京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『キングスマン:ファースト・エージェント』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月4放送分

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表の顔は、高貴なる英国紳士。裏の顔は、世界最強のスパイ組織キングスマン。国家に属さない秘密結社の活躍を描くシリーズ3作目にして、組織の誕生秘話を描いた今作。名門貴族オックスフォード公とその息子コンラッドは、20世紀初頭、第一次世界大戦に突き進んで混迷を極めるヨーロッパを舞台に、暗躍する羊飼いなる黒幕とその一味の企てを葬り去ることができるのか。

キングスマン(字幕版) キングスマン: ゴールデン・サークル (字幕版)

 

監督、原案、脚本、製作、そのすべてを手掛けるシリーズ生みの親マシュー・ヴォーンは、もちろん今回も続投しています。オックスフォード公を演じ、製作総指揮も務めたのは、レイフ・ファインズ。その息子コンラッドをハリス・ディキンソン、女執事をジェマ・アータートン、公爵の右腕をジャイモン・フンスーが演じます。
 
僕は先週水曜の午後、Movix京都で鑑賞いたしました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

「最近のスパイものはシリアスすぎる」。007の熱狂的なファンでもあるマシュー・ヴォーン監督が、原作者とパブでそう話して企画がスタートしたキングスマン。確かにそうです。スパイものも、SFも、ヒーローものも、現実の世の中がインターネットで万事解決するような時代にあって、そしてビッグバジェットで観客の最大公約数を狙おうとすればするほど、倫理的な問題も横たわり、主人公はやたらと考え込んだり、アイデンティティに思い悩むようになりました。キングスマンというシリーズは、そうした物語設定の難しさの網の目をうまくかいくぐり、Manners maketh man「礼儀が人を作る」という14世紀後半の古い英語の格言を持ち出して、階級社会の鎖をちぎってみせ、人に優しくあれという、宗教・時代・国境を越えるような普遍的な価値を打ち出すことで、成功を成し遂げました。確かにキングスマンというテーラーはロンドンにあるけれど、MI6のようにイギリスという国家に従属しているわけでもない、世界情勢のバランサーという発明的なアイデアだったと思います。その土台の上で、マシュー・ヴォーンは紳士が仕立て屋の隠し扉を抜けると戦闘員になるという痛快なギャップと、ニヤリとくるユーモア、無駄を削ぎ落とした美しいまでのアクション、音楽的と言ってもいいようなリズミカルな物語運びを編集でも生み出してきました。2作目のゴールデン・サークルでは、その変奏もうまくいき、舞台はアメリカへ拡大。アクションのアイデアはますます豊富にして新鮮でした。

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© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
で、3作目。前日譚です。僕は観る前、この超楽しいエンターテインメントが後退してしまうのではないかと正直心配しました。前日譚の失敗例も多いし、何より第一次世界大戦なんて描いたら、それこそ監督が問題意識として持っていたという「シリアスすぎるスパイもの」に追従してしまうのではないか。ところが、マシュー・ヴォーンは、またしてもやってくれました。まず歴史をきっちり調べ直して、たとえば、イギリスの国王ジョージ5世、ロシアのニコライ2世、ドイツのヴィルヘルム2世がいとこ同士だったことや、サラエボでのフランツ・フェルディナンド公の暗殺事件の偶然性など、史実をふんだんに盛り込みながら、権力者がいかに間違ったリードで人類をスポイルしたのかを描き、ラスプーチンマタ・ハリといった実在の謎多きキャラクターがいかに跋扈し、暗躍したかをファンタジックに見せながら、だれしもがまずは話し合うことが必要であるという結論へと確実に導いていきます。その様子がまた絶妙に荒唐無稽で、それでも歴史の核心は外さないバランス感覚は見事でした。ロケ地の選定も入念でしたね。エンドクレジットを見ていてびっくりしたんだけど、サラエボのシーンは僕の生まれたトリノで撮っているんです。切り取り方がうまいので、トリノって気づかなかったぐらい。驚きました。

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© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.
確かにシリアスな部分は大いにあって、オックスフォード公には悲しみがつきまとう一方、その悲しみを突破するのが、実は何があっても平和を希求する想いだと説得力をもって結論づけることで、晴れてキングスマンが誕生する。現代最高峰のアクションシーンにも匹敵する脚本にお手上げです。そして、邦題では「ファースト・エージェント」と付いていますが、原題はただ『The King's Man』。そう、これがキングスマンの始まり。勢いで作ったつじつま合わせの前日譚とは一線を画する、シリーズの始まりを観れば、きっとあなたはこのシリーズがもっと好きになることでしょう。僕がそうでした。
主題歌はFKA twigsが担当。歌詞の端々に聞こえるワードチョイスも含め、Central Ceeのラップのタイミングも含め、ピタリとハマっていました。

さ〜て、次回、年始、2022年1月11日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ボス・ベイビー ファミリー・ミッション』となりました。また爆笑をかっさらってくれるんでしょうか。そして、かなりの騒動になるんでしょうか。予告のサムネイルでも、いい表情してますね。僕はボス・ベイビーの眉、眉間の動きが好きなんですよ。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!