京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『サバービコン 仮面を被った街』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年5月10日放送分
『サバービコン 仮面を被った街』短評のDJ's カット版です。

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1950年代のアメリカ郊外に開発されたニュータウン「サバービコン」。自然豊かで渋滞とも無縁。治安も良くて子どもの教育にも最適。アメリカン・ドリームをそのまま形にしたような街に続々と移り住んできた白人中流家庭。そこに黒人のマイヤーズ一家がやって来ると、事態は一変。話が違うじゃないかと憤る白人たちは、マイヤーズを排斥する差別的な行動を取るようになります。マイヤーズの隣に住んでいるロッジ家に強盗が押し入り、足の不自由な妻が命を落とす。まだ幼い一人息子ニッキーは、父とおばに気遣われながら日常を取り戻そうとするのだが、事態は徐々におかしな方向へと展開していく。

 

1999年に書かれてはいたもののお蔵入りとなっていたコーエン兄弟の脚本に、この作品では監督に徹したジョージ・クルーニーが、1957年に実際に起こった郊外での黒人排斥運動の要素を盛り込みました。

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 ロッジ家の主ガードナーを演じるのは、マット・デイモン。妻とその姉(一人二役)には、『キングスマン・ゴールデン・サークル』で最高に悪趣味なヒールを熱演したジュリアン・ムーアが扮している他、妻にかけられていた生命保険の調査員として、『スター・ウォーズ』シリーズここ2作の人気キャラ「ポー・ダメロン」の記憶も新しいオスカー・アイザックが出演しています。

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ジョージ・クルーニーは監督6作目。かつて『グッドナイト&グッドラック』で脚本賞にノミネートしながら受賞を逃したヴェネツィア国際映画祭に今作は出品されました。
 
それでは、3分間の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

邦題の「仮面を被った街」が端的に説明しているように、一見理想的で善良な家庭の抱える闇を暴く郊外が舞台の作品という要素がまずあるわけです。思い出すのは、99年にアカデミー賞5部門を獲ったサム・メンデスの『アメリカン・ビューティー』。もっと田舎町ではあるけど、デヴィッド・リンチの『ブルー・ベルベット』も、一見のどかな町の裏に潜むおぞましさを描いてみせていました。

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 この種のテーマは僕は大好物なんですよ。サバービコンは理想を絵に描いた書き割りのような街。極めて人工的、画一的。白人だけが住んでいるわけだけど、人間の欲望も漂白されていて、逆に異様なんです。そこで突如起きる強盗殺人。しかし、犯人たちは金目のものを盗まなかった。それはなぜか。裏で誰かが糸を引いているのではないか。一皮むけば邪(よこしま)で欲にまみれた大人たちの手前勝手な行動を、一人息子のニッキーがじっと観察する。コーエン兄弟の『ファーゴ』にもあった「やむにやまれぬ殺人」というモチーフも登場するんですが、クルーニー監督にしてみれば、それをサスペンスの神様ヒッチコック風に描いてみようという意図が透けて見えます。

 

光と影の強調、ナイフの使い方もそれっぽいし、やがて誰かが口にすることになる毒入りのミルクなんて、まんま『断崖』という映画です。そして、死体の始末をするところに笑いを盛り込んでくるあたりは『ハリーの災難』も思い出します。マット・デイモンが身体のサイズとまったく合わない小さな自転車を必死でこぐところとか噴飯物でした。まとめると、ひねりのあるコーエン兄弟の物語をヒッチコック的様式でくるんだ、ブラック・コメディー+サスペンス・スリラーでロッジ家の地獄、欲望の成れの果てを社会風刺として描く映画を目指した、と。

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 好みは別として、僕はそこまではある程度はうまくいっていると思うんです。僕の大好きな「人は見かけによらない」というテーマもうまくハマっていました。ただ、リベラルな運動家としても知られるクルーニーですから、それだけでは物足りないし、自分がやる意味がないとでも思ったのでしょう。このコーナーでも最近よく扱う黒人差別(しかも実話ベース)の要素を付け加えて、自分のスタンスを表明しながら、分断されたアメリカへの批判も盛り込むことで、20年ほど前の脚本を今映画化する意味を見出した。その意図は分かります。見上げたことです。

 
でもね、クルーニーさん。映画を観たら、後で脚本を足したんだなってことが丸見えになっているのはいただけないですよ。黒人差別を描くマイヤーズ一家のパートと、郊外の闇を描くロッジ家のパートが噛み合ってなくて、ただ偶然隣り合っていたっていうだけになっちゃってる。唯一噛み合ったのは、クライマックスの部分で、ロッジ家での派手な物音を、マイヤーズ家の回りで暴徒化する白人たちの騒ぎがかき消す役割を果たしていました。でも、それだけじゃダメでしょ。黒人差別問題を小道具にしているだけっていう批判が出てしまうようでは、クルーニーさんのねらいの逆の結果になっているとも言えるわけだから。そうなっちゃうと、あの後味スッキリの素敵なエンディングも、鼻白む客が出るのは仕方ない。
 
ただし、僕は実は結構好きな1本です。ニッキーくんも含め演技はみんな最高だし、キッチュな美術の色使いも配慮が行き届いています。それだけに、クルーニーさん、もったいないよ〜。次は肩肘張らずに、またスリラーにトライしてほしいなと僕は本気で思っています。
さ〜て、次回、5月17日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、役所広司松坂桃李が奮闘する『孤狼の血』です。今週番組では白石和彌監督をゲストに迎え(下のリンクから、5月15日までならすぐに振り返って聞けますよ)、既にある程度お話していますが僕も改めて凝視してきます。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けてのTweetをよろしく!

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