京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

映画『四畳半タイムマシンブルース』短評

FM COCOLO CIAO 765 毎週火曜、朝8時台半ばのCIAO CINEMA 10月11日放送分
映画『四畳半タイムマシンブルース』短評のDJ'sカット版です。

京都の腐れ大学生の「私」は、下鴨幽水荘という4畳半のぼろアパートに暮らしている。何をやってもうだつの上がらないその原因を、すべて暑さのせいにしていた灼熱の夏。建物にたった一台しかないクーラーのある部屋に引っ越して3日後、とんだことでコーラがこぼれてリモコンが水没してしまう。途方に暮れていたところへ、突如現れたタイムマシンを見た彼は、これで昨日に戻って壊れる前のリモコンを持ってくることを思いついたのだが、悪友の小津たちが調子に乗って過去である昨日を改変したからさあ大変。リモコンの行方、そして「私」の密やかな恋の行方やいかに。

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作家の森見登美彦が2005年に発表した小説『四畳半神話大系』。これは、脚本をヨーロッパ企画上田誠、監督を湯浅政明が担当してTVアニメ化されていました。その小説世界に、ヨーロッパ企画の戯曲『サマータイムマシン・ブルース』がドッキングした『四畳半タイムマシンブルース』が、まず2020年に森見登美彦によって小説として出版され、こちらはそれが上田誠脚本で映画化されたという、とてもややこしくかつ楽しい、特殊なプロセスを経ています。今回は同じく森見原作の劇場アニメ『夜は短し歩けよ乙女』も監督していた湯浅政明率いるサイエンスSARUがアニメ制作を担当しつつ、監督は「四畳半」「夜は短し」ともにスタッフとして参加していた夏目真悟が担当しています。キャラクター原案は、TVアニメの時から中村佑介が担当し、その中村佑介がジャケットを毎度書いていることでおなじみ、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが今回も主題歌を書き下ろしました。
 
声は「私」を浅沼晋太郎、恋心寄せる明石さんを坂本真綾、悪友の小津を吉野裕行など、TVアニメのキャストが再集合した他、ヨーロッパ企画本多力が未来からやって来た青年の声をあてています。
 
この作品はDisney +で配信している他、現在映画館でも期間限定で公開中ですが、僕は公開前にマスコミ試写で、そして今回改めてDiney +で途中まで細切れに公開されているエピソードを再鑑賞しました。それでは、今週の映画短評、いってみよう。

森見作品、特に初期に見られる、うだつの上がらないモラトリアムな大学生ものの魅力のひとつに、僕は「過剰さ」があるんだと考えます。何かと考えすぎる。恋に対しても慎重でありすぎる。考えに考えて、シミュレーションを幾重にも重ねた結果、石橋を叩いて叩いて叩き壊す。クーラーのリモコンが壊れたら、リモコンの通夜が営まれる。大げさにすぎる。そもそもアパートがボロすぎる。すぎる、すぎる、すぎるが多すぎる。どのキャラクターも濃すぎる。濃すぎるがゆえに、万年学生の樋口師匠にしろ、映画サークルに君臨する城ヶ崎先輩にしろ、歯科衛生士の色っぽい羽貫さん、そして悪友にして運命の黒い糸で「私」と結ばれているという小津。もう一度言おう。濃すぎる。中村佑介のこれまたデフォルメのウマすぎるキャラクター造形も加わり、原作から飛び出した彼らは、小説、アニメ、演劇、いろんなメディアの複数の作品を気ままに横断するようになるわけです。アジカンの今作主題歌のタイトル通り、森見作品内の左京区出町柳パラレルユニバースにおけるスターシステムの俳優として機能してきました。強固なキャラクターの魅力があるからこそ、ヨーロッパ企画のこれまた名作『サマータイムマシン・ブルース』の枠内に彼らをまるごと放り込んでもお話は壊れないわけです。

(C)2022 森見登美彦上田誠KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会
そもそも、森見登美彦上田誠がどうしてこんなに相性がいいのか。いくつか理由はあるのでしょうが、そのひとつに、たとえどんなに些細でどうでも良さそうなことであっても、おそるべき丹念さと綿密さで語りきる描写しきることが挙げられるのではないでしょうか。やはり過剰なんです。なので、いきおいセリフが多くなります。僕は普段から台詞による説明が多い作品によく文句をつけていますが、本作における言葉の洪水ともいうべき事態は例外です。なぜなら、その過剰さこそがスタイルだからです。リモコンが使えなくなるという、彼らにとっては確かに一大事かもしれないが、どこから見たってどうでも良いことを、またよせばいいのに過去と未来を行ったり来たりしてオオゴトにしすぎるあまり、これまたいきおい情報量が多くなり、複雑怪奇となり、それをまたよせばいいのに短いカット割りでポンポン説明的な絵で見せたりする演出になっているものだから、もう大変。たとえば、細かいところで言うと、五山の送り火デートに「私」が明石さんを誘えるか否かのくだりで、五山の送り火KBS京都テレビで生中継されているという情報が一瞬出てくるんだけど、はっきり言って、それはセリフとしても端折れるし、ましてや映像で絵解きする必要なんて微塵もないにも関わらず、KBS京都の社屋のカットを差し挟むわけですよ。僕がこのクラクラくる感覚で思い出したのは、ジャンルはまったく違うんだけど、アダム・マッケイの『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でしたね。あれは原作からの過剰な脚色が見事でアカデミー賞を獲得した作品でした。過剰な説明、過剰な情報の中に、不意に芯を食ったセリフや映像が出てきてハッとする感じ、似てるなと。

マネー・ショート華麗なる大逆転 (字幕版)

何につけても無駄を省き、だれもかれもが人生にコストパフォーマンスでも追い求め、とかくライフハックがもてはやされる現代にあって、彼らが過ごしているのは無駄過ぎる時間です。でも、それこそが青春というやつではなかったか。何かをして徒労に終わったり、無駄に悩んだり、今作において映画研究会が自主制作する『幕末軟弱者列伝』みたいなヘンテコなものづくりに血道をあげるようなことこそ、実は難なく卒なく過ごした日々よりも得難い人生の宝になるのではないか。逆に言えば、傍から見ればなんでそんなことに夢中になっているんだというものがある人は、年齢に関係なく青春の只中にあるのではないか。そんなことさえ考えてしまった、実は恋愛映画の良作でもありました。

(C)2022 森見登美彦上田誠KADOKAWA/「四畳半タイムマシンブルース」製作委員会
オススメは、映画館でやってるうちに一度怒涛の情報を食らい、気に入ったら、ひとつひとつのネタをしがむように、込み入った時間の糸をほどくように、配信でゆっくり見直していくスタイルです。さらに、『四畳半神話大系』も見直す。さらには、原作へ。さすれば、あなたも立派な四畳半主義者です。四畳半という沼へ、どうぞ、おいでやす。

アジカンとの相性は今回も抜群でした。もちろん、主題歌をオンエアしましたよ。

さ〜て、次回2022年10月18日(火)に評する作品を決めるべく、スタジオにある映画神社のおみくじを引いて今回僕が引き当てたのは、『ソングバード』です。マイケル・ベイがプロデューサーになった、パンデミック・スリラーとのこと。そして、リスナーからは、主演のKJ・アパが僕にそっくりだという声がいくつも届きました。え? そうなの? 僕、出てるの? 僕に似ているケースは、『テリー・ギリアムドン・キホーテ』におけるアダム・ドライバーが殿堂入りだと認定してあるんですが、どうでしょうか。ってことはさておき、あなたも鑑賞したら、あるいは既にご覧になっているようなら、いつでも結構ですので、ツイッターで #まちゃお765 を付けてのツイート、お願いしますね。待ってま〜す!