京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

『夜は短し歩けよ乙女』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2017年4月14日放送分
『夜は短し歩けよ乙女』短評のDJ's カット版です。

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京都の大学で、バラ色キャンパスライフとは無縁の、悶々とした日々を送る「先輩」。彼は同じサークルの後輩「黒髪の乙女」に恋心を寄せ続けるものの、自意識が空回って外堀を埋めるばかりでなかなか距離は縮まらない。そんな先輩にとって千載一遇の好機とも言うべき夜がやってきたのだが、果たして恋の行方は。

太陽の塔 (新潮文庫) 四畳半神話大系 (角川文庫) 夜は短し歩けよ乙女 (角川文庫)

太陽の塔』でデビューして以来、一貫して京都を書き続けてきた作家森見登美彦のベストセラー小説が原作。監督はこれが13年ぶりの長編となる湯浅政明。脚本はヨーロッパ企画上田誠。キャラクターデザインは中村佑介。主題歌はアジカン。この座組は、2010年にフジテレビ系列ノイタミナ枠で放送された『四畳半神話大系』とまったく同じ。さらにそこに、今回は星野源花澤香菜、そしてロバート秋山といった時の人が声優陣に加わり、一層華やかな顔ぶれになっています。
 
僕は森見作品の愛読者ということもあり、思い入れも一際なんで逆にやりにくいんだけど、それはともかく、3分間の短評、今週もいってみよう!

森見作品の大きな特徴に、人間関係とか、システムとか、運命的なものから抜け出せない、ある種の無間地獄的ループを描くっていうのがあると思います。それが色濃く出ていたのが、『四畳半神話大系』で、まさに今頃、大学に入ってから、どのサークルに入るべきかと思案している人も聞いてくれているかもしれません。これがきっと人生の分かれ道になるに違いない。そう思ってはいるんだけど、結局はどれを選んでも、大同小異で、主人公は自分、あるいは自意識の化身である四畳半の下宿から抜け出せない。この部屋でも、隣の部屋でも、そのまた隣の部屋でも同じこと。なんていう、ある種のホラー的要素を持った連作小説だったわけです。だから、毎回30分のTVアニメ枠とも相性が良かった。

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それが今回はどうか。原作では四季をめぐる物語だったものが、なんとたった一晩のお話に改変されている。僕はこれ、正解だったと思っています。だいたいタイトルが「夜は短し」なわけだし、こうすることによって、湯浅監督の持ち味であるドラッギーな絵作りと細部がやたら濃密な物語とが噛み合い、まるで闇鍋のような飛躍的な展開をストンとまとめることができているのではないかと。原作では、1年もの物語だから、「ああもうさっさと手を打たんかい!」という焦燥感が読者に湧いてきて焦らされるし、それが先輩が抜け出せなくなっている自意識問題の根深さを表していたのに対し、今回はこれでもかと怒涛の展開を見せる中でも「自分内会議」にクライマックスを持ってくることによって、スクリーンサイズのスペクタクルを担保しながら、その無間ループを彼が突破できるかどうかに焦点が合ってる。人の縁が強調されてましたが、時計とか車輪とか丸い円のモチーフもたくさんあって、先輩と乙女はグルっと巡った先で落ち合ってまた別の円を形成するという構成。なるほどな、と思いました。
 
今回も「四畳半」の時と同様、膨大なセリフ量を早口でまくし立てるスタイルは健在。サイズやフォルム、時間が目まぐるしく自在に変化してファンタジーが爆発する映像とあいまって、もう情報の洪水。多少の消化不良も何のその。だからこそ、ドラッギーなんですよね。ただ、これは原作もそうなんですけど、僕は「四畳半」の方が、実写とアニメを捏ねくり回したり、もっと実験的で、リアルな京都のぬるま湯的大学生活と橋渡しができていた気がして、より好みだったことが付け加えておきます。監督も語ってますが、「四畳半」が勢い重視だったのに対し、映画はもう少しシックにしたと。監督流のポップな着地でしょう。これが気に入ったって人は、よりぶっ飛んでる「四畳半」の鑑賞も強く勧めます。
 
今回は京都が舞台でありながら、その京都そのものの魅力は出し切れていなかったような気もします。これは木屋町先斗町の裏路地が入口となる「不思議の京のアリス」だと思うので、もっと京都らしさが絵に反映されても良かったような。
 
とはいえ、大好きな森見作品のファンがこれを機に一層増えるのは大いに歓迎すべき事態。この番組の聴取者諸賢なら一見の価値あり。観に行くべし。異議はありますか? なに? ある? それは却下だ!
 
ところで、リスナーのツイートに、『イエローサブマリン』的な絵、という言葉を見つけました。なるほどね。原色の大胆な使い方は似ているかも。


さ〜て、次回、4月21日(金)の109シネマズ FRIDAY NEW CINEMA CLUBで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『T2 トレインスポッティング』です。来週もカルト作が来ましたね。20年後の奴らに会いに行くとしますか。あなたも観たら #ciao802を付けてのTweetをよろしく!