FM802 Ciao! MUSICA 2016年9月9日放送分
『イレブン・ミニッツ』短評のDJ's カット版です。
カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの世界三大映画祭すべてで主要な賞を獲得しているポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキ監督、現在78歳の最新作。実は『アヴェンジャーズ』やティム・バートンの作品に出たりという俳優でもあります。監督作では、この前の作品、ヴェネツィアであのタランティーノが褒めまくったヴィンセント・ギャロ主演のセリフ無しの怪作『エッセンシャル・キリング』が話題になったのが記憶にあたらしいところ。
神戸・京都での上映も予定されていますが、現在はシネ・リーブル梅田のみということで、火曜日の昼に行ったらかなり入ってました。
それでは、11分の出来事を3分で短評してみましょう。スタート!
☆☆☆
全体の尺は81分。ざっと数えただけで20人以上の登場人物が出てきますが、パンフをもとに主要なキャラクターを数えたら11人。女好きで見えっ張りな映画監督と彼の次回作への出演交渉をホテルの一室でするグラマーな女優。極めて嫉妬深い女優の夫。ホテルの前の公園でホットドッグの移動販売をする前科者のおじさん。バイク便の男。ビルの壁を直す登山家とその彼女がホテルの一室でポルノ映画を観る。勇敢な女性の救急隊員。映画の撮影現場に居合わせた画家。街をぶらついて犯罪に手を染めようとする少年。犬を連れて公園を散歩するパンクヘアの女。
関わりがあったり無かったり。彼らの人生が交錯しつつ、11分後、恐らく観客全員の想像を遥かに越える、とてつもないラストシーンへと収斂していく。
こういう同じ時を生きる人々がクロスする群像劇は、時間を自由自在に伸び縮みさせたり繰り返したりできる映画というメディアお得意のタイプなので、過去には色んな例があります。『桐島、部活やめるってよ』でもいいし『マグノリア』でも『パルプ・フィクション』でも、ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』でもいい。でも、この作品はそのどれとも違うと思うんです。「うまい脚本」と言われるようなパズルじゃない。タイムリミットのあるサスペンスでもない。最後にきれいさっぱり答え合わせができて謎が解けるわけでもない。意味を求めるのはいいけど、意味を深追いすると、いわゆるオチにあっけにとられてしまうと思うんです。中には「何の話だよ」って怒る人すらいるでしょう。
ポイントは、この作品が、iPhoneのカメラ、監視カメラ、パソコンのスカイプ、ビデオカメラなど、現代の僕らを取り巻くありとあらゆる映像機器をふんだんに使って撮影されていることだと思います。見ているようで見られているようで。エンドクレジットへと続く絵を思い出してほしいんですよ。実はそれが警察のマルチスクリーンになってる監視カメラのモニターだってやつ。そのマルチスクリーンがどんどん砂嵐的になっていって、一箇所、映画の中で謎めいて何度も登場した黒いシミとして浮かび上がる。物語とは直接関係ないように見えるけど、僕はあの黒いシミこそこの映画の真のオチに見えました。あのシミは登場人物たちも眼にしてる人がいましたけど、世界の中、歴史の中、宇宙の中では黒いシミにしか過ぎないような、何なら意味なんて把握しきれない僕らの人生そのもののメタファーなんではないかと。
11人。11分。ホテルの11階。低空飛行で摩天楼を横切る巨大な飛行機。監督は11に特に意味はないと言ってますけど、どう考えたって、15年前の2日後、9.11を髣髴とさせます。日本人にとっては3.11でもいい。善人も悪人も女も男も子どもも大人も。あの時あんなことが起こるなんて誰も思っていなかった。実に華麗な絵作りと編集さばき、そして強烈な音使いで僕らに提示したのは、人生の意味の無さと、それでも、いや、だからこそ意味を求めて懸命に命を燃やす人々の取るに足らないけれど愛おしい世界そのものだったんじゃないでしょうか。「いやいや、考え過ぎだよ、君」って監督に笑われそうだけど、こうして思い出すほどにまた観たくなる凄い作品に出会ってしまいました。
☆☆☆
この映画を観た後では、たとえば電車に乗っているだけでも、周りの人々の見え方が少し違ってくるというか、色んな人の思惑が行動が折り重なって地球が回っていることをふと思い出させてくれる。言わば俯瞰して神の視点で世界を観察してしまうんだけど、そんな僕もまた、僕に観察されている人々のひとりでしかないわけで(僕は神じゃないのだし)、やがてクラクラ来ます。
パンフでは映画の中で起こる出来事をきちんと整理してくれているし、コラムや遠山純生氏の評論も結構読み応えがあったのでオススメするんですが、今回僕が一番共感できて読み込みが深いなと感心したのは、スパイクロッドさんのブログ「映画を観たからイラスト描いた」でした。良かったら、読んでみてください。