京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『マトリックス レザレクションズ』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 12月28放送分
『マトリックス レザレクションズ』短評のDJ'sカット版です。

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99年の名作『マトリックス』からスタートした三部作から18年。今作における主人公のネオ、こと、トーマス・アンダーソンは、かつて「マトリックス」というゲームソフトを開発して一世を風靡したクリエイターです。彼は頻繁にフラッシュバックに襲われ、夢とは思えないような夢を見る経験をしていて、セラピストのもとに通っています。この世界はやはり仮想世界マトリックスで、人類はAIによって栽培された状態なのではないか。ネオは再会した恋人トリニティーを救う、新たな戦いに挑みます。

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ウォシャウスキー兄弟と言われていたふたりがともに性別適合手術を受け、今はウォシャウスキー姉妹の姉、ラナが監督・共同脚本・共同製作を担当した今作。キアヌ・リーブスキャリー・アン・モスジェイダ・ピンケット・スミスランベール・ウィルソンが前作から続投した他、ジェシカ・ヘンウィックなど、新たなキャストも登場しています。
 
僕は先週木曜の夕方から夜にかけて、Movix京都のドルビー・シアターで鑑賞いたしました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

今思えば、1作目ってのは、世紀末の公開で、パソコンが徐々に家庭に普及するようになり、ネット・サーフィンも多くの人が経験する中で、2000年問題に怯えている状況だったわけです。マシンガン撮影という特殊効果によって実現したバレットタイムは多くの人が熱狂してあの屋上のシーンを真似して社会現象になったということも覚えていますが、それ以上に、この世界が実は仮想現実であって、人類はコンピュータに支配されているという哲学的な物語構造に衝撃があって、終末思想がとぐろを巻く99年にあってセンセーショナルを巻き起こしました。
 
今回は、実はその1本目のセルフオマージュ、というより、はっきり引用する手法が多く採用されています。これは単純にファンサービスというよりも、あの3部作そのものをカッコに入れたメタ的な続編だからなんですね。正直、始まってからしばらくは観客は混乱させられます。だって、主人公のトーマス・アンダーソンは、サンフランシスコの高層ビルでパソコン・モニターを前に、ゲーム開発をしていて、その大企業の会議ではマトリックスの続編企画について語り合っているんですもの。どういうことなんだ、と。注意深く会話を追うと、どうやらあのマトリックス3部作は、今観ている4の中では、映画ではなくゲームであったと。そして、開発者であるトーマスは、現実と虚構の区別がつかない世界を生み出した男として、今はその自分も現実の中に虚構が入り込んでくるような体験をしていて、情緒不安定になっている。カフェではトリニティーそっくりのティファニーという女性に出会い、握手しながら、「私たち、前に会ったかしら?」と聞かれるんだから、もうぐちゃぐちゃです。そして、やはりコンピューターの生み出した仮想世界マトリックスの中を自分が生きていることに気づかされていくわけです。そこで、コンピューターとの戦いが再び始まるわけですが、なぜこんな作品が今物語られないといけないかというのが、大切だと思うんですね。

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©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
99年というのは、考えてみれば、SNSスマホもない世界だったわけですが、2021年というのは、まさに世界がコンピューターにつながれた状態で、ある意味、マトリックスという作品が予見した時代なわけです。つまり、今こそますます仮想世界から脱却して自分たちを取り戻し、既存の価値観に縛られない人間の自由意志というものを取り戻さねばならないのだというのが、ラリー・ウォシャウスキー、改め、ラナ・ウォシャウスキー監督からの確固たるメッセージです。これは、あの三部作以上にはっきりと伝わってきます。そもそも、監督もお仕着せのジェンダーから解放されて、今は女性として生きているし、この世界はますますネットに依存していて、ともすると僕たち観客個人個人はそのシステムに隷属しているような有様だからこそ、さらには、あの三部作がまさにゲームのようにコンテンツとして消費されるものになっているからこそ、ここで今一度、物語の核心を復活させるような4作目が必要という判断だと僕は受け取りました。

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©2021 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
マトリックスの新作なら、もっとアッと驚く映像が観たかったという人がいるのは理解できるし、僕もそこにかなり期待していたけれど、大胆極まりない物語そのものに僕はしっかり興奮しました。クライマックスあたりで急にゾンビ映画みたいになるのも趣旨を考えれば納得だし、サングラスやファッションの更新もイケてるなとわりと満足。世間での評価は真っ二つという状態のようですが、改めて、1に戻りたくなるという意味でも、僕はかなり好意的に捉えています。
目覚めるんだと僕らに強く訴えかける曲をサントラから。Rage Against The Machineのカバーですね。


さ〜て、次回、年始、2022年1月4日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『キングスマン ファースト・エージェント』となりました。近頃は続編、シリーズ物が続々と投入されるので、少々辟易しているところもありますが、キングスマンについては、前を観ていないとストーリーがまったくわからないわけではないですから(たぶんね)、年末年始、映画館で気分高揚させちゃいましょう。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!