京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ジェイソン・ボーン』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年10月14日放送分
『ジェイソン・ボーン』短評のDJ's カット版です。

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2002年にスタートした、スパイシリーズ。ロバート・ラドラムの『暗殺者』を原作とし、マット・デイモンを主役のボーンに迎え、これまで3本作られました。2012年の『ボーン・レガシー』は、スピンオフ的なサイドストーリーなので、文字通り脇へ置くとして、ボーンを主人公とした作品としては、これが4作目。前作の『ボーン・アルティメイタム』から9年を経てのシリーズ再開です。監督は、過去このシリーズで2本担当したポール・グリーングラス。今回も、記憶障害に悩む元CIAの殺し屋ボーンが、自分の過去を突き止めようとしながら、自分を裏切ったCIAと孤独な戦いに挑む様子を描いています。

ボーン・アイデンティティー (字幕版) ボーン・スプレマシー (字幕版) ボーン・アルティメイタム (字幕版)

今回は109シネマズ エキスポシティのIMAX次世代レーザーで鑑賞しました。でかいスクリーンでのアクション映画はやっぱり最高でした。
 
それでは、僕もボーンばりに記憶をたぐりながら、3分間の短評いってみよう!
 
☆☆☆
 
ファーストカットから、「ああ、ボーンシリーズの新作を今僕は観ている」と強く意識させられる、「よ、待ってました!」なボーン印満載の内容になっていると思います。というのも、このシリーズって、たとえば007やミッション・インポッシブルなど同じスパイ映画と比較しても、よりハッキリした特徴・スタイルを備えているんですね。
 
記憶障害を抱えているというボーンのキャラクターが要請するものでもあるんだけど、まずはざらついた映像のフラッシュバックがとても短く挿入される。それに呼応するように、ワンショットがかなり短い。いわゆる長回しとは対極にあって、印象としては平均数秒でカットが変わる。それが全体のスピード感につながる。とにかくシリアスに重たいトーンで進むので、ボーンを始め、役者が笑うことはまずない。で、派手な顔の人が登場しない。みんな地味。毎回女性は出てくるけど、色気はなし。ポップな音楽もまず使わない。連発される迫力のファイトシーンは、CGよりもマット・デイモンやスタントによる本物のアクションにこだわる。こちらも毎度見せ場になるカー・チェイスでは、必ず道路を逆走する。ヨーロッパを中心に、あちこちの街を観光映画的にいつも移動している。ボーンは常に逃げていて、CIA本部から、その時々の権力者がその時々のハイテクを駆使して指示した現地の刺客とやり合い、CIAはいつも自信満々なんだけど、いつもまんまとしてやられる。
 
これがおおよそのシリーズの特徴で、そのまんま今作『ジェイソン・ボーン』の特徴でもあります。とにかく、「待ってました」のオンパレードなので、ファンにとってたまらなくもあるんだけど、さすがにデジャヴというか、それこそボーンばりに僕らも、「ああ、確かこんなことが前にもあったような気がする」と記憶がフラッシュバックしてしまう。その意味で新鮮味が薄い、置きにいった感じは否めないです。
 
たとえば、これまでの3作にすべて出ていたニッキー・パーソンという女性キャラが、今回も頭から登場するんだけど、彼女の辿る道のりが、もう完全に2作目『ボーン・スプレマシー』と同じやん、とかね。CIAの内部分裂、権力闘争も同じ枠組みだし、こうすれば盛り上がるという方程式をそのまま脚本に当てはめているんで、ボーンの父の死の新たな真相って言われても、結局はすべての発端となるトレッド・ストーン作戦に戻っちゃうんです。「もう蒸し返さんといたって!」って言いたくなりますけどね。
 
その分、アクションシーンにはこれまでと違う工夫を見せようという意気込みは伝わりました。こちらもボーン印ではあるけど、一般人でごった返す場所での逃走劇ね。冒頭のギリシャのデモなんて、時事ネタも入ってるし、なかなか良かったです。乗り物もバイクにしていて、しかも白バイですよ。面白い。で、何と言っても、今回はベガスで派手なの用意してますよ、逆走込みのカーチェイス。ただね、敵がよりによって装甲車に乗っちゃったんですよ。とにかく今回は警察の乗り物がよく盗まれる。しっかり防犯して! 装甲車なんて無敵の車でしょ。だから、簡単に言うと、大味です。凄いんだけど、大味です。カー・チェイスをする流れも、無理やり持っていった感じがして、大味です。
 
プラス、これはアクション全体について言えることなんだけど、マット・デイモン46歳、少し身体のキレに陰りがあるのか、これまで以上に細かくカットを割ってるんです。その結果、こちらの瞬きすら考慮に入れてくれないような急ぎっぷりで、正直なところやり過ぎだと思いました。ベガスのシーンも、目先の派手さを優先するあまり、マイケル・ベイばりに空間構成の説明不足な、破壊のための破壊シーンになっちゃってるのが残念でした。
 
と、文句ばっかり言ってるようですが、実は悪い印象はそうないです。なぜなら、僕はスタイリッシュなマンネリはわりと好きなんですよ。待ってましたって言いたいタイプ。で、もちろん一定以上の面白さはあるわけだから、安心して楽しめました。ただ、さすがに次もこの感じで行くと、そろそろいよいよ飽きられるぞという警告メインの短評となりました。

シリーズ通しての主題歌は、Extreme Ways / Moby
文句なくいいんだけど、このチャプターからは別のバンドを起用するとか、Mobyでも別の曲を書き下ろしてもらうとか、しないかぁ…

さ〜て、次回、10月21日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神ミホさんから授かったお告げ」は、『何者』です。鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『アングリー・バード』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年10月7日放送分
『アングリー・バード』短評のDJ's カット版です。

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外敵もおらず、飛べない鳥たちが平和に暮らすバードアイランド。怒りん坊のレッドは鳥だけど一匹狼。ある日、表向きは友好的な豚のピッグ軍団がやって来て、まんまと島から鳥たちの宝物である卵を奪い去ってしまう。ピッグ軍団の悪巧みに腹を立てたレッドは、せっかちなチャックやびっくりすると爆発するボムら出来そこないたちと共に、ピッグ軍団から卵を取り返そうと奮闘する。

怪盗グルーの月泥棒 [DVD] ミニオンズ [DVD]

怪盗グルーやミニオンなどを手がけるジョン・コーエンが製作。僕も観た吹替版では、坂上忍がレッドの声を担当している。
 
この番組の映画短評でゲーム原作ものを扱うのは初めてじゃないでしょうか。ディズニーでもピクサーでもなく、ジブリ配給でもなく、アメコミでもない。怪盗グルーやミニオンズの流れとはいえ、「こいつらは何なんだ」と思った人もいるでしょう。日本での観客動員は初週10位というのも仕方のない、伏兵感が否めないですよね。ただ、2009年にフィンランドで開発された、このiPhone向けゲームアプリは、全世界で30億ダウンロードを記録という大ヒット。ポケモンGOでも、まだ10億届かないんじゃなかったっけ。それを考えれば、映画化しない手はないというのもうなずけるところ。プロデューサーのコーエンは、鳥なのに飛べないこと、それぞれにある個性的な能力、敵との戦いにパチンコを使うこと。この3点以外、特に制約がないから、自由に製作することができたと語っています。
 
以上の前提を理解いただいたところで、3分間の怒りの短評、行ってみよう(いや、怒ってねーし!)
 
☆☆☆
 
僕の評価を先に言いましょう。メッセージも真っ当だし、「怪盗グルー」譲りで大人向けのギャグも冴えてるし、物語のテンポも悪くない。でも、淡白、でした。
 
メッセージは、こういうことです。社会的に欠点とされていることも、その人の長所となる可能性がある。怒りっぽいレッドも、そのフラストレーションを勇気に変えてコントロールすれば、みんなのヒーローになれると。怒りっぽいだけでなくて理屈っぽくもあって、頭の回転が速いので、豚と戦う際、それまで個人的な憂さ晴らしでしかなかった怒りと悪知恵を、共同体としてのリベンジに活かし、『アルマゲドン』的な自己犠牲に転化することができたわけです。他のキャラも同様でした。ただ、あのボムは一体何なの? 怒り爆発を文字通り体現してるんだろうけど、クライマックスあたりで、「自分で自分を爆発させることができるかどうか」って、それはコントロールしてることになるのか、納得しづらいものがありました。ともかく、メッセージは一応いい。
 
物語のテンポも良かったですね。バードアイランドを、鳥瞰、つまり鳥視点で見せるファーストカットなんていいですよ。飛べない鳥たちの島を鳥瞰する。そこから、レッドたちがどんな暮らしをしているのか、どんな多様な鳥たちがどのように暮らしているのか。セリフに頼りすぎず、映像と行動でちゃっちゃか見せられていました。要するに『ズートピア』的なことですよ。

ズートピア (吹替版) シャイニング (字幕版)

そこに「怪盗グルー」っぽい、毒のきいた笑いがまぶされてる。フリーハグをからかってみたり、伝説のヒーロー「マイティー・イーグル」のおじさん化とダメさ加減をおちょくったり、子どもに分かるわけがないキューブリックのホラーの名作『シャイニング』ネタを入れたり。
 
あと、音楽ネタも豊富。豚達の中にダフト・パンクが混じってました。マイティー・イーグルの部屋にはイーグルスの『ホテル・カリフォルニア』が飾ってあったり。サントラも、ブラック・サバススコーピオンズ、リンプ・ビズキットといったロックから、チャーリーXCX、スティーヴ・アオキ、イマジン・ドラゴンズといった、ナウヒットまで。そして、リック・アストリー、デミ・ロヴァートといったディスコ・ミュージックですね。ディスコは、古臭いものとして笑いの対象になってましたけど、“I Will Survive”の使い方は笑えるだけでなく、何かハッピーでしたね。

こんな感じで、一事が万事、小さな笑いをきっちり積み上げていて、メッセージもちゃんとしてるんですが、全体として、やっぱり淡白な印象なんです。傑作『ズートピア』と比較するのは酷だけれど、キャラクターの多様性と擬人化、社会の縮図としてのコミュニティ構築がどれも及第点止まりだし、物語の展開も、特にクライマックスがいかにもゲームっぽくて、こちらが操作してるなら生まれるだろうカタルシスも、なんかあれよあれよという間にクリアできちゃったって感じで、今ひとつなうえに、植民地支配を彷彿とさせる豚たちが単なる悪者になってしまってることで、深み・奥行きも足りないんです。
 
テンポと笑い、キャラ造形を優先させるあまり、ストーリーそのものを練りきれていない印象です。とはいえ、何度も言ってるように、クオリティが低いわけではなく、大人も子どもも楽しめて、教育的にも悪くないので、家族で観るのにオススメです。僕は『ミニオンズ』よりよっぽど好きでした。
 
☆☆☆
 
Home Sweet HomeがHome “Tweet” Homeと文字ってあるダジャレは、鳥だけにツイート(さえずり)ってこともあって、笑いました。

さ〜て、次回、10月14日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka 「映画の女神ミホさんから授かったお告げ」は、『ジェイソン・ボーン』です。ボーンシリーズがボーンして、早くも14年。これで5作目。シリーズの振り返りもするべきか、いや、ボーン並みに「覚えてない」としてあっさり流すべきか、いずれにしても手強いぜ。鑑賞したら、あなたも #ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『ある天文学者の恋文』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年9月30日放送分
『ある天文学者の恋文』短評のDJ's カット版です。

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ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』で知られるアカデミー賞監督、イタリアのジュゼッペ・トルナトーレが、名優ジェレミー・アイアンズと、007ボンド・ガールでもあったオルガ・キュリレンコを主演に迎えて描くラブストーリー。音楽はいつものタッグ、こちらもオスカー作曲家エンニオ・モリコーネ

ニュー・シネマ・パラダイス[インターナショナル版] デジタル・レストア・バージョン Blu-ray 007 / 慰めの報酬 (字幕版)

著名な天文学者だった恋人エドの訃報。現実を受け入れられない教え子の大学院生エイミー。彼女の元には、彼の死後も、彼からのメールやプレゼントが届き続ける。彼女がその謎を解いていく中で、彼女の秘められた過去も明らかになっていく。
 
MOVIX京都で昨日(9月29日)の朝8時40分から(早い!)観てきました。
 
☆☆☆
 
ジュゼッペ・トルナトーレ監督は基本的にオリジナルの物語を生み出す映画作家なんですが、ひとつの特徴として、特殊な職業に従事している人物を描くことがとても多い。マフィア、映写技師、映画監督、海の上のピアニスト、娼婦、オークショニストなどなど。今回の場合は、邦題通り、天文学者です。トルナトーレは、そうした職業人がその仕事ならではの哲学、人生の見方を浮かび上がらせるんです。だから、僕たちにとっては、とても新鮮でそういう見方があるのかとハッとさせられるし、引き込まれる。

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この作品はとてもシンプルだし、ありきたりかもしれない。死んでもなお、人は寄り添うことはできるのか。このテーマに、トルナトーレは、天文学者という専門職を差し挟むことにより、そこに宇宙、星々、銀河という例えを持ち込んで、僕らの生と死、そして愛を星空に映してみせた。すると、途端に物語が独創的になり、深い奥行きを持ち、輝き出す。
 
トルナトーレのアイデアが光るのは、「距離」「隔たり」というモチーフを星座のごとく散りばめたこと。思い出してみてください。愛し合う男女が同じフレーム内で同時に演技をするのは、最初のワンカットだけだってこと。それ以降のどのカットでも、ふたりは同じ時空間にいないんです。そもそも、年の差カップルであること。不倫関係であること。教授と学生。住む街。ドア、窓、パソコンモニター。そして、この世とあの世。ふたりにはあまりにもたくさんの隔たりがある。主人公のエイミーは、その隔たりを埋められないかと、物理的な移動を続ける。エディンバラへ、イタリアの湖に浮かぶ島へ。
 
一方、他界したエドは物理的な距離ではなく(当然ですね、肉体はもう無いのだから)、精神的な距離を縮めるべく、死後もメール、ビデオメッセージ、手紙といった手段で彼女に想いを届け続ける。そうして彼女の心に寄り添い、彼女を導き、彼女を愛で包み込もうとする。それは恋人への愛と擬似的な父親のような愛の混じったもので、こうして話だけ聞いてると、愛というものが陥りがちな自己中心的な欲望がそこにあるように見えるけど(簡単に言うと、死んでるのにストーカーみたいなね)、たとえば看取ったエドの友人の医者からのツッコミを入れておきながら、結局最後には、これは天文学者ならではの時間と空間を超えた愛の模索だったんだということがわかる。そこで、僕は泣いたわけです。あの瞬間は確かに永遠に限りなく近いものじゃないのか。原題はコレスポンダンス。通信とか調和という意味ですけど、ふたりは確実に想いを一致させられた。
 
僕が泣いたって言いましたけど、一番大泣きしたのは、とあることをきっかけにエイミーが見ることになる、編集前のビデオメッセージ、いわゆるNGカットの映像ですね。エイミーには見せたくない、あられもない、悲しみの化身のようなエドの姿がそこにあって、あれは僕自身がMOVIX京都の係員に「これはダメ! もう止めて!」って言いかけましたからね。
 
ただ、苦言を呈するなら、ストーリーを逆算して作っているように感じられるので、メールの届くタイミングとか、さすがにご都合主義だろってところはあります。でもね、トルナトーレの映像さばきが、もうさすがとしか言いようがないうまさなんで、そんなに気にならない。
 
どれを取っても、パシッと決まってます。窓に張り付いて震える木の葉、影を使った演劇、エイミーの色んなスタントっぷり。どれもシンボリックに物語の中で機能してるし、もちろん、エンニオ・モリコーネのサントラも、まるでふたりを見守るような叙情感がすばらしい。
 
人によってはミステリーとしてイマイチと思うかもしれないけど、これはミステリーじゃないから。彼女の視点で徹底されてるからミステリーっぽいタッチになってるだけで、いわゆるミステリーじゃないんです。謎めいたラブストーリーというくらいですかね。
 
大学院生エイミーの手がける博士論文のタイトルが『死せる星との対話』というところ、とてもロマンティックで、とても切なかったです。
 
☆☆☆
 
補足として、一応、突っ込んでおきます。演劇を鑑賞する際は、携帯電話の電源はオフにしましょうね。
 
さ〜て、次回、10月7日(金)からは、「映画館へ行こう」のコーナーがリニューアル。109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBとなります。これまで翌週の映画作品を決めてくれていた新井式廻轉抽籤器は閉店「ガラガラ」でお蔵入り。代わって、109シネマズの映画の女神様たちから僕に毎週お告げが下ることに。相変わらず、僕自身に決定権はなく、ちゃんと自腹で観ますし、作品そのものには言いたいことは言うスタイルで進めていきます。

記念すべきリニューアル初回に扱うことになったのは『アングリーバード』です。鑑賞したら、#ciao802を付けてのTweetをよろしく!
 
 

『スーサイド・スクワッド』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年9月23日放送分
『スーサイド・スクワッド』短評のDJ's カット版です。

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マーヴェルではなく、バットマン、スーパーマンが「在籍」するDCコミックスの悪役(ヴィラン)たちが徒党を組んで敵と戦わされる物語。舞台はつまり、あのゴッサム・シティ。狙撃の名手デッドショットをウィル・スミス。セクシーな暴れん坊、イカれた元精神科医ハーレイ・クインを『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でも奮闘したマーゴット・ロビーがそれぞれ演じています。バットマン最大の宿敵ジョーカーを、『ダラス・バイヤーズクラブ』でアカデミー賞を獲得したジャレッド・レトが新たに演じていて、予告編から話題になっていました。監督と脚本は『フューリー』のデヴィッド・エアー

ウルフ・オブ・ウォールストリート (字幕版) Dallas Buyers Club

本国での評価が、実はすこぶる悪いです。評論家筋だけでなく、一般の観客からも不評。なのに、観客動員は3週連続1位で、アメリカだけでなく、世界中で大ヒットを記録しています。日本でも初週が2位、先週が4位ですから、悪くない。実際、火曜日のTジョイ京都レイトショーも結構入ってました。この盛り上がりと不評のバランスは何なのか、そこが実に面白いと僕は思っているので、今回の短評はその辺りが分析の対象になるかなと。
 
それでは、ハーレイ・クイン並みのフルスイング。『スーサイド・スクワッド』短評、おっぱじめよう。
 
☆☆☆
 
いきなり一言でまとめると、キャラの魅力だけで上映時間123分を乗り切ってしまった作品です。物語は、よく言えばシンプル。悪く言えば、ペラっとしてます。強引です。話としては、スーパーマン不在のゴッサム・シティに、文字通り超能力を持つ魔女が眠りから醒めて登場して街をメチャクチャに破壊する。それに人間たちが立ち向かうってことですけど、立場が4つもあるんです。まずは、悪には悪で立ち向かえばいいんじゃないかとスーサイド・スクワッド(つまり決死隊)というチームを組織して操る行政、もちろん主人公のスクワッド達、そしてどこにも与(くみ)しないジョーカー。で、敵の魔女。結構ややこしいんです。さらに、回想も含めればバットマンもちょいちょい出てきますからね。
 
登場人物もこれだけ多いからでしょう。主役のスーサイド・スクワッドには8人かな、それだけメンバーがいるのに、スポットがちゃんと当たっているのは、実質デッドショットとハーレイ・クインだけ。この2人がダブルセンターです。他のメンツには不憫なほどに光が当たらない。これはオープニングからの出囃子付きキャラ紹介の尺の違いからしてそうでした。ブーメラン使いの泥棒キャプテン・ブーメランとか、いきなり登場してびっくらこいてしまう日本刀の使い手、女版五右衛門、なんかXmas Eileen(下のジャケがそのバンド)みたいな仮面のカタナとか、もうほとんど説明すらないですから。というより、ダブルセンターの説明が長すぎるのか。

WORLD COUNTDOWN

こんな調子で、キャラが多くて立場がややこしいので、とにかくアクセルベタ踏みで話があちこち蛇行運転気味に展開します。テンポが良すぎるというのか、寄り道が多すぎるというのか、そうこうしてる間に敵の魔女とその弟があれよあれよという間に街を我が物にしていくプロセスに「え? いつの間に?」と思ったのは僕だけじゃないはずです。とにかく編集がガチャガチャしてて、何らかの軸をもって物語るというよりは、一応つじつまが合う程度にざっとツギハギしましたという感じ。
 
で、そもそも論になっちゃうんですけど、とにかくキャラの立った人達がそれぞれの能力で強大な敵に立ち向かうってんだけど、はっきり言って、パワーに差がありすぎてですね、冷静に考えたらこりゃ無理だろって思ってしまうんですよ。ハーレイ・クインの能力は、怖いもの知らずで、身体が柔らかく、俊敏。武器、バット。一方、あの魔女は人の身体に入り込んだり、他人の脳みそもコントロールできたり、何かフラダンスみたいな動きでピカピカした光の塔みたいなのを出したりと、何だか凄いことになってたよ。どう考えても、互角じゃない。
 
ああ、キリがない。とにかくスクワッドのメンバー並みに、映画の構成もタガが外れてる部分があるんですが…
 
はっきり言って、僕はまったくもって嫌いじゃないんだ、この作品。ダメなところも愛したくなる。クラシック・ロックから最新のヒップホップ、EDMまで、音楽のミックスがカッコいいし、キャラや場面ごとに音楽が映画を引っ張ってる(音楽に頼ってるという言い方もできるけど)。映像が(話が無茶苦茶なわりにという意味で)無駄にカッコいい。ギャグが思った以上に外してない。
 
そして、ここが一番のポイント。バラバラだったスクワッドがチームになるプロセスはギリギリ描けていたので、こいつら無茶苦茶だし、あの爬虫類人間なんて化物でしかないんだけど、だんだん好きになっていくことができたんです。ウィル・スミスが、「これは悪と悪との戦いじゃなくて、悪badと邪悪evilの戦いだ」ってインタビューで言ってたんですが、いくら悪くても、俺達にだって哲学があるんだ。でも、邪悪なのはダメだっていう、ふざけてるけどうなずける理屈には、不本意ながら共感してしまいました。
 
最後の戦いとか、もうバカバカしいレベルっていうか、もうアメコミ原作映画そのものをネタにしてるんでしょうね。映画の作りとしてはおよそ褒められたもんじゃないけれど、そのブッ飛びぶりが、問答無用に魅力的なキャラクターとフィットしているので、冷静に見たら酷評になるんだけど、癖になるジャンクフードとしてしっかりアガる仕上がりに強引ながら持って行けている。酷評のわりに観客を動員できている理由はそこにあると思います。

この作品にはワーナー・ブラザーズによる(が予告編のあまりの評判の良さから、その制作会社に依頼した)編集と、デヴィッド・エアーによるディレクターズ・カット版があって、世に出ているのはその折衷であるということを、昨日のタマフル宇多丸さんも語っていましたが、さすがにその痕跡が垣間見えてしまう作りになっていたのが残念です。

さ〜て、次回、9月30日(金)に扱うのは、『ある天文学者の恋文』になりました。随分毛色が変わって、久々にイタリア人監督! 僕の大好きなジュゼッペ・トルナトーレじゃないですか。音楽はもちろんエンニオ・モリコーネという、アカデミー賞コンビ。今回はどうなんでしょうかねえ。鑑賞したら、#ciao802を付けてのTweetをよろしく!
 
 

京都ドーナッツクラブメルマガ 第30号

こんにちは!めっきり涼しくなった京都の片隅で

ドーナッツクラブは色々躍進していますよ。

 

 

★アゴスティ監督作品、待望のDVD化! 

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ドーナッツクラブが日本で紹介し続けている、

シルヴァーノ・アゴスティ監督作品がついに日本初DVD化!

ご家庭でアゴスティの映像が楽しめる時代がやってきました。

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今回お届けするのは2011年のアゴスティ回顧映画祭で、

2週間で2000人を動員したオススメ映画。

 

『快楽の園』『ふたつめの影』『カーネーションの卵』の3本です。

 

詳細・ご購入はコチラから

 

 

★ドーナッツクラブ企画イベント 

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■9月27日(火)「映画で旅するイタリア2016」 

 

イタリア映画最新作をお届けする月イチ映画祭@渋谷UPLINK!

ラストを飾るのは日本初公開「越境の花嫁」。

福祉の国スウェーデンを目指す難民たちの姿を追ったドキュメンタリーで、

2015年度ナストロ・ダルジェント賞ドキュメンタリー特別賞受賞作です。

www.youtube.com

 

時間:19:30 START

 

ご予約・詳細はコチラから

 

 

★チルコロ京都でのイベント情報 

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■10月2日(日)チルコロ京都 VS 世界 vol.7 

野村雅夫 VS Helga Press(ゲスト:岡村詩野

 

これを聞けば京都インディーズの今がわかる!

FM802 野村雅夫と音楽ライターの重鎮・岡村詩野

京都の音楽シーンを語り尽くす!

 

さらにHelga Pressが発表したコンピレーション

『From Here To Another Place』から、

渚のベートーベンズと台風クラブがライブを披露。

 

インディーズはメジャーの予備軍ではない。

果てしない可能性を秘めた音楽の最前線だ!!

 

時間:開場16:00/開演16:30

場所:チルコロ京都

 

ご予約・詳細はコチラから

 

 

イタリア語講座「グイダ・プリマヴェーラ

 

人気の観光旅行会社「Japanissimo」が、

旅行ガイド育成のためのイタリア語講座をチルコロ京都で開催します!

東京ではすでに開講され、すぐにいっぱいになる人気講座です。

東京オリンピックに向けて、旅行ガイドはますます必要とされる職業。

イタリア語を使ってお仕事をしたい方、絶好のチャンスに足を運んでみては?

 

説明会:10月8日

授業:10月22、29日、11月5、12、19、26日

12月3、10、17日、1月7、14、21日

 

時間:すべて11:00~12:30

場所:チルコロ京都

 

 

【チルコロ京都 とは?】 

京都ドーナッツクラブが運営するイベントスペース。 

トークショー、お芝居、音楽ライブ、貸し会議室、貸キッチンなどに是非どうぞ。

平日夜はイタリア食堂910として営業しています。 

 

京都市中京区河原町通り三条下がる南車屋町282 MORITA bldg.4F 

四条河原町から徒歩約5分)

公式HP circolokyoto.jimdo.com/

FBページ facebook.com/CircoloKyoto

E-mail circolokyoto@gmail.com

『君の名は。』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年9月16日放送分
『君の名は。』短評のDJ's カット版です。

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東京に暮らす男子高校生「瀧」と、岐阜県飛騨の奥地にある小さな村に暮らす女子高校生「三葉」。このふたりの内面と身体が入れ替わる現象が度々起こり、戸惑いながらも少しずつ順応し、その運命的な交錯から互いに惹かれ合っていくのだが、ある日、なぜかその入れ替わりが…
 
主人公、瀧と三葉の声をそれぞれ神木隆之介上白石萌音が演じています。脚本、監督、編集は新海誠。プロデュースは、超売れっ子、川村元気という座組となっています。

劇場アニメーション『言の葉の庭』 DVD

新海誠作品は、3年前にこのコーナーで『言の葉の庭』を扱ったんですが、当時の自分のメモを振り返ると、「主人公の古典教師ユキノ先生の心理がもうひとつ伝わってこない」なんて書いてましたね。作画能力の高い技術力を認めながらも、物語そのものにはわりと辛口でした。
 
それが今週火曜日昼間にも関わらず、MOVIX京都もしっかりお客さんが入っていた回を観て、さすがは社会現象化しているだけのことはあると実感した今作『君の名は。』を僕がどう評価したのか。ネタバレにできるだけ気をつけながら、3分間で短評してみます。
 
☆☆☆
 
先週の『イレブン・ミニッツ』でも言いました。「映画はそもそも時間や空間を好き勝手に伸び縮みさせたり瞬間移動させたりするのにもってこいの表現メディアだ」と。『君の名は。』も、まさにそんな映画の醍醐味を感じる作品でした。
 
そもそも、新海作品は、相容れない「2つの世界」が何かの拍子に交わる設定が多いと言われています。今作はその集大成かもしれない。都会と田舎、男と女、さらには生と死、現在と過去。それを隔てるのは、扉や窓。あちこちにこのモチーフが出てきましたね。ある時は手前と奥、ある時は右と左の平面で、それぞれ瀧と三葉を隔て、物語自体をも区切る役割を担っていて、とても効果的でした。一方、交わり、この作品では「結び」という言葉が使われていましたが、そのモチーフが、昼でも夜でもない「たそがれ」という時間帯。新海印とも言える(と思う)水・お酒・涙、そして見事なまでに美しいハイパーリアリズム的な光のグラデーション。そして、最も重要なのが三葉の村に伝わる組紐。運命の恋を象徴する赤い糸も出て来ました。三葉のおばあさんのこんな言葉がありましたね。「より集まって形を作り、捻れて絡まって、時には戻って、途切れ、またつながり。それが組紐。それが時間。それが、ムスビ」。僕が補足すると、「それが映画」となります。
 
とても分析しがいのある、何度も言ってるように、映画ならではの表現に満ち溢れた素晴らしい設定なんです。が! 僕に言わせると、その設定、シチュエーション、それを形作る絵は絶対的に魅力を放っているのに対して、具体的な脚本にはかなり無理があるし、気づいてしまうと急に白けてしまうような穴も空いているのは間違いないです。ここでは触れている時間はないですが、「よくよく考えるとおかしくない?」っていう矛盾があります。
 
特に後ろから1/3くらいは、あるとてつもなく大きなミッションが発動されるんですが、正直なところ、少々トゥーマッチというか性急でめまぐるしい描写が連続して、物語的な疑問を抱いてしまった僕は、そのジェットコースターから振り落とされました。
 
さらに言えば、僕はあのミッションの結果にも、これは映画というフィクションのあり方として、倫理的に納得がいかない。『シン・ゴジラ』と同様、ポスト3.11的な展開があるんだけど、物語上の疑問だけではなく、語弊を恐れずに言えば、この映画ではゴジラから逃げているようにすら思えるんです。それはダメだろうと。受け止めてどう対処するかが問題であって、無かったことにはできないだろうと。

シン・ゴジラ【オリジナル・トートバッグ付き】 (e-MOOK)

はい、ネタバレから逃げ続けた結果、観てない人にはよく分からない話になってるかもしれませんが、僕はやっぱり今回も、新海誠監督、技術と作家性をまだ活かしきれていない、逆に言えば、今後とんでもなく化ける、それこそゴジラ的進化を遂げるんではないかと思う結果となりました。
 
☆☆☆
 
以上、絶賛の声ばかりが目に耳に入る中、針のむしろに座る気持ちで短評しました。
 
Radwimpsの話をしなかったですね。今作では、これまで以上に物語(そのものというよりリズム)のエンジンとして音楽が機能していると思いましたが、歌詞のあるものが4曲というのは、ちょっと多すぎるかなと思いました。野田洋次郎が書く歌詞には力があり過ぎるので。
 
小説版にも目を通したんですが、正直なところ、文字表現ではこの設定は表現しきれないなと思ったりしました。映画だと感覚的にダイナミックに入れ替わる2つの世界が、小説版だと、俺と私といった人称の変化や、改行の仕方の工夫など、あくまで実験的な試みにとどまっていて、映画ほどシチュエーションを活かしきれていないなという印象です。
 
根本的なことをひとつ。僕は人が恋に落ちることに理由なんてないと思うし、そこに運命的なものを感じるのはいいんだけど、この物語の構造上、三葉は巫女の家系だから超自然的なことが起こるのはいいとして、相手が瀧である理由がどうしても掴めないんです。すると、ラストのあの展開にどうしても白けてしまいました。


さ〜て、次回、9月23日(金)に扱うのは、『スーサイド・スクワッドになりました。泣かない自信あるぞ(笑) ちなみに、FM802のDJ樋口大喜くんが、「マーゴット・ロビーのは好きなおっぱい殿堂入り!」とSNSで発言していましたが、その意味では『君の名は。』に続くおっぱい映画ということになりますね(たぶん違うし、そもそも映画のくくり方がおかしい)。鑑賞したら、#ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『イレブン・ミニッツ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年9月9日放送分
『イレブン・ミニッツ』短評のDJ's カット版です。

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カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの世界三大映画祭すべてで主要な賞を獲得しているポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキ監督、現在78歳の最新作。実は『アヴェンジャーズ』やティム・バートンの作品に出たりという俳優でもあります。監督作では、この前の作品、ヴェネツィアであのタランティーノが褒めまくったヴィンセント・ギャロ主演のセリフ無しの怪作『エッセンシャル・キリング』が話題になったのが記憶にあたらしいところ。

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ポーランドの首都ワルシャワで夕方5時に始まり11分後に終わる群像劇。都会に暮らすいわくありげな人々に起こるドラマをモザイク状に構成しています。11分後に何が起こるのか。
 
神戸・京都での上映も予定されていますが、現在はシネ・リーブル梅田のみということで、火曜日の昼に行ったらかなり入ってました。
 
それでは、11分の出来事を3分で短評してみましょう。スタート!
 
☆☆☆
 
全体の尺は81分。ざっと数えただけで20人以上の登場人物が出てきますが、パンフをもとに主要なキャラクターを数えたら11人。女好きで見えっ張りな映画監督と彼の次回作への出演交渉をホテルの一室でするグラマーな女優。極めて嫉妬深い女優の夫。ホテルの前の公園でホットドッグの移動販売をする前科者のおじさん。バイク便の男。ビルの壁を直す登山家とその彼女がホテルの一室でポルノ映画を観る。勇敢な女性の救急隊員。映画の撮影現場に居合わせた画家。街をぶらついて犯罪に手を染めようとする少年。犬を連れて公園を散歩するパンクヘアの女。
 
関わりがあったり無かったり。彼らの人生が交錯しつつ、11分後、恐らく観客全員の想像を遥かに越える、とてつもないラストシーンへと収斂していく。
 
こういう同じ時を生きる人々がクロスする群像劇は、時間を自由自在に伸び縮みさせたり繰り返したりできる映画というメディアお得意のタイプなので、過去には色んな例があります。『桐島、部活やめるってよ』でもいいし『マグノリア』でも『パルプ・フィクション』でも、ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』でもいい。でも、この作品はそのどれとも違うと思うんです。「うまい脚本」と言われるようなパズルじゃない。タイムリミットのあるサスペンスでもない。最後にきれいさっぱり答え合わせができて謎が解けるわけでもない。意味を求めるのはいいけど、意味を深追いすると、いわゆるオチにあっけにとられてしまうと思うんです。中には「何の話だよ」って怒る人すらいるでしょう。

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ポイントは、この作品が、iPhoneのカメラ、監視カメラ、パソコンのスカイプ、ビデオカメラなど、現代の僕らを取り巻くありとあらゆる映像機器をふんだんに使って撮影されていることだと思います。見ているようで見られているようで。エンドクレジットへと続く絵を思い出してほしいんですよ。実はそれが警察のマルチスクリーンになってる監視カメラのモニターだってやつ。そのマルチスクリーンがどんどん砂嵐的になっていって、一箇所、映画の中で謎めいて何度も登場した黒いシミとして浮かび上がる。物語とは直接関係ないように見えるけど、僕はあの黒いシミこそこの映画の真のオチに見えました。あのシミは登場人物たちも眼にしてる人がいましたけど、世界の中、歴史の中、宇宙の中では黒いシミにしか過ぎないような、何なら意味なんて把握しきれない僕らの人生そのもののメタファーなんではないかと。
 
11人。11分。ホテルの11階。低空飛行で摩天楼を横切る巨大な飛行機。監督は11に特に意味はないと言ってますけど、どう考えたって、15年前の2日後、9.11を髣髴とさせます。日本人にとっては3.11でもいい。善人も悪人も女も男も子どもも大人も。あの時あんなことが起こるなんて誰も思っていなかった。実に華麗な絵作りと編集さばき、そして強烈な音使いで僕らに提示したのは、人生の意味の無さと、それでも、いや、だからこそ意味を求めて懸命に命を燃やす人々の取るに足らないけれど愛おしい世界そのものだったんじゃないでしょうか。「いやいや、考え過ぎだよ、君」って監督に笑われそうだけど、こうして思い出すほどにまた観たくなる凄い作品に出会ってしまいました。
 
☆☆☆
 
この映画を観た後では、たとえば電車に乗っているだけでも、周りの人々の見え方が少し違ってくるというか、色んな人の思惑が行動が折り重なって地球が回っていることをふと思い出させてくれる。言わば俯瞰して神の視点で世界を観察してしまうんだけど、そんな僕もまた、僕に観察されている人々のひとりでしかないわけで(僕は神じゃないのだし)、やがてクラクラ来ます。
 
パンフでは映画の中で起こる出来事をきちんと整理してくれているし、コラムや遠山純生氏の評論も結構読み応えがあったのでオススメするんですが、今回僕が一番共感できて読み込みが深いなと感心したのは、スパイクロッドさんのブログ「映画を観たからイラスト描いた」でした。良かったら、読んでみてください。

さ〜て、9月16日(金)に扱うのは、『君の名は。になりました。先週に続いてのリクエスト枠。ようやく観れるぞ。鑑賞したら、#ciao802を付けてのTweetをよろしく!