京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月11放送分

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ボス・ベイビーが、兄のティムと繰り広げた、赤ちゃんvs子犬の戦いから25年。ボス・ベイビーは金融関係の会社のCEOになり、ティムは専業主夫として、仕事のできる妻、7歳の長女タビサと赤ちゃんの次女と幸せに暮らしていました。そこへボス・レディーなる人物が姿を現し、世界征服を企む悪を倒すよう、ボス・ベイビーとティムに指示をしたのですが…

ボス・ベイビー(字幕版)

監督・製作総指揮は、前作に続き、生みの親であるトム・マクグラス。音楽はハンス・ジマーとスティーヴ・マッツァーロの師弟コンビ。吹替版のキャストは、ムロツヨシ宮野真守多部未華子芳根京子となっています。
 
僕は先週火曜の昼、TOHOシネマズ梅田で吹替版を鑑賞いたしました。公開から時間が経ってスクリーン小さめだったとはいえ、かなりお客さんが入っていましたよ。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

見た目は赤ちゃんなのに、中身はおっさん。アカデミー賞にもノミネートした前作を、僕は2018年3月末にラジオで評しています。そこではまず、ドリームワークスというスタジオ全体の方針を紹介しました。「ディズニーは、子供と、大人の中にある子供心に向けて映画を作るが、ドリームワークスは大人と、子供の中にある大人心に向けて映画を作る」というもの。ボス・ベイビーはそのコンセプトを象徴するような作品で、技術にも作劇にも多少のアラはあるものの、ワーク・ライフ・バランスの問題や他者とどう向き合うかという、実はそれこそ大人っぽいピリリとくるトピックを扱いつつ、しっかりジンとくるような映画になっていて、結構評価したんです。その後、TVシリーズも作られ、日本ではEテレでも放送され、こうして続編もあり、人気を博しているのはご承知のとおりです。
 
設定が突飛でユニークなだけに、テレビ向けのエピソードはそのバリエーションで色々エピソードが作れるのはよくわかるんですが、長編映画となると、今回はどんなでっかい話になるのかと思ったら、まず驚いたのは、まさかの舞台が25年後っていうこと。しかも、ティムが専業主夫になっているという今どきの攻めた設定でいきなり飛ばしてるなと思ったら、ボス・レディーが登場。早速、性別分業への異議を唱えたかと思えば、普遍的な兄弟愛、家族愛がやはり軸になるという、テーマの柔軟性に惹かれました。

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(C)2021 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
前作同様、これはトム・マクグラス監督のお兄さんへの気持ちも作品の原動力になっています。曰く、自分に映画の作り方を教えてくれた兄が、若くして家族を持って故郷にとどまり、弟である自分が映画業界でバリバリやりながら家族を持たずにいる。本作では兄と弟がテレコになっていますが、対称的な兄弟の人生をテーマにしつつ、今回のポイントは、そこにティムと娘のタビサの親子愛を盛り込むというツイストもきかせています。設定は相変わらず強引ではあるものの、うまいなと舌を巻きます。
 
そして、目と眉毛でここまで感情が表現できるのかというキャラクターの動かし方と、絵のトーンの変化にも目を見張りました。これも前作同様、3DCGの中に古き良き2Dのタッチを物語的に意味のある形で混ぜ込んでくる手法も見受けられます。簡単に言えば、現実と空想で変化をつけるわけですけど、音楽の使い分けとも連動させながら、この手法を一段進化させていました。

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(C)2021 DreamWorks Animation LLC. All Rights Reserved.
惜しむらくは、少々味つけが濃いことですかね。キャラクターもそれぞれ濃ゆいし破天荒だし、ドタバタのギャグやアニメらしい物理法則を無視した動きが濃密すぎて、物語の実は繊細でもある感情の流れをぶった切ってしまっている印象は拭えません。とはいえ、しっかり最後はジンときて、また笑ってと、うまいです。ディズニーのコンテンツ一人勝ち状態が続く中、カウンターとしてのドリームワークス、その今や看板のひとつ、ボス・ベイビー、僕は引き続き推したいところです。家族で観に行ったら、きっと親世代、祖父母世代の方が目頭を熱くすることでしょう。
前作同様、遊び心満載で音楽をよく理解しているサントラには、ハンス・ジマーのオリジナルに加え、Run DMC、ハリー・ニルソン、Enyaトーマス・ニューマンなど並んでおりますが、ここではSalt-N-Pepa, Push Itをオンエアしました。


さ〜て、次回、2022年1月18日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『こんにちは、私のお母さん』となりました。中国映画で、コメディーで、なおかつタイムトリップもの。中国映画に明るくない僕なので、うかつなことは言えませんが、これは僕たちにとっては新しい映画体験になりそうな気がしています。コメディーと言いつつ、思わず落涙しそうな雰囲気もありますね。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!