雪の白、砂漠のオレンジも加わるもんだから、やっぱりゾッとする未来を見せてくれたぜ、スピリットを継承しつつアップデートしてるぜと気分が最高潮にアガります。今ここにある懸念の未来予想図がスクリーンにデカデカと映し出されるわけですからね。オリジナルを新鮮に感じなかった人でも、これならイケる!

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テーマも深まってます。オリジナルでは、レプリカントには無かったはずなのに育まれてしまった心が生み出す葛藤が問題でした。なぜ俺たちの寿命は4年しかないんだ。そして、愛情ですね。捜査官デッカードとレイチェルの間に芽生えてしまった愛情とその結果としての逃避行。さぁ、それが30年経ってどうなっているのか。デッカードは予告にある通り、登場するわけですよね。では、レイチェルは? ここで僕がやはりそう来たかと思ったのは、リドリー・スコットがエイリアン・コヴェナントで提示してみせたクリエーション、創造というテーマが重ねられるわけです。僕たち人間は、生まれ落ちて死ぬまでに、体験とその記憶を蓄積し、人によっては何かをクリエイトする。何かを後世に残す。では、AIにはそれはできないのか? してはいけないのか? このテーマがホラーと結びつくのがエイリアン前日譚3部作であり、ノワール・ハードボイルドに展開するとブレードランナーになるのではないか。リドリー・スコットがどこまで総指揮したのか調べきれませんでしたが、そこは彼の中で一貫しているように思いました。

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さらに、実は恋愛要素も今回はより深まっていて、より切なくなっています。仕事でくたびれ果てたKを癒やしてくれるガールフレンド、アナ・デ・アルマス演じるAIのジョイね。ホログラム的なもので肉体すらないプログラムだから、完璧な美貌と従順に寄り添うように仕組まれたただのプログラムなんだけど、どう見たって、もうあれは感情なんですよ。そんなジョイとKのシーンはどこを切り取っても切ない。特にあのラブシーンはですね、アイデアも技術も、こんなの見たことないという驚きに満ちていて、思い出すだけで悶絶!
 
なんてクドクド喋ってると理屈っぽい小難しい映画と思うかもしれませんが、感覚的に楽しめるエンターテイメントです。Kの来てる緑のコート、かっこいい。マジで買いたい。おなじみの空飛ぶ車スピナーがドローン付きになってる。乗ってみたい。それを観に行くだけでもいいです。まずオリジナルを観ないといけないのが面倒だと思うかもしれないけど、これは今劇場で絶対に観るべき、いや体験すべき作品です。

もちろんパンフレットは買いました。写真はもちろん、内容もなかなか充実しているので、オススメします。関連本としては、とりあえずオリジナルの凄さがわかるものとして、町山智浩さんの『ブレードランナーの未来世紀』(新潮文庫)と、ブレードランナーを皮切りに映画そのものについても深く考えてみたいという方向けには加藤幹郎ブレードランナー論序説』もプッシュしておきます(こちらは中古しかなくて5000円くらいするけど…)。慣れてないと読みにくいし独断もあるけど、面白いのです。

 
さ〜て、次回、11月10日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』です。このコーナーへのTwitter参加常連組にして、最近映画ライターデビューもされた@eigadaysさんがこんなツイートをしていました。「私はホラー映画は大好きですが、苦手な人はこれは相当怖いと思います。ジェットコースターが嫌いな人がフライングダイナソーに乗るようなものです。心して映画館に行って下さい」。今週の『ブレードランナー2049』は長尺だったから、鑑賞にあたって水分摂取を控えましたが、来週は失禁を未然に防ぐ意味でカラッカラで臨みたいと思います。てか、失禁じゃなくて失神せんようにせんと。あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!  
 

『アトミック・ブロンド』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年10月27日放送分
『アトミック・ブロンド』短評のDJ's カット版です。

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1989年。壁とともに冷戦が崩壊する前夜のベルリンを舞台に、女スパイ、ロレーン・ブロートンの活躍を描きます。当時のベルリンでは、実際にイギリスMI6、アメリカCIA、ソ連KGB、そしてフランス、もちろん東ドイツなど、各国の諜報機関に属するスパイが、開拓時代の西部よろしく、半ば野良犬化して独自の動きをするなど、それぞれに暗躍する混沌とした状況だったと言われています。主人公のロレーンがMI6から命じられたのは、失われた各国のスパイの名前が記されたリストを奪還することと、二重スパイが誰かを突き止めて始末すること。全身の生傷が癒え切らない状態のロレーンが、上司に任務の報告をするために回想して映画はスタートします。
 
ロレーンを演じるのは、『マッドマックス 怒りのデスロード』や『ワイルド・スピード ICE BREAK』などで乗りに乗るシャーリーズ・セロン。実は彼女、製作も務めています。他に、ジェームズ・マカボイやソフィア・ブテラなどが出演。

マッドマックス 怒りのデス・ロード(字幕版) ワイルド・スピード ICE BREAK (字幕版)

監督は、僕が最初にこの人の名前を見た時にデヴィッド・リンチと間違えたデヴィッド・リーチ。もともとはブラッド・ピットの影武者をするスタントマンで、アクション演出のスペシャリストとして自ら会社を起こしてですね、そのチームが『マトリックス』やら『ハンガー・ゲーム』やら『ミュータント・タートルズ』やらものすごい数の話題作に絡んでます。キアヌ・リーヴス主演でフレッシュなアクションが人気を博した『ジョン・ウィック』ではついに共同監督をして、今作で単独初メガホン、さらにあの『デッドプール』の続編も監督するという… デヴィッド・リーチ、恐るべし。
 
原作は2012年に発売された“The Coldest City”というグラフィック・ノベルなんですけど、なぜか翻訳がどこからも出ていないのがとても残念です。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もいってみよう!

最初に断っておきますが、観終わったその時に、いや、もう観ている途中でも、これは今年屈指の1本だと確信しました。込み入ったスパイ・ミステリーとして周到に練り上げられた複雑な脚本に合わせるように、この映画を構成するありとあらゆる要素が細かく計算・調整された力作なのは間違いありません。
 
色使い、特に接近戦を中心にした見せ場だらけのアクション、ファッション、サントラ、演技、編集、照明、時代考証、ロケ地やセットからタバコ1本にいたるまでの大小さまざまな道具立て、などなど。どれを取ってもじっくり語れる、いや、語りたいくらい情報量が多いというのは、嬉しい悲鳴です。
 
中でも僕がとりわけ評価したいことをいくつか挙げていきましょう。
 
まずは、古臭くなっていたスパイ映画というジャンルに、目新しさと古き良き手法の両面から新しい息吹をもたらしたこと。同じMI6所属ということで女性版007なんて言われてますけど、セックス・アピールも含め、ボンドやイーサン・ハントがやりそうなことを女性がしているっていうだけじゃなくて、ダニエル・クレイグトム・クルーズだって顔を青くするだろうレベルのアクションを自らこなしてしまうわけですよ。ポーカーフェイスでワイルド、氷のようにセクシーだけど、男性に一切媚びない。こんな女スパイは見たことないです。

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そんなロレーンが蠢くのが壁崩壊前夜のベルリンというのが絶妙で、駆使するのが、電話、盗聴器、時計といったアナログなアイテムだから盛り上がるんですよ。これがジェイソン・ボーンなら、あちこちに監視カメラはあるし、GPSですぐ追跡されるし、最近のスパイものはスマホで何でもできちゃうのが仇になってたんですよね。でも、こうしたアナログなものは、ただ懐かしいから出してるんじゃなくて、どのアイテムも使い方や見せ方にひとひねりしてあるから、ちゃんと新鮮に感じられるんです。その結果、まだスパイものでやれることはあると証明してみせたのがすばらしい。
 
今は知りませんが、当時のスパイには、薬物やアルコールに依存している人が多かったようですね。社会や家族からも孤立していたり、放っておいても早死にしそうだから使いやすいという恐ろしく合理的な理由で当局が好んで起用していたそうですが、そんなスパイの孤独、ゲーム性を楽しめてしまう狂気、不安と冷たさが、各キャラクターにそれぞれ違う塩梅でまぶされていました。その文字通りの色分けも印象的でしたね。冷静と情熱や資本主義と共産主義、さらには男と女など、多くの対立要素が色分け、そして色を混ぜることで画面でも表現されているんだけど、面白いことに、僕らを欺くミスリードも仕掛けてあるんですよね。わかりやすいのは、お酒。ロレーンはMI6のはずなのに東側ロシアのウォッカを飲んでる。仲間のパーシヴァルは逆に西側のバーボン。これいかに、みたいなね。
 
初めの方でMI6のチーフが「誰も信じるな」とロレーンに指示しますが、これは僕ら観客に向けられたセリフと考えてください。途中、東ベルリンの映画館での追跡&アクションシーンが出てきます。そこで上映されてる『ストーカー』の意味も考えたいんだけど時間がない! ともかく、そのシーンでは、上映中のスクリーンをバックにキャラが動き、やがてはスクリーンが裂けて人が飛び出すんです。そして、不意にアップのカメラ目線で語りかける人物が誰とは言いませんが出てくる。ていうか、そもそも、この話自体、すべてはロレーンの回想じゃないか… あの尋問室のマジック・ミラー越しみたいな安全圏で映画を僕らが観られると思って油断していたら、あなたも騙される。そういう作りと演出になってます。
 
と、かいつまんでみても、7分半に及ぶあのワンショットに見せかけた驚愕の戦闘シーンには一切触れてません。ていうくらい濃密な映画です。映画ファンなら何はさておき黙って109に行ってほしいし、映画は年に何回かしか観ないって人がこれを観に行ったら、もっと映画を観たくなるんじゃないかと。

この曲は2度使われていましたが、2度目の場面の辛いこと辛いこと。ああ、音楽を聴くことの自由がこんな形で奪われていたのかとシンボリックにうまく描いていました。最近だと、サントラが凄かった映画に『ベイビー・ドライバー』がありますが、今指摘した場面なんかは、音楽を聴く行為そのものに評言的で、さらに上を行ってるなと唸りました。ま、どっちが上とかそういう問題じゃないんだけど、とにかく感心しました。

 

アトミック・ブロンド』がどんどんヒットして、もっと上映館が広がることを願ってやみません。

さ〜て、次回、11月3日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ブレードランナー2049』です。来ちゃったよ、ヘビーなのが。あの名作を見直しつつ、ウェブサイトで公開されている、前作と今作の間を埋める公式短編作品にも目を通しつつ、心して鑑賞してきます。あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!  

『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年10月20日放送分

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SF映画の金字塔、1968年の『猿の惑星』の前日譚として2011年にスタートした今回の3部作。『創世記(ジェネシス)』『新世紀(ライジング)』に続く完結編です。認知症の特効薬の実験中に発生した猿インフルエンザが蔓延し、人類が極端に少なくなった世界。高度な知能と言語を獲得した猿と人類の全面戦争が勃発。それから2年。猿のリーダーであるシーザーが率いる群れは、専守防衛に徹して森の奥深くで暮らしていました。ある夜、人間側の大佐の奇襲を受けて妻と息子を殺されたシーザーは、仲間たちを安全な場所へ移動させる一方、少数精鋭グループで、大佐への復讐の旅に出ます。道中、口のきけない人間の少女なども加わり、ついにシーザーは大佐の本拠である要塞にたどりつく…
監督は、前作に続いてマット・リーヴス。『クローバーフィールド/HAKAISHA』の監督ですね。CGは猿の毛並みまで含め、この3部作においても進化をしていますが、その動きはモーションキャプチャーがさらに微細な筋肉の動きにまで対応したパフォーマンスキャプチャーで人が演じています。シーザーを演じるのは、パフォーマンスキャプチャー界の巨人アンディ・サーキス。演技でのアカデミーを獲る可能性もあると噂されているし、僕はそうなると良いなと思ってるくらい。
 
ちなみに、Ciao! MUSICAでは、3年前の9月に前作を扱っていて、僕は「脚本の教科書に採用したいくらいによくできてる、今年屈指の作品だ」と評していましたが、今回はどうか。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もいってみよう!

前作の『ライジング』は、戦争発生のメカニズムを確かな説得力で描いてみせていましたが、今回はその戦いがどう収束して、あの『猿の惑星』へとゆるくでも繋がるのか。ストーリーの燃料は復讐です。大きな戦闘というより、小競り合いがもうずっと続いている状態。すると今度は復讐、報復という概念が登場するわけです。
 
これまで、Think before you act. 「行動する前に考えろ」と発言していたシーザーですが、妻子を殺され、今度ばかりは冷静さを保ちきれません。かつて猿同士の内戦の引き金を引いてしまったコバのことを、うなされるように思い出しながら出した結論は、リーダーとしての自分と個人としてのシーザーを切り分けること。仲間の安全を確保しつつ、単独で敵討ちに出かけようとしますが、仲間は放っておかない。旅が始まると、ひょんなことから人間の少女を助けますね。彼女の存在がこの復讐の物語の鍵でした。猿たちに溶け込み、口はきけないけれど、猿語の手話を体得する少女。やがてはお話のゴール、つまり復讐対象の大佐とシーザーの戦いに期せずして関わっていきます。
 
復讐がストーリーの燃料なら、テーマは共生じゃないでしょうか。大佐は猿を排除しなければ人間の未来はないと思ってる。さらに、ある種の人間も排除しないとダメだと決め込んで要塞を築いている。猿と人間双方を敵に回して排除を企み、一部の純粋な人間だけで生き残ろうとした結果、皮肉にも人間らしさを失っている。猿たちの強制労働の場面もありましたけど、明らかにファシズムでしたね。他方、シーザーたち猿には種類としても色んなのがいるし、助け合っていて、人間の少女まで匿う。最終的にどちらが生き残ることができるのか。それはこの3部作が前日譚なので、もう結論は出てますね。「猿の惑星」が誕生するわけです。ただ、最後のあの出来事にはご都合主義を感じる向きもあるかもしれませんが、僕はこう捉えました。文明を軽く凌駕する自然の脅威というものがあるのだと。
 
豊かな映像運びにも触れておきましょう。前回に続き、スタートから本題に入るまでの手際が良かったなぁ。あの熱帯雨林での人間と猿のゲリラ戦パート。泥沼化したベトナム戦争を描いた『地獄の黙示録』を連想する人は多いはず。そう言えば、大佐の存在も『地獄の黙示録』のカーツを彷彿とさせました。復讐の旅に出ていくところは、仲間が増えていくRPGのような冒険でしたが、映画ジャンルで言えば西部劇です。途中、『アナと雪の女王』でエルサが閉じこもってる雪の城みたいなとこが出てきたのはとりあえず脇へ置くとして、あのバッド・エイプと合流してから、今度は薄くコミカルな味付けの脱出劇になっていきますが、あれはどうしたって『大脱走』でしょう。そして、あの檻の中での一連のシーンは、磔描写もあったように、これまた何度も映画化されているキリストの物語を思い出してしまいます。邦題は聖戦記でしたよね。聖書からの引用もありつつ、だんだん宗教性を帯びていくんですよね。このように、既存の映画を下敷きにしているからこそ実現した豊かな映画作品だと言えます。

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三部作を貫いているのは、恐怖にかられて視野の狭くなった人間の愚かさが生む戦いの悲劇でした。恐怖を利用して権力を握った者が何をしでかすか。ひとたび戦争が始まれば復讐の連鎖も始まるのだということなど、SFでだからこそ成立する現実との程よい距離感で諭してくれるリブートでした。
 
でも、あの68年の名作の舞台となる時代まで、この前日譚から2000年が経過する計算です。その間、地球に何があるかはわかりませんが、人間と猿がもしかすると共生できるかもしれないという希望の予感はありましたね。三部作のシメとして、悲しみを希望の光が包むすばらしい形だったと思います。
 
Think before you act. あさっての選挙もそうですね。行動する前に考えろ。有権者も政治家もそうです。

さ〜て、次回、10月27日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『アトミック・ブロンド』です。シャーリーズ・セロンの新たな代表作となるか。僕好物のスパイ物ということで、かなり楽しみにしております。あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく! 

『ナラタージュ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年10月13日放送分
『ナラタージュ』短評のDJ's カット版です。

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洋画配給会社に務める20代の女性、泉。ある雨の夜、彼女は過去を思い出す。大学2年生の春、高校時代の恩師、葉山から一本の電話がかかってきた。それは、人数の足りない演劇部の卒業公演に参加してくれないかという依頼だった。葉山と過ごした日々や卒業式のできごとを大切に胸にしまっていた泉だったが、再会によって気持ちがまた募り始める。
 
泉を有村架純。葉山を松本潤。そして、泉に恋心を抱く男子大学生の小野を坂口健太郎が演じます。

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 原作は、若きヒットメーカー、女性作家の島本理生。監督は、行定勲。多作だし、もうすっかりベテランって思い込んでましたけど、まだ49歳。熊本出身で、中島ヒロトさんと同い年。作品に合わせて自在な画作りをされる方と言えるでしょう。代表作と言えるヒットがまた結構あるんですよ、これが。『GO』『きょうのできごと』『世界の中心で、愛をさけぶ』『北の零年』あたりかな。僕も好きな作品もありますし、監督にはこの番組に出ていただいたこともあるということで、思い入れもあるんですが、それはそれとして、しっかりと僕も観てまいりました。

 
それでは、観終わった後、いつも必死に回想して練り上げる3分間の映画短評、今週もいってみよう!

まず明らかにしておかないといけないのは、『ナラタージュ』という言葉の意味です。一般には使われませんが、映画や演劇の専門用語で、語りを意味する英語narrationと、編集を意味するフランス語montageを組み合わせて作られた言葉。登場人物のひとりが語り手となって物語を展開していくという手法のことなので、多くの場合、現在から過去を回想する形式となります。
 
この話は、タイトルにそのナラタージュを採用しているくらいだから、当然のように、主人公は回想します。泉は現在はOL。大学2回生の頃を思い出し、その中で、さらに高校時代を思い出すという、入れ子構造の回想になっているわけです。なので、時間が行ったり来たり、目まぐるしく変化します。これって、小説よりもよっぽど映画向きというか映画っぽい表現なので、行定監督が目をつけるのもよくわかる。
 
ただ、思い出すと言っても、せいぜい10年以内のことで、役者たちや景色がガラッと変わるわけではないので、監督はコントラストをつけるために、いくつもの仕掛けを導入しています。大きく分けて3つの時間には、それぞれライティングやレンズを使い分けて、映像的な差別化を施してます。思い出してもらうと、過去は明らかにソフトフォーカスで淡くなってましたよね。
 
それから、ラックフォーカスと言われる手法ですが、ワンショットの中で、ピントを手前から奥に合わせ直すようなことや、定番のスローなんかも要所でしていて、ケレン味のある、「今映画を観ているなぁ」と実感できる力の入った見せ場も多く用意していました。
 
登場人物の心情や関係性、時間・場所を代弁してくれるようなモチーフもたくさんありましたね。泉は雨をきっかけに思い出すわけですが、雨、海、運河、シャワーなどの水。葉山の髪の毛。花びら。ビクトル・エリセの『エル・スール』や成瀬巳喜男浮雲』などの映画引用。演劇部の話でもあるので、当然ながら、劇中劇のシェイクスピア真夏の夜の夢』。そして、小野くんが作っているという靴。葉山の懐中時計などなど。時にはあからさま過ぎてどうもなぁという、観ているこっちが照れるようなモチーフもありましたけど、そもそも映画向きの話なんだから、セリフよりも映像で語るぜっていう意志が感じられて好感が持てるし、概ねどれも思惑通りの効果を上げていると思います。

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がしかし、僕はのめり込むほど熱心には観られませんでした。感情移入しにくいって人がいるようですけど、僕は感情移入ばかり求めるのはどうかと思ってるぐらいなんで、理由はそこじゃない。泉と葉山がどうしようもなく惹かれ合ってしまったと打ちのめされるだけの裏付けがほしかったんですよ。裏付けはあるっちゃあるけど、そこに心血を注いで、「こりゃ無理だ」っていう説得力ある裏付けで観客をガツンと食らわせないことには、2時間20分のドロドロ心理劇をダラダラだと感じてしまう人がいてもしょうがないです。特に泉と小野については、この恋愛は不可抗力なんだってことを伝えてほしかった。ひとつひとつのエピソードには頷けはするけど、もっとヘビー級のパンチでないと… 恋愛の不可逆な感じ。泉が恋愛の沼に引きずり込まれるような場面を前半に持ってきてほしかった… もっと言うと、行定監督に脚本も書いてほしかったかな。脚本と演出が、野球で言うところの「お見合い」をしちゃって、ボールが間でポトッと落ちちゃったような印象だったのです。
 
とはいえ、役者たちも好演してます。坂口健太郎なんて素晴らしい。評価しきれないけど、好きな作品になりました。特に観終わってから、映像が今もフラッシュバックします。そんな魅力ある画面に、あなたも向き合ってください。

リスナーからの指摘もありましたが、泉の勤務先がシンカという、僕(京都ドーナッツクラブ)が普段からやり取りしている配給会社だったり、小野くんが泉に渡す手土産が京都北山マールブランシュ(Ciao! MUSICAのスポンサー)だったり。『ナラタージュ』の親近感は半端なかったです。冒頭で大きく映し出されるポスターは、イタリア映画『これが私の人生設計』でしたね。これ、僕、大好き! 泉の人生とうっすらリンクさせようってことなのかしら。

 

さ〜て、次回、10月20日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』です。なに〜!? シーザーの妻子が殺されるだって!? 僕はあらすじを読んだだけで青筋を立てていますが、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく! あ、今回のシリーズの復習はサラッとしておいたほうが良さそう…