京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『アラジン』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2019年6月13日放送分
映画『アラジン』短評のDJ's カット版です。

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舞台はアラブの港街アグラバー。貧しさ故に泥棒に身を落としてはいるものの、心やさしく機転のきく青年アラジン。彼が市場で巡り合ったのは、王宮の外に自由を求めてお忍びでやって来た王女ジャスミン。ふたりは惹かれ合うものの、アラジンは王宮に忍び込んだことがばれて捕らえられてしまいます。彼を使えると見込んだ邪悪な大臣ジャファーは、アラジンを魔法の洞窟に放り込み、ランプを手に入れさせようとするのですが… こすればランプから出てきて、願いを3つ叶えてくれる魔人ジーニーは、誰のどんな願いを聞き入れるのか。
最近のディズニーは実写化が多いですよね。『アリス・イン・ワンダーランド』『マレフィセント』『シンデレラ』『美女と野獣』『プーと大人になった僕』『ダンボ』『ライオン・キング』『ムーラン』。すごい数ですよ。そんな中、こちらは92年に公開された大人気アニメの実写リメイクです。原作はご存知『千夜一夜物語』の『アラジンと魔法のランプ』。監督は『シャーロック・ホームズ』『コードネーム U.N.C.L.E.』などのガイ・リッチー。ランプのジーニーを演じるのは、ウィル・スミス。王女ジャスミンはインド系イギリス人ナオミ・スコット。そして、アラジンを演じるのは、競争率の高いオーディションを勝ち抜いたエジプト系カナダ人のメナ・マスードです。

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事前に試写を観ていた複数の802関係者から、「マチャオ、いつの間にアラジンに出てたん?」なんて聞かれてたんですよ。僕はもうこの手のフリにはわりと慣れているので、やれ「撮影は大変やった」とか「眼の前で見るジャスミンは美しかった」とか適当なことを言ってたんです。あ〜、また僕に似てる人がいるんだなと。これまでも、ジェームズ・フランコアダム・ドライバー、大人気海外ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のキット・ハリントン、そして眼鏡に帽子という条件付きで、ジョニー・デップなどなど。確かに、どの役者さんも映画によって役によって、僕に似てはいるんだけど、今回のメナ・マスード演じるアラジンは段違いかなと、僕も思います。僕もだんだん映画を観ていて他人事には思えなくなってくるくらいだったんですが、不思議とリスナーからは誰にも言われなかったんだよな。雅夫はアラジンなのか、マサジンなのか… 
 
てなことはどうでもよく、音楽には、『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』でお馴染みのソングライターコンビ、パセク&ポールも参加して、実写版オリジナルの曲を提供しています。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、そろそろいってみよう!

何度か話している通り、ディズニーは今や最強のポジションを獲得しているわけです。ピクサースター・ウォーズも取り込んだばかりか、今年は20世紀フォックスも買収しちゃいましたから。映画業界という世界でのディズニーランド、ディズニーの国の領土をぐいぐい広げているわけです。そんな中で、さっきも言ったように、名作アニメの実写化が相次いでいます。その理由は何か。ひとつは、日本での漫画実写化が多い理由と同じでしょう。興行的なリスクの低減。もともと売れてる知名度の高い物語であれば、集客にも苦労するまいという、コンテンツそのものの魅力にあやかるパターンですね。しかも、オリジナルが自分のとこのものなので、そして、もうひとつ僕が事の本質だと思っているのが、2010年代現在の価値観での語り直しです。オリジナルアニメでは「アナ雪」や『ズートピア』に象徴されるように、それぞれの役割とか「らしさ」から解放された多様なキャラクターが活躍する物語を生み出しています。そこで、90年代にディズニー復活の礎となった名作たちも、この際そういう価値観でやってみようというわけです。
 
多様性は早速キャスティングに出ていますね。黒人、アラブ系、インド系という3人がメインなわけです。ストーリーラインは大筋ではもちろん変えていないがために、違いに注意がいくように設計されているわけですが、その最大の違いはジャスミンです。「プリンセスがちょいと庶民の生活を覗いてみました」ってな『ローマの休日』的なレベルではなくて、なんと自分で王位を継ぐ気満々なんですよ。舞台がアラブだけに、その意志の驚きがさらに増します。演じたナオミ・スコットはいい女優ですね。役者の身体をのびのびと見せるガイ・リッチー演出が冴えていたアラジンとジャスミンの出会いから逃走のくだりでも、「やる時はやる」っていうジャスミンの意志の強さを匂わせていて良かったです。そして、何より『Speechless』という今回のための新曲! ナオミは歌もうまい! そして、「あたいは黙ってないわよ」っていう気持ちがちゃんと伝わってきます。

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そして、キャストと言えば、ウィル・スミスですよ。オリジナルではロビン・ウィリアムズが声を当てていて、その印象が強烈だったわけですが、それをウィル・スミスはリスペクトしながらも自分らしく更新してみせることに成功しています。なにせ実写で出るわけだから、プレッシャーも相当だったと思うんですが、まあのびのびしていること。これもやはり音楽的な効果が大きいです。『Friend Like Me』では得意のラップをさせてるし、ウィル・スミス最大のチャームである表情のバリエーションの豊かさをたくさん見せていましたね。そこからの、魔法でアリ王子になったアラジンとジーニーが率いる大名行列的なインド映画的カーニバルなんて圧巻です。はっきり言って、文化的にはもうカオスなんだけど、そこは力業でもっていってます。時に物語に暗雲が垂れこめても、ジーニーが、いや、ウィル・スミスがそれを軽やかにコミカルにしてくれることで、画面が一気に華やぎました。
 
とまあ、基本的に楽しんだ今回の実写リメイクですが、違和感もありました。これも大きなものを2点挙げます。悪役であるジャファーの心情がうまく表現しきれていなかったことで、奴がすごく小者に見えるので、ハッピーエンドへ持っていくためだけの道具に成り下がってしまっていたこと。そして、ディズニーにつきものの動物描写ですが、猿はすごくいいとしても、虎はかなり厳しい。当たり前だけど、虎がむちゃリアルなので、ジャスミンすら魔女っぽく見えるのは問題ですよ。なんなら端折っても良かったかな。実写の利点を虎についてはうまく物語に落とし込めていなかった印象ですかね。まあ、でも、こうした違和感も、主要キャスト3人と音楽と今回はやり過ぎなかったガイ・リッチー演出が織りなすハーモニーに取り込まれれば、ほんの些細なノイズに過ぎません。誰にでも勧められる楽しいリメイクだったと思います。


さ〜て、次回、2019年6月20日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『メン・イン・ブラック インターナショナル』です。お、2週連続ウィル・スミスと思いきや、今回は出演してないんですよね。前作からずいぶん空いてのシリーズ復活はどうなっているのか。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!