京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『天外者』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 1月5日放送分
映画『天外者』短評のDJ'sカット版です。

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江戸末期、黒船の登場に動揺が広がる日本。新時代の到来を予見する薩摩出身の青年武士、五代才助は、攘夷か開国かという短期的な視野ではなく、もっと長い射程で世の中を見ていました。誰もが自由に夢を見て、それを叶えられる社会を作りたい。五代は坂本龍馬岩崎弥太郎伊藤博文らと志をともにしながら、時代のうねりの中へ飛び込んでいきます。

利休にたずねよ 海難1890

監督は、『利休にたずねよ』や『海難1890』の田中光敏。脚本は今挙げた2本でもタッグを組んだ小松江里子。原作小説があるわけではなく、オリジナル・ストーリーです。五代才助、のちの五代友厚を演じたのは、三浦春馬。これが遺作となりました。坂本龍馬を三浦翔平、岩崎弥太郎西川貴教伊藤博文森永悠希と主要キャストを担当した他、森川葵が若き五代に長崎で出会う遊女に扮しています。
 
僕は先週火曜日の昼、TOHOシネマズ梅田で観てまいりましたよ。公開から日が経っていたのでスクリーンは小さい場所になっていますが、驚いたことにほぼ満席。女性ファンを中心に、大勢リピーターも詰めかけているという印象。なんと、終映後には拍手もわきました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

まずタイトルとなった耳慣れない言葉、天外者ですが、鹿児島の方言で「お利口さん」「功績をあげた人」という意味と「いたずら小僧」という相反する意味を内包しているのだと、鹿児島弁ネット辞典にありました。天からの子、典雅な人、手柄のある人、語源についても諸説あり。でも、その複数の意味が、すごい才能を持った五代の伝記映画を作る上でハマるということで名付けられました。
 
五代才助という人物は、武士、役人、商売人と、49年の短い生涯の中で、肩書をみるみる変えていきました。彼は世間からどう見られるかにこだわらず柔軟にその時々でなすべきことをなし、あくまでも視線は高く遠く、自らの描く、当時としては相当に進歩的な国の将来像そのものにこだわった。その生き様を、「てんがらもん」と言い表すのは的を射ていると僕も思います。そして、三浦春馬がどの五代を演じても、つまり刀を奮っていても、大阪商工会議所で熱弁を振るっていても、和服でも洋服でも、堂に入っていました。これを見応えと呼ばずして何と呼ぶ。さらに、彼が昨年7月に五代よりも早く他界してしまったことを観ている誰もが知っているがゆえに、僕らは目頭が熱くなります。

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(C)2020「五代友厚」製作委員会
ただですね、残念ながら、映画そのものの出来栄えを客観的に分析すると、評価は厳しくなります。主な原因は脚本です。幕末、明治維新を描くのが難しいのはわかります。登場人物が多くなるし、それぞれの立場もいろいろで変化もしていくから、とかく複雑になりがち。マニアも大勢いるから、批判もされやすいだろうし。それを逆手に取ったと言うべきか、竜馬暗殺など、誰もが知るようなところは大胆に端折ってあるし、僕はそれはそれで良いと思うんですが、僕がよくわからなかったのは、語り手を、物語の導入になる長崎の商人トーマス・グラバーにしてあることです。複雑な人物だから、どっかに貫く視点が必要だということも、グラバーと五代の交友関係がそれほどに豊かだったことはわかるんですが、それならもっとふたりの関係を掘り下げないといけないでしょう。現状、グラバーはナレーターとしての役割のほうが大きいんですよ。たとえばですが、僕は竜馬からの五代、岩崎弥太郎からの、はるからの、妻豊子からのと、時代ごとに彼のことを語る構成にした方が良かったのではないかと考えています。

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(C)2020「五代友厚」製作委員会
「てんがらもん」を描くにあたって、時系列で展開するという伝記映画のスタンダードを採用した結果、五代の生きるスピードに脚本が置いてきぼりをくらったような格好で、結局はダイジェストになっちゃっているんです。演出もそれに引っ張られて、シーンごとにぶつ切れだから、ひとつひとつに力が入っちゃって見せ場をこしらえようとするんで、映画というより紙芝居的なんです。ぶつ切れになるので、状況を説明するためにキャストはよく喋る。で、見せ場ばかりのダイジェストだから、口角泡を飛ばす場面が多くて、竜馬と弥太郎に関しては、なんだかよくわからないが、常にガハハと笑っているか怒っているかっていう感じなんです。平気で独り言も言いますし。で、音楽も悲しいところには悲しい音楽、勇ましいところには勇ましい音楽と、平板な劇伴になっちゃうし… そして、そこまでみんな喋ってるわりには、結局ダイジェストなんで、できごとベースで、肝心の彼の胸の内は大きな声でかき消されています。ハイライトのひとつとなるだろう大阪商工会議所の場面にも、僕は言いたいことがたくさんあるんですが、まぁ、胸の内にしまっておきましょう。

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(C)2020「五代友厚」製作委員会
と、かなり手厳しい評価をくだしてしまいましたが、三浦春馬の勇姿はもちろんそれだけで一見の価値があるし、僕自身はあの時代にそう詳しくないので、五代友厚という英雄のひとりについて、かなり興味が湧いたことは事実です。ただ、この映画だけ観ていると、なんか彼だけで日本の近代化と大阪経済の近代化が図られたみたいにみえるので、そこは今後自分でも調べて見識を広げたいなと思いました。

国の将来を想って、時に孤独な戦いを辞さなかった五代友厚を演じた三浦春馬の叫びをみんなで聴こうと、Fight for your heartをオンエアしました。

 

さ〜て、次回、2021年1月12日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『えんとつ町のプペル』です。キング・コング西野亮廣さんの絵本が、ご自身のプロデュースのもと、ついに劇場アニメ化。話題になっていますね。僕は絵本も含めて、まだ接したことがないので、この機会にえんとつ町を探索します。あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!