京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『65/シックスティ・ファイブ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 6月6日放送分
映画『65/シックスティ・ファイブ』短評のDJ'sカット版です。

ミルズは、妻と娘を残して宇宙探査船に乗り込み、長いミッションの旅に出ていました。ところが、多数の小惑星に衝突したことにより、船は未知の惑星に不時着を試みるも墜落。船体はバラバラになり、ミルズ以外に生存者はゼロ。はるか先に落ちた脱出船を求め、未知の惑星を探索するミルズは、そこでコアという少女ひとりが生存していたことを知るのですが…
 
製作は『死霊のはらわた』や『スパイダーマン』シリーズのサム・ライミ。監督・脚本は、『クワイエット・プレイス』の原案と脚本を担当したスコット・ベックとブライアン・ウッズのコンビです。主演は、ご存知アダム・ドライバー。少女コアを演じたアリアナ・グリーンブラットは、現在15歳。アニメの『ボス・ベイビー』シリーズでタビサ役を演じている他、今後はマーゴット・ロビー主演『バービー』への出演も控えています。
 
僕は先週木曜日の夜に、MOVIX京都で鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。


なんかもう、先週の『TAR/ター』が超濃密だったもんで、今週はある種お気楽にSFサバイバルスリラーを楽しんだ感じです。尺も93分とコンパクトで、それこそ昔のジャンル映画、プログラムピクチャー感がある、サクッと見られるやつですね。僕が観た回の特徴としては、全員男性で、なおかつ40代以上じゃないかなって感じ。SFやホラー/スリラーが好きなのかなっていう印象ですけど、アダム・ドライバーが主演なんで、彼目当ての層がいてもいいようなものですけどね。

 
と思ってしまうくらい、とにかくこれは、アダム・ドライバーのリアクションを楽しむ映画です。もう予告なんかでもバッチリ言っちゃってるし、開始10分ぐらいでわかることなんで明らかにしてしまいますが、65というのは、65 million years ago、つまり、6500万年前の地球に不時着した男の話です。6500万年前の地球は、そりゃ恐竜がわんさかです。人間なんていません。そこに、結構高度な文明を持った宇宙人たるミルズがやって来るわけです。目指してたわけではないんですが、なんでそんなことになってしまったか。予測できなかった小惑星に宇宙船がばんばんぶつかってしまったからです。6500万年前の地球付近の小惑星と言えば、あの恐竜を絶滅させてしまったやつか。そうなんです。だから、ミルズもとっとと地球を逃げ出さないと大変。いろんなガジェットを駆使して、とりあえず船体がばらばらになった時にどっかに飛んでっちゃった脱出船を見つけ出さなきゃ、と思ってたら、生き残りの乗組員の娘と思しき女の子コアを見つけたらから、ふたりで力を合わせようっていう流れです。
なんか、正直、SFとしてはいろいろ立て付けの悪いところはあります。宇宙人ミルズの元々いた星が地球にそっくりで、なおかつ、なんであいつ英語を喋ってるんだと。そんでもって、どうやら元いた星にもいろいろ言語があるらしいんだけど、なんでコアっていう少女は英語が話せなくて、翻訳機みたいなものもないんだ、とかね。何年かかけての宇宙探査の目的もよくわかんないし、詰めが甘め、ではあります。
でもね、僕が偉いなと思ったのは、監督・脚本コンビのベックとウッズは、さっき言ったような説明を必要最小限に抑えるばかりか、そのほとんどを映像でやってのけているんです。これはふたりがインタビューでも公言していることですが、できる限りピュアな映画体験、ふたりの考える「純」映画的な表現で観客を楽しませたいという冒頭からの宣言でもあると思うんですね。セットアップはできるだけ早くして、あとはもう一直線に話がまっすぐに向かえば、だれも迷いはしないだろうと。あとは、予算にも限りがあるし、登場人物はほぼふたりに抑えて、恐竜なんかでCGはもちろん使うけれど、特殊効果も最小限に抑えて、むしろ何かが起こりそうな予感で観客を惹きつける演出に心を砕き、そこに音響効果も全面活用したいというもの。僕はその意欲は買いますね。
では、何を楽しむかって、だから、それはアダム・ドライバーに襲いかかる災難の連続と、そこで何とかうまく立ち回ろうとする彼のリアクションです。僕は3つの映画を思い出しました。その1。ウィル・スミス主演の『アフター・アース』。僕は酷評しましたが、それはなぜかって、笑顔がチャーミングなウィル・スミスが一切笑ない上、怪我しちゃってほとんど宇宙船から動けないんですよね。それじゃ、ウィル・スミスの良さが発揮されないじゃないか。そこへいくと、今作『65』の主演はアダム・ドライバーは、困った顔が魅力的な人ですから、そのバリエーションをたっぷり味わえます。その2。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『メッセージ』。これは、ミルズとコアが言語的には通じ合えないところから、身振りや単語のレッスンでコミュニケーションを図るところに共通点があります。そして、その3として、『ドント・ルック・アップ』です。隕石が衝突するというタイムリミットですね。あとはもちろん、『ジュラシック・パーク』でしょうか。でも、こちらの恐竜は蘇らせたんではなく、野生ですからね。

アフター・アース (字幕版) メッセージ (字幕版)

こんな風に、既視感はあるけれど、何か設定を変えて、いろいろ工夫してみようというのは、ジャンル映画の楽しさだし、アダム・ドライバーもそこはよく理解して、風雲たけし城的に身体を張ってます。さらに、彼はウィル・スミスと違って、困った顔が似合う。つまり、『アフター・アース』と違って、良さが生きている。イキイキと困っている。それがいいんですね。特段たいしたメッセージもなく、純粋にジャンルに浸ってハラハラ・ドキドキ。高く評価されるたぐいの映画ではないけれど、南森町アダム・ドライバーにも好印象でしたよ。
 
アダム・ドライバーはあちこちから引っ張りだこですが、もともとミュージシャン志望だったということで、歌も歌えます。2年前、アダムがプロデュースも買って出たレオス・カラックス監督の映画『アネット』のサントラから、最近新譜も出したSparks、それからマリオン・コティヤールとアダムのコラボレーション曲をオンエアしました。


さ〜て、次回2023年6月13日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『渇水』白石和彌監督とは何度もラジオでお話してきましたが、プロデューサーという形での作品に触れるのはこれが初めてかも。水道局に勤める男の心が乾いているという物語か。良さげ。アダム・ドライバーから生田斗真へ。イケメンの流れもいい感じ。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!