京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝紹介グループ「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM802で行っている映画短評について綴ります。

『未来のミライ』短評

FM802 Ciao Amici!109シネマズDolce Vita 2018年7月26日放送分
映画『未来のミライ』短評のDJ's カット版です。

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横浜近郊を思わせる港湾都市、閑静な高級住宅街に一軒家を構える家族がいます。30代前半から半ばくらいのカップルである建築家の父と、子どもが生まれても仕事はやめず出版社に務める母。そして、4歳の男の子くんちゃんと、オスの犬1匹。そこに、ミライちゃんという女の子が生まれると、家庭内のバランスが変化していきます。両親の愛情を奪われたと感じてダダをこねてばかりのくんちゃんのもとに、ある日、セーラー服を来た自分の妹、つまり未来のミライちゃんなどが姿を現し、くんちゃんは彼らとの交流を通じて少しずつ成長していきます。
 
ポスト・スタジオ・ジブリ時代に入った日本アニメーションの中で将来を嘱望されているスタジオ地図を率いる細田守監督のオリジナル長編。声優陣は、くんちゃんを上白石萌歌、ミライちゃんを黒木華、お父さんを星野源、お母さんを麻生久美子がそれぞれ演じる他、宮崎美子役所広司福山雅治なども参加しています。
 
それでは、制限時間3分の映画短評、今週もそろそろいってみよう!

この映画には、作品そのものというより、作品を巡る外側の部分に齟齬・ミスマッチがあって、不幸な目に遭っているなと僕は感じています。中でも最大のものは、予告編から受ける、時空を超えた4歳のくんちゃんと未来のみらいちゃんが手に手を携える大冒険活劇という印象と、実際の内容との決定的な違い。これは、ひとつの小さな家族の、言わばどこにでもある、小さいけれど本人たちにとってはとても大きな変化のプロセスを、劇的にというよりは、丹念に少しずつ見せていく育児ものです。もっと言うと、育児あるあるです。その証拠に、舞台はほぼ家の中だけですからね。基本はミニマル。観客としては、期待していたものと違うものを見せられる格好になるから、「期待外れ」と思ってしまうんです。予告が誇大広告になってしまっているんですね。

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もうひとつのミスマッチ、こちらの期待との違いを挙げると、今作が細田監督の集大成ではないかという、過度な期待です。確かにそういう側面はあります。『時をかける少女』にあった時間。『おおかみこどもの雨と雪』にあった母と子の関係。『バケモノの子』にあった父(あるいは父的なメンター)と子の関係。『サマーウォーズ』にあった一族の広がりある繋がり。こうした要素がそれぞれ入ってます。さらに、『リメンバー・ミー』や、こちらは実写ですが『ファミリー・ツリー』のような、TV番組だとNHKの『ファミリー・ヒストリー』のような、連綿と続く一族の過去からのつながりの要素も取り入れています。ほら、どうしたって、スケールの大きなものを想像するでしょ? でも、この作品ではあくまでミニマルなんです。それは結局、子育てを体験した細田監督の物語の着想と、最終的な着地が、「子育てって大変だけど愛おしいよね。子どもが生まれると、自分のルーツにも思いを馳せるし、自分がここに今生きているのって不思議だよね」っていう小さな感慨だからなんですよ。
 
さらにもうひとつ。タイトルのミスマッチ。これは「未来のミライ」の話じゃないんだよ! ミライちゃんはそんなに出てこないもの。どっちかっていうと、「くんちゃんの妄想日記」ですよ。どのエピソードも一話完結的な、オムニバスに近い構成で、シーンの切れ目はほとんど黒画面ですからね。テレビで放映するなら、CMも入れやすかろうっていう。
 
ただ、最初に言ったように、僕はこうしたミスマッチが不幸だと感じているんです。映画そのものは興味深かったし、結構楽しんだから。そりゃ、問題も感じてますよ。ジェンダー的に古いだろっていうセリフ回し。結局、不思議体験が何なのか、辻褄が合わない。各エピソードのつながりが有機的に繋がりきってないから求心力がない、などなど。それでも、やっぱり細かい演出や作画の高度さ、空間の作り方は目を見張ります。決して悪くない地味だけど意欲作でもあるんです。これから観る方は、予告とかもう観なくていいから(と書きつつ、上に付けてるけど…)、フラットに鑑賞して、自分の子ども時代を思い出し、叶うならば親と自分の幼少期について話してみてください。

達郎さんの曲は、オープニングもエンディングも、それはそれはすばらしいんですが、やっぱり誰だって『サマーウォーズ』のイメージが強くあるから、これまた「一大スペクタクルなのではないか?」という期待を煽ってしまっていることも否めないと思います。

 

あと、細田守監督は、僕はやはり脚本を、かつてタッグを組んでいた奥寺佐渡子でないとしても、誰かと共作するスタイルに戻した方が良いような気が僕はしています。物語のアイデアとかそういうことよりも、ブラッシュアップのところで、誰か対等な人とやり取りしながら、それこそ『未来のミライ』のお父さんとお母さんのように、「この子がいつの間にかこうなるなんてね」っていうところに作品が到達すると思うんですよね。余計なお世話だろうけど。

さ〜て、次回、8月2日(木)の109シネマズ Dolce Vitaで扱う映画 aka「映画の女神様からのお告げ」は、『インクレディブル・ファミリー』です。こちらは映画の日8月1日(水)公開なんで、かなりタイトなスケジュールにはなりますが、先週に続いての家族もの、子育て要素の強いアニメってことで、並べて観ると面白そう。あなたも鑑賞したら #まちゃお802 を付けての感想Tweetをよろしく!