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京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年5月19日放送分

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MCUことマーヴェル・シネマティック・ユニバースのシリーズにおいて、最もダメな奴らがヒーローになってしまう、たった1作で一気に超人気作に躍り出た『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』がリミックスとして帰ってきました。

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(字幕版)

スター・ロードを名乗るピーターをリーダーに、銃器を容赦なく撃ちまくる口の悪いアライグマのロケット、怪力巨漢スキンヘッドのドラックス、セクシーなナイフ使いガモーラ、そして忘れちゃいけない最終兵「木」のグルート。この凸凹軍団は、あれから宇宙の平和を守りつつ、ちゃっかりあくどいこともしながら活動中。今回もとある依頼を受けて怪物と戦った後、アライグマのロケットが余計なことをしでかしたおかげで、とんだ騒動が勃発。そこにピーターの父親を名乗る男エゴが現れ、やがて銀河全体の命運がかかった恐ろしい出来事が動き出してしまいます。
 
監督・脚本は前作に引き続き、ジェームズ・ガンクリス・プラット他主要キャストが続投する中、カート・ラッセルシルヴェスター・スタローンなど大御所が演じる新キャストも登場して、いっそう華やかに物語が展開します。
 
それでは、制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

前作でですね、まだそこそこの大木だった樹木型ヒューマノイドのグルートが、唯一話せる言葉“I’m Groot”を変化させて“We are Groot”って発言したのを覚えているでしょうか。あれこそがこのロクデナシどもが本当のチームになった、いや、家族になった瞬間でしょう。つまり、今回はガーディアンズが仲間を越えて疑似家族の絆で結ばれてからのお話。グルートはどうなったか。予告にも出ていたし、最終兵「木」としても登場していましたが、あの後ベイビー・グルートとして生まれ変わりました。そして、準主役級にスポットが当たってます。これがまず大正解。オープニングで、ガーディアンズがソヴリンという星から依頼を受けて、その動力源である特殊な電源を、タコと恐竜が混じったような、ロケット曰くブサイクな怪物から守る任務に就いている。前回家族になったんだから、みんな力を合わせると思うじゃないですか。どっこい、それぞれに口だけ達者で好き勝手な戦い方するんだよな、これが。口喧嘩してるし。でも、そんな中、実は最も我関せずなのがベイビーグルートで、みんながそれでも必死に戦っているのを尻目に、ピーターが持ってきたPAで音楽を鳴らして踊ってる。その楽しそうな裏では壮絶な戦い。それをしかも長回しでカットを割らずに見せてしまう。無駄っていう(笑) この笑いなんですよ。このテイストなんですよ。

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そもそも、ガーディアンズはスペース・オペラの伝統と70年代のセンスいい音楽、そしてしょーもない会話を掛け合わせた発明だったわけですけど、今回はそのどれをもバージョンアップさせています。選曲は今回も文句なし。そして、会話もさらにアホなことになってます。前回よりも僕が好きになったのはドラックス。ワイルド・スピードに出てきそうなあの風体で天然。そして、ゲラ。彼のバカでかい笑い声を聴くだけ楽しい。ドラックスのワイルド・スピードっぽさが気になってくると、今度はベイビーグルートの声をヴィン・ディーゼルが演じていることが思い出されてきまして、また笑いが増幅されてしまいました。
 
こういう小ネタ満載の脚本って、くだらなく見えて、実はすごくセンスがいるんですよね。ドラックスの乳首ネタなんかも(ていうか、その笑いのほとんどが)小学生レベルに見えて、差し挟むタイミングとかずいぶん奇をてらってるし。でも、その一方で、脚本の強度を上げるために、ガン監督はピーターの父親との再会という、こういうSFものでは特に鉄板の要素を盛り込んできたわけです。ここはやっぱり手堅く安全に行こうって感じかなと油断していると、ここにもひねりを入れてあるのは観た人ならわかること。偶然にも先週の『追憶』に続いてですけど、自分の力ではどうしようもない血の繋がりが絶対なのでは決してなく、それを時に上回る絆を人間は結ぶことができるし、そこにこそ人の情が宿るのだというメッセージが込められています。ここがもちろんハイライトなだけに、語れないのがもどかしいんだけど、まあ、そういうことです。まさか最終的に泣かされかけるとは思ってもみなかったですよ。そして、また浸らせる間もなく、笑いを入れてくる。しかも、凄いのは、同様の主題をガモーラの出自にも当てはめていて、これがうまくバリエーションとして機能してる。みんなにしっかり見せ場があって、泣かせたかと思いきや、すぐさま矢のように笑いが飛んで来る。そのバランス感覚もすばらしい。正直に言って、マーヴェルで僕は一番好きです。
 
ただ、さすがに今回の悪役は強すぎませんかね。脚本の改変をして、よりわかりやすくしたということですが、さすがにパワーのインフレが進みすぎていて、最後は絵的に何が何だかってなってしまってます。でも、そんなもんですよ、言いたいことは。

ガジェットも前回からさらに工夫して面白く見せているし。選曲はセンスだけじゃなくて、物語を歌詞が補強するような当て方をしてる。そして、何より、カセットテープや再生機材を壊した奴はただじゃおかないぞというのが、一音楽ファンとして嬉しいし笑える!
 
さて、次回以降、MCUの他のシリーズと交錯するのがちょっと心配ではありますが、それもうまくやるんだろうと高をくくってしまうくらい、僕はガン監督を信頼しています。

さ〜て、次回、5月26日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『メッセージ』です。2週連続SFですが、毛色はまったく違いますよね。そして、前評判がこちらも相当高い。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

 

『追憶』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年5月12日放送分
『追憶』短評のDJ's カット版です。

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1992年。親に捨てられた3人の少年。能登半島の喫茶店を営むカップルに可愛がられながら暮らしていたところ、とある事件をきっかけに、二度と会わないことを誓います。時は流れて現在。富山県警の刑事となった少年のひとり四方篤は、東京でガラス店を営みながらほそぼそと暮らす幼馴染川端悟と再会。ところが、彼はその翌日に漁港で刺殺体となって発見される。捜査が進むにつれ、悟はもうひとりの幼馴染、現在は建設業に精を出す田所啓太と秘密裏に会っていたことがわかる。
 
殺人事件のミステリーを軸に長年のトラウマを浮かび上がらせ、その傷と向き合う残された者たちの姿を描く作品。『鉄道員(ぽっぽや)』など、高倉健主演作を中心にタッグを組んできた降旗(ふるはた)康男監督84歳と木村大作撮影監督77歳が9年ぶりのコンビのもとに、日本を代表する俳優たちが集いました。岡田准一小栗旬柄本佑(えもとたすく)、安藤サクラ長澤まさみ木村文乃(ふみの)、吉岡秀隆

鉄道員(ぽっぽや)

それでは、映画館でお客さんと観た作品をいつも追憶しながら原稿を書き上げる制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

映画館で予告編を観ていて、正直なところ、「これはキツそうだな」と思っていた僕です。降旗監督の演出はさすがにもう時代にフィットしないんじゃないだろうか。予告編で役者が気持ちを叫んでる映画ってどうなの? これを短評となると辛そう。と思っていたら、先週お告げが下ったので、「マジか。こりゃ久しぶりの進撃か」と心配することしきりに観てきました。ところがですね、僕はこの作品、結構気に入ってしまったんです。予断は良くないっていう良い例ですよ。
 
理由ははっきりしていて、絵作りです。脚本はテレビの2時間ドラマのようだと言われると、反論するトーンが弱まってしまうけれど、木村大作が撮影した映像は、そのほとんどがスクリーンサイズで観るべき迫力を備えていて、圧倒的に美しい。北陸の自然描写は、あんなもん、そこらのカメラマンでは撮れないです。それだけでも映画館に行く価値がある。そして、僕が感心したのは、雨です。少年が親に置き去りにされた後、安藤サクラが彼に手を差し伸べるところ。土砂降りなんだけど、あんなにまで見事に降りしきっている雨を、僕は久しぶりに観ました。雨をどう演出するか。僕は映画を観る時のひとつの基準にしていまして、これには思わず見惚れてしまいました。それから、たとえばビルの屋上で四方篤が先輩刑事と話す時のズームを使った切り取り方。固定カメラと手持ちの割合のバランス。確かに古臭いと言われればそれまでだけど、僕に言わせれば、変に今の撮影や編集の流行りをなぞって見た目だけは今っぽい3流演出よりもよっぽどいい。大御所演歌歌手がEDMサウンドをバックにしても失敗する可能性のほうが高いわけで、自分のメソッドを信じて貫いている降旗木村コンビの姿勢を全否定するのはどうなんだと。そりゃ僕だってさすがに音楽はやり過ぎかなとか、合成は今ならもうちょっとやり方あるでしょうとか、時にあまりに古色蒼然としてるから笑っちゃうところもあったけど、とはいえ、おふたりならではのケレン味としてそこも楽しめました。
 
役者陣も演出の凄みに応えようという意気込みが伝わってきて良かったと思います。一方で、後半にかけて新事実が明るみに出てくるに従い、僕は脚本も演出も普通になっていったと感じてしまうし、感動させようという意図が前に出過ぎたかなという印象も拭えません。ただ、これを誰とは言わないけど、最近のヒットメーカーと言われる監督が担当したら、下手するともっとエモーショナルに持っていく可能性もあるんだよな。全体としては、物語の省略の仕方も、その時々で出す情報量の調節も手堅くまとめられていて、僕はすんなりと引き込まれました。だらだらせずに、99分という尺にまとめてるし、何よりオリジナルストーリーっていうのが良いです。たとえ、イーストウッドミスティック・リバー』と構造がそっくりと言われようと、少なくとも北陸ならではの映画になってたので、あんまり気にしなくていいだろうと。

ミスティック・リバー (字幕版)

これを観ると、血のつながりがもたらす喜びとその裏腹に血によって背負わされる宿命について思いを馳せてしまいますね。親を選べない子供の無力。それでも、人間は血のつながりを超える絆を持てるはずだし、むしろ社会的な枠組みや手続きに則(のっと)らなくったって家族というか家庭を築けるのだという感慨を抱けました。現在パートの安藤サクラの肌ツヤが良すぎて、いやいやいや若すぎるでしょってなったけど、映画冒頭の彼女の形相とラストの神々しいまでの穏やかな表情のコントラストから、人が人を本気で想う時の強さと、時を経てトラウマを人がどういなしていくのか、食い入るようにスクリーンを見つめたのは僕だけではないでしょう。
 
昔と違って、今は家族よりも個の時代だから、余計に時代遅れに思えてしまう感じもあるんだけど、いつの時代も家族はままならぬものです。一度でも家族や親戚に翻弄されて歯を食いしばったことのある人なら、ある程度自分に引き寄せて、そしてほとんど失われてしまったフィルム撮影の美しさと緊迫感に陶酔することができると思います。

この映画のサントラは、よくできてるんだけど、ちょっと出来すぎていると感じる人がいるのもうなずけるぐらいです。歌詞のある曲はそぐわないのは百も承知で、僕が洋楽で主題歌を選ぶなら、これかな。邦題は追憶にしてもいいくらい。


さ〜て、次回、5月19日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』です。宇宙の負け組寄せ集めヒーローたちが、今回はどんな戦いを繰り広げるのか。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

 

 
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『ワイルド・スピード ICE BREAK』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年5月5日放送分
『ワイルド・スピード ICE BREAK』短評のDJ's カット版です。

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2000年の第1作『ワイルド・スピード』(原題:The Fast & The Furious)から始まった破天荒なカーアクション映画シリーズもこれで8作目。メインキャラのひとりブライアンを演じてきたポール・ウォーカーを前作「SKY MISSION」で失いながらも決してスピードを緩めることなく、いや、むしろさらにやり過ぎております。映画オリジナルのストーリーで、なおかつ興行収入も右肩上がり。B級も極めればA級になることを体現する稀有なシリーズです。

ワイルド・スピード SKY MISSION [DVD] 

愛するレティや仲間たちと固い絆で結ばれたファミリーを誰よりも大切にしてきたドムが、まさかの裏切り。極悪サイバーテロリストサイファーとタッグを組む。戸惑いを隠せないファミリーだったが、ドムを取り戻し、テロを防ぐため、アメリカ政府の秘密工作組織のトップであるミスター・ノーバディ、そしてファミリー最大の敵だったデッカードと力を合わせる。ドムはなぜ寝返ったのか? ファミリーと世界の命運やいかに。

ストレイト・アウタ・コンプトン (字幕版)  ミニミニ大作戦(字幕版)

ドム役のヴィン・ディーゼル他、ドウェイン・ジョンソンジェイソン・ステイサムのワイルド・マッスル・スキンヘッドが今回も大暴れしている他、シャーリーズ・セロン、そして意外な役柄でイギリスを代表する名女優ヘレン・ミレンが登場します。監督は、このシリーズ初となるF・ゲイリー・グレイ。ミュージックビデオ出身の監督として『ストレイト・アウタ・コンプトン』高く評価されましたが、実は僕の生まれた街イタリア・トリノを舞台にしたカーアクション映画『ミニミニ大作戦』のリメイクも手がけていました。
 
それでは、制限時間3分間。アクセルベタ踏みの映画短評。今週もいってみよう!

ポール・ウォーカーを「SKY MISSION」で文字通り失ってしまったので、どの段階でどの程度まで構想されていたのかはわかりませんが、今回から新たな三部作という位置づけで再始動ということがアナウンスされているってのを、もうオープニングのキューバのシーンから体現してくれます。PitbullのノリノリなHey Maをバックに、ラテンのイケイケなお姉ちゃんたちが水着以上に眩しいホットパンツを次々に見せつけるサービスシーンから、いきなりいとこの車を賭けたドムとキューバ人のカーレースが始まる。「レースで大事なのは、車の性能よりも、誰がハンドルを握るかだ」とか何とか言うんだけど、そこでドムはいきなりブライアン仕込みのテクを駆使するという憎い展開。このシリーズ、お話の規模がどんどん大きくなっているので忘れがちだけど、そもそもはドムとブライアン、そしてカーレースから始まってるわけで、原点を忘れないっていうあたりを開始10分くらいでいきなりフルスロットルで楽しませてくれるんです。
 
そこから、今回のストーリーの核となるドムの裏切りのきっかけが示されるんですが、ここ上手いなと思うのは、もちろんドムがそんな事するにはそれ相応の理由があるんだろうって誰もが思うわけじゃないですか。サイファーから「あるもの」をキューバの路上で見せられて、まんまと寝返るんだけど、その「あるもの」が何なのか、途中まで巧妙に伏せられているのみならず、これは終わってから振り返ってなるほどなと気づく部分なんだけど、このキューバパートでの些細な会話や人物がちゃんと後々思い出されるように伏線として機能させてあるんです。だから、僕らはファミリー以上に理由は知ってるけど、サイファーほどは知らないっていう、映画を楽しむには一番面白い情報量のまま先へ進んでいくんですよね。さらに言うと、この適切な情報の出し方のおかげで、裏切りのドラマがよりダイナミックかつエモーショナルに機能する。だって、途中であのドムが泣くからね! びっくりだよ。
 
こういうように、今回、僕は大味な映画に見えて、実は脚本の微調整が周到に施されてるんだと思っています。特にみんな主役級の濃いキャラクターたちの関係性には気を遣っているからこそ、メインから外れた枝葉のエピソードも生き生きとしてくる。
 
コミカルなシーンも多かったですね。なにしろ手数が多い! キャラ同士のキャッキャしたジョークの応酬。たとえば、ライバルであるホブスとデッカードがふたりで監獄で大暴れする場面なんて、筋肉バカがいがみ合いながら看守や罪人をなぎ倒していくんだけど、それぞれの特徴と関係性を逐一反映した丁寧な構図設定とカット割りで惚れ惚れしました。ホブスがゴム弾を胸筋で跳ね返すみたいな漫画なノリも、ここではOK! ホブスならできる!って思えるもの。
 
そして何より、もちろん、カーアクションですよ。今回も、そんなアホなの連発です。制作陣がツッコミ待ちしてるのが画面から伝わってくるよう。このシリーズ、いつも予告で見せ場を気持ちいいくらいネタバレしてるんだけど、どのシーンもアイデアがフレッシュで完全に振り切れてる、あるいは突き抜けてるから、分かってても「スゲー」「そんなアホな」って楽しめるんですよ。ある理由から氷の上で水上スキー状態になるところなんて、もう僕久しぶりに声を出して笑ってしまいました。最高です。
 
世界あちこちの景色。人種のミックス感。バカさ加減。もはや地球を救うレベルの規模感。騙し騙されのスパイものの魅力。これはもう、B級映画のテイストを残したままA級へとレーンチェンジした、アベンジャーズや007シリーズに匹敵する、エンタメ映画の最前線です。別に過去作観てなくてもいいから、ワイスピにあなたもライド・オンしてください。


さ〜て、次回、5月12日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『追憶』です。監督は降旗康男、カメラは木村大作。『鉄道員(ぽっぽや)』のコンビですね。高倉健の代わりに集った岡田准一小栗旬がどんな演技を見せてくれるのか。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

 

『美女と野獣』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月28日放送分
『美女と野獣』短評のDJ's カット版です。

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冷たく追い払った醜い老婆が、実は魔女だった。呪いをかけられて野獣となった王子。元の美男子に戻るには、その外見のままで誰かと真実の愛で結ばれないといけない。魔女が残した一輪のバラの花びらがすべて散ってしまう前に。人々からすっかり忘れられた城には誰も寄り付かなくなっていたところ、美しい村娘ベルが現れ、互いはしだいに惹かれ合っていくのだが、そこにはたくさんの邪魔が入り…
 
これまで何度も映画になっている物語ですが、振り返れば、ディズニーアニメ第2の黄金時代と言われた90年前後の代表作のひとつ、91年発表のアニメ『美女と野獣』が決定版でしょう。それを今回はかなり忠実に実写映画化しています。監督はミュージカルの名手ビル・コンドン。主人公ベルには、「ハリー・ポッター」シリーズで誰もが知るエマ・ワトソンが扮する他、先週評した『T2 トレインスポッティング』のユアン・マクレガーが蝋燭立て、燭台に姿を変えられたルミエールを演じるなど、原作がフランスの民話ということもあるのか、ヨーロッパベースのキャスティングになっています。
 
それでは、バラの花が散るよりも短い、制限時間3分間の映画短評。今週もいってみよう!

人は外見で判断してはいけない。よく知られたこの物語の教訓ですが、ここ数年、リベラルな価値観を物語に植え付けてきたディズニーだけに、今わざわざ実写にするからには、あの戒めをアップデートするような思惑があるのだろうと想像して観に行ってきました。結果として、なるほどなと思えた部分も多い一方、ちょっとした不満もあるにはあるっていうのが、僕の見立てです。
 
まずは、なるほどの部分から。僕はこの手のロマンティックなものにそもそも眉をしかめるひねくれ者でもあるんで、美女と野獣が結ばれるのって、「要はギャップ萌えってことでしょ?」とか、心理学で言うところの一種のストックホルム症候群じゃないのって思っていたくらいなんだけど、今作は違いましたね。何って、ベルの内面です。今回の教訓は、見かけうんぬんよりも、未知のものでも気後れせずに接すれば世界は開けるってことじゃないでしょうかね。
 
ベルは前近代的で閉鎖的な村の中にあって(舞台が18世紀だから当たり前だけど)、超進歩的で、読書家だし、子どもたちに勉強も教えるし、好奇心に満ちている。教会の図書室から本を借りる時のウキウキした感じ、そして、まさかのロバを使った洗濯機を発明して、浮いた時間を使って読書したり子どもに読み書きを教えるところが僕はお気に入り。
 
ひとりずば抜けて賢いから、村人たちをバカにしているという見方もできるかもしれないけれど、冒険心旺盛なベルにとっては、女性はこうあるべきとか、狭い中で汲々とした偏狭な人たちに囲まれていることが、むしろ牢屋にも似た環境なのであって、これはそこからの解放の物語であり、王子との恋愛はその副産物くらいの位置づけなんじゃないかって気がするんですね。ベルは冒険の果てに、それこそ内面が野獣化して城へ攻め入る村人たちの心をも解き放つわけです。そういう進歩的・現代的な女性像と同時に、ガストンが体現するマッチョ的な価値観の否定が顕著だったのも印象的でした。
 
あと、魔女のアガットが実はずっと村にいて観察し続けていたっていう設定も、客観的な視点がひとつできて、僕はすごく気に入りました。
 
他にもよくトピックとして挙げられるのが、LGBT的なキャラクターの導入ですね。潔いレベルの悪役、俺様野郎ガストンの腰ぎんちゃくル・フーがはっきりゲイとして登場しました。ただ、ここからがちょっとした不満の要素ですけど、ル・フウって、役名だから仕方ないけど、フランス語だと普通名詞で、イカれた男くらいの意味なんですよ。ベルが名前からして、ビューティーって意味なのを考えると忍びなくて、イカれた男=ゲイっていう図式になってるのが、進歩とは言え、素直にはうなずけないってのと、あと、18世紀のフランスに黒人の貴族がわんさかいるっていう設定も、わかるんだけど、目配せしすぎっていう感じもします。
 
さらに、「それを言っちゃあおしまいよ」ってことだけど、やっぱりアニメの躍動感に比べると、ちょっとなあとも正直思っちゃいました。
 
とはいえ、この古めかしい題材を実によくまとめていて、絵面も洗練されている一級の作品であることは間違いありません。手堅い娯楽作として、あなたも劇場で、止まらないロマンティックに酔いしれてください。


さ〜て、次回、5月5日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『ワイルド・スピード ICE BREAK』です。『T2 トレインスポッティング』『美女と野獣』と来て、「ワイスピ」。すごい流れになってます。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『T2 トレインスポッティング』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月21日放送分
『T2 トレインスポッティング』短評のDJ's カット版です。

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あのロクデナシたちが帰ってきた。20年前、麻薬の売買で大金をものにしたレントンは、仲間たちと山分けせずにトンズラ。逃亡先のアムステルダムから、スコットランドの故郷エディンバラの実家に戻ってみると、既に母親は亡くなり、父親がひとり暮らしをしていた。そして、悪友たちは相変わらず。親戚から継いだパブ経営もそこそこに、売春と恐喝で財を成すシック・ボーイ。麻薬から抜け出せずに家族から愛想を尽かされているスパッド。刑務所に服役中で復讐の鬼と化しているベグビー。彼らのすったもんだの再会を描く。

トレインスポッティング(字幕版)

あのカルト作の続編は、ダニー・ボイル監督も、ユアン・マクレガーなど主要キャストもそのまま続投という珍しいパターン。このふたりも、今でこそ押しも押されもしない映画人ですが、思い返せば『トレインスポッティング』がブレイクのきっかけでした。僕が高校3年生の秋に公開され、受験生ということで劇場に観に行く習慣がその頃は無かったんですが、大学に入ってからも、レンタルビデオ店や友達の下宿先で何年間もポスターを見にし続けるほどアイコン化していたことはよく覚えています。僕がそんな前作を観たのは、結局もっと後になってから。正直、熱狂したわけではないですが、ボイルの映像センスと実験精神にはやはりしびれました。
 
そんなわけで、後追いだし、別にフェイバリットというわけではない僕野村雅夫がどんな熱量でT2を観たのか。3分間の短評という名のショート・トリップ、今週もいってみよう!

これは同窓会映画です。同窓会って、昔話と近況報告、どちらの楽しみもあって、互いの空白を埋めるもの。なので、現役バリバリの頃を彷彿とさせるシーンをいかにうまく配合するかがポイントになるんですけど、その意味で、ダニー・ボイルの作戦は実にうまい。『トレインスポッティング』を思い出した時に、印象的なシーンってたくさんありますが、とにかくよく走ってたなって感じるんです。それを踏まえてのオープニングですよ。レントン、走ってますね。ただ、場所がストリートではなくて、ジムのランニングマシンの上っていう。当時を思い起こさせつつ、現実との落差を見せる。身体も重そうで、案の定、スピードについていけず、ずり落ちてしまうわけです。あの頃と違う俺。浮かぶ幼なじみの顔。そして、前作通りスタイリッシュなタイトルがボンと出て、同窓会スタート。
 
それぞれの再会は、どれも最初こそぎこちないものの、だんだん感覚を取り戻してきて、映画の中でまた走るようになるんだけど、それがもうランニングマシンの上とは違って、イキイキしてるんですよ。バカな事をやってればやってるほど、スピードも上がっていく。そして、ボイルの実験的な映像さばきにもエンジンがかかってくる。夜、逃走する車にプロジェクションマッピングを施したり、性懲りもなくおっぱじめられるドラッグでのトリップシーンも奮ってました。ガゼル達が駆け抜ける映像を反転させて壁一面に映したり。それから、全体的にストップモーション、要するに動画なのに急に静止画を挟む編集スタイルも効果的に使ってました。こいつらの傍から見た滑稽さ、プラス、こいつらの取る行動の刹那的・衝動的な要素を強調するようで。そして、止まるっていう意味では、音楽の寸止めな使い方も面白かったです。かかるかと思ったら、ここではかけへんのかい!っていうね。
 
要所要所でこういう「トレインスポッティングの続編を見ている〜!」という感覚を僕らに与えてくれる一方、やっぱ主人公たちがもう初老なんで、とんがりはそりゃマクレガーの体型同様、多少は丸まってます。逆に言えば、映画全体のまとまり、見やすさは格段にアップしてます。前作では、映画という列車が車両によって積み荷バラバラで、車両同士の連結も外れかけ。止まるべき駅もしょっちゅう飛ばしてしまっていたのに対し、今作は特急とは言わないけど、快速急行くらいの速さで、荷物も人もきっちり乗車整理して定時運行って感じ。だから、物語の行方がしっかり気になる。
 
そこで大事になるのが、今回のファム・ファタール、つまり運命の女、あるいは魔性の女というべき、シック・ボーイがかこってるブルガリア美女ヴェロニカですよ。きゃわいい~。僕、彼女大好き。バカっぽいけど、したたかでもある小悪魔ですね。この設定も、やっぱり20年経った今だからこそできるというか、エディンバラにもグローバル化の波が押し寄せているわけで、そのあたりの社会性は押さえてます。彼女は現代の象徴なんですね。前作もそうだけど、時代性と社会性をしっかり背景に透かせてあるから、映画がしまるんです。

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それが端的に出ていたのが、レントンがそのヴェロニカにぶつ演説です。前作でもキーワードになった”Choose life”。「人生を選べ」という、もともとは麻薬根絶キャンペーンの言葉(日本で言うなら、問題にもなった「覚醒剤やめますか。それとも、人間やめますか」ですね)。それを彼らはパロディーにして、昔も今も世の中をむしろ皮肉る。だけど、フレーズが20年経った今ならではなものになっていて、早口なレントンの台詞回しと矢継ぎ早な映像編集が絡み合い、僕は鳥肌モノの感動を覚えました。SNSやリベンジポルノ、リアリティ番組、労働環境、そして、教育… 考えてしまいますもの。
 
Choose life. Choose Facebook, Twitter, Instagram and hope that someone, somewhere cares. Choose looking up old flames, wishing you'd done it all differently. And choose watching history repeat itself. Choose your future. Choose reality TV, slut shaming, revenge porn. Choose a zero-hour contract, a two hour journey to work. And choose the same for your kids, only worse, and smother the pain with an unknown dose of an unknown drug made in somebody's kitchen. And then... take a deep breath. You're an addict. So be addicted, just be addicted to something else. Choose the ones you love. Choose your future. Choose life.
 
20年前に選んだ人生の結果としての今。選択肢はみるみる少なくなっている。淡くてもいい。しがみつける希望は見つかるのか。レコードはまた回り始めるのか。僕はわりと清々しくラストを迎えました。
 
これ1本だけでというよりは、やっぱり前作からの流れを踏まえてですけど、十分に満足のいく続編になっていると僕は思います。

さ〜て、次回、4月28日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『美女と野獣』です。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく! 

ドーナッツクラブpresents「映画で旅するイタリア2017」!

ドーナッツクラブがお贈りするイタリア映画の祭典「映画で旅するイタリア2017」!
毎回大きな反響をいただき、3年目の
今年は東京と京都、2都市での開催です。


映画で旅するイタリア2017予告編


ルパン三世』さながらの裏切りの応酬、最高の二人のバディ・ムービー『やつらって、誰?』
伝説の色男の死後、残された女たちが知る予想外の事実『ラテン・ラバー』
成功を夢見る二人、すれ違いながらも愛を深める二人の辿る結末は?『アラスカ』
いずれも必見の傑作イタリア映画3作品が、満を持して日本初公開!!

6月3日(土) - 9日(金) アップリンク渋谷
http://www.uplink.co.jp/
6月24日(土) - 30日(金) 京都シネマ
http://www.kyotocinema.jp/

【詳細】https://www.doughnutsclub.com/
※上映時間は決まり次第ホームページ、SNS等でお知らせします。

 

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主催:京都ドーナッツクラブ
共催:イタリア文化会館-大阪*
後援:イタリア文化会館
協賛:ディスク・ロード、JAPANISSIMO、キネプレ*、ロマンライフ*
(*=京都会場のみ)

『夜は短し歩けよ乙女』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月14日放送分
『夜は短し歩けよ乙女』短評のDJ's カット版です。

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京都の大学で、バラ色キャンパスライフとは無縁の、悶々とした日々を送る「先輩」。彼は同じサークルの後輩「黒髪の乙女」に恋心を寄せ続けるものの、自意識が空回って外堀を埋めるばかりでなかなか距離は縮まらない。そんな先輩にとって千載一遇の好機とも言うべき夜がやってきたのだが、果たして恋の行方は。

太陽の塔 (新潮文庫) 四畳半神話大系 (角川文庫) 夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

太陽の塔』でデビューして以来、一貫して京都を書き続けてきた作家森見登美彦のベストセラー小説が原作。監督はこれが13年ぶりの長編となる湯浅政明。脚本はヨーロッパ企画上田誠。キャラクターデザインは中村佑介。主題歌はアジカン。この座組は、2010年にフジテレビ系列ノイタミナ枠で放送された『四畳半神話大系』とまったく同じ。さらにそこに、今回は星野源花澤香菜、そしてロバート秋山といった時の人が声優陣に加わり、一層華やかな顔ぶれになっています。
 
僕は森見作品の愛読者ということもあり、思い入れも一際なんで逆にやりにくいんだけど、それはともかく、3分間の短評、今週もいってみよう!

森見作品の大きな特徴に、人間関係とか、システムとか、運命的なものから抜け出せない、ある種の無間地獄的ループを描くっていうのがあると思います。それが色濃く出ていたのが、『四畳半神話大系』で、まさに今頃、大学に入ってから、どのサークルに入るべきかと思案している人も聞いてくれているかもしれません。これがきっと人生の分かれ道になるに違いない。そう思ってはいるんだけど、結局はどれを選んでも、大同小異で、主人公は自分、あるいは自意識の化身である四畳半の下宿から抜け出せない。この部屋でも、隣の部屋でも、そのまた隣の部屋でも同じこと。なんていう、ある種のホラー的要素を持った連作小説だったわけです。だから、毎回30分のTVアニメ枠とも相性が良かった。

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それが今回はどうか。原作では四季をめぐる物語だったものが、なんとたった一晩のお話に改変されている。僕はこれ、正解だったと思っています。だいたいタイトルが「夜は短し」なわけだし、こうすることによって、湯浅監督の持ち味であるドラッギーな絵作りと細部がやたら濃密な物語とが噛み合い、まるで闇鍋のような飛躍的な展開をストンとまとめることができているのではないかと。原作では、1年もの物語だから、「ああもうさっさと手を打たんかい!」という焦燥感が読者に湧いてきて焦らされるし、それが先輩が抜け出せなくなっている自意識問題の根深さを表していたのに対し、今回はこれでもかと怒涛の展開を見せる中でも「自分内会議」にクライマックスを持ってくることによって、スクリーンサイズのスペクタクルを担保しながら、その無間ループを彼が突破できるかどうかに焦点が合ってる。人の縁が強調されてましたが、時計とか車輪とか丸い円のモチーフもたくさんあって、先輩と乙女はグルっと巡った先で落ち合ってまた別の円を形成するという構成。なるほどな、と思いました。
 
今回も「四畳半」の時と同様、膨大なセリフ量を早口でまくし立てるスタイルは健在。サイズやフォルム、時間が目まぐるしく自在に変化してファンタジーが爆発する映像とあいまって、もう情報の洪水。多少の消化不良も何のその。だからこそ、ドラッギーなんですよね。ただ、これは原作もそうなんですけど、僕は「四畳半」の方が、実写とアニメを捏ねくり回したり、もっと実験的で、リアルな京都のぬるま湯的大学生活と橋渡しができていた気がして、より好みだったことが付け加えておきます。監督も語ってますが、「四畳半」が勢い重視だったのに対し、映画はもう少しシックにしたと。監督流のポップな着地でしょう。これが気に入ったって人は、よりぶっ飛んでる「四畳半」の鑑賞も強く勧めます。
 
今回は京都が舞台でありながら、その京都そのものの魅力は出し切れていなかったような気もします。これは木屋町先斗町の裏路地が入口となる「不思議の京のアリス」だと思うので、もっと京都らしさが絵に反映されても良かったような。
 
とはいえ、大好きな森見作品のファンがこれを機に一層増えるのは大いに歓迎すべき事態。この番組の聴取者諸賢なら一見の価値あり。観に行くべし。異議はありますか? なに? ある? それは却下だ!
 
ところで、リスナーのツイートに、『イエローサブマリン』的な絵、という言葉を見つけました。なるほどね。原色の大胆な使い方は似ているかも。


さ〜て、次回、4月21日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『T2 トレインスポッティング』です。来週もカルト作が来ましたね。20年後の奴らに会いに行くとしますか。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!