京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年11月25日放送分

『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』短評のDJ's カット版です。

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あの「ハリー・ポッター」シリーズのおよそ70年前、ロンドンではなく、1920年代のニューヨークを舞台にした新シリーズ。ハリポタからファンタビへ。時代は遡り、物語も子ども向けというより大人向けになりました。そして、初めて原作が未発売のまま映画が公開されるという流れ、なおかつJ・K・ローリングが脚本にもがっつり参加しています。

幻の動物とその生息地(静山社ペガサス文庫) (ハリー・ポッター) ハリー・ポッターと賢者の石 (吹替版)

90年代にハリー・ポッターが使うことになるホグワーツ魔法魔術学校の教科書『幻の動物とその生息地』を編纂した魔法動物学者ニュート・スキャマンダーの冒険譚。この第一作を皮切りにした5部作になることが発表されています。監督はハリポタシリーズでもおなじみのデヴィッド・イェーツ。主役は、オスカー俳優エディ・レッドメイン
 
アメリカではもちろん公開初週から首位。日本でも上位に食い込むでしょう。一昨日の公開初日、初回を109シネマズ大阪エキスポシティIMAX3Dで鑑賞してきました。妙ちきりんな魔法動物がたくさん出てきますから、3D効果もプラスアルファとして楽しめましたよ。

ポケモンGOを思い出さずにはいられない魔法動物の数々。1920年代のニューヨークという舞台設定の妙。そして、役者たちの名演技。以上の3点を根拠に、僕はこのファンタビ1作目を高めに評価しています。正直なところ、期待を越えてきました。

 

まず、魔法動物たちの魅力。ポケモンGOしかり、ドラクエしかり、ジブリしかり、成功しているファンタジーに登場する生き物たちの共通点って、バランスがうまいってことだと思うんです。地球上にいそうでいない。「なんじゃこりゃ。見たことない」ではダメなんですよ。魔法使いたちも、魔法が使える以外はほとんど人間と一緒じゃないですか。動物たちも、奇想天外な能力が備わってるけど、それ以外は、「あ、こんなのいるかも〜」だけど、実際にはいないというバランスになってる。世界中の妖怪、もののけの類、そして実在する動植物のリサーチを徹底的にしたからこそ生まれる「ファンタジックなリアリティ」が上出来。

 

たとえば、最初にニュートのトランクから脱走するニフラー。あの、モグラとカモノハシを足して2で割ったみたいなやつ。手に負えないいたずらっ子だけど、かわいいじゃないですか。「そのちっぽけなお腹は4次元ポケットか!」ってくらいにお金やら光り物やら集めていく様子なんて思わず笑っちゃう。「こいつ、そんな虫を食べるんかい〜!」っていう意外性のあるビーストもいましたね。あの害虫をスローモーションでスクリーンにわざわざ映し出すっていうバカっぽさ、笑うわ〜。こうした愛着が観客ごとに湧いて、それぞれの推しキャラが生まれてくるという理想的な展開ですね。

 

これまでのハリポタと大きく違うのは、現実世界と魔法世界をはっきり分けるんではなくて、魔法動物も動物も魔法使いも普通の人間(ヨーロッパではマグル、アメリカではノーマジと呼ばれている)も、交錯してしまうというんです。表と裏でなく、表裏一体なんです。そこで、1920年代のニューヨークという設定が効いてくる。第一次大戦が終わって好景気。自由の女神がそびえる港には、世界のあちこちから移民がやって来る。今回のノーマジの重要な人物コワルスキーもそうですね。今につながる消費主義社会の幕開け。良くも悪くもです。アメリカンドリームと言えば聞こえはいいけれど、格差も生まれる。人種が入り混じって、極端なレイシズムファシズムが出てくる。禁酒法のような大衆の締め付けが闇社会を肥やした。
 
優れたファンタジーは、必ず現実のメタファーとして機能します。ファンタビが大人向けだと言われるのは、登場人物が大人だからってことじゃなくて、人間の現代史と魔法使いの物語をミックスさせることで、よりこのメタファー、置き換えがはっきりしているから、読み解きがいがあるからだと思います。
 
最後に、役者陣の演技。エディ・レッドメインのニュートははまり役ですね。20年代のファッションが似合うし、知性はずば抜けてるけど、うっかり屋さん。特にあの姿勢ね。傾いてるでしょ。伏し目がち。自信がないんだよね。コミュニケーションが下手。オタクっぽい。この性格はむしろ現代的なんですよ。ただ、僕がもっと気に入ったのは、コワルスキーです。コメディアンのダン・フォグラー、間違いなく出世作でしょう。基本的にどんくさい太っちょ。コメディ要素を彼が一手に引き受けていて、しかも、ラストなんてこの上なくチャーミング。苦くて甘い。彼だけがノンマジ、普通の人でしょ? 彼のリアクションがうまくないと、物語が締まらないんですよ。ダン・フォグラーは、その点、最高でした。
 
ハリポタ弱者でも入りやすく、この作品単体でも一応完結させ、なおかつ次作以降へのフリもしっかり入れる。こんな難解な方程式をよく解いたよ。さすがはJ.K.ローリング。
 
ただ、なんじゃそりゃ~っていうツッコミどころ、ほころびもあるっちゃある。まず、「ニュート、とにかくお前のせいだかんな〜!」ってくらいに、スキャマンダーのうっかり具合にも程がある。もうトランクから目を話すな! ブレンドしてる分、現実と魔法世界の区別が、わりとわかりにくい。クライマックスのあいつの不気味な姿がアメコミっぽい既視感。魔法世界の死刑システムが謎。この辺は、変に今っぽくて浮いちゃってる。そして、これが一番!
 
物語的に都合の良すぎる魔法がある。僕はね、人間の記憶をなかったことにする忘れ薬的なオブリビエイトはまだいいと思ってるんだけど、レパロっていう壊れたものを建物から車から何でも直す魔法については、何回か劇場でつぶやきましたね。「それがありだったらさ〜」。あと、どこまで直るのかよくわかんないんだよ。
 
でも、とにかく、早くも次作が楽しみなシリーズの始まり。トランプが大統領になり、世界各地で排他主義が幅を利かせる中、異なる者同士が共存する社会のメタファーとしてファンタビが展開されるのか、それともそんなのは理想だとハリポタ同様にダークな方向に流れていくのか、いずれにしても今から楽しみです。

さ〜て、次回、12月2日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様から授かったお告げ」は、『疾風ロンド』です。最近、邦画コメディーであまりちゃんと笑えてないんだけど、大丈夫か? スベっているのはゲレンデだけにしてくれと願いつつ、あなたも鑑賞したら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!