京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ゴールド・ボーイ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 3月19日放送分
映画『ゴールド・ボーイ』短評のDJ'sカット版です。
完全犯罪を成し遂げたはずなのに、少年たちに目撃されていたとは……。沖縄屈指の事業家である義理の両親を崖から突き落とした婿養子の昇。その現場を偶然にもカメラでとらえた13歳の少年朝陽とその友達ふたり。少年たちもそれぞれに複雑な家庭の問題を抱えていたのですが、朝陽は「僕たちの問題さ、みんなお金さえあれば解決しない?」として、大胆にも昇を脅迫する計画を練ります。こうして始まる殺人犯と少年たちの駆け引きの結末はー。

悪童たち 上 (ハヤカワ・ミステリ文庫) DEATH NOTE デスノート

原作は中国のベストセラー作家、紫金陳(ズー・ジンチェン)の小説『悪童たち』。中国の動画配信サイトでドラマ化され大ヒットを記録したものが、舞台を沖縄に移して映画化されました。監督は「平成ガメラシリーズ」や『デスノート』の金子修介。脚本は『宮本から君へ』『正欲』の港岳彦。殺人犯の東昇に岡田将生、朝陽少年に羽村仁成(はむらじんせい)、その母親に黒木華が扮している他、松井玲奈北村一輝江口洋介なども出演しています。
 
僕は先週金曜日の朝にMOVIX京都で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

崖から突き落とす人殺して、また素朴にして古風な手法だな。テレビの夜の2時間サスペンスみたいな画面展開なんだろうか。それにしても、ゴールド・ボーイて、タイトル、シンプルすぎひんか…。こうした不安は、それこそ崖から投げ捨ててしまえるほどに必要のないものでした。これが面白かったんですよ。先週と同じく原作ものですが、僕はパク・チャヌクの『オールド・ボーイ』とタイトルが似ているのでてっきり韓国のものかなと思ったら違いまして、おとなり中国のズー・ジンチェンという作家の小説。もちろん邦訳も出ていまして、ハヤカワ・ミステリー文庫で読めるんですが、東野圭吾に影響を受けたというズー・ジンチェン。この才能を知ることができたのも収穫でした。

©2024 GOLD BOY
収穫と言えば、映画では朝陽少年を演じた羽村仁成ですね。彼のことは今後覚えておきたいですよ。彼の言動がいちいち嘘か真かわからない、つまりは、劇中で「演技をしているという演技」が必要なんですが、それが見事でしたよ。しっかり翻弄されました。なにしろ殺人犯を少年たちがゆするわけですから、相当肝が据わっているし、途中から嘘をついているんだなとはっきりわかるところが出てくるだけに、そしたら、もしかしてあの発言も嘘だったのか、とか、いつから嘘をついていたのか、とか、すっかり疑心暗鬼になってしまうわけです。朝陽少年が表立って対決するのは、殺人犯であることが明かされている岡田将生演じる昇と、江口洋介演じる刑事なんですが、単純に1対1で相対するだけでなく、1対2になるくだりも出てくることで、まさにおじさん顔負けの展開がなるほど原作のタイトルは「悪童たち」なんだなと頷けるし、悪童「たち」と複数になっていますが、この少年少女のトライアングルに加えて、両親とのやり取り、ある意味、対決の構図にもしっかりハラハラさせられます。

©2024 GOLD BOY
このあたりは中国ミステリー作家ズー・ジンチェンさすがのプロットだなと思う一方で、この映画化では舞台を沖縄に移しているわけですよね。断崖絶壁のあるところなら、たとえば東尋坊のある福井県でも良いんじゃないかと観る前は思っていたのですが、別に福井県なら福井県でも成立するかもしれないけれど、脚色をした港岳彦のうまいさばきで、沖縄の要素が巧みにストーリーに織り込まれていたと思います。たとえば朝陽くんの母親がシングルマザーで生活苦に喘いでいるから掛け持ちしている仕事のひとつが高級リゾートホテルだったり、昇が婿養子として一員となった家族が島のあらゆる業種を牛耳る県随一の企業だったり、刑事がその企業の親戚であることから捜査に加われないという閉鎖空間ならではの濃ゆい人間関係があったり、独自のお墓の形やそこでの風習が事件に絡んできたりと、沖縄であることの意味がしっかりありましたからね。なおかつ、映画として重要なのは、沖縄のあの光です。北野映画を始めとして、日本映画に欠かせない名カメラマン柳島克己(やなぎじま)が捉えたあの映像は、このミステリー作品にとって極めて大事な青春映画としての側面とマッチしていました。特に、昇の家に少年たちが意を決して入っていく時の少女夏月が少しこちらを振り返る様子を収めたショットは忘れがたいものがありました。あのあたりは、さすがは少年たちを撮るのがうまい金子修介監督だなと感じます。

©2024 GOLD BOY
少々展開が強引なところもあるにはありましたが、中国原作ものをこうして日本映画として形にする文化交流や共同製作の今後に期待が持てるとても満足のいく出来栄えです。今後と言えば、続編もありそうな終わり方にもゾクゾクしましたよ。含みのあるラストだっただけに、金のためならなんでもやってのけるあの人間のこれからも余韻に浸りながら考えてしまいます。金子監督って、まさにゴールド・ボーイですよね。この座組で、ぜひもう一本!
 
エンド・クレジットとともに、この曲が流れてきても、まだ席は立たないように。

さ〜て、次回2024年3月26日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『青春ジャック 止められるか、俺たちを2』。日本のインディー映画の巨匠だった若松孝二監督。井浦新が扮しているんですよね。今回は名古屋の映画館シネマスコーレを作り上げていく過程を描くようですが、楽しみでなりません。「ただで起きないために、転べ」っていう惹句も最高だ。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!