京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

デジタル時代、そして映画不況下の苦悩〜映画上映会を実施して考えたこと (旧ウェブサイトコラム『ローマから遠く離れて』)

 どうも、僕です。ドーナッツクラブがプッシュするお宝アーティストであるシルヴァーノ・アゴスティの映画上映会「アゴスティとモリコーネ」@大阪淡路東宝2の開催から、早いもので1カ月程が経過しました。おかげさまで多数の方のご来場を賜りました。ありがとうございました。お客様にご記入いただきましたアンケートにもすべて眼を通しまして、今後の参考にさせていただいております。

 ご意見やご質問の中でよくありましたのが、上映素材についてのものでした。プロジェクター上映なのは、なぜ? フィルムでの上映は考えていないの? こうした内容です。

 僕やメンバーも、アゴスティ監督の映画館「アッズッロ・シピオーニ座」やイタリアの複数のシネマテークにて、彼の作品をフィルムで鑑賞してきました。映画に関わる者として、作品をオリジナルのフィルムという媒体で上映する必要性について、もちろん承知しております。僕自身、映画体験の質がフィルムとデジタルでは大きく異なると考えていますから(制作年が60年代のものとなれば、なおさら)。

 では、なぜDVDで上映しているのか? 身も蓋もない話ですが、これは純粋に経済的な問題です。字幕のついたフィルムを制作するのには、莫大な資金が必要となります。方法はいくつかあるのですが、そのどれにしても、僕たちのような弱小グループには手に負えない費用です。それに、各種メディアで報じられているように、映画界全体が、とりわけミニシアターはどこも客不足にあえぎ、赤字を計上する作品が多い有様です。普通に配給会社に任せてフィルムでの上映にこぎつけようにも、どこも目先の損得勘定でしか動いていない状態ですから、こうしたアート系の作家の回顧は現実問題として実現不可能です。そこで、監督に相談した結果、お金の問題で上映そのものが頓挫するよりも、多少映像の質が低下しようとも、上映本数を増やして、日本でのより包括的な紹介が実現するようにしたいという結論にいたった経緯があります。心苦しいことではありますが、「アゴスティとモリコーネ」でデジタル上映を採用しているのは、こうした事情によるものです。

 それなら、ウェブで公開するとか、他のやり方のほうがいいのではないかという意見もあるかもしれません。ただ、僕たちとしては、不特定多数の人が同じ作品のために一堂に会し、暗闇の中にぽっかりと投射される映像に眼を凝らし、そこで感想を交わしたりしながら家路に着くという映画館の持てる本質的な部分は大事にしたいのです。

 京都・大阪と開催してまいりました上映会は、今後他の地方へも出張してまいります。こうした活動の中で皆さんのご意見に引き続き耳を傾けながら、そして日本でのアゴスティ作品の受容のあり方を見極めながら、より質の高い上映形態を探っていくつもりではありますが、現時点ではデジタルでないとお見せできない状況であることを、どうかご理解いただきたいと思います。今後とも、ドーナッツクラブ映画セクション「ドーナッツフィルム」の配給作品を、どうぞよろしくお願いいたします。