京都ドーナッツクラブのブログ

イタリアの文化的お宝を紹介する会社「京都ドーナッツクラブ」の活動や、運営している多目的スペース「チルコロ京都」のイベント、代表の野村雅夫がFM COCOLOで行っている映画短評について綴ります。

京都ドーナッツクラブメルマガ 第30号

こんにちは!めっきり涼しくなった京都の片隅で

ドーナッツクラブは色々躍進していますよ。

 

 

★アゴスティ監督作品、待望のDVD化! 

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ドーナッツクラブが日本で紹介し続けている、

シルヴァーノ・アゴスティ監督作品がついに日本初DVD化!

ご家庭でアゴスティの映像が楽しめる時代がやってきました。

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今回お届けするのは2011年のアゴスティ回顧映画祭で、

2週間で2000人を動員したオススメ映画。

 

『快楽の園』『ふたつめの影』『カーネーションの卵』の3本です。

 

詳細・ご購入はコチラから

 

 

★ドーナッツクラブ企画イベント 

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■9月27日(火)「映画で旅するイタリア2016」 

 

イタリア映画最新作をお届けする月イチ映画祭@渋谷UPLINK!

ラストを飾るのは日本初公開「越境の花嫁」。

福祉の国スウェーデンを目指す難民たちの姿を追ったドキュメンタリーで、

2015年度ナストロ・ダルジェント賞ドキュメンタリー特別賞受賞作です。

www.youtube.com

 

時間:19:30 START

 

ご予約・詳細はコチラから

 

 

★チルコロ京都でのイベント情報 

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■10月2日(日)チルコロ京都 VS 世界 vol.7 

野村雅夫 VS Helga Press(ゲスト:岡村詩野

 

これを聞けば京都インディーズの今がわかる!

FM802 野村雅夫と音楽ライターの重鎮・岡村詩野

京都の音楽シーンを語り尽くす!

 

さらにHelga Pressが発表したコンピレーション

『From Here To Another Place』から、

渚のベートーベンズと台風クラブがライブを披露。

 

インディーズはメジャーの予備軍ではない。

果てしない可能性を秘めた音楽の最前線だ!!

 

時間:開場16:00/開演16:30

場所:チルコロ京都

 

ご予約・詳細はコチラから

 

 

イタリア語講座「グイダ・プリマヴェーラ

 

人気の観光旅行会社「Japanissimo」が、

旅行ガイド育成のためのイタリア語講座をチルコロ京都で開催します!

東京ではすでに開講され、すぐにいっぱいになる人気講座です。

東京オリンピックに向けて、旅行ガイドはますます必要とされる職業。

イタリア語を使ってお仕事をしたい方、絶好のチャンスに足を運んでみては?

 

説明会:10月8日

授業:10月22、29日、11月5、12、19、26日

12月3、10、17日、1月7、14、21日

 

時間:すべて11:00~12:30

場所:チルコロ京都

 

 

【チルコロ京都 とは?】 

京都ドーナッツクラブが運営するイベントスペース。 

トークショー、お芝居、音楽ライブ、貸し会議室、貸キッチンなどに是非どうぞ。

平日夜はイタリア食堂910として営業しています。 

 

京都市中京区河原町通り三条下がる南車屋町282 MORITA bldg.4F 

四条河原町から徒歩約5分)

公式HP circolokyoto.jimdo.com/

FBページ facebook.com/CircoloKyoto

E-mail circolokyoto@gmail.com

『君の名は。』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年9月16日放送分
『君の名は。』短評のDJ's カット版です。

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東京に暮らす男子高校生「瀧」と、岐阜県飛騨の奥地にある小さな村に暮らす女子高校生「三葉」。このふたりの内面と身体が入れ替わる現象が度々起こり、戸惑いながらも少しずつ順応し、その運命的な交錯から互いに惹かれ合っていくのだが、ある日、なぜかその入れ替わりが…
 
主人公、瀧と三葉の声をそれぞれ神木隆之介上白石萌音が演じています。脚本、監督、編集は新海誠。プロデュースは、超売れっ子、川村元気という座組となっています。

劇場アニメーション『言の葉の庭』 DVD

新海誠作品は、3年前にこのコーナーで『言の葉の庭』を扱ったんですが、当時の自分のメモを振り返ると、「主人公の古典教師ユキノ先生の心理がもうひとつ伝わってこない」なんて書いてましたね。作画能力の高い技術力を認めながらも、物語そのものにはわりと辛口でした。
 
それが今週火曜日昼間にも関わらず、MOVIX京都もしっかりお客さんが入っていた回を観て、さすがは社会現象化しているだけのことはあると実感した今作『君の名は。』を僕がどう評価したのか。ネタバレにできるだけ気をつけながら、3分間で短評してみます。
 
☆☆☆
 
先週の『イレブン・ミニッツ』でも言いました。「映画はそもそも時間や空間を好き勝手に伸び縮みさせたり瞬間移動させたりするのにもってこいの表現メディアだ」と。『君の名は。』も、まさにそんな映画の醍醐味を感じる作品でした。
 
そもそも、新海作品は、相容れない「2つの世界」が何かの拍子に交わる設定が多いと言われています。今作はその集大成かもしれない。都会と田舎、男と女、さらには生と死、現在と過去。それを隔てるのは、扉や窓。あちこちにこのモチーフが出てきましたね。ある時は手前と奥、ある時は右と左の平面で、それぞれ瀧と三葉を隔て、物語自体をも区切る役割を担っていて、とても効果的でした。一方、交わり、この作品では「結び」という言葉が使われていましたが、そのモチーフが、昼でも夜でもない「たそがれ」という時間帯。新海印とも言える(と思う)水・お酒・涙、そして見事なまでに美しいハイパーリアリズム的な光のグラデーション。そして、最も重要なのが三葉の村に伝わる組紐。運命の恋を象徴する赤い糸も出て来ました。三葉のおばあさんのこんな言葉がありましたね。「より集まって形を作り、捻れて絡まって、時には戻って、途切れ、またつながり。それが組紐。それが時間。それが、ムスビ」。僕が補足すると、「それが映画」となります。
 
とても分析しがいのある、何度も言ってるように、映画ならではの表現に満ち溢れた素晴らしい設定なんです。が! 僕に言わせると、その設定、シチュエーション、それを形作る絵は絶対的に魅力を放っているのに対して、具体的な脚本にはかなり無理があるし、気づいてしまうと急に白けてしまうような穴も空いているのは間違いないです。ここでは触れている時間はないですが、「よくよく考えるとおかしくない?」っていう矛盾があります。
 
特に後ろから1/3くらいは、あるとてつもなく大きなミッションが発動されるんですが、正直なところ、少々トゥーマッチというか性急でめまぐるしい描写が連続して、物語的な疑問を抱いてしまった僕は、そのジェットコースターから振り落とされました。
 
さらに言えば、僕はあのミッションの結果にも、これは映画というフィクションのあり方として、倫理的に納得がいかない。『シン・ゴジラ』と同様、ポスト3.11的な展開があるんだけど、物語上の疑問だけではなく、語弊を恐れずに言えば、この映画ではゴジラから逃げているようにすら思えるんです。それはダメだろうと。受け止めてどう対処するかが問題であって、無かったことにはできないだろうと。

シン・ゴジラ【オリジナル・トートバッグ付き】 (e-MOOK)

はい、ネタバレから逃げ続けた結果、観てない人にはよく分からない話になってるかもしれませんが、僕はやっぱり今回も、新海誠監督、技術と作家性をまだ活かしきれていない、逆に言えば、今後とんでもなく化ける、それこそゴジラ的進化を遂げるんではないかと思う結果となりました。
 
☆☆☆
 
以上、絶賛の声ばかりが目に耳に入る中、針のむしろに座る気持ちで短評しました。
 
Radwimpsの話をしなかったですね。今作では、これまで以上に物語(そのものというよりリズム)のエンジンとして音楽が機能していると思いましたが、歌詞のあるものが4曲というのは、ちょっと多すぎるかなと思いました。野田洋次郎が書く歌詞には力があり過ぎるので。
 
小説版にも目を通したんですが、正直なところ、文字表現ではこの設定は表現しきれないなと思ったりしました。映画だと感覚的にダイナミックに入れ替わる2つの世界が、小説版だと、俺と私といった人称の変化や、改行の仕方の工夫など、あくまで実験的な試みにとどまっていて、映画ほどシチュエーションを活かしきれていないなという印象です。
 
根本的なことをひとつ。僕は人が恋に落ちることに理由なんてないと思うし、そこに運命的なものを感じるのはいいんだけど、この物語の構造上、三葉は巫女の家系だから超自然的なことが起こるのはいいとして、相手が瀧である理由がどうしても掴めないんです。すると、ラストのあの展開にどうしても白けてしまいました。


さ〜て、次回、9月23日(金)に扱うのは、『スーサイド・スクワッドになりました。泣かない自信あるぞ(笑) ちなみに、FM802のDJ樋口大喜くんが、「マーゴット・ロビーのは好きなおっぱい殿堂入り!」とSNSで発言していましたが、その意味では『君の名は。』に続くおっぱい映画ということになりますね(たぶん違うし、そもそも映画のくくり方がおかしい)。鑑賞したら、#ciao802を付けてのTweetをよろしく!

『イレブン・ミニッツ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年9月9日放送分
『イレブン・ミニッツ』短評のDJ's カット版です。

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カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの世界三大映画祭すべてで主要な賞を獲得しているポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキ監督、現在78歳の最新作。実は『アヴェンジャーズ』やティム・バートンの作品に出たりという俳優でもあります。監督作では、この前の作品、ヴェネツィアであのタランティーノが褒めまくったヴィンセント・ギャロ主演のセリフ無しの怪作『エッセンシャル・キリング』が話題になったのが記憶にあたらしいところ。

アベンジャーズ (字幕版) エッセンシャル・キリング Blu-ray

ポーランドの首都ワルシャワで夕方5時に始まり11分後に終わる群像劇。都会に暮らすいわくありげな人々に起こるドラマをモザイク状に構成しています。11分後に何が起こるのか。
 
神戸・京都での上映も予定されていますが、現在はシネ・リーブル梅田のみということで、火曜日の昼に行ったらかなり入ってました。
 
それでは、11分の出来事を3分で短評してみましょう。スタート!
 
☆☆☆
 
全体の尺は81分。ざっと数えただけで20人以上の登場人物が出てきますが、パンフをもとに主要なキャラクターを数えたら11人。女好きで見えっ張りな映画監督と彼の次回作への出演交渉をホテルの一室でするグラマーな女優。極めて嫉妬深い女優の夫。ホテルの前の公園でホットドッグの移動販売をする前科者のおじさん。バイク便の男。ビルの壁を直す登山家とその彼女がホテルの一室でポルノ映画を観る。勇敢な女性の救急隊員。映画の撮影現場に居合わせた画家。街をぶらついて犯罪に手を染めようとする少年。犬を連れて公園を散歩するパンクヘアの女。
 
関わりがあったり無かったり。彼らの人生が交錯しつつ、11分後、恐らく観客全員の想像を遥かに越える、とてつもないラストシーンへと収斂していく。
 
こういう同じ時を生きる人々がクロスする群像劇は、時間を自由自在に伸び縮みさせたり繰り返したりできる映画というメディアお得意のタイプなので、過去には色んな例があります。『桐島、部活やめるってよ』でもいいし『マグノリア』でも『パルプ・フィクション』でも、ジャームッシュの『ミステリー・トレイン』でもいい。でも、この作品はそのどれとも違うと思うんです。「うまい脚本」と言われるようなパズルじゃない。タイムリミットのあるサスペンスでもない。最後にきれいさっぱり答え合わせができて謎が解けるわけでもない。意味を求めるのはいいけど、意味を深追いすると、いわゆるオチにあっけにとられてしまうと思うんです。中には「何の話だよ」って怒る人すらいるでしょう。

桐島、部活やめるってよ マグノリア [DVD] ミステリー・トレイン [DVD]

ポイントは、この作品が、iPhoneのカメラ、監視カメラ、パソコンのスカイプ、ビデオカメラなど、現代の僕らを取り巻くありとあらゆる映像機器をふんだんに使って撮影されていることだと思います。見ているようで見られているようで。エンドクレジットへと続く絵を思い出してほしいんですよ。実はそれが警察のマルチスクリーンになってる監視カメラのモニターだってやつ。そのマルチスクリーンがどんどん砂嵐的になっていって、一箇所、映画の中で謎めいて何度も登場した黒いシミとして浮かび上がる。物語とは直接関係ないように見えるけど、僕はあの黒いシミこそこの映画の真のオチに見えました。あのシミは登場人物たちも眼にしてる人がいましたけど、世界の中、歴史の中、宇宙の中では黒いシミにしか過ぎないような、何なら意味なんて把握しきれない僕らの人生そのもののメタファーなんではないかと。
 
11人。11分。ホテルの11階。低空飛行で摩天楼を横切る巨大な飛行機。監督は11に特に意味はないと言ってますけど、どう考えたって、15年前の2日後、9.11を髣髴とさせます。日本人にとっては3.11でもいい。善人も悪人も女も男も子どもも大人も。あの時あんなことが起こるなんて誰も思っていなかった。実に華麗な絵作りと編集さばき、そして強烈な音使いで僕らに提示したのは、人生の意味の無さと、それでも、いや、だからこそ意味を求めて懸命に命を燃やす人々の取るに足らないけれど愛おしい世界そのものだったんじゃないでしょうか。「いやいや、考え過ぎだよ、君」って監督に笑われそうだけど、こうして思い出すほどにまた観たくなる凄い作品に出会ってしまいました。
 
☆☆☆
 
この映画を観た後では、たとえば電車に乗っているだけでも、周りの人々の見え方が少し違ってくるというか、色んな人の思惑が行動が折り重なって地球が回っていることをふと思い出させてくれる。言わば俯瞰して神の視点で世界を観察してしまうんだけど、そんな僕もまた、僕に観察されている人々のひとりでしかないわけで(僕は神じゃないのだし)、やがてクラクラ来ます。
 
パンフでは映画の中で起こる出来事をきちんと整理してくれているし、コラムや遠山純生氏の評論も結構読み応えがあったのでオススメするんですが、今回僕が一番共感できて読み込みが深いなと感心したのは、スパイクロッドさんのブログ「映画を観たからイラスト描いた」でした。良かったら、読んでみてください。

さ〜て、9月16日(金)に扱うのは、『君の名は。になりました。先週に続いてのリクエスト枠。ようやく観れるぞ。鑑賞したら、#ciao802を付けてのTweetをよろしく!
 

『後妻業の女』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年9月2日放送分
『後妻業の女』短評のDJ's カット版です。

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直木賞作家、黒川博行のベストセラー『後妻業』を映画化。裕福で孤独な高齢男性の後妻となって財産を我が物にする女、小夜子を中心に、浅ましい人間の欲望をユーモラスに仕立てた喜劇。監督は読売テレビで長年ドラマ演出をして高い評価を得ている鶴橋康夫。キャストは、大竹しのぶ豊川悦司笑福亭鶴瓶津川雅彦永瀬正敏尾野真千子水川あさみ風間俊介ほか。

後妻業 (文春文庫)

先週の『シン・ゴジラ』もそこそこ年齢層高めでしたけど、『後妻業の女』の場合は、舞台となってる熟年婚活パーティーに紛れ込んでしまったかと思うほど、MOVIX京都はオーバー50の女性陣、とそのパートナーの男性でごった返してました。満員に近い。関西が舞台ということもあるんでしょうが、笑い声もよく聞こえてきて、いい雰囲気でしたよ。
 
☆☆☆
 
予告でも一部使われていた、太陽が燦々と降り注ぐ浜辺での高齢者向け婚活パーティーからスタートします。およそ似つかわしくない場所ですよね。しかも、あろうことかかけっこをするっていうんですよ。みんな楽しそうだけど、文字通り必死でもある。当然ながら、ぶっ倒れる人が出てきて、救急車だ何だという騒ぎになる。このオープニングに、もう作品の特徴が現れていると思います。我こそはという人間の黒かったり桃色だったりする欲望にまばゆい光を当て、それをあっけらかんとしたブラックユーモアにしますよ、と。決して湿っぽくしない。
 
こういうスタンスと画面の手触りから僕がすぐに思い出したのは、伊丹十三作品です。『お葬式』『あげまん』なんかもありますが、『マルサの女』とか『スーパーの女』なんてのがありましたね。この作品も原作の『後妻業』にわざわざ「の女」を付け足してるわけですから、もうあからさまに狙ってるわけです。深刻な社会問題や犯罪をコメディーに仕立てるあたり、細かいところだと、明朝体のロゴとか、伊丹っぽいなと。他にも、80年代の日本の映像のキラメキも入れてましたね。こんなギラついた話に煌めいた映像っていう「外し」がユーモアにつながる。これは音楽の使い方もそうでした。ともかく、陰影がパキっと決まったライティングと望遠から広角までカメラの特性を知り尽くした映像の演出。さらには、シーンとシーンの切り替えを常に食い気味であっさり後腐れなく編集してあるから、テンポがすごくいいし、この後腐れなさが小夜子のマインドにも合っていて、さすが大ベテランのワザでした。

伊丹十三DVDコレクション お葬式 伊丹十三DVDコレクション マルサの女 コレクターズセット (初回限定生産)

そして、すごいと言えば、もう役者陣のはっちゃけっぷり。これは普通なら内に秘める欲望を白日の下に晒す映画ですから、そりゃもうアクションも大胆になります。え、この人にこんな事までやらせますか、という領域まできっちり持ってってます。もちろん力量がないとキャストも応えられないわけですけど、みんなイキイキしてます。東宝のこの手の映画っぽくないけど、ポロリもありですから。あ、鶴瓶さんではないので、ご安心を。とにかく、もうギャラでも取り合ってるんじゃないかってくらいに、演技合戦の様相を呈していて、尾野真千子大竹しのぶ豊川悦司永瀬正敏、このふたつの無様なレスリングもどきの取っ組み合いなんてもう最高です。あと、永瀬正敏のキャスティングについては、探偵役なんですよ。そりゃ、誰だって濱マイクを思い浮かべるじゃないですか。それを意識して、のち、外してくるのが良かったです。お前もかえ、みたいな。

私立探偵 濱マイク DVD BOOK vol.1 (宝島社DVD BOOKシリーズ)

薄っぺらい日本のエンタメ映画が陥りがちな、安易なキャラ設定も水で伸ばしたようなフラッシュバックばかりの尺の引き伸ばしも、ここにはありません。みんなキャラ立ちしてるのに、奥行きがある。その証拠に、人死にもあるような立派な犯罪映画なんだけど、悪人が憎めないし、悪さにもバリエーションとレベルが色々用意されてる。さらに、堅気の側だって、その腹では良からぬことを考えてることが露呈したりして、根っからの善人もいないんです。このスタンスに好感が持てます。
 
最後の方では、いくらなんでもドタバタし過ぎかな、ちょっと映画そのものがとっ散らかったかなという感はあるんですけど、シュールに着地するのはこの映画のラストにはふさわしいと思います。ロケ地も地名もよく知った場所ばかりです。関西からもっとヒットを、と願っています。
 
☆☆☆
 
若い人ももっと観るといいよ。怪獣も魚も青春もいいけど、大阪の珍獣を笑いながら観るのもええで。ていうか、年配の皆さんはある意味当事者の目線で観るんだろうけど、若い人は引いた目線で観られるから、身につまされない分、もっとクールに笑えるのでは? それに、みんな誰かの子どもだから。自分の親もまたひとりの男であり女であるということを思い出して観るといいかも。
 
風間俊介演じる小夜子の息子が余りに突然やって来て面食らうのと、最後はあの期に及んで家で何をしとるんやというあたりを目にすると、ご都合主義的なキャラクターに陥っている感あり。だから余計にか、風間俊介の演技(あるいは彼への演技の付け方)も通り一遍に思えてしまう。
 
最終的に尾野真千子長谷川京子も「私たちにも問題はあったのかもね」としみじみするのは良いとして、彼女たちまで小夜子や柏木(黒幕)と同じロジックを展開してしまうと、こちらは腰砕けしてしまう。
 
本多探偵は最高だったけれど、あの後、彼がどの面下げて依頼者と向き合うのか観たくなった。恐らく、ああいう事は初めてじゃないだろうから。
 
松尾諭演じる尾野真千子の同窓生にして弁護士(だったよね?)の守屋が、尾野真千子の事を「お前は風紀委員だったからな」と「ひつこく」繰り返すギャグがツボでした。
 

さ〜て、9月9日(金)に扱うのは、『イレブン・ミニッツ』になりました。監督のイエジー・スコリモフスキは、世界三大映画祭を制覇してるし、ヴェネツィアで生涯功労金獅子賞を獲った巨匠。同じ11分間を生きる14人と1匹の犬。リアルタイム・サスペンス、上等じゃないですか。心して鑑賞しよう。そして、鑑賞したら、#ciao802を付けてのTweetをよろしく!
 

『シン・ゴジラ』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年8月26日放送分
『シン・ゴジラ』短評のDJ's カット版です。その名にふさわしく、3分ではどうあがいても触れられなかった部分も掲載しています。

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日本が世界に誇るキャラクター文化のルーツとも言える、ゴジラaka破壊神。初代第一作は、第二次大戦、敗戦の記憶もまだ生々しい1954年でした。それから60年余り。ハリウッド進出も果たしながら、これが日本版では29作目。スタッフが相当多いんですが、総監督と脚本・編集に庵野秀明、監督には『進撃の巨人』の樋口真嗣エヴァンゲリオンの制作会社ガイナックス創設メンバーにして、日本のアニメと特撮を引っ張ってきたメンツですね。キャストは、長谷川博己竹野内豊石原さとみなどなど、他にもクレジットされている人だけで300名以上。そして、大ヒット。
 
東京羽田沖、アクアラインのすぐそば、海の中で爆発が起きます。いわゆる「想定外」の事態に政府はおろおろと原因究明に着手するんだけれど、巨大生物だとはまさか誰も思わない中、長谷川博己演じる官房副長官の矢口は、スマホで情報を収集しながら、一歩先の想定を始めるのだが…
 
話題作に乗り遅れることに定評のある、この「映画館へ行こう」ですが、ようやく先週当てられたということで、遅ればせながらMOVIX京都で日曜の夜に観てきました。公開から約1ヶ月経ってもなお、劇場は結構混んでいて、番組のメールマガジン「やわか通信」にも書きましたが、最近観た中ではダントツに老若男女ミックスされた客層だった印象が強かったです。
 
これだけのヒット作ということで、色んな人が語り尽くしてる感もありますが、改めて僕なりの見方も交えながらまとめてみましょう。マチャオvsゴジラ、3分間でやっつけられるか!?
 
☆☆☆
 
今この放送を聴いてるほとんどの人がそうだと思いますけど、初代ゴジラの衝撃はリアルタイムで体感していないわけです。だから、生まれた時からゴジラは当たり前のようにいて、なんなら人気怪獣の一匹でしか無くて、ゴジラ映画の新作を観に行くとすれば、ゴジラが出てきたら「よ、待ってました」みたいな感じになっちゃう。観光映画の側面も強いし、ポップなんです。あまり怖くない。庵野総監督はそこを嫌ったのは間違いないでしょう。ゴジラは絶対に怖くなくてはいけない。
 
でも、考えてみてください。もうだいたい皆知ってるものをちゃんと怖く見せるのってむちゃくちゃ難しいですよ。そこで庵野総監督がとった作戦は、まず圧倒的な物語のスピード感。映画が始まったらすぐに事件勃発。まず海から正体不明の水蒸気が上がる。まずいまずい。アクアライン封鎖。官邸に情報が集まり始めて、じゃぁ対策室でも立ち上げますか。名もなき登場人物たちのPOV主観ショットをどっさり入れて短い編集でパッパ繋いでいく。ネットの情報の速さ、テレビがそこに追いつく。でも、官邸ではおろおろ会議やってる。そうこうしてる間に、海の異変が品川周辺の陸地へ近づいていく。その巨大生物が川を遡る…
 
奴が登場するまでのこのパートを観ながら「あ、この感じ」って想い出すのは、5年前、3.11ですよ。怖かったじゃないですか。情報が錯綜したじゃないですか。ヤキモキしたじゃないですか。すごいデジャブなんですよ。あの時の感覚に似すぎていて、戦慄する。そこに、出た、ゴジラ! と思いきや、え、こ、こいつ… 何? 完全にやられました。これ以降、とにかくゴジラが怖いんです。お見事。その手があったか。
 
と、ここで少し苦言を差し挟むなら、今回のゴジラはただただ怖いばかりで、ブルースが描写上は足りないのかなと思ったのも事実です。荒ぶる神たるゴジラがどうして生まれてきてしまったのか。そこはもう少し強調しても良かったかもしれない。それこそ、東日本大震災そのものの天災というよりは、原発事故の人災ですよね、ゴジラは。先週も『ジャングル・ブック』評で似たようなことを言いましたけど、人間が生み出した文明そのものを人間がコントロールできなくなるプロメテウスの火としてのゴジラの複雑さ奥深さはほのめかす程度だったので、そこを理由に賛否が分かれるのは仕方ないでしょう。
 
ただ、話を戻せば、とにかくゴジラは怖かった。さっき言ったスピード感に通じるんだけど、全体を通して、情報量はべらぼうに多いのに、脚本の構造そのものはシンプルすぎるくらいの潔い。このバランス感覚は面白かったですね。樋口監督のインタビューによれば「膨大な情報量で観客を一種の麻痺状態、クラブでのグルーヴ感のようにすること」を庵野総監督は狙っていたようです。まさにそう。一度観ただけでは絶対に消化しきれない情報量でしたよね。セリフも字幕も。情報の洪水。これも3.11当時を想い出すし、日本の組織の強靭さともろさの両方を提示してました。
 
ストーリーも、追い込まれて追い込まれて、あるところから一気に盛り返すという作りですね。日本型の決められない組織のほんとダメな構造を見せてから、これまた日本型だけど、トップダウンじゃなくて、知恵と技術を結集して連携がうまくいった時の日本最高みたいなわかりやすい流れになってるのに、それまでのシミュレーションが徹底していただけに、逆にスイスイうまく解決に向かったりすると、「現実はこうはいかないわな」とフッと我に返ってみたり。
 
どこまで意図したかはわかりませんが、風刺・批評と賛辞・礼賛、そして恐怖とユーモアといった対立要素のバランスがとても良いので、シンプルな話なのに解釈しがいのある映画になってる。これは恐らく、湿っぽい感情を描かずにクールに徹してるからでしょう。
 
たとえば、「スクラップ・アンド・ビルドを繰り返してきた日本だから、これからもやれる」みたいなセリフがありますけど、あれも人によって捉え方は色々だと思います。戦争や震災からの復興を思い浮かべてグッとくる人もいれば、いやいや、だからスクラップしてるのも自分たち自身でしょ?という見方もできるはず。同じことがラストカットのゴジラのしっぽにも言えます。
 
日本的な組織論と日本の映画史を踏まえ、怖いゴジラを復活させながら、2011年以降だからこその「あってはならない日本の姿」を虚構=映画として現実の僕らに見せつけた『シン・ゴジラ』は、2016年必見の作品なのは間違いないです。ていうか、3分ではまったく語れません! マチャオの負け〜
 
☆☆☆
 
絵的には、繰り返される会議シーンで顔のアップが効果的に使われていました。セリフの早口さも含め、この辺りは、多くの評論家が指摘しているように、終戦までの1日を追いかけた岡本喜八版の名作『日本のいちばん長い日』を彷彿とさせます(実際、牧博士の顔写真は岡本喜八監督のものが使われてました)。日本型組織論を今やるならってことですね。それから、自作エヴァの引用も含め、金田一シリーズで有名な市川崑実相寺昭雄、作品単位で言えば『新幹線大爆破』『太陽を盗んだ男』など、日本映画へのオマージュもりもりの作品になってる。僕なんかはこの辺りアガりますね。

日本のいちばん長い日 [東宝DVD名作セレクション]  新幹線大爆破 [DVD] 

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石原さとみのキャラクターについては、正直なところ違和感を隠せないが、さとみは悪くない。日本国内のリアリティーをあれだけ追求してみせたのに、彼女だけなぜあんなに「こんな奴いるか」というキャラクターになるんだろう。日本語が下手なのか上手いのかもよくわからん! でも、さとみは悪くない!
 
9/9までアイマックス上映も復活してますから、未見という方は、もうマストでどうぞ。

さ〜て、9月2日(金)に扱うのは、『後妻業の女』になりました。みんなでスカイツリーを観に行こう! 意味の分からない人は予告をご覧ください。そして、鑑賞後は#ciao802を付けてのTweetをよろしく!
 

☆☆☆

 

今週はせっかくなので、おまけとして放送スタートと共に配信される無料のメールマガジン「やわか通信」に書いたエッセイも掲載しておきます。

 

☆☆☆

 
どうも、僕です。いろんな世代がいると楽しいね。野村雅夫です。
 
あまり好きな言葉ではないけど、世の中に流通しているほとんどの商品には「ターゲット」なるものがあって、広告代理店が作った年齢や性別、職業、家族構成ごとに僕らは区分けされ、その分類に向けて商品開発が行われています(よね?)。芸術と商品の間でゆらゆらしている音楽や映画ももちろんそう。
 
でも、これって、あまり細かくやり過ぎると、ある層にはグサッと刺さるけど、その脇っちょの層は存在すら知らないなんて商品も出てくるから、「国民的な作品」が生まれにくくなってる理由の一端は、鋭すぎる「ターゲット」設定にあるかもしれませんね。
 
その意味で、今日「映画館へ行こう」のコーナーで短評する『シン・ゴジラ』は、そもそも世代を超えているゴジラファン、庵野ファン(エヴァ好き)、そしてこれまでのゴジラ映画には無かったことですが、豪華キャストがわんさか出てるということで、それぞれの俳優のファンがこぞって劇場へ詰めかけた結果、予告で期待したよりよっぽど面白いと評判が広がり、結果としてこの大ヒットに結びついているようです。僕が今週出かけた時も、文字通り老若男女の観客で溢れかえっていました。

ちょうど『君の名は。』の予告が終わるタイミングでした。僕の後ろに座っていたおばあさんが、(恐らく娘さんに)こうつぶやきました。「ああビックリした。えらい古い映画をやらはんにゃねと思ったら、あれとは違うんかいな」。
 
おばあさんは何と取り違えたのか。実は僕もRADWIMPS絡みで『君の名は。』の企画を知った時に「リメイクか!」と思っていたんです。
 
タイトルの最後に「。」のない、『君の名は』は、もともとラジオドラマで、1953~54年に三部作で公開され、なんとのべ3000万人が観るという大ヒット。今でも使う人のいる言葉「真知子巻き」や、「ガラス越しのキスシーン」で有名な作品。91年にはNHK連続テレビ小説にもなったので、そのおばあさんがどちらの映像のことを言っているのかわかりませんが、とにかく完璧に時代を越えるコンテンツなんです。

君の名は 総集篇 [DVD]

これは僕の憶測ですけど、新海誠監督の『君の名は。』に、モーニング娘。みたいな「。」が付いているのは、かの有名すぎるヒット作と区別するためなんじゃないでしょうかね。
 
それはともかく、高校生をターゲットにしたアニメ作品の予告を観たおばあさんが、昔の映画を思い出すなんてこと、このご時世なかなかないことです。これこそ、映画館の醍醐味。いろんな世代が一緒に暗闇に溶け込むことで、こうした発見があったりするんですよね。
 
ところで、『シン・ゴジラ』はどうだったのかって? それは15時からのお楽しみ。

 

『ジャングル・ブック』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年8月19日放送分
『ジャングル・ブック』短評のDJ's カット版です。DJ'sカット版という名にふさわしく、放送では触れなかった箇所もぼちぼちありますよ。

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1894年に出版された児童文学の名著の実写に見せかけたCG映画化。おそらく2歳とか3歳だと思いますが、人間社会から離れ、ジャングルで暮らすことになったモーグリという男の子。命の恩人の黒豹バギーラから教育を受け、狼の群れの中で育てられた彼ですが、人間に恨みを持つ凶暴な虎シア・カーンが現れたことで、ジャングルを去ることになる…

ジャングル・ブック (新潮文庫) ジャングル・ブック(吹替版)

監督は、『アイアンマン』や『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』などヒット作で知られるジョン・ファヴロー。オーディションを勝ち抜いた12歳の少年ニール・セディ以外はすべてCGというのも話題になっています。
 

アイアンマン(字幕版) シェフ 三ツ星フードトラック始めました (字幕版)

シン・ゴジラ』のポスターを尻目に、MOVIX京都で水曜日の朝一番に字幕版を鑑賞しました。この手の作品にしては字幕もちゃんと用意されているというのは、大人も観客としてある程度見込んでいるってことでしょうね。
 
ジャングル・ブック』懐かしいなぁというのが、新井式廻轉抽籤器で先週当たった時の僕の感情です。小学校低学年の時に親に買い与えられた児童文学。その時には僕は正直ピンと来ていなかったんですが、映画を観ながら、「これは僕の物語だった」と思い込んでしまうほどのめり込んだので、そんな個人的な想いを踏まえて評してみます。
 
☆☆☆
 
これまで何度か映像化されてきた『ジャングル・ブック』。今回の大きな特徴は、原作の実は極めて重いテーマをすくい取っていること。作者のキップリングは、イギリス人ですが、インド育ち。大きくなってからも、世界のあちこちで暮らし、旅をしています。自分のアイデンティティはどこに帰属するのか。彼が考え続けたことが、人間でありながら狼に育てられたモーグリに明らかに反映されています。ここが、イタリア生まれでありながら滋賀県で育った僕とリンクするわけです。こうした「自分の居場所はどこか? ここでいいのか?」問題は、僕ほど身につまされる形でなくても、多くの人が感じた経験を持っていると思います。家族、学校、部活、会社などなど。つまり、あのジャングルはコミュニティと世界のメタファーなんです。そこにはルールがあって、子供はそれを教育され、やがてはそのルールを柔軟に解釈する必要性も学んでいく。
 
そして、ここが大事。一人前の狼になりたいと願ったモーグリだけれど、いくら努力したって、そんなの叶わないわけですよ。少年の夢は叶わない。夢が破れた後の現実をどう生きていくかという点も描かれてる。具体的には言わないけど、ジャングルの中で、「動物の掟がわかる人間」であるという特性を活かした「社会的な役割」、つまり誰かの役に立つ術を身に着けていく。
 
もちろん、人間vs自然というテーマもあるけれど、どちらかと言うと、今言ったような人間社会の縮図としての物語という性質が今回の映画化では強いように感じました。ジャングル脇の村が少し出てきますが、彼らは「赤い花」と動物たちが呼ぶ「火を扱う者」として描かれています。これがギリシャ神話の「プロメテウスの火」を踏まえている事は、クライマックスでモーグリが取ったある行動によって引き起こされる惨事を見れば火を見るより明らかです。要するに、人間の文明は確かにすばらしいものであるけれど、それは時にすべてを台無しにしてしまう脅威にもなるし、往々にして、人間そのものが文明をコントロールできないってことです。
 
と、ちょっと難しい話になりましたが、各キャラが立った心躍るアクション・エンターテイメントに着地させているジョン・ファヴローの手腕はさすがです。伏線の張り方と回収の仕方はお見事。
 
不満点も一応あるので、添えておきます。ジャングルのサイズ感と時間の流れ方が曖昧でわかりにくい。最後の象たちの行動があっけなさ過ぎて拍子抜けしなくもない。言語を操る動物とそうでない動物の違い、その根拠がよくわからない。この後が気になってしょうがないから続きを観たいなど、他にもいくつか。
 
逆に好感が持てたのは、カメラの動き。動物並みに躍動感があるのに、アクションが整理されてるから、何がどうなってるのかわからなくなるなんてことはない。この辺りは、全編CGならではの特性をうまく活かしてますね。その意味では、頭の方にあったドキュメンタリーのような実験的な手法も良かった。時間経過を表現するために景色を超早回しにしつつカメラもじわり移動していくという映像。まだあるよ。スカーレット・ヨハンソンが声をあてているあの誘惑的な大蛇の眼が大写しになるところから物語内の物語へと展開するところ。
 
それにしても、唯一人間として、カメラとブルーバックスクリーンの前で演技したニール・セディくん、すごすぎます。彼の孤軍奮闘っぷりには頭がさがる。もちろん、それを活かした膨大な数のCGスタッフも。
 
さすがはディズニー。ドスンとくる重たい内容、そして教育的に効果の高い内容を、あくまでワクワクの冒険譚としてまとめ、大人にも楽しませる。『ファインディング・ドリー』を観たら『ジャングル・ブック』も合わせてどうぞ。
 
☆☆☆
 
ミュージカル的に音楽を効果的に使うところに目新しさこそないものの、ニューオーリンズ的なアレンジがどれも愉快でした。その上、最後にはDr. Johnが歌ってくれるんだもの。エンドクレジットまで聴覚的にも飽きさせません。

あの魅惑的なニシキヘビが語って聴かせる、いや、その眼に投影して見せるような物語内物語。その洞窟でのシークエンスが壁画みたいになってるのは、「プラトンの洞窟の比喩」も踏まえてるのかなと想像してみたり。
 
リスナーeigadaysさんの#ciao802を付けての「モーグリが父殺しの敵討ちを通過儀礼として大人になる古典のアップデートが大成功なのは必然」というつぶやきも納得。やっぱり神話的な構造があるんですよね。
 

さ〜て、8月26日(金)に扱うのは、『シン・ゴジラになりました。当てたったで〜!!!!  鑑賞後は#ciao802を付けてのTweetをよろしく! って、もう観てる人も多いかぁ(苦笑)
 

『秘密 THE TOP SECRET』短評

FM802 Ciao! MUSICA 2016年8月12日放送分
『秘密 THE TOP SECRET』短評のDJ's カット版。
リスナーからの評価はもうひとつ奮いませんでしたが… 僕の見方は?

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清水玲子作の人気ミステリー漫画を映画化。警視庁の中にある特別捜査機関「第九」は、「死人の脳をスキャンして記憶を映像化する」というMRC捜査を駆使して、迷宮入りした事件を読み解いていくという組織。唯一の発足メンバー薪剛が率いる捜査官たちは、他人の記憶を覗き見ることで生じる精神崩壊の危険に晒されている状態。家族3人が惨殺された事件。そこで唯一行方不明だった長女の発見を機に、全国各地で9人の男が同時に自殺するという不可解な時間が起こる。
 
監督は『るろうに剣心』の大友啓史。キャストが豪華です。生田斗真岡田将生、吉川晃司、松坂桃李栗山千明リリー・フランキー椎名桔平大森南朋などなど。
 
僕は以前番組オープニングで話したように、マイクから音が鳴らず地声で取り組んだ舞台挨拶で生田斗真さんともご一緒したので思い入れもあるんですが、ここは批評ですから、薪のごとくできる限り客観的に評していきます。
 
それでは、3分間の捜査開始!
 
☆☆☆
 
記憶を扱う映画っていうのは、たくさんありました。趣向はずいぶん違いますが、たとえば2000年に公開されたクリストファー・ノーランの『メメント』なんて、ストーリーの時系列を逆さまに見せるという設定の面白さがあって、それこそ鮮明に記憶している映画ファンも多いでしょう。

メメント (字幕版) 新装版 秘密 THE TOP SECRET 1 (花とゆめCOMICS)

今作の原作漫画は、僕は残念ながら未読なんですが、人の死後の脳を覗きこむという設定。「この事は墓場まで持って行くから黙っといてな」って、僕は人に言われたことがあって、「そんな秘密を僕に語らんといてくれ」って思った記憶があるんですが、この物語だと、墓場まで持って行っても暴かれてしまうというのが恐ろしいところ。すごい着眼点ですね。
 
大友監督のインタビューを読むと、このあたりの科学技術をずいぶんリサーチされたようです。原作では脳そのものを身体から引き剥がしているんですが、物理的には脊髄から離れると、脳細胞は死んでしまうらしく、脳を身体から切り離さずに行こうと決めたそうです。生きている人間が自分の脳細胞を借りて、自分の脳内で死者の体験を追っていくという映画版の設定はこうした頭がさがる調査に基づくものらしく、結果として物語をより面白くしているのではないでしょうか。
 
映像も実に面白い。脳内の映像、つまり主観映像を再現するにあたって、ワイドレンズを使う必要があったらしいんですが、そうすると歪みがでやすいらしく、歪まないレンズを探したり、登場人物ならではの視点を極力再現するために、これはエンドクレジットでカメラマンのところに役者の名前があって気づいたことなんですが、役者たちにもヘルメットにカメラを付けて撮影をしてもらったり。とにかく映像の作りこみは凄いものがあります。
 
そして音も良かった。常に何か現場の環境音が普通よりレベル高めに聞こえていて、不気味さの演出に何役も買っていました。これは褒めてるんですけど、おかげでとにかく映画を観ていて疲れる。それぐらい没入してしまう仕掛けを施してあるってことですね。
 
ただ、脚本にはもっと整理が必要だったのではないでしょうか。絹子事件と貝沼事件という、ふたつの事件が同時進行するのはとても映画的で良いんですけど、その魅力が発揮されるとしたら、そこに何らかのリンクがあればこそだと思うんです。現状だと、ただ複雑になるばかりで、もっとソリッドに削ぎ落とすか、それこそ流行りの前後編にするか、いずれにせよ語りの交通整理はもっと必要だったと僕は思います。なんでこうなってしまうかと言うと、設定上、過去を振り返る客観映像がどうしても少なくなるんです。なので、余計に交通整理はしっかりやるべきだったでしょう。
 
そして、もう一つ注文があります。テーマがまず何よりもこれだけ新鮮だったのだから、この捜査手法で浮かび上がった冤罪(実は罪に問われた人物はもう死刑に処されていて取り返しがつかないんです)の重大さについて、あるいはもっとシンプルに、他人の脳内を覗くという行為の倫理的な問題について、もっと深く議論するようなシーンなり葛藤があっても良かったかなぁ。
 
結果として、映画全体のピントが甘くなってぼやけてしまっていると言わざるをえないんですが、とても変わった凄みのある映画体験ができるし、しかも類似作があまり見当たらないので、それだけでもこれは映画館で観る価値が存分にある作品だと断言できます。
 
☆☆☆
 

さ〜て、8月19日(金)に扱うのは、『ジャングル・ブック』になりました。子どもの頃に親にキップリングの原作を買ってもらった記憶があります。お盆休みに家族で観るには最適じゃないですかね(『シン・ゴジラ』がいつまで経っても当たらない切なさを押し殺して観てきます)。鑑賞後は#ciao802を付けてのTweetをよろしく!