FM COCOLO CIAO 765 毎週月曜、11時台半ばのCIAO CINEMA 6月16日放送分
映画『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』短評のDJ'sカット版です。
前作『デッドレコニング』で世界の脅威とされていた「自我を持ったAI」であるエンティティは、あれよあれよと世界の支配を進め、煽動された人々がその目論見通りに動いている状況です。イーサン・ハントはエンティティを止めるために必要とされる鍵を前作の最後で手にしましたが、同じIMFの仲間ルーサーが作り出したデジタルデータの毒を使って事態の打開に乗り出そうとしていきます。
共同製作・共同脚本・監督は、「ローグ・ネイション」以降、これで4作目の「ミッション:インポッシブル」となるクリストファー・マッカリー。イーサン・ハントを演じるトム・クルーズは、今回も製作に名を連ねています。他に、サイモン・ペッグ、ヴィング・レイムス、ヘイリー・アトウェル、イーサイ・モラレス、ポム・クレメンティエフなどが出演しています。
僕は先週金曜日の朝にTOHOシネマズ二条でIMAX字幕版を鑑賞してきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。
前作、といっても2部作の前編だった『デッドレコニング』を評したのが2年前の夏でした。それから2年弱の時間が流れたわけですが、その間に全米脚本家組合のストライキや撮影に使う潜水艦の故障もあって公開が遅れました。サブタイトルも変更になりました。苦難の連続ですよ。なおかつ、これは単純に2部作の後編ではなく、シリーズ7本を束ねる30年の集大成でもある8作目でもあるわけです。加えて、このシリーズでは、新作を発表するごとにこれまでの作品を特にアクション面で超えてほしいという観客の要望を過剰に受け止めるトム・クルーズの応答がベースにありますから、はっきり言って映画作りそのものがインポッシブルなミッションになっているところがあります。それを高いレベルで乗り越えて見せたトム・クルーズと、自らスタントマン顔負けのトレーニングを積んで撮影に付き添って演出した盟友クリストファー・マッカリー監督に、まず感謝の言葉を贈りたいです。映画の可能性を力ずくで押し広げてくれて、心からありがとう。そして、おつかれさまでした。無事に公開もされて大ヒットしているんで、しばらくは心身ともに休めてください。と思ったら、このコンビで「トップガン3」をもう進めているという話を耳にしまして、今作の鑑賞中に僕もついつい何度か口を開けて呆然としてしまいましたが、またしても口をあんぐり、目が点になってしまいました。
「トップガン」のタイトルが出ましたが、今作では太平洋に展開する米軍の空母にイーサンが下り立つシーンがあって、「ミッション:インポッシブル」だけでなく、「トップガン」までおさらいしてくるのかとクラクラきましたが、実際、前作からイーサンのチームに加わったドガというキャラクターを演じているグレッグ・ターザン・デイヴィスという前途洋々な俳優は『トップガン マーヴェリック』の撮影が終わってからトムが直々に出演オファーした人物でもあります。今まで誰も観たことがないものを作りたいというトム・クルーズの映画への情熱を実現するには、こうしたキャストも含めたスタッフと技術とアイデアを生み出す環境づくりも欠かせないわけで、トム・クルーズ本人がプロデューサーとしてそこにも気を配っているという超人的な状況です。
今まで誰も観たことがないものをスクリーンに投影したい。このミッションが展開しているのは、ざっくりふたつのハイライトです。まずは、前作で手に入れた鍵を、よりによって前作の冒頭でベーリング海に沈んだ潜水艦の中に差し込みに行くという水中アクション。もうひとつは、すべてアナログな複葉機の飛行機に飛び乗って翼の上を歩いたり別の飛行機に飛び移ったりする空中アクションからの脱出劇。これらハイライトにおける大きな特徴は、ほぼ台詞がないことです。イーサンはその行動でもって自分の心持ちを表現してキャラクター造形をし、物語を推し進めるわけで、アクションが言語なんです。もっと言えば、映画言語になっている。不言実行の究極の形です。
「スパイ大作戦」をベースに始まったこのシリーズは、特殊能力を備えたチームによるミッション達成が基本であって、30年前からトムの孤軍奮闘が多すぎるという批判はありました。確かに、クライマックスはそうなることが多いのだけれど、今作でも顕著なように、ハイライトのお膳立て、セットアップの部分はむしろチームの戦力を総動員しているんですね。トム=イーサンの頑張りは、あくまで団体戦の末に用意されているとも言えるかと思います。特に本作においては、シリーズの集大成として、過去作のキャラクターを再起用するなど、物語においても、それを作り上げる体制においてもチームが大切なのであり、そのチームにおける信頼こそが何よりも重要だということが、ラストシーンでも強調されていました。
前作を短評した時に、「物理的な鍵が鍵」って、どれだけ古典的なんだと僕は言っていて、今回の敵であるエンティティというAI、つまり実体のないものとどう対峙するのかが今作のポイントになってくるだろうと分析していました。僕はそのエンティティをめぐる一連の展開にも満足しましたよ。正直、理論的にはついていけないというか、理屈がよくわからないところはありましたけれども、エンティティが人間をフェイク情報で煽動して洗脳し、核保有国のセキュリティを次々と突破して支配下に置いて一斉に核ミサイルを起動して人類を破滅に向かわせるというシナリオにははっきりと恐怖を覚えましたし、細かいところまで今は触れませんが、間違いなく2020年代現在の世界を鋭く批評するものでした。劇中の黒人女性のアメリカ大統領が、もし現実のトランプ大統領だったらどうなるだろうかとすら考えさせられましたね。その上で、今作のメッセージを読み取るとするなら、それはものすごくシンプルなものですね。はっきりとイーサンが口に出していましたよ。しかも、今回はこれまで以上によく脱いでいたイーサンが極寒の海の中を進む潜水艦の中でパンツ一丁で叫んでいました。「インターネットの見すぎなんだよ!!!」。補足するなら、「なんでもデジタルやバーチャルで経験したような気になって、ネット上の情報を鵜呑みにしやがって。人間として、そんなことで良いのか! 自分の五感を大事にしろ。自分で動いて、自分で考えて、自分で体験しろ。映画もそうやって作ることで感動が生まれるんだ。今回だってどでかいプールを作ってそこに潜水艦を入れたんだぞ。本当に飛行機を飛ばしてスタッフも含めて乗ってるんだぞ。あの空のシーンだけで撮影に4ヶ月かけたんだ。そんな作品を配信されてから家で観ようなんてふざけるな。映画は映画館で観ろ!」という叫びだと僕は受け止めました。トム・クルーズがそうやってスクリーンに展開しているのは、彼が信じる映画というメディアの魅力そのものと言えるでしょう。
基本的にはあのテーマ曲も含め、オリジナルの劇伴が劇中の音楽を構成しているんですが、1曲、1935年、つまり90年前の映画『トップ・ハット』に書き下ろされた『頬よせて』が実にさりげなく挿入されているシーンがあります。気が付きました? これに気づくのがミッション・インポッシブルという気もするんですが、唯一の挿入歌がこれってのがなかなか粋だなと思います。
さ〜て、次回、6月23日(月)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『おばあちゃんと僕の約束』です。タイの映画ですね。ぴあの華崎陽子さんが番組でも紹介してくれていたものでして、僕もかなり興味を惹かれていました。タイ映画では、3年前に『プアン/友だちと呼ばせて』を観て、そのレベルの高さに大興奮したことを思い出します。さぁ、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、Xで #まちゃお765 を付けてのポスト、お願いしますね。待ってま〜す!