京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

ほどほどに言う (旧ウェブサイトコラム『小噺パラダイス』)

 やあ、どうも、有北です。今日はとてもいい天気で、世間の人間はもしかしたらピクニックにでも出かけているのだろうなと思いつつも、AUの通話料を払ってきたよ! 未納だったからね! このままではまた先月のように携帯を止められてしまうよ。まったく用心しなければいけないね! 物騒だね!

 そもそもの顛末はというと、今日は休日だったのでゆっくりと朝寝を楽しんでいたのさ。すると、携帯の着信音によって目が覚めた。見ると、メールを受信している。こんなさわやかなモーニングだというのに味気のない電子音により起床… 無粋! まったく無粋なものだ。これがかわいこちゃんからのメールだったのならまだしも、AUからの督促メールときたもんだ。曰く、「15日迄に3月請求分のご入金がないと停止となります。行き違いの際はご容赦ください」。僕にとって不幸なことに、行き違いではなかった。おかげで僕は休日の朝はやくに寝床を抜け出し、長い長いため息をつき終わるや、最寄のAUショップに向かうはめになったというわけだ。

 さて、僕は大阪市は旭区に居を構えているため、最寄のAUショップといえば大阪三大商店街のひとつ、千林商店街の中にある。今日は天気もいいし休日だったから、まったくたいしたひとだかりさ。僕は人波を愛車(チャリ)でかきわけつつ、AUショップへ向かった。これがかわいこちゃんとの待ち合わせにでも向かうというのならモチベーションも上がるというものだが、あいにく督促メールに休日の朝っぱらからたたき起こされ、向かう先はAUショップとあってはモチベーションどころじゃない。しかも、押し寄せる人、人、人。前門の人、後門の人、だ。虎でも狼でもないがこりゃどうにも抗うことができない。休日の千林商店街を甘く見てはいけないというわけか…。だが別に急ぐ必要もなかったことに今さらながらに気づいた僕は、「まあ、ゆっくりいこうや」とチャリを降り、人波の中ゆっくりと歩を進めることにした。

 ところでこういうふうに人だかりの中を歩いていると、すれちがいざまの人々の会話がいやが応でも耳に飛び込んでくるもので、実のところ、僕はそれがとても好きだ。ゴシップ趣味というのではないのだけれど、他人の生活のワンシーンを覗くのはとても興味深い。大概の場合すれ違う時間は一瞬で、そのため耳に入ってくる会話も同じく一瞬のもので、それがゆえに会話のごく断片的な一部分だけが僕の脳に刻まれることになるわけだけど、その前後、その言葉を発したなにがしはどういう状況に置かれていて、そしてどういう気持ちでその言葉を放ったのだろうか… と、あれこれ想像するのはとても楽しい。僕はそのような誰かの一言を人生の財産だと考えており、なるべく覚えておくようにしているのだけれど、中には思い出すだけで笑いがこみあげてくるものや、なぜそんなことを口走ったのかいくら考えてもわからないものなど、挙げていくと枚挙に暇がないが、ここ最近のベストは次のようなものだ。

 「僕、はじめて14歳になりました」
 いったい彼はどういう文脈でこの言葉を放ったのだろうか、想像するだに楽しいが、どうしても気になるのはやはり「はじめて」の部分だろう。
 「はじめて14歳になる」
 当たり前である。「俺、14歳になるの二度目だよ」とか「いやあ、久しぶりに14歳になってみたんだけど、やっぱりいいもんだね」などと言うやからにはついぞお目にかかったことがない。当たり前である。彼は当たり前のことをわざわざ言っている。
 なんだというのだ。
 ここから我々が学ぶことができるのは、言葉というものを扱うときにもっとも大事なのは、「過不足なく言う」ということだ。言葉が足りないのがあまりよくない結果を招くことが多いのは言うに及ばずだが、言葉が過ぎるのもやはり考えものであるというのが、このことからもよくわかる。
 白い白馬、馬から落馬、みな同じである。

 さて首尾よく通話料金6002円也をAUショップの若い兄ちゃんに払い込み、「ひと仕事終えたぜ」と満足した帰りの道すがら、商店街をそぞろ歩く僕の耳に、こんな言葉が飛び込んできた。
 「僕、ちょっと衝動買いしてくるわ」
 すれ違ったのは、このぽかぽか陽気にもかかわらず革のライダースを着込んだ兄ちゃんだった。春服でも欲しくなったというのか。だが、わざわざ宣言した時点でそれはもう衝動買いではないんじゃないのか。
 なんだというのだ。

 ちなみに僕の最近の衝動買いと言えば、これ。

 ヤフオクで60円でした。まだ届いてないのだけど、作動するのか?